無題(萬里風波一葉舟)  李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150- 125


無 題
萬里風波一葉舟、憶歸初罷更夷猶。
ここ荊州を通ると、はるか万里のかなたから吹き寄せる風と波、そこに一枚の木の葉のような舟がうかぶ。ふるさとに帰えろうと思いはじめて職を辞すことにしたが、この風と波は故郷に帰ることにもとどめようとするのか。
碧江地没元相引、黄鶴沙邊亦少留。
青く流れる長江は大地の果てに没するまで流れ行き、否応なくこの小舟を引き寄せる。恩返しをした黄鶴にちなんで建てられた黄鶴楼の磯、水辺に鶴の群が戯れていてしばしわたしを引き留め、故事、いにしえのことを思わせる。
益徳冤魂終報主、阿童高義鎮横秋。
ここ長江のほとりで非業の死を遂げた張飛は、死んでなお君主の恩に報いた、呉の天敵阿童の名を持つ王濬は、長江を下って呉を討伐した、気高い正義はとこしえに秋季をつつむ気のなかにこころに在り続ける。
人生豈得長無謂、懐古思郷共白頭。

わたしの人生、いつまでも無意味であってよいはずがない。いにしえの英傑をなつかしみ、ふるさとを思い出させる、その二つの思いがかさなりあったので私の髪を白くするのだ。


無 題
万里の風波 一葉の舟、帰る を 憶い 初めて罷むも更に夷猶(いゆう)。
碧江 地に没して 元と相(あい)引き、黄鶴 沙辺 亦(また)少しく留(とどむ)。
益徳の冤魂(えんこん) 終(つい)に主に報い、阿童(あどう)の高義(こうぎ) 鎮(つね)に秋に横たわる。
人生 豈(あに) 長(とこしえ)に謂われ無き を 待んや、古(いにしえ)を懐い 郷を思いて共に白頭。


無題(萬里風波一葉舟) 現代語訳と訳註
(本文)
無 題
萬里風波一葉舟、憶歸初罷更夷猶。
碧江地没元相引、黄鶴沙邊亦少留。
益徳冤魂終報主、阿童高義鎮横秋。
人生豈得長無謂、懐古思郷共白頭。


(下し文)
万里の風波 一葉の舟、帰る を 憶い 初めて罷むも更に夷猶(いゆう)。
碧江 地に没して 元と相(あい)引き、黄鶴 沙辺 亦(また)少しく留(とどむ)。
益徳の冤魂(えんこん) 終(つい)に主に報い、阿童(あどう)の高義(こうぎ) 鎮(つね)に秋に横たわる。
人生 豈(あに) 長(とこしえ)に謂われ無き を 待んや、古(いにしえ)を懐い 郷を思いて共に白頭。

(現代語訳)
ここ荊州を通ると、はるか万里のかなたから吹き寄せる風と波、そこに一枚の木の葉のような舟がうかぶ。ふるさとに帰えろうと思いはじめて職を辞すことにしたが、この風と波は故郷に帰ることにもとどめようとするのか。
青く流れる長江は大地の果てに没するまで流れ行き、否応なくこの小舟を引き寄せる。恩返しをした黄鶴にちなんで建てられた黄鶴楼の磯、水辺に鶴の群が戯れていてしばしわたしを引き留め、故事、いにしえのことを思わせる。
ここ長江のほとりで非業の死を遂げた張飛は、死んでなお君主の恩に報いた、呉の天敵阿童の名を持つ王濬は、長江を下って呉を討伐した、気高い正義はとこしえに秋季をつつむ気のなかにこころに在り続ける。
わたしの人生、いつまでも無意味であってよいはずがない。いにしえの英傑をなつかしみ、ふるさとを思い出させる、その二つの思いがかさなりあったので私の髪を白くするのだ。


