中唐詩-260 寄盧仝#5 韓愈 Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-22


811年 元和六年春 韓愈44歳の作 作詩順からすると韓愈詩の35番目くらいに掲載予定であったが、孟郊と盧仝詩を掲載したので順を繰り上げて掲載。
孟郊 『答盧仝』(盧仝に答える#1~#3)中唐詩 Ⅶ孟郊(孟東野) 答盧仝#1 <24> kanbun-iinkai紀頌之の漢詩ブログ248
盧仝 新茶について述べながら、生き方、生活ぶりについて触れている。『走筆謝孟諫議寄新茶』(筆を走らせて孟諫議の新茶を寄せるを謝す)(#1~#3)
中唐詩人ID-44 盧仝 走筆謝孟諫議寄新茶#1 kanbun-iinkai紀頌之の李商隠と中唐の漢詩ブログ251



寄盧仝
#1 
玉川先生洛城裏,破屋數間而已矣。一奴長鬚不裹頭,一婢赤腳老無齒。
辛勤奉養十余人,上有慈親下妻子。先生結發憎俗徒,閉門不出動一紀。
至令鄰僧乞米送,仆忝縣尹能不恥?俸錢供給公私余,時致薄少助祭祀。』
#2
勸參留守謁大尹,言語纔及輒掩耳。水北山人得名聲,去年去作幕下士。
水南山人又繼往,鞍馬仆從塞閭裏。少室山人索價高,兩以諫官征不起。
彼皆刺口論世事,有力未免遭驅使。先生事業不可量,惟用法律自繩己。』
#3
《春秋》三傳束高閣,獨抱遺經究終始。往年弄筆嘲同異,怪辭驚眾謗不已。
近來自說尋坦途,猶上虛空跨綠駬。』
#4
去歲生兒名添丁,意令與國充耘耔。國家丁口連四海,豈無農夫親耒耜?
先生抱才終大用,宰相未許終不仕。
假如不在陳力列,立言垂範亦足恃。苗裔當蒙十世宥,豈謂貽厥無基阯。
#5
昨晚長鬚來下狀,隔墻惡少惡難似。
昨晩のこと、長鬚の下男が告訴状をとどけて来た、まず、隣りの不良少年は類のないほど悪いやつというものである。
每騎屋山下窺闞,渾舍驚怕走折趾。
いつも大星根にまたがっては下の方を見下ろして中をのぞきこむ、家じゅうの女たちは驚愕して逃げる回り、その時足をくじくということがおこった。
憑依婚媾欺官吏,不信令行能禁止。
その横暴な振る舞いは有力者と姻戚なのをよいことにして役人をあなどり、法令により禁止されていても取り締まることができないほどなので何も信じられないということなのだ。
先生受屈未曾語,忽此來告良有以。
先生はこれまでばかにされても辛抱して今までおっしゃられたことはなかった、突然いま訴えられたのはきっとよくよくわけがあるのであろう。
嗟我身為赤縣令,操權不用欲何俟?
ああ、わたしは赤県の県知事の身でありながら、権力を持っているのに用いずに何を怖がってこまねいているのだろう。
立召賊曹呼伍伯,盡取鼠輩屍諸市。』

すぐさま賊曹検察官を招き伍伯の警官を呼び寄せ、つまらぬ悪さをするやつらをことごとくひっとらえて市場で晒し首にしようとしたのだ。
#6
先生又遣長鬚來,如此處置非所喜。況又時當長養節,都邑未可猛政理。
先生固是余所畏,度量不敢窺涯涘。放縱是誰之過歟?效尤戮仆愧前史。』

買羊沽酒謝不敏,偶逢明月曜桃李。先生有意許降臨,更遣長須改雙鯉。


現代語訳と訳註
(本文) #5

昨晚長鬚來下狀,隔墻惡少惡難似。
每騎屋山下窺闞,渾舍驚怕走折趾。
憑依婚媾欺官吏,不信令行能禁止。
先生受屈未曾語,忽此來告良有以。
嗟我身為赤縣令,操權不用欲何俟?
立召賊曹呼伍伯,盡取鼠輩屍諸市。』


(下し文)
咋晩 長鬚【ちょうしゅ】来たって状を下す、墻【かき】を隔つる悪少【あくしよう】は悪 似【くら】べ難し。
毎【つね】に屋山【おくさん】に騎りて下を窺【うたが】い闞【み】たれば、渾舎【こんしゃ】驚き怕【おそ】れて走って趾【あし】を折【くじ】きぬ。
婚媾【こんこう】に憑【よ】り依【よ】りて官吏を欺【あなど】り、令の行われて能く禁止するを信ぜず。
先生屈【くつ】を受けて未だ曾つて語らず、忽【たちま】ち此こに来たり告ぐるは良【まこと】に以【ゆえ】有り。
嵯【ああ】 我れ身は赤県【せっけん】の令と為【な】って、権を操【と】って用いずんば何を俟【ま】たんとか 欲っする。
立ちどころに賊曹【ぞくそう】を召して伍伯【ごはい】を呼び。
尽【ことごと】く鼠輩【そはい】を取らえて諸【これ】を市に屍【し】せしめんとす。


