燕臺詩四首 其三 秋#2 李商隠133 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150- 131-#2

其三 秋 -#2
月浪衡天天宇濕,涼蟾落盡疏星入。
雲屏不動掩孤嚬,西樓一夜風箏急。」
欲織相思花寄遠,終日相思卻相怨。
但聞北斗聲回環,不見長河水清淺。」
金魚鎖斷紅桂春,古時塵滿鴛鴦茵。
堪悲小苑作長道,玉樹未憐亡國人。』
瑤琴愔愔藏楚弄,越羅冷薄金泥重。
湘妃が洞庭の月夜に瑟を鼓(ひ)く、玉の琴は愔愔と静かな調べに楚の国の響きを籠められている、越のうすぎぬは秋の冷さのなかで透き通り金泥の模様は重厚なものなのだ。
簾鉤鸚鵡夜驚霜,喚起南雲繞雲夢。」
すだれの鉤のような月の夜、鸚鵡は夜の霜の降りる寒さに驚いた、思い起こすのは、南の雲のもと、仙人に招かれ雲夢の沢をめぐった日々もあった。
璫璫丁丁聯尺素,內記湘川相識處。
湘霊が奏でる五十舷の瑟のしらべ、耳飾りの音もかすかに響いてくる、耳飾りを手紙に結び、そこに瀟湘のあたりで知り合った時のことを綴る。
歌唇一世銜雨看,可惜馨香手中故。』

口ずさむ歌、いつまでも涙ながらに読み続けることだろう。しかし無念にも手紙にかき込められた香は、手のなかでしだいに失せていくのだ。


入。急。」/遠,怨。淺。」/春,茵。人。』/弄,重。夢。/素,處。故。』

其の三 秋
月浪(げつろう) 天を衡(う)ち 天宇(てんう)湿る、涼蟾(りょせん) 落ち盡くして疏星(そせい)入る。
雲屏は不動かず 孤嚬(こひん)を掩う,西樓 一夜 風箏 急なり。」
相思の花を織りて遠くに寄せんと欲するも、終日相い思えば却って相い怨む。
但だ北斗の声の廻環するを聞き、長河の水の清浅なるを見ず。
金魚の鎖は断つ 紅桂の春、古時の塵は満つ 鴛鴦(えんおう)の茵(しとね)。
悲しむに堪えん小苑 長道と作るを,玉樹未だ憐まず 亡国の人。』
揺瑟(ようしつ)愔愔(いんいん)として楚弄(そろう)藏す,越羅(えつら)冷薄にして金泥は重し。
簾鉤(れんこう)鸚鵡(おうむ) 夜 霜に驚き,喚び起こす 南雲 雲夢(うんぼう)を繞(めぐ) るを。」
璫璫(とうとう)丁丁(ちょうちょう) 尺素に聯(つら)なる,內には記(しる)す 湘川(しょうせん) 相 識る處。
歌唇 一世 雨を銜(ふく)みて看ん,惜むべし 馨香(けいこう) 手中に故(ふる)びたり。」


燕臺詩四首 其三 秋#2 現代語訳と訳註
(本文)
其三 秋-#2
瑤琴愔愔藏楚弄,越羅冷薄金泥重。
簾鉤鸚鵡夜驚霜,喚起南雲繞雲夢。」
璫璫丁丁聯尺素,內記湘川相識處。
歌唇一世銜雨看,可惜馨香手中故。』



(下し文) 其の三 秋-#2
揺瑟(ようしつ)愔愔(いんいん)として楚弄(そろう)藏す,越羅(えつら)冷薄にして金泥は重し。
簾鉤(れんこう)鸚鵡(おうむ) 夜 霜に驚き,喚び起こす 南雲 雲夢(うんぼう)を繞(めぐ) るを。」
璫璫(とうとう)丁丁(ちょうちょう) 尺素に聯(つら)なる,內には記(しる)す 湘川(しょうせん) 相 識る處。
歌唇 一世 雨を銜(ふく)みて看ん,惜むべし 馨香(けいこう) 手中に故(ふる)びたり。」

(現代語訳)
湘妃が洞庭の月夜に瑟を鼓(ひ)く、玉の琴は愔愔と静かな調べに楚の国の響きを籠められている、越のうすぎぬは秋の冷さのなかで透き通り金泥の模様は重厚なものなのだ。
すだれの鉤のような月の夜、鸚鵡は夜の霜の降りる寒さに驚いた、思い起こすのは、南の雲のもと、仙人に招かれ雲夢の沢をめぐった日々もあった。
湘霊が奏でる五十舷の瑟のしらべ、耳飾りの音もかすかに響いてくる、耳飾りを手紙に結び、そこに瀟湘のあたりで知り合った時のことを綴る。
口ずさむ歌、いつまでも涙ながらに読み続けることだろう。しかし無念にも手紙にかき込められた香は、手のなかでしだいに失せていくのだ。



