燕臺詩四首 其一 春#2 李商隠129 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150- 128-#2
燕臺詩(えんだいし) 四首 李商隠

棄てられた芸妓のこと、思いが伝わらない芸妓、そのやるせない思いは政治の中で正当に評価されなかったものとおなじなのだ。舞台は燕の国の王朝、実際には唐王朝の淫乱、頽廃、そして陰湿な讒言など、四季に分けて詠っている。恋歌とみせかけ、その裏にこっそりと王朝批判をしている。


燕臺詩四首 其一
春#1
風光冉冉東西陌,幾日嬌魂尋不得。
蜜房羽客類芳心,冶葉倡條遍相識。』
暖藹輝遲桃樹西,高鬟立共桃鬟齊。
雄龍雌鳳杳何許?絮亂絲繁天亦迷。』

#2
醉起微陽若初曙,映簾夢斷聞殘語。
浅い酔いから醒めれば、残照が暁のやわらかい光のようである、御簾に映しているその光に夢と現実がいりまじるようだが、夢のなかでの会話の名残が耳にのこっている。
愁將鐵網罥珊瑚,海闊天寬迷處所。』
愁いがある。鉄の網を海に沈めて珊瑚を取るようにつれてゆかれたのだ。それを海にひろくさせ、大空をも 果てしなく拡がらせた、それを掻い潜るにはどこに居たらいいのか惑うこの身なのだ。
衣帶無情有寬窄,春煙自碧秋霜白。
着物と帯、一対のものだが同じものではない。情けがある場合とない場合、色恋に情けはいらないのか。 ゆるやかと窮屈、自由な恋なのか、囲われて窮屈な色恋なのか。春には霞というけれど、春いつも霞があるわけではない。でも春になるとおのずと緑に包まれる。秋には秋霜があり、おのずと白いのだ。
研丹擘石天不知,願得天牢鎖冤魄。』
丹砂は磨いてさらに赤くするものであり、石はくだいても壁になるべきもの、これが自然界の法則であるのに、天は知らぬことというのだろうか。もし望みがかなうというなら、天牢の星に、かき集められた生娘の魂、多くの無実の罪で死んだ人の魂、不当に評価された人の魂、迷える魂を閉じこめてもらいたいものだ。
夾羅委篋單綃起,香肌冷襯琤琤珮。
袷の衣を箱に収める、かき集められた美女は単衣の着物のように取りかえた、香しき肌が少し汗ばんで単衣のうす絹がぴったりと張り付く、そして凧玉の音がじゃらじゃらと音を立てている。
今日東風自不勝,化作幽光入西海。』

今日の春の風というものは、自分のこころの中から生まれた色恋に勝るものはない、化身してかすかな光を頼りに西王母のいる仙界に入るのだ。


陌,得。識。/西,齊。迷。/曙,語。所。/窄,白。魄。/珮。海。

燕台詩四首 其の一
風光 冉冉(ぜんぜん)たり東西の陌、幾日か嬌魂(きょうこん) 尋ぬるも得ず。
蜜房の羽客 芳心に類し、冶葉(やよう) 倡条 偏く相い識る。』
暖藹(だんあい)輝遅(きち)たり 桃樹の西、高鬟 立ちて桃髪と斉し。
雄龍 雌鳳 杏として何許ぞ、絮は乱れ糸は繁く 天も亦た迷う。』

#2
酔いより起きれば 微陽 初めて曙くるが若く、簾に映じて夢断たれ残語を聞く。
愁いて鉄網を将って珊瑚に胃くるも、海は開く天は寛く処所に迷う
衣帯は情無く寛窄有り、春煙は自ら碧く秋霜は白し。
丹を研き石を撃くも天は知らず、願わくは天牢の冤晩を鎖すを得ん。
爽羅 笹に委ねて単純起く、香肌 冷やかに破く 尊嘩たる珮。
今日 東風 自ら勝(まさ)らず、化して幽光と作り西海に人らん。
右春


燕台詩四首 其の一 #2 現代語訳と訳註
(本文) 春#2

醉起微陽若初曙,映簾夢斷聞殘語。
愁將鐵網罥珊瑚,海闊天寬迷處所。』
衣帶無情有寬窄,春煙自碧秋霜白。
研丹擘石天不知,願得天牢鎖冤魄。』
夾羅委篋單綃起,香肌冷襯琤琤珮。
今日東風自不勝,化作幽光入西海。』

