縣齋有懐 韓愈(県斉にて懐い有り)
中唐詩-273 縣齋有懐 #7 韓愈 Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-29-7

1
縣齋有懐
少小筒奇偉、平生足悲咤。
猶嫌子夏儒、肯学樊遅稼。
事業窺皋稷、文章蔑曹謝。
濯纓起江湖、綴珮雑蘭麝。
悠悠指長道、去去策高駕。
(県斉にて懐い有り)
少小より奇偉を尚【たっと】ぶ、平生 悲咤【ひた】するに足る。
猶子夏の儒【じゅ】を嫌う、肯て 樊遅【はんち】の稼【か】を学はんや。
事業 皋稷【こうしょく】を窺【うかが】い、文章 曹謝を蔑【なみ】す。
纓【えい】を濯【すす】いで江湖より起ち、珮【はい】を綴るに蘭麝【らんじゃ】を雑【まじ】う。
悠悠として長道を指し、去【ゆ】き去【ゆ】きて高駕に策【むちう】つ。

2
誰爲傾国媒、自許連城價。
初随計吏貢、屡入澤宮射。
雖免十上勞、何能一戰覇。
人情忌殊異、世路多權詐。
蹉跎顔逐低、嶊折氣愈下。

誰か傾国の媒【なかだち】と為らん、自ら許す 連城の価【あたい】。
初め計吏に随【したが】いて貢せられ、屢々沢宮【たくきゅう】に入りて射る。
十上【じゅうじょう】の労を免【まぬが】ると雖も、何ぞ能く一戦して覇たらん。
人情 殊異【しゅい】を忌【い】み、世路 権詐【けんさ】多し
蹉跎【さた】として顔遂に低【た】れ、嶊折【さいせつ】して気愈々下る。

3
冶長信非罪、侯生或遭罵。
懐書出皇都、銜涙渡清㶚。
身將老寂寞、志欲死閑暇。
朝食不盈腸、冬衣纔掩髁。
軍書既頻召、戎馬乃連跨。

冶長【やちょう】 信【まこと】に罪に非ず、侯生【こうせい】 或いは罵【ののし】らるるに遭う。
書を懐【いだ】いて皇都を出【い】で、涙を銜んで清㶚【せいは】を渡る。
身は将に寂寞【せきばく】に老いんとし、志は閑暇【かんか】に死なんと欲す。
朝食 腸に盈【み】たず、冬衣 纔【わず】かに䯊【か】を掩【おお】うのみ。
軍書 既に頻【しき】りに召し、戎馬【じゅうば】 乃【すなわ】ち連【しき】りに跨【また】がる。
4
大梁従相公、彭城赴僕射。
弓箭圍狐兔、絲竹羅酒炙。
兩府變荒涼、三年就休暇。
求官去東洛、犯雪過西華。
塵挨紫陌春、風雨霊臺夜。

大梁にて相公【しょうこう】に従い、彭城【ほうじょう】にて僕射【ぼくや】に赴く。
弓箭【きゅうせん】 狐兔【こと】を囲み、糸竹 酒灸【しゅしゃ】を羅【つら】ぬ。
両府 変じて荒涼たり、三年 休暇に就く。
官を求めて東洛に去り、雪を犯して西華に過る。
塵挨【じんあい】 紫陌【しはく】の春、風雨 霊台の夜。 
5
名聾荷朋友、援引乏姻婭。
雖陪彤庭臣、詎縦靑冥靶。
寒空聳危闕、暁色曜脩架。
捐躯辰在丁、鎩翮時方碏。
投荒誠職分、領邑幸寛赦。

名声 朋友に荷【よ】り、援引 姻姫に乏し。
庭臣の臣に陪すと雖も、誼【なん】ぞ青冥【せいめい】の靶【は】を縦【ほしい】ままにせん。

寒空に危闕【きけつ】聾【そび】え、暁色【ぎょうしょく】に修架【しゅうか】曜【かがや】く。
躯【み】を捐【す】つる 辰は丁に在り、翮【はね】を鎩【そ】がるる 時は碏【さ】に方【あた】る。
荒に投ずるは誠に職分、邑【ゆう】を領するは幸いに寛赦【かんしゃ】なり。
6
湖波翻日車、嶺石坼天罅。
毒霧恆薫晝、炎風毎焼夏。
雷威固己加、颶勢仍相借。
氣象杳難測、聾音吁可怕。
夷言聴未慣、越俗循猶乍。

湖波【こは】 日車【にっしゃ】を翻し、嶺石【れいせき】 天罅【てんか】を坼【ひら】く。
毒霧【どくむ】 恒に昼に薫じ、炎風 毎に夏に焼く。
雷威【らいい】 固より己に加わり、颶勢【ぐせい】 仍【なお】相借す。
気象 杳【よう】として測り難し、声音 吁【ああ】 怕【おそ】る可し。
夷言【いごん】は聴くに未だ慣わず、越俗は循【したが】うに猶乍なり。

7
指摘兩憎嫌、睢肝互猜訝。
方言を指さして土地の人も私も両方とも憎み嫌い、きょろきょろ見まわしてどちらも不審そうな顔をする。
秖縁恩未報、豈謂生足藉。
先帝の御恩報じがまだすまぬばかりにこうしているので、私の人生をこの地に託してそれで満足と思っているわけにはいかはない。
嗣皇新繼明、率土日流化。
次の皇帝が新たに聖明の徳を継承され、国のすみずみまで日ごとに教化が流れている。
惟思滌瑕垢、長去事桑柘。
ただ私は心の傷を治したい、いわれのない不名誉の傷をすすぎたいと思うばかりで、そうしたら官界から永久に去って農業に従事したい。
斵嵩開雲扃、厭穎抗風榭。

