中唐詩-274 縣齋有懐 #8 韓愈 Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-29 


縣齋有懐 #1
少小筒奇偉、平生足悲咤。猶嫌子夏儒、肯学樊遅稼。
事業窺皋稷、文章蔑曹謝。濯纓起江湖、綴珮雑蘭麝。
悠悠指長道、去去策高駕。
#2
誰爲傾国媒、自許連城價。初随計吏貢、屡入澤宮射。
雖免十上勞、何能一戰覇。人情忌殊異、世路多權詐。
蹉跎顔逐低、嶊折氣愈下。
#3
冶長信非罪、侯生或遭罵。懐書出皇都、銜涙渡清㶚。
身將老寂寞、志欲死閑暇。朝食不盈腸、冬衣纔掩髁。
軍書既頻召、戎馬乃連跨。
#4
大梁従相公、彭城赴僕射。弓箭圍狐免、絲竹羅酒炙。
兩府變荒涼、三年就休暇。求官去東洛、犯雪過西華。
塵挨紫陌春、風雨霊臺夜。
#5
名聾荷朋友、援引乏姻婭。雖陪彤庭臣、詎縦靑冥靶。
寒空聳危闕、暁色曜脩架。捐躯辰在丁、鎩翮時方碏。
投荒誠職分、領邑幸寛赦。
#6
湖波翻日車、嶺石坼天罅。毒霧恆薫晝、炎風毎焼夏。
雷威固己加、颶勢仍相借。氣象杳難測、聾音呼可怕。
夷言聴未慣、越俗循猶乍。
#7
指摘兩憎嫌、睢肝互猜訝。秖縁恩未報、豈謂生足藉。
嗣皇新繼明、率土日流化。惟思滌瑕垢、長去事桑柘。
斵嵩開雲扃、厭穎抗風榭。
#8
禾麥種満地、梨棗栽繞舎。兒童稍長成、雀鼠得騙嚇。
官租日輪納、村酒時邀迓。閑愛老兵愚、歸弄小女奼。
如今便可爾、何用畢婚嫁。

8
禾麥種満地、梨棗栽繞舎。
土地いっぱいに稲や麦をまき、家の周囲にぐるりと梨や菜の樹を植えよう。
兒童稍長成、雀鼠得騙嚇。
子供たちもだんだん大きくなれば、穀物を荒らす雀や鼠をおどして追いはらうのには役だつだろう。
官租日輪納、村酒時邀迓。
こうしてお上の租税は決められた日までにきちんと納め、時には地酒を作って、飲みに来いと誘いをかけと村人たちを待ちむかえ、出迎えようと思う。
閑愛老兵愚、歸弄小女奼。
外に出ては心のどかに老農の愚直さを愛し、家に帰ってからは可愛くて仕方ない娘をあやして楽しもう。
如今便可爾、何用畢婚嫁。
今のじぶんにとって、望むところはたったこれだけなのだ。どうして息子が嫁をとり、娘が嫁入りをすませるまで待つ必要があるというのか。

禾麦【かぼく】 種えて地に満ち、梨棗【りそう】 栽えて舎を繞らせん。
児童 稍【やや】長成せば、雀鼠【じゃくそ】 駆嚇【くかく】するを得ん。
官粗【かんそ】 日に輪納し、村酒 時に邀迓【ようが】せん。
閑【しず】かに老農の愚を愛し、帰りて小女の奼【た】なるを弄【ろう】せん。
如今【じょこん】 便【すなわ】ち爾【しか】る可し、何ぞ婚嫁【こんか】を畢【お】わるを用いん。



現代語訳と訳註
(本文) #8

禾麥種満地、梨棗栽繞舎。
兒童稍長成、雀鼠得騙嚇。
官租日輪納、村酒時邀迓。
閑愛老兵愚、歸弄小女奼。
如今便可爾、何用畢婚嫁。


(下し文)
禾麦【かぼく】 種えて地に満ち、梨棗【りそう】 栽えて舎を繞らせん。
児童 稍【やや】長成せば、雀鼠【じゃくそ】 駆嚇【くかく】するを得ん。
官粗【かんそ】 日に輪納し、村酒 時に邀迓【ようが】せん。
閑【しず】かに老農の愚を愛し、帰りて小女の奼【た】なるを弄【ろう】せん。
如今【じょこん】 便【すなわ】ち爾【しか】る可し、何ぞ婚嫁【こんか】を畢【お】わるを用いん。


(現代語訳)
土地いっぱいに稲や麦をまき、家の周囲にぐるりと梨や菜の樹を植えよう。
子供たちもだんだん大きくなれば、穀物を荒らす雀や鼠をおどして追いはらうのには役だつだろう。
こうしてお上の租税は決められた日までにきちんと納め、時には地酒を作って、飲みに来いと誘いをかけと村人たちを待ちむかえ、出迎えようと思う。
外に出ては心のどかに老農の愚直さを愛し、家に帰ってからは可愛くて仕方ない娘をあやして楽しもう。
今のじぶんにとって、望むところはたったこれだけなのだ。どうして息子が嫁をとり、娘が嫁入りをすませるまで待つ必要があるというのか。