(下し文)
酔いより起きれば 微陽 初めて曙くるが若く、簾に映じて夢断たれ残語を聞く。
愁いて鉄網を将って珊瑚に胃くるも、海は開く天は寛く処所に迷う
衣帯は情無く寛窄有り、春煙は自ら碧く秋霜は白し。
丹を研き石を撃くも天は知らず、願わくは天牢の冤晩を鎖すを得ん。
爽羅 笹に委ねて単純起く、香肌 冷やかに破く 尊嘩たる珮。
今日 東風 自ら勝えず、化して幽光と作り西海に人らん。
右春

 (現代語訳)
#1 春の景色のなか、芽を吹くものすべて柔らかでしな垂れているのであり、都の東西の道には流転、蓬飄が満ちている。来る日も来る日も生娘の魂もたずねても得られないのだ。
蜜房にいる人、神仙となって空を飛ぶ人、身分の違いあれ春の芳心はある。艶めかしい葉、か細い枝を示している、それぞれのことを互いに何もかも知っている。
のどかな春の日、柔らかなかすみに包まれた暮れなずむ桃樹林の西は金色にかわる、輪のかたちに結いあげた桃型の髪、桃型髪の様な桃花、共に立っている。
雄の龍、雌の鳳、結ばれない筈の二人は今どこにいったのか。柳架が乱れ飛び、遊糸が浮かぶ春の空、ここの世界は乱れていて、天もどうなっているのか迷ってしまう。


#2
浅い酔いから醒めれば、残照が暁のやわらかい光のようである、御簾に映しているその光に夢と現実がいりまじるようだが、夢のなかでの会話の名残が耳にのこっている。
愁いがある。鉄の網を海に沈めて珊瑚を取るようにつれてゆかれたのだ。それを海にひろくさせ、大空をも 果てしなく拡がらせた、それを掻い潜るにはどこに居たらいいのか惑うこの身なのだ。
着物と帯、一対のものだが同じものではない。情けがある場合とない場合、色恋に情けはいらないのか。 ゆるやかと窮屈、自由な恋なのか、囲われて窮屈な色恋なのか。春には霞というけれど、春いつも霞があるわけではない。でも春になるとおのずと緑に包まれる。秋には秋霜があり、おのずと白いのだ。
丹砂は磨いてさらに赤くするものであり、石はくだいても壁になるべきもの、これが自然界の法則であるのに、天は知らぬことというのだろうか。もし望みがかなうというなら、天牢の星に、かき集められた生娘の魂、多くの無実の罪で死んだ人の魂、不当に評価された人の魂、迷える魂を閉じこめてもらいたいものだ。
袷の衣を箱に収める、かき集められた美女は単衣の着物のように取りかえた、香しき肌が少し汗ばんで単衣のうす絹がぴったりと張り付く、そして凧玉の音がじゃらじゃらと音を立てている。
今日の春の風というものは、自分のこころの中から生まれた色恋に勝るものはない、化身してかすかな光を頼りに西王母のいる仙界に入るのだ。


(訳注)
燕台詩四首 #2
醉起微陽若初曙,映簾夢斷聞殘語。
浅い酔いから醒めれば、残照が暁のやわらかい光のようである、御簾に映しているその光に夢と現実がいりまじるようだが、夢のなかでの会話の名残が耳にのこっている。
微陽 眠りから覚め、薄い日の光。朝なのか、夕暮れなのかわからないのでこのような表現になる。官僚として出発したての頃が夢のようだったということを連想させる。このイメージは下句につながる。


愁將鐵網罥珊瑚,海闊天寬迷處所。』
愁いがある。鉄の網を海に沈めて珊瑚を取るようにつれてゆかれたのだ。それを海にひろくさせ、大空をも 果てしなく拡がらせた、それを掻い潜るにはどこに居たらいいのか惑うこの身なのだ。
愁将 鐵網 ・ わなをかけてとる。珊瑚は鉄の網を海中に沈め、それに着床させて引き上げたという。美女狩りも網の目のように張り巡らし、見つけたものに褒美を取らせた。李商隠 13 「恋の無題詩」碧城三首


