代贈二首 其一 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150- 97


 青雲の志を失った男は、まったく口を閉ざしてしまった。周りの人に真意を捉まえられると生きていけないのだ。
 男にも華やかな時もあった。綵なる宮殿の中で佩びを鳴らして歩いていたこともある。ある日、頼りにしていたお方は、貶められてしまった。男も地の果てのようなところの官吏にされてしまったのだ。でも正しいこと、正義はきっと勝つと信じているが、中央からの呼び出しはこない。また別な人が左遷されたそうだ。

 代附二首 は妓女の代わりに文をしたためた、という妓女の高楼を舞台に作られた詩といわれるが、前文のフィクションを前提にするとけっして妓女の話ではないのだ。


代贈二首
其一
樓上黄昏欲望休、玉梯横絶月中鉤。
高楼にたそがれがせまる、あなたがおいでくださらないか、遙か小道を眺めることはしないことにしました。輝く綺麗な階段にあなたの姿は、楼閣を結ぶ渡り廊下橋が横たわり、空に浮かんでいるのは、鉤のように細い月、何を見てもあなたとのこと。
芭蕉不展丁香結、同向春風各自愁。

硬く丸まった芭蕉の葉、硬く結ばれた丁子のつぼみ、ともに春風に吹かれながらそれぞれの悲しみをかかえ、愁えているのだ。


代わりて贈る二首
其の一
楼上 黄昏 望まんと欲して休め
玉梯 横絶す 月中の釣
芭蕉は展びず 丁香は結ぶ
同に春風に向かいて 各自愁う



樓上黄昏欲望休、玉梯横絶月中鉤。
高楼にたそがれがせまる、あなたがおいでくださらないか、遙か小道を眺めることはしないことにしました。輝く綺麗な階段にあなたの姿は、楼閣を結ぶ渡り廊下橋が横たわり、空に浮かんでいるのは、鉤のように細い月、何を見てもあなたとのこと。
欲望休 『才調集』では「望欲休(望休まんと欲す)」に作る。語法としては安定するが、「欲望休」の場合の心のたゆたいが失われる。○玉梯 はしごを華やかな妓楼にふさわしく美化した語。屋内の階段。芸妓のいる建物の中で一番あでやかなところ。○横絶 横断して渡、離れた奥座敷に渡る、渡り廊下。通路が空中で楼閣をつないでいる。○月中鉤 楚の国の剣は細い月を喩えにされる。また、廉を巻き上げて止める鉤にたとえる。



芭蕉不展丁香結、同向春風各自愁。
硬く丸まった芭蕉の葉、硬く結ばれた丁子のつぼみ、ともに春風に吹かれながらそれぞれの悲しみをかかえ、愁いているのです。
芭蕉不展 バショゥの若葉が丸まったまま。男の心が開かぬことをいう。○丁香結 「丁香」はチョウジ。香気の強い植物。「結」はつぼみ、つぼみがつく。つぼみが硬く閉ざしたままであることと、女の気持ちが結ばれている。



○詩型 七言絶句。
○押韻 休、鉤、愁。



芭蕉のツボミ、丁子のツボミ。男と女に、口を閉ざさなければいけないわけがあるのだろうか。春風に同じように向かって各々の心の内にそれぞれ違った愁いというものがあるのだろうか。
 貴公子に、富豪には口を閉ざす理由はない。権力を持たない、制側にない官僚には理由はある。妓女になる女性にはいつも違ったわけがある。