(訳注)
禾麥種満地、梨棗栽繞舎。

禾麦【かぼく】 種えて地に満ち、梨棗【りそう】 栽えて舎を繞らせん。
土地いっぱいに稲や麦をまき、家の周囲にぐるりと梨や菜の樹を植えよう。
禾麦 イネと麥。多くは細長い葉をもち、花は花弁がなく二枚の 苞 ( ほう ) でつつまれている。イネ・ムギ。アワなどの穀類や、ススキ・アシなど。 【禾】のぎ. イネ・ムギなどの実の外殻にある針状の突起。のげ。 「芒」とも書く。○梨棗【りそう】なしとなつめ。杜甫『百憂集行』
憶年十五心尚孩、健如黄犢走復来。
庭前八月梨棗熟、一日上樹能千迴。
即今倐忽已五十、坐臥只多少行立。
強将笑語供主人、悲見生涯百憂集。
入門依旧四壁空、老妻覩我顔色同。
痴児未知父子礼、叫怒索飯啼門東。 


兒童稍長成、雀鼠得騙嚇。
児童 稍【やや】長成せば、雀鼠【じゃくそ】 駆嚇【くかく】するを得ん。
子供たちもだんだん大きくなれば、穀物を荒らす雀や鼠をおどして追いはらうのには役だつだろう。
雀鼠 芭蕉「 雀子と声鳴きかはす鼠の巣. 」(すずめごと こえなきかわす ねずみのす).農山村における平穏な生活をあらわす語。○駆嚇 駆はおいはらう。はしる。せまる。嚇はしかる、おどしつける。


官租日輪納、村酒時邀迓。
官粗【かんそ】 日に輪納し、村酒 時に邀迓【ようが】せん。
こうしてお上の租税は決められた日までにきちんと納め、時には地酒を作って、飲みに来いと誘いをかけと村人たちを待ちむかえ、出迎えようと思う。
官租 租税○日輪 太陽。ここでは、季節の廻ることをいい、収獲からそう遅くない日が決められているそれを守るということをあらわす。○邀迓 招き迎える。邀と迓、どちらも迎えることをいう。邀は待ちむかえることで、迓は出迎える。


閑愛老兵愚、歸弄小女奼。
閑【しず】かに老農の愚を愛し、帰りて小女の奼【た】なるを弄【ろう】せん。
外に出ては心のどかに老農の愚直さを愛し、家に帰ってからは可愛くて仕方ない娘をあやして楽しもう。
閑愛 「閑」「幽」「獨」など隠遁者の基本。○老兵愚 老農の愚直さ。○歸弄小女奼 この表現は儒者の愚直な生活と対比させて面白い。


如今便可爾、何用畢婚嫁。
如今【じょこん】 便【すなわ】ち爾【しか】る可し、何ぞ婚嫁【こんか】を畢【お】わるを用いん。
今のじぶんにとって、望むところはたったこれだけなのだ。どうして息子が嫁をとり、娘が嫁入りをすませるまで待つ必要があるというのか。
如今【じょこん】現在。ただいま。『史記、項羽紀』「如今人方爲刀爼、我爲魚肉。」

「県斎」とは県令の官舎内にある書斎のことである。ただし官舎といっても、県庁の建物といっしょになっていることが多い。つまり表は県庁で、裏は官舎なのである。県斎も、県令が読書をしたりするプライベートな部屋なのだが、そこを執務室のようにして使うことがある。このあたりの公私の区別は、あまりはっきりしない。めぐむ韓愈は流罪になったのだが、形式上は陽山県令の辞令をもらっているので、陽山という片田舎の範囲内では、県令としてふるまうことができる。

この詩のなかの言葉から見れば、このときの韓愈は新帝順宗の即位をすでに知っていた。即位の儀式が挙行されれば、慣例として大赦が行なわれる。そこで韓愈も、大赦の恩典に浴して青天白日の身となり、そのかわりに官界から引退して農耕に余生を送ろうと哀訴しているのである。のちにもう一度述べるが、韓愈は順宗の側近ににらまれたのがこのたびの流罪の原田となったのではないかという疑念を抱いていた。だがこの際、そんなことを問題にしてはいられない。ひたすら哀訴嘆願するはかりであった。


もっとも、順宗は皇太子から帝位にはついたものの、このときすでに四十五歳。しかも、どういう病気にかかったのか、前年からものが言えなくなっていた。政策はほとんど順宗側近の王佐・王叔文らによって決定されていたが、それが革新的な政策だったために、問題が大きくなった。
徳宗の治政は長く続いたので、さまざまな弊害が法令または慣習として定着している。それを改めるために、新たに帝位についた皇帝を利用しようとしたのは当然であるが、新帝が病気では、それを利用して政治の垂断をほかるものという声が起こるのもやむを得ない。改革によって利権を失った保守派は、この点から革新派を攻撃する。
結局、その年の八月に順宗は退位し、皇太子だった憲宗が即位した。順宗の治政は半年強しか続かなかったわけで、革新派は全面的な敗北に終わったのである。王佐は流罪、王叔文は流罪ののち自殺を命ずるという処分を受けた。また改元が行なわれ、貞元二十一年を永貞元年と呼ぶことになった。