燕臺詩四首 其三 秋#1 李商隠132 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150- 131-#1


其三 秋
月浪衡天天宇濕,涼蟾落盡疏星入。
月の光が江の上にかかり、北斗七星の第五星「玉衡」は、天空を濡らしている。そうしていると秋の月は沈んでしまった、夜の明けきらぬ早朝の内に宮中に入る。
雲屏不動掩孤嚬,西樓一夜風箏急。」
雲母の屏風がある、身じろぎもせず、口などをゆがめ、眉をひそめた顔に包まれた。そしてその夜の間西の高楼台に、風雲急を告げる凧があげられた。
欲織相思花寄遠,終日相思卻相怨。
相思樹の花を織り込んで遠くのあの人に送りたいけれど、一日中織り込んでいて思い続ければ、かえって怨みが募る。
但聞北斗聲回環,不見長河水清淺。」
今はただ聞こえてくるのは天子の座を示す北斗星あり、その周りを玉環の魂や、天牢六星が冤魄をともなって回っている、悲しみの声がするのだ、これだけ多くの行きたいという魂が多いと天の川が渡れるほど浅くなっているのは見たことがないだろう。
金魚鎖斷紅桂春,古時塵滿鴛鴦茵。
黄金の魚型の錠前が鎖されて金木犀の咲きほこった庭にだれもいない、かつて伴にした鴛鴦の褥には塵が厚く積もっている。
堪悲小苑作長道,玉樹未憐亡國人。』-
#1
悲しみを耐えていたあの宮殿の中庭が今では大通りに変わってしまったのだ。陳の後主は「玉樹後庭歌」のように宮女ばかりにかまけて国を亡ぼした人に憐れを覚えるはずがない。
瑤琴愔愔藏楚弄,越羅冷薄金泥重。
簾鉤鸚鵡夜驚霜,喚起南雲繞雲夢。」
璫璫丁丁聯尺素,內記湘川相識處。
歌唇一世銜雨看,可惜馨香手中故。』-
#2

入。急。」/遠,怨。淺。」/春,茵。人。』/弄,重。夢。/素,處。故。』

其の三 秋
月浪(げつろう)  衡天(こうてん) 天宇(てんう)湿る、涼蟾(りょせん) 落ち盡(つく)して 疏星(そせい)に入る。
雲屏は不動かず 孤嚬(こひん)を掩う,西樓 一夜 風箏 急なり。」
相思の花を織り 遠くに寄せんと欲するも、終日 相思 却って相怨なる。
但 北斗 廻環する声を聞き、長河 水 清浅 を見(おぼえ)ず。
金魚の鎖は断つ 紅桂の春、古時の塵は満つ 鴛鴦(えんおう)の茵(しとね)。
悲しむに堪えん小苑 長道と作る,玉樹未だ憐まず 亡国の人。』-#1
揺瑟(ようしつ)愔愔として楚弄(そろう)藏す,越羅冷薄にして金泥は重し。
簾鉤(ちょうら)鸚鵡(おうむ) 夜 霜に驚き,喚び起こす 南雲 雲夢(うんぼう)を繞(めぐ) るを。」
璫璫(とうとう)丁丁(ちょうちょう) 尺素に聯(つら)なる,內には記(しる)す 湘川(しょうせん) 相 識る處。
歌唇 一世 雨を銜(ふく)みて看ん,惜むべし 馨香(けいこう) 手中に故(ふる)びたり。」


燕臺詩四首 其三 現代語訳と訳註
(本文)
 秋-#1
月浪衡天天宇濕,涼蟾落盡疏星入。
雲屏不動掩孤嚬,西樓一夜風箏急。」
欲織相思花寄遠,終日相思卻相怨。
但聞北斗聲回環,不見長河水清淺。」
金魚鎖斷紅桂春,古時塵滿鴛鴦茵。
堪悲小苑作長道,玉樹未憐亡國人。』-#1

(下し文)
月浪(げつろう)  衡天(こうてん) 天宇(てんう)湿る、涼蟾(りょせん) 落ち盡(つく)して 疏星(そせい)に入る。
雲屏は不動かず 孤嚬(こひん)を掩う,西樓 一夜 風箏 急なり。」
相思の花を織り 遠くに寄せんと欲するも、終日 相思 却って相怨なる。
但 北斗 廻環する声を聞き、長河 水 清浅 を見(おぼえ)ず。
金魚の鎖は断つ 紅桂の春、古時の塵は満つ 鴛鴦(えんおう)の茵(しとね)。
悲しむに堪えん小苑 長道と作る,玉樹未だ憐まず 亡国の人。』-#1