衣帶無情有寬窄,春煙自碧秋霜白。
着物と帯、一対のものだが同じものではない。情けがある場合とない場合、色恋に情けはいらないのか。 ゆるやかと窮屈、自由な恋なのか、囲われて窮屈な色恋なのか。春には霞というけれど、春いつも霞があるわけではない。でも春になるとおのずと緑に包まれる。秋には秋霜があり、おのずと白いのだ。
衣帯 着物と帯、一対のものだが同じではない。○無情 情けがある場合とない場合。色恋に情けはいらないのか。 ○寛窄 ゆるやかと窮屈。自由な恋なのか、囲われて窮屈な色恋なのか。○春煙 春霞。○自碧 春になるとおのずと緑に包まれる。○秋霜白 秋霜はおのずと白い。


研丹擘石天不知,願得天牢鎖冤魄。』
丹砂は磨いてさらに赤くするものであり、石はくだいても壁になるべきもの、これが自然界の法則であるのに、天は知らぬことというのだろうか。もし望みがかなうというなら、天牢の星に、多くの無実の罪で死んだ人の魂、不当に評価された人の魂、迷える魂を閉じこめてもらいたいものだ。
研丹擘石 丹砂は磨いてさらに赤くするものであり、石はくだいても壁になるべきもの。・:丹砂、・:巌。 『呂氏春秋』誠廉に「石は破るべきなるも、堅を奪うべからず。丹は磨くべきなるも、赤を奪うべからず」とあるのにもとづく。○天牢鎖冤魄 古代中国には、「太陽星」「太陰星」「先天五行星」「九宫星」「黄道十二守護星」「南斗七星」「北斗七星」「二十八宿群星」「天罡三十六星」「地煞七十二星」「三百六十五大周天星斗」および十万八千の副星によって天(宇宙)が形成されている、という考えがあった。それぞれの星に神がいて名前を持っている、とされており、当然「天罡三十六星」「地煞七十二星」にも名前がある。天罡星のひとつに天牢星がある。『晋書』天文志に「天牢六星は北斗の魁(星の名)の下に在り、貴人の牢なり」。・冤塊は本来無実の罪で死んだ人の魂。非業の死を遂げた者の魂。張飛は配下の武将の手によって業半ばで殺された、また、全戦全勝の武将であるのに身分差別に不当な仕打ちを受けたことが李商隠と重なる。死んだのちに劉備に報いた話もある。
李商隠 無 題
萬里風波一葉舟、憶歸初罷更夷猶。
碧江地没元相引、黄鶴沙邊亦少留。
益徳冤魂終報主、阿童高義鎮横秋。
人生豈得長無謂、懐古思郷共白頭。
無題(萬里風波一葉舟)  李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150- 125参照


夾羅委篋單綃起,香肌冷襯琤琤珮。
袷の衣を箱に収める、かき集められた美女は単衣の着物のように取りかえた、香しき肌が少し汗ばんで単衣のうす絹がぴったりと張り付く、そして凧玉の音がじゃらじゃらと音を立てている。
爽羅 うすぎぬのあわせ。○委篋 大切なものを入れておく箱に見捨てること。この語は新しい女性の手をつけ、囲いものの女を部屋に閉じこめることを意味する。○単綿 絹のひとえ。春から夏へ移行する時期をいうように女性をあしらっているさま。○香肌冷襯 香しき肌が少し汗ばんで単衣のうす絹がぴったりと張り付くさま。襯は肌にぴったりくっつく。○琤琤珮 琤琤は玉の触れ合う音。珮は腰に帯びる玉。性交をしめす。


今日東風自不勝,化作幽光入西海。』
今日の春の風というものは、自分のこころの中から生まれた色恋に勝るものはない、化身してかすかな光を頼りに西王母のいる仙界に入るのだ。
西海 西の果てに海がある。古来中国では四方の行き着くところ海とされていた。ここでは西王母の仙界をいう。

右 春のうた


○詩型 七言古詩。
○押韻 陌,得。識。/西,齊。迷。/曙,語。所。/窄,白。魄。/珮。海。