(訳注) 秋のうた#2
瑤琴愔愔藏楚弄,越羅冷薄金泥重。
湘妃が洞庭の月夜に瑟を鼓(ひ)く、玉の琴は愔愔と静かな調べに楚の国の響きを籠められている、越のうすぎぬは秋の冷さのなかで透き通り金泥の模様は重厚なものなのだ。
瑤琴 玉で装飾した瑟。美しい玉。また、玉のように美しい。湘妃が洞庭の月夜に瑟を鼓くという古伝説○愔愔 穏やかな音の形容。『左氏伝』昭公十二年に「其の詩に目く、祈招の愔愔たる、式て徳音を昭らかにす」。○楚弄 楚の国の曲。「弄」は演奏することから楽曲をいう。○越羅 越の国の羅(薄い絹織物)は蜀の錦とならぶ名品とされた。○金泥 金の顔料。金泥で羅の衣に図案を描く。
涙  李商隠

(劉蕡・賈誼について)
簾鉤鸚鵡夜驚霜,喚起南雲繞雲夢。」
すだれの鉤のような月の夜、鸚鵡は夜の霜の降りる寒さに驚いた、思い起こすのは、南の雲のもと、仙人に招かれ雲夢の沢をめぐった日々もあった。
南雲 南の空の雲。遠く南方にいる親しい人を思う気持ちをあらわす。西晋・陸機「親を思う賦」 に「南雲を指して款を寄す」。○雲夢 雲夢の沢。夢澤 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-72 (楚王の戦争への負担、豪奢、趣向などによる人民の苦しみを与えたことへ批判したものである。)

七月二十八日夜與王鄭二秀才聽雨後夢作 李商隠  : 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-79


璫璫丁丁聯尺素,內記湘川相識處。
湘霊が奏でる五十舷の瑟のしらべ、耳飾りの音もかすかに響いてくる、耳飾りを手紙に結び、そこに瀟湘のあたりで知り合った時のことを綴る。
璫璫 一対の耳飾り。○丁丁 玉が触れ合う音。○尺素 手紙をいう詩語。長さ一尺のしろぎぬに書いたので尺素という。古楽府「飲馬長城窟行」に「児を呼びて鯉魚を君れば、中に尺素の書有り」。○湘川相識処 湘水のあたりで知り合った時のこと。
参照 李商隠「潭州」、「涙」

安定城樓  紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集-75

楚宮 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集 55


歌唇一世銜雨看,可惜馨香手中故。」
口ずさむ歌、いつまでも涙ながらに読み続けることだろう。しかし無念にも手紙にかき込められた香は、手のなかでしだいに失せていくのだ。
歌唇一世 手紙の歌をいつまでも口ずさみながら読む。「一生」はいつまでも。○馨香 ここでは箋紙に付いた
香り。二人の恋が過去のものとなっていくことを象徴する。正当な発言も時とともに色あせ、忘れ去られていく。○手中故


(解説)

○詩型・押韻 七言古詩。
○押韻 入。急。」/遠,怨。淺。」/春,茵。人。』/弄,重。夢。/素,處。故。』

此の篇は李商隠「安定城樓」のイメージを異なった言い回しで詠っている。李商隠の王朝批判のせんとうにあるものの基本は宦官による讒言に対して、なすすべを持たない天子、高級官僚たちに向けられている。諸悪の根源を宦官としている。この宦官が日に日に増殖してゆくアメーバ―の様なものである。そのジレンマの中で牛李の闘争がなされている。天子はそれを直視しないで奢侈、頽廃に耽っていく。歴代の王朝が辿って来た道も、同様なものである。


燕臺詩四首 其三 秋 #1と#2

其三 秋
月浪衡天天宇濕,涼蟾落盡疏星入。
雲屏不動掩孤嚬,西樓一夜風箏急。」
欲織相思花寄遠,終日相思卻相怨。
但聞北斗聲回環,不見長河水清淺。」
金魚鎖斷紅桂春,古時塵滿鴛鴦茵。
堪悲小苑作長道,玉樹未憐亡國人。』
瑤琴愔愔藏楚弄,越羅冷薄金泥重。
簾鉤鸚鵡夜驚霜,喚起南雲繞雲夢。」
璫璫丁丁聯尺素,內記湘川相識處。
歌唇一世銜雨看,可惜馨香手中故。」