(現代語訳)
月の光が江の上にかかり、北斗七星の第五星「玉衡」は、天空を濡らしている。そうしていると秋の月は沈んでしまった、夜の明けきらぬ早朝の内に宮中に入る。
雲母の屏風がある、身じろぎもせず、口などをゆがめ、眉をひそめた顔に包まれた。そしてその夜の間西の高楼台に、風雲急を告げる凧があげられた。
相思樹の花を織り込んで遠くのあの人に送りたいけれど、一日中織り込んでいて思い続ければ、かえって怨みが募る。
今はただ聞こえてくるのは天子の座を示す北斗星あり、その周りを玉環の魂や、天牢六星が冤魄をともなって回っている、悲しみの声がするのだ、これだけ多くの行きたいという魂が多いと天の川が渡れるほど浅くなっているのは見たことがないだろう。
黄金の魚型の錠前が鎖されて金木犀の咲きほこった庭にだれもいない、かつて伴にした鴛鴦の褥には塵が厚く積もっている。
悲しみを耐えていたあの宮殿の中庭が今では大通りに変わってしまったのだ。陳の後主は「玉樹後庭歌」のように宮女ばかりにかまけて国を亡ぼした人に憐れを覚えるはずがない。


(訳注) 秋のうた#1
太和9年11月晩秋、「甘露の変」「楊貴妃」「陳の後主」
月浪衡天天宇濕,涼蟾落盡疏星入。
月の光が江の上にかかり、北斗七星の第五星「玉衡」は、天空を濡らしている。そうしていると秋の月は沈んでしまった、夜の明けきらぬ早朝の内に宮中に入る。
月浪 月の光が江の上にかかる。李商隠「贈劉司戸蕡」*-1参照 を連想させる。
衡天 北斗七星の第五星は玉衡を示すもの。王座ののこと。○天宇 天空。西普・左思「魂都賦」(『文選』巻六)に「天宇骸き、地塵驚く」。○涼蟾 秋の月をいう。月のなかには轄蛤(ひきがえる)がいると考えられたことから、「蟾」は月の別称に用いられる。○疏星 まばらな星。夜の明けきらぬ早朝。宮中で臣下を集めて催す行事朝礼。
*李商隠は首聯が詩題の舞台、この詩の舞台設定をあらわすように使用している。この朝礼で、「瑞兆として甘露が降った」と上奏し、宦官が確認に行くのでその時、宦官を一網打尽にするという策略を示す

雲屏不動掩孤嚬,西樓一夜風箏急。」
雲母の屏風がある、身じろぎもせず、口などをゆがめ、眉をひそめた顔に包まれた。そしてその夜の間、西の高楼台(鳳翔)に、風雲急を告げる凧があげられた。
雲屏 雲母の屏風。「常蛾」詩参照。
雲母屏風燭影深、長河漸落暁星沈。
嫦娥應悔倫塞薬、碧海青天夜夜心。
西亭 李商隠30 西亭に関する新解釈
孤噸 ひとり、眉をひそめた顔。嚬:ひそむ=顰む. 1 口などがゆがむ。2 べそをかく。○西樓 鄭注が鳳翔より兵を率いて粛清する予定であったことをしめす。○風箏 凧のこと。客家の八角風箏と呼ばれる凧。

欲織相思花寄遠,終日相思卻相怨。
相思樹の花を織り込んで遠くのあの人に送りたいけれど、一日中織り込んでいて思い続ければ、かえって怨みが募る。
相思花 相思樹の花。相思樹は蝿蝶鶏麝鸞鳳等 成篇 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-84(蝿蝶鶏蔚鸞鳳等もて篇を成す)詩注参照。
蝿蝶鶏蔚鸞鳳等成篇
韓蝶翻羅幕、曹蝿沸給囱。
闘鶏廻玉勒、融麝暖金紅。
玳瑁明書閣、琉璃冰酒缸。
畫樓多有主、鸞鳳各雙雙。


但聞北斗聲回環,不見長河水清淺。」
今はただ聞こえてくるのは天子の座を示す北斗星あり、その周りを玉環の魂や、天牢六星が冤魄をともなって回っている、悲しみの声がするのだ、これだけ多くの行きたいという魂が多いと天の川が渡れるほど浅くなっているのは見たことがないだろう。
聲回環 北斗星が北極星のまわりを回る。廻環は死んだ楊貴妃(玉環)が回る。 また、天牢六星が冤魄をともなって回っている。 *-2
長河水清淺 牽牛と織女が天の川を隔てて見つめ合い、「河漢清くして且つ浅し、相い去ること復た幾許ぞ」と、すぐそこにあって水かさも浅いのに渡れないという思いをうたうが、ここでも男女を隔てる川を渡るすべもないことをいうが、冤魄うずまき、水深が浅くなったことをいう。

