此日足可惜贈張籍 唐宋詩-216Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-17-#10


此日足可惜贈張籍(愈時在徐籍往謁之辭去作是詩以送)((此の日惜しむ可きに足る 張籍に贈る 韓愈)
門人の張籍も無事で、訪ねて来てくれた。韓愈もようやく心の落ち着きを取りもどしたらしい。張籍の去るにあたって、彼は次の詩を贈った。
長い詩であるが、汴州の乱について韓愈の抱いた思いと彼の行動がよくみえる。またこのころには、愈の周囲に孟郊・張籍・李翺・ (賈島)などの人々が集まり、韓門が形成されていたようだ。

この頃の韓愈、孟郊、張籍の年譜。
796年 董晋の招きで宣武軍節度使の幕府に入る。
797年 病気のため一時求職。
    孟郊が来る。
798年 同所で進士科の予備試験員。
    張籍、この試験合格者の中に有る。
799年 董晋歿す。汴州の乱
    徐州武寧軍節度使 張建封の幕府に入る。
    韓愈、命受けて長安へ。孟郊、呉、越を遊覧。

#9 までのあらすじ

韓愈の一家は無事ではあったものの、汴州にいたのでは危険なので、舟で脱出し、韓愈とは逆方向の東へと逃げ、徐州(江蘇省)に落ち着いているという。これを聞いた韓愈は、いちおう葬列を洛陽まで送って行ってから、単身で東へと引き返した。
通行の許可をもらって盟津(孟津に同じ)を経由し、見え隠れしながら谷や岡を越えて行くのだった。そして日が西に傾いたころ河陽節度使(本拠地は河南省孟県の西)の門を入ったとき、韓愈の馬が疲れはて、物につまずいて倒れてしまった。幕府の主人である節度使の李元はもうしばらく滞留してほしいといってくれた、そして私を幕府の官廷に招き入れて酒と料理とを出してくれた。夜明けに幕府の官舎からぬけ出たが、それはここを思いきりよくマガモの飛び立つようなものだった。夕方には氾水に到着した、そこで黄河の流れに乗って旅立とうと思ったのに舟がなかったのだ。


主人願少留,延入陳壺觴。卑賤不敢辭,忽忽心如狂。
飲食豈知味,絲竹徒轟轟。平明脱身去,決若驚鳧翔。
黄昏次汜水,欲過無舟航。」9
號呼久乃至,夜濟十里黄。
長い時間大声で呼び、 ようやく渡し舟が来てくれた、夜のあいだに対岸までの十里の黄河も川筋を渡れたのだ。
中流上灘潬,沙水不可詳。
流れの中ほどで中洲に上がった、そして、川の砂も川の水も暗くてはっきりしなくて見分けられない状態なのだ。
驚波暗合遝,星宿爭翻芒。
こら闇の中で早瀬の怒涛はさかまいている、星座、星々はわれがちにまたたいている。
轅馬蹢躅鳴,左右泣僕童。
車を引いて行く馬は足どりも滞って鳴き、私の左右では僕童たちが泣くのであった。 甲午の日、昔の邸の城門である時門に着いて休憩甲午憩時門,臨泉窺鬥龍。」
10
し、『春秋左伝』にあるような竜の戦う姿を見ようと泉の中をのぞきこんだ。
東南出陳許,陂澤平茫茫。道邊草木花,紅紫相低昂。
百里不逢人,角角雄雉鳴。行行二月暮,乃及徐南疆。
下馬步堤岸,上船拜吾兄。」11
誰雲經艱難,百口無夭殤。僕射南陽公,宅我睢水陽。
篋中有馀衣,盎中有馀糧。閉門讀書史,窗戶忽已涼。
日念子來游,子豈知我情。」12
9
9
主人少(しばら)く留まらんことを願い、延(ひ)き入れて壺觴(こしょう)を陳(つら)ぬ。
卑賤(ひせん) 敢て辞せず、忽忽として心狂えるが如し。
飲食 豈味わいを知らんや、 糸竹 徒(いたず)らに轟轟たるのみ。
平明 身を脱して去る、決として驚鳧(きょうふ)の翔るが若し。
黄昏 汜水(しすい)に次(やど)り 過ぎんと欲するに舟航無し。