入。急。」/遠,怨。淺。」/春,茵。人。』/弄,重。夢。/素,處。故。』



其の三 秋
月浪(げつろう) 天を衡(う)ち 天宇(てんう)湿る、涼蟾(りょせん) 落ち盡くして疏星(そせい)入る。
雲屏は不動かず 孤嚬(こひん)を掩う,西樓 一夜 風箏 急なり。」
相思の花を織りて遠くに寄せんと欲するも、終日相い思えば却って相い怨む。
但だ北斗の声の廻環するを聞き、長河の水の清浅なるを見ず。
金魚の鎖は断つ 紅桂の春、古時の塵は満つ 鴛鴦(えんおう)の茵(しとね)。
悲しむに堪えん小苑 長道と作るを,玉樹未だ憐まず 亡国の人。』
揺瑟(ようしつ)愔愔(いんいん)として楚弄(そろう)藏す,越羅(えつら)冷薄にして金泥は重し。
簾鉤(れんこう)鸚鵡(おうむ) 夜 霜に驚き,喚び起こす 南雲 雲夢(うんぼう)を繞(めぐ) るを。」
璫璫(とうとう)丁丁(ちょうちょう) 尺素に聯(つら)なる,內には記(しる)す 湘川(しょうせん) 相 識る處。
歌唇 一世 雨を銜(ふく)みて看ん,惜むべし 馨香(けいこう) 手中に故(ふる)びたり。」


(現代語訳)
月の光が江の上にかかり、北斗七星の第五星「玉衡」は、天空を濡らしている。そうしていると秋の月は沈んでしまった、夜の明けきらぬ早朝の内に宮中に入る。
雲母の屏風がある、身じろぎもせず、口などをゆがめ、眉をひそめた顔に包まれた。そしてその夜の間西の高楼台に、風雲急を告げる凧があげられた。
相思樹の花を織り込んで遠くのあの人に送りたいけれど、一日中織り込んでいて思い続ければ、かえって怨みが募る。
今はただ聞こえてくるのは天子の座を示す北斗星あり、その周りを玉環の魂や、天牢六星が冤魄をともなって回っている、悲しみの声がするのだ、これだけ多くの行きたいという魂が多いと天の川が渡れるほど浅くなっているのは見たことがないだろう。
黄金の魚型の錠前が鎖されて金木犀の咲きほこった庭にだれもいない、かつて伴にした鴛鴦の褥には塵が厚く積もっている。
悲しみを耐えていたあの宮殿の中庭が今では大通りに変わってしまったのだ。陳の後主は「玉樹後庭歌」のように宮女ばかりにかまけて国を亡ぼした人に憐れを覚えるはずがない。
湘妃が洞庭の月夜に瑟を鼓(ひ)く、玉の琴は愔愔と静かな調べに楚の国の響きを籠められている、越のうすぎぬは秋の冷さのなかで透き通り金泥の模様は重厚なものなのだ。
すだれの鉤のような月の夜、鸚鵡は夜の霜の降りる寒さに驚いた、思い起こすのは、南の雲のもと、仙人に招かれ雲夢の沢をめぐった日々もあった。
湘霊が奏でる五十舷の瑟のしらべ、耳飾りの音もかすかに響いてくる、耳飾りを手紙に結び、そこに瀟湘のあたりで知り合った時のことを綴る。
口ずさむ歌、いつまでも涙ながらに読み続けることだろう。しかし無念にも手紙にかき込められた香は、手のなかでしだいに失せていくのだ。

参考---------------------------------
○湘妃 鼓宏舜の妻、蛾皇・女英の二人が舜王のあとを追いかけ湘水までゆき、舜の死んだことをきき、湘水に身をなげて死に、湘水の女神となった。それが湘妃であり、この湘妃が洞庭の月夜に瑟を鼓くという古伝説がある。○斑竹 斑紋のある竹、湘水の地方に産する。その竹は湘妃が涙を流したあとに生じたものであるとの伝説がある。○江 湘江をさす。 

蛾皇と女英の故事にもとづく。古代の帝王舜は南方巡行の途中、蒼梧(湖南省寧遠県付近の山)で残した。二人の妃、蛾皇と女英は舜を追い求めて湘江のあたりまで来たが、二人の涙がこぼれた。竹はまだらに染まった。そのためこの地の竹には斑紋がついているという(『博物志』、『述異記』)。湘江は長抄の西を通って洞庭湖に注ぐ。「浅深」はあるいは浅くあるいは深く、まだらになっていることをいう。


安定城樓
迢逓高城百尺樓、綠楊枝外盡汀洲。
賈生年少虚垂涕、王粲春來更遠遊。
永憶江湖歸白髪、欲廻天地人扁舟。
不知腐鼠成滋味、猜意鴛雛竟未休。