金魚鎖斷紅桂春,古時塵滿鴛鴦茵。
黄金の魚型の錠前が鎖されて金木犀の咲きほこった庭にだれもいない、かつて伴にした鴛鴦の褥には塵が厚く積もっている。
金魚鎖斷 「金魚」は金色に輝く魚のかたちをした錠前。○紅桂春 紅桂は丹桂、キンモクセイで秋の季語。春は回春の情をいう。○古時 陳の後宮、かつての時。「鴛鴦薗」はおしどりの刺繍をほどこしたしとね。会わなくなって久しいことをいう。河内詩二首
 
堪悲小苑作長道,玉樹未憐亡國人。』
悲しみを耐えていたあの宮殿の中庭が今では大通りに変わってしまったのだ。陳の後主は「玉樹後庭歌」のように宮女ばかりにかまけて国を亡ぼした人に憐れを覚えるはずがない。
堪悲小苑 悲しみを知っている、ともに過ごした思い出のある宮殿の庭が、今では人の行き交う道になってしまっている。○玉樹 「玉樹」は歓楽に溺れ国を亡ぼした陳の後主が作った「玉樹後庭歌」。「南朝(玄武湖中)」南朝(梁・元帝) 李商隠 :kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 47南 朝 (南斉の武帝と陳の後主)李商隠 :kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 46(宋・南斉・陳の宮廷における逸楽を繰り広げるが、この「南朝」詩は梁を舞台とする。)
また隋宮 李商隠 :kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 49

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*-1 贈劉司戸蕡
江風揚浪動雲根、重碇危檣白日昏。
已断燕鴻初起勢、更驚騒客後歸魂。
漢廷急詔誰先入、楚路高歌自欲翻。
寓里相逢歓復泣、鳳巣西隔九重門。

はげしく大江を吹く風は、波を措きあげ、遠く水平線で水と接する雲の裾も、その波に揺れ動く。舟の重量しい錨、高い帆柱も、ものすさまじい風に翻弄されて真昼にもなおうす暗い危険な船旅に託するようにして去っていった。
ふるさとの燕の国から飛び立たんとしたその鴻の初めの威勢よい翼も、陰険な世の風にへし折られてしまった。その上、更に南の柳州に追いやる命令がきて、昔、むなしく南方にとどまっていつまでも都へ帰れなかった屈原の亡魂を、驚かすというようなことになった。宦官の巣食った漢の朝廷でも、いや唐の朝廷は一体誰を呼び戻そうとするのだろう。
誰よりも先に、漢の孝文帝が賈誼をよび戻したように、よび戻す人物は君であるはずだ。都を離れた楚の地方から柳州まで行く道すがら、かつて接輿がいつわり狂ってそうしたように、ただひとり声高らかに歌う君の声が風にひるがえり大空に飛び散ることだろう。

万里の彼方で、偶然めぐり会って涙ながらに歓んだのに、また万里の僻地に別離の涙を流している。天子を宦官たちに取り巻かれた朝廷は、もはや無縁のものとして遙か西の方に隔絶されてしまった。その九重の門によって閉ざしてしまった。

*-2
○天牢鎖冤魄 古代中国には、「太陽星」「太陰星」「先天五行星」「九宫星」「黄道十二守護星」「南斗七星」「北斗七星」「二十八宿群星」「天罡三十六星」「地煞七十二星」「三百六十五大周天星斗」および十万八千の副星によって天(宇宙)が形成されている、という考えがあった。それぞれの星に神がいて名前を持っている、とされており、当然「天罡三十六星」「地煞七十二星」にも名前がある。天罡星のひとつに天牢星がある。『晋書』天文志に「天牢六星は北斗の魁(星の名)の下に在り、貴人の牢なり」。・冤塊は本来無実の罪で死んだ人の魂。非業の死を遂げた者の魂。張飛は配下の武将の手によって業半ばで殺された、また、全戦全勝の武将であるのに身分差別に不当な仕打ちを受けたことが李商隠と重なる。死んだのちに劉備に報いた話もある。
李商隠 無 題
萬里風波一葉舟、憶歸初罷更夷猶。
碧江地没元相引、黄鶴沙邊亦少留。
益徳冤魂終報主、阿童高義鎮横秋。
人生豈得長無謂、懐古思郷共白頭。

燕臺詩四首 其一
春#1
風光冉冉東西陌,幾日嬌魂尋不得。
蜜房羽客類芳心,冶葉倡條遍相識。』
暖藹輝遲桃樹西,高鬟立共桃鬟齊。
雄龍雌鳳杳何許?絮亂絲繁天亦迷。』
醉起微陽若初曙,映簾夢斷聞殘語。
愁將鐵網罥珊瑚,海闊天寬迷處所。』
衣帶無情有寬窄,春煙自碧秋霜白。
研丹擘石天不知,願得天牢鎖冤魄。』
夾羅委篋單綃起,香肌冷襯琤琤珮。
今日東風自不勝,化作幽光入西海。』