(訳注)
萬里風波一葉舟、憶歸初罷更夷猶。
ここ荊州を通ると、はるか万里のかなたから吹き寄せる風と波、そこに一枚の木の葉のような舟がうかぶ。ふるさとに帰えろうと思いはじめて職を辞すことにしたが、この風と波は故郷に帰ることにもとどめようとするのか。
一葉舟 厳しい風波に弄ばれる小舟。「万里」と「一葉」 の数の対比によって新しいことへの意気込みを李商隠らしく述べる。青雲とか一切使わない。 
荊門西下 李商隠 
一夕南風一葉危、荊門廻望夏雲時。
人生豈得軽離別、天意何曾忌嶮巇。
骨肉書題安絶徼、蕙蘭蹊径失佳期。
洞庭湖濶蛟龍悪、却羨楊朱泣路岐。
では「南風で一葉の小舟が危い」とある。

荊門西下 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ特集 57
夷猶 躊躇すること、ぐずぐずすることであるが、決して,後悔する悪い意味ではない。『楚辞』九歌・湘君に「君行かずして夷猶す」とあり、王逸注に「夷猶は猶予なり」とある。南斉、謝朓、「棹を輟めて子、夷猶す」にもとづいている。
盛唐、王維「汎前陂」も同様に使う。
秋空自明迥,況復遠人間。
暢以沙際鶴,兼之雲外山。
澄波澹將夕,清月皓方閑。
此夜任孤櫂,夷猶殊未還。(この夜孤櫂に任せて夷猶殊に還らず)


碧江地没元相引、黄鶴沙邊亦少留。
青く流れる長江は大地の果てに没するまで流れ行き、否応なくこの小舟を引き寄せる。恩返しをした黄鶴にちなんで建てられた黄鶴楼の磯、水辺に鶴の群が戯れていてしばしわたしを引き留め、故事、いにしえのことを思わせる。
黄鶴 江夏(現在の湖北省武漢市武昌地区)の黄鶴(鵠)磯に在った楼の名。
黄鶴伝説 『列異伝』 に出る故事。 子安にたすけられた鶴 (黄鵠) が、子安の死後、三年間その墓の上でかれを思って鳴きつづけ、鶴は死んだが子安は蘇って千年の寿命を保ったという。 ここでは、鶴が命の恩人である子安を思う心の強さを住持に喩えたもの。
岸辺の砂浜に自在に遊ぶ黄鶴は次の張飛を連想させていく。


益徳冤魂終報主、阿童高義鎮横秋。
ここ長江のほとりで非業の死を遂げた張飛は、死んでなお君主の恩に報いた、呉の天敵阿童の名を持つ王潜は、長江を下って呉を討伐した、気高い正義はとこしえに秋季をつつむ気のなかにこころに在り続ける。
益徳 三国・筍の張飛の字。「冤魂」は非業の死を遂げた者の魂。張飛は配下の武将の手によって業半ばで殺された、また、全戦全勝の武将であるのに身分差別に不当な仕打ちを受けたことが李商隠と重なる。死んだのちに劉備に報いた話もある。○阿童 晋の将軍王濬の幼名。呉の国で「阿童復た阿童、刀を銜みて浮きて江を渡る。岸上の獣を畏れざるも、水中の龍を畏る」という童謡が流れた。呉にとって恐ろしいのは阿竜という名の人物と龍であると知った晋では、阿童を幼名とする王潜を龍驤将軍に任じ、呉の討伐を命じた(『晋書』五行志、また羊相伝)。○ 永遠に。○横秋秋の空に張りつめる。南斉・孔稚珪「北山移文」(『文選』巻四三)に「風の情は目に張り、霜の気は秋に横たわる」。


人生豈得長無謂、懐古思郷共白頭。
わたしの人生、いつまでも無意味であってよいはずがない。いにしえの英傑をなつかしみ、ふるさとを思い出させる、その二つの思いがかさなりあったので私の髪を白くするのだ。
○無謂 無意味。



○詩型 七言律詩。
○押韻 舟、猶。留。秋。頭。


(解説) 
官を辞して、郷里に向かう舟の中で李商隠らしく、自己の評価を正当にできないことに対して、一言言い残す。唐王朝の中で、自分の持っているものを生かせはしないのだ。自分だけでなく、唐王朝は、あまたの顕官を失ったことか、奸臣だけが生き延びていく場でしかないのか。長江を下りながらその地にまつわる過去の英雄たちの気高い正義は、いつまでも消えはしない。自分の作る詩歌もいつまでも残ってほしいと、詩人としての矜持をもって生きていくことを決心したのだ、しかし、間もなく詩人としても終わりを告げるのである。


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