10
号呼 久しゅうして乃ち至り、夜 十里の黄を済(わた)る。
中流 灘潬(だんたん)に上るに 沙水 詳(つまび)らかにす可からず。 驚波 暗くして合沓(ごうとう)たり 星宿(せいしゅう) 争って空を翻す。
轅馬 蹢躅として鳴き、左右 僕童泣く。
甲午 時門に憩い、泉に臨んで闘竜を窺(うかが)う。

11
東西 陳・許を出ずれば、陂澤 平らかにして茫茫たり。
道辺の草木の花、 紅紫 相 低昂(ていこう)す。
百里 人に逢わず、角角(こくこく)として雄雉()ゆうち鳴く。
行き行きて二月の暮、乃ち徐の南疆に及ぶ。
馬より下りて堤岸を歩み、 船に上りて吾が兄を拝す。


現代語訳と訳註
(本文)

號呼久乃至,夜濟十里黄。
中流上灘潬,沙水不可詳。
驚波暗合遝,星宿爭翻芒。
轅馬蹢躅鳴,左右泣僕童。
甲午憩時門,臨泉窺鬥龍。」10

(下し文)10
号呼 久しゅうして乃ち至り、夜 十里の黄を済(わた)る。
中流 灘潬(だんたん)に上るに 沙水 詳(つまび)らかにす可からず。 驚波 暗くして合沓(ごうとう)たり 星宿(せいしゅう) 争って空を翻す。
轅馬 蹢躅として鳴き、左右 僕童泣く。
甲午 時門に憩い、泉に臨んで闘竜を窺(うかが)う。


(現代語訳)
長い時間大声で呼び、 ようやく渡し舟が来てくれた、夜のあいだに対岸までの十里の黄河も川筋を渡れたのだ。
流れの中ほどで中洲に上がった、そして、川の砂も川の水も暗くてはっきりしなくて見分けられない状態なのだ。
こら闇の中で早瀬の怒涛はさかまいている、星座、星々はわれがちにまたたいている。
車を引いて行く馬は足どりも滞って鳴き、私の左右では僕童たちが泣くのであった。 甲午の日、昔の邸の城門である時門に着いて休憩し、『春秋左伝』にあるような竜の戦う姿を見ようと泉の中をのぞきこんだ。


(訳注)10
號呼久乃至,夜濟十里黄。

号呼 久しゅうして乃ち至り、夜 十里の黄を済(わた)る。
長い時間大声で呼び、 ようやく渡し舟が来てくれた、夜のあいだに対岸までの十里の黄河も川筋を渡れたのだ。
乃至 数量・位置などの限界・範囲を述べて、その間を省略する意を表す。…から…まで。または。もしくは。○夜濟 夜の間に川を渡る。○十里黄 十里幅の黄河。
  
中流上灘潬,沙水不可詳。
中流 灘潬(だんたん)に上るに 沙水 詳(つまび)らかにす可からず。
流れの中ほどで中洲に上がった、そして、川の砂も川の水も暗くてはっきりしなくて見分けられない状態なのだ。
灘潬 中州がある川。・灘:急流。早瀬。流れが速く、岩が多くて航行にに危険なところ。・潬:水がよどんで深いところ。
  
驚波暗合遝,星宿爭翻芒。
驚波 暗くして合沓(ごうとう)たり 星宿(せいしゅう) 争って空を翻す。
こら闇の中で早瀬の怒涛はさかまいている、星座、星々はわれがちにまたたいている。
驚波 川の流れの怒涛。○合沓 集合する。中で逆巻くようなさま。○星宿 星座。○爭翻芒 翻ったり、ぼやけたり、はっきりしたり、瞬いているさま。

  
轅馬蹢躅鳴,左右泣僕童。
轅馬 蹢躅として鳴き、左右 僕童泣く。
車を引いて行く馬は足どりも滞って鳴き、私の左右では僕童たちが泣くのであった。
 轅馬   轅(なが/え)の馬。役所の馬。○ さまよう,うろうろする.○ ふむ。
 
  
甲午憩時門,臨泉窺鬥龍。」10
甲午 時門に憩い、泉に臨んで闘竜を窺(うかが)う。
甲午の日、昔の邸の城門である時門に着いて休憩し、『春秋左伝』にあるような竜の戦う姿を見ようと泉の中をのぞきこんだ。
甲午 796年貞元十二年七月二日。○鬥龍 『春秋左伝』にあるような竜の戦う姿をいう。