嵩山を切りひらいてお堂の道場を建て、頴水の岸辺に風を受ける高殿をそびえ立たせよう。

指摘して両つながら憎嫌【ぞうけん】し、睢肝【きく】して互いに清訝【さいが】す。
秖【た】だ恩の未だ報ぜざるに縁り、豈【あに】生の藉【よ】るに足ると謂わんや。
嗣皇【しこう】 新たに明を継ぎ、率土【そつど】 日に化流る。
惟だ思う 瑕垢【かこう】を滌【すすぎ】ぎて、長く去りて桑柘【そうたく】を事とせんことを。
嵩を斬りて雲扃【うんけい】を開き、頴【えい】を圧して風榭【ふうい】を抗【あ】げん。
8
禾麥種満地、梨棗栽繞舎。
兒童稍長成、雀鼠得騙嚇。
官租日輪納、村酒時邀迓。
閑愛老兵愚、歸弄小女奼。
如今便可爾、何用畢婚嫁。

禾麦【かぼく】 種えて地に満ち、梨棗【りそう】 栽えて舎を繞らせん。
児童 稍【やや】長成せば、雀鼠【じゃくそ】 駆嚇【くかく】するを得ん。
官粗【かんそ】 日に輪納し、村酒 時に邀迓【ようが】せん。
閑【しず】かに老農の愚を愛し、帰りて小女の奼【た】なるを弄【ろう】せん。
如今【じょこん】 便【すなわ】ち爾【しか】る可し、何ぞ婚嫁【こんか】を畢【お】わるを用いん。


現代語訳と訳註
(本文) 7

指摘兩憎嫌、睢肝互猜訝。
秖縁恩未報、豈謂生足藉。
嗣皇新繼明、率土日流化。
惟思滌瑕垢、長去事桑柘。
斵嵩開雲扃、厭穎抗風榭。


(下し文)
指摘して両つながら憎嫌【ぞうけん】し、睢肝【きく】して互いに清訝【さいが】す。
秖【た】だ恩の未だ報ぜざるに縁り、豈【あに】生の藉【よ】るに足ると謂わんや。
嗣皇【しこう】 新たに明を継ぎ、率土【そつど】 日に化流る。
惟だ思う 瑕垢【かこう】を滌【すすぎ】ぎて、長く去りて桑柘【そうたく】を事とせんことを。
嵩を斬りて雲扃【うんけい】を開き、頴【えい】を圧して風榭【ふうい】を抗【あ】げん。


(現代語訳)
方言を指さして土地の人も私も両方とも憎み嫌い、きょろきょろ見まわしてどちらも不審そうな顔をする。
先帝の御恩報じがまだすまぬばかりにこうしているので、私の人生をこの地に託してそれで満足と思っているわけにはいかはない。
次の皇帝が新たに聖明の徳を継承され、国のすみずみまで日ごとに教化が流れている。
ただ私は心の傷を治したい、いわれのない不名誉の傷をすすぎたいと思うばかりで、そうしたら官界から永久に去って農業に従事したい。
嵩山を切りひらいてお堂の道場を建て、頴水の岸辺に風を受ける高殿をそびえ立たせよう。


(訳注)
指摘兩憎嫌、睢肝互猜訝。

指摘して両つながら憎嫌【ぞうけん】し、睢肝【きく】して互いに清訝【さいが】す。
方言を指さして土地の人も私も両方とも憎み嫌い、きょろきょろ見まわしてどちらも不審そうな顔をする。
○睢肝 小人のよろこび媚びる様子。にらみ廻して、のさばり歩く。知を求めて見聞に努める。○猜訝 猜はおそれる。きらう。うたがう。訝はむかえる。疑い怪しむ。驚く。


秖縁恩未報、豈謂生足藉。
秖【た】だ恩の未だ報ぜざるに縁り、豈【あに】生の藉【よ】るに足ると謂わんや。
先帝の御恩報じがまだすまぬばかりにこうしているので、私の人生をこの地に託してそれで満足と思っているわけにはいかはない。
恩未報 先帝の死去に伴う御恩報じがまだすまぬ  


嗣皇新繼明、率土日流化。
嗣皇【しこう】 新たに明を継ぎ、率土【そつど】 日に化流る。
次の皇帝が新たに聖明の徳を継承され、国のすみずみまで日ごとに教化が流れている。
嗣皇 次の皇帝。○新繼明 新たに聖明の徳を継承されること。○率土 国のすみずみまで。


惟思滌瑕垢、長去事桑柘。
惟だ思う 瑕垢【かこう】を滌【すすぎ】ぎて、長く去りて桑柘【そうたく】を事とせんことを。
ただ私は心の傷を治したい、いわれのない不名誉の傷をすすぎたいと思うばかりで、そうしたら官界から永久に去って農業に従事したい。
滌瑕垢 傷や垢をきれいに濯ぎたい。○事桑柘 隠遁生活のこと、隠遁者は桑、麻、瓜、黍、などの表現が常套語。 


斵嵩開雲扃、厭穎抗風榭。
嵩を斬りて雲扃【うんけい】を開き、頴【えい】を圧して風榭【ふうい】を抗【あ】げん。
嵩山を切りひらいてお堂の道場を建て、頴水の岸辺に風を受ける高殿をそびえ立たせよう。
○雲扃 雲のかんぬき、戸口。○頴 穎水。○風榭 内室のないお堂、道場のような建物。榭は屋根のある台。