(現代語訳)
昨晩のこと、長鬚の下男が告訴状をとどけて来た、まず、隣りの不良少年は類のないほど悪いやつというものである。
いつも大星根にまたがっては下の方を見下ろして中をのぞきこむ、家じゅうの女たちは驚愕して逃げる回り、その時足をくじくということがおこった。
その横暴な振る舞いは有力者と姻戚なのをよいことにして役人をあなどり、法令により禁止されていても取り締まることができないほどなので何も信じられないということなのだ。
先生はこれまでばかにされても辛抱して今までおっしゃられたことはなかった、突然いま訴えられたのはきっとよくよくわけがあるのであろう。
ああ、わたしは赤県の県知事の身でありながら、権力を持っているのに用いずに何を怖がってこまねいているのだろう。
すぐさま賊曹検察官を招き伍伯の警官を呼び寄せ、つまらぬ悪さをするやつらをことごとくひっとらえて市場で晒し首にしようとしたのだ。


(訳注)
昨晚長鬚來下狀,隔墻惡少惡難似。

昨晩のこと、長鬚の下男が告訴状をとどけて来た、まず、隣りの不良少年は類のないほど悪いやつというものである
長鬚 最初に出て来たあごひげを長く生やした下男のこと。以下この#5の段は、虚仝が隣雀の不良少年を訴えたことを述べる。〇下状 告訴状を提出する。下は、自分のところへ持って来たから、謙遜して「下す」といった。状は、告訴状。○隔墻 土塀で隔てられたところ、隣家。○悪少 不良少年。○難似 比べるのがむずかしい。類がない。


每騎屋山下窺闞,渾舍驚怕走折趾。
いつも大星根にまたがっては下の方を見下ろして中をのぞきこむ、家じゅうの女たちは驚愕して逃げる回り、その時足をくじくということがおこった。
每騎屋山 騎は、またがる。屋山は、里根の棟、山のような形だから、屋山という。○窺闞 窺は、のぞきこむ。闞は、瞰と同じく、見下ろす。○渾舎 後世の俗謳の原家と同じく、性的対称である人のこと、妻、妾、民妓などのことをいう。○驚伯 伯は、恐れる。○折趾 足をくじく。趾は、足(足さき)のことで脛より上を含まない。

 
憑依婚媾欺官吏,不信令行能禁止。
その横暴な振る舞いは有力者と姻戚なのをよいことにして役人をあなどり、法令により禁止されていても取り締まることができないほどなので何も信じられないということなのだ。
憑依婚媾 姻戚に有力者があって、その力をたのみとしていることをいう。憑依は、たよる。婚媾は、結婚。貴族の子息「五陵年少」には処罰されないことが多かった。身分、血縁的なものに加え、任侠的なものとのかかわりを持つもの。王維、李白、杜甫「少年」

李白 17少年行

王維 楽府詩 少年行四首

杜甫 少年行


○欺 あなどる。ばかにする。欺侮というときの欺。○不信令行能禁止 不良少年は法令が行われて自分のした悪い事を禁止することができるとは信じない。この句までが告訴状の内容。


先生受屈未曾語,忽此來告良有以。
先生はこれまでばかにされても辛抱して今までおっしゃられたことはなかった、突然いま訴えられたのはきっとよくよくわけがあるのであろう
受屈 受は、辛抱する、がまんする。屈は、屈辱的な不当なひどい目に遭うこと。○未曾語 未曾は、今までそうした経験がなかったことを示す助辞。○来告 告は、告訴する。○良有以 ほんとにわけがあるのだろう。良は、心庇から。は、理由。魏の文帝曹丕(187-226年)の「呉質に与うる書」に見える有名なことば。『詩経、邶風、旄丘』「必有以也」(必ず有る以【ゆえ】也)
李白『春夜宴桃李園序』「古人秉燭夜遊,良有以也。」(古人 燭を秉(と)りて夜に遊ぶ,良(まこと)に以(ゆえ)有る也。)

春夜桃李園宴序李白116

 

嗟我身為赤縣令,操權不用欲何俟?
ああ、わたしは赤県の県知事の身でありながら、権力を持っているのに用いずに何を怖がってこまねいているのだろう。
 嘆息のことば。○赤県令 赤県は、唐の県の隔級の七つのうちの最上級のもの。長安・洛陽など都制を敷かれた特別市直轄の県をいう。韓愈の令、長官、県知事であった河南は、赤県であった。なお、戦国時代の哲学者鄒衍が中国を呼んで赤県神州といったが、そうしたことが、この赤県という官庁用語が詩中に取り入れられるときにそう抵抗を感じきせなかったのであろう。令は、県の長官。○揉権不用 権力をにぎっていながらその権力を用いない。○何俟 俟は、待つ。その権力を何に使おうとするつもりなのか、ということ。 


立召賊曹呼伍伯,盡取鼠輩屍諸市。』
すぐさま賊曹検察官を招き伍伯の警官を呼び寄せ、つまらぬ悪さをするやつらをことごとくひっとらえて市場で晒し首にしようとしたのだ。
 すぐさま。○賊曹 漢代、郡や国の訴訟や犯罪を取りしまった官。今の警察と裁判所とを兼ねたようなもの検察官である。唐では、州の法普参軍事がこれに相当するが、韓愈は州より下の県令だから、警察関係を扱っている部下のものをさす。○伍伯 漢代の官職の名。伍は、五人を一組とした班。伯は、長をいう。組み頭。ここは、警察の方だから、巡査郎長ぐらいに当たる。この伍伯はヽ刑荊の執行人でもあった。○ 捕える。○鼠輩 つまらない人間。○屍諸市 屍は、死体をさらしものにする。屍諸市、むかし、商業は市場で行われ、したがって盛り場でもあったので、処刑は、多くの者のみせしめにするために、市場で行われたことをいう。