中唐詩-280 八月十五夜贈張功曹 #2 Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-34-#2

八月十五夜贈張功曹(八月十五夜張功曹に贈る)

 纖雲四卷天無河,清風吹空月舒波。
沙平水息聲影絕,一杯相屬君當歌。
君歌聲酸辭且苦,不能聽終淚如雨。
洞庭連天九疑高,蛟龍出沒猩鼯號。
十生九死到官所,幽居默默如藏逃。―1

下牀畏蛇食畏藥,海氣濕蟄熏腥臊。
隠れ住んでいるように感じるのは、寝台から降りれば毒蛇の心配があり、食事には毒薬の入っている恐れがある。海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂う。
昨者州前捶大鼓,嗣皇繼聖登夔皋。
先日のこと、州庁の前の太鼓が鳴らされた。そして、お世継ぎの天子が聖明の徳を継がれ、賢臣を登用されるということが知らされた。
赦書一日行萬里,罪從大辟皆除死。
赦免状は一日に一万里を行き、極刑以下の罪はすべて死を免ぜられた。
遷者追回流者還,滌瑕盪垢清朝班。
左遷された者はもとへもどされ、流された者は還され、加えられた恥辱をすすぎ、百官の仲間に加わって朝廷に参上した。
州家申名使家抑,坎軻隻得移荆蠻。
―2
だが私の場合は、州の刺史は名前を上申してくれたのに湖南観察使がおさえてしまい、運の悪いことに蛮俗の土地である江陵へ移ることができただけだった。

判司卑官不堪說,未免捶楚塵埃間。
同時輩流多上道,天路幽險難追攀。』
君歌且休聽我歌,我歌今與君殊科。
一年明月今宵多,人生由命非由他。有酒不飲奈明何。』―3
  

(八月十五夜張功曹に贈る)#1
繊雲【せんうん】四【よ】もに巻いて天に河【か】無く、清風空を吹いて月は波を舒【の】ぶ。
沙は平らに水息【や】んで声影絶え、一盃【いっぱい】相属【しょく】す君当【まさ】に歌うべし。
君が歌は声酸【いた】み辞も且つ苦しく、終わるまで聴く能【あた】わずして涙雨の如し。
洞庭は天に連なり九疑【きゅうぎ】は高く、蛟竜【こうりゅう】出没して猩鼯【せいご】号【さけ】ぶ。
十生【じつせい】九死【きゅうし】 官所に到り、幽居黙黙として蔵逃せるが如し。
#2
牀【しょう】を下れば蛇を畏れ食には薬を畏れ、海気濕蟄【しつちつ】して腥臊【せいそう】熏【くん】ず。
昨者【さきごろ】州前【しゅうぜん】に大鼓を槌【う】ち、嗣皇【しこう】聖を継ぎて菱皐【きこう】を登【あ】ぐ。
赦書一日に万里を行き、罪の大辟【たへき】に従うは皆死を除かる。
遷者は追回し流者は還【かえ】し、瑕【きず】を滌【あら】い垢【あか】を蕩【そそ】いで朝【ちょう】 班【はん】を清む。
州家は名を申【の】べしも使家は抑え、坎軻【かんか】隻【ひとつ】荊蛮【けいばん】に移るを得しのみ。

#3
判司は卑官にして説【い】うに湛えず、未だ塵埃【じんあい】の間に捶楚【すいそ】せらるるを免れず。
同時の輩流 多く道に上るも、天路は幽険にして追攀【ついはん】し難し。
君が歌を且【しばら】く休【や】めて我が歌を聴け、我が歌は今君と科を殊【こと】にす。
一年の明月 今宵【こよい】多し、人生命【めい】に由る 他に由るに非ず、酒有れども飲まずんば明を奈何【いかん】せん

韓愈の地図03

現代語訳と訳註
(本文)

下牀畏蛇食畏藥,海氣濕蟄熏腥臊。
昨者州前捶大鼓,嗣皇繼聖登夔皋。
赦書一日行萬里,罪從大辟皆除死。
遷者追回流者還,滌瑕盪垢清朝班。
州家申名使家抑,坎軻隻得移荆蠻。


(下し文) #2
牀【しょう】を下れば蛇を畏れ食には薬を畏れ、海気濕蟄【しつちつ】して腥臊【せいそう】熏【くん】ず。
昨者【さきごろ】州前【しゅうぜん】に大鼓を槌【う】ち、嗣皇【しこう】聖を継ぎて菱皐【きこう】を登【あ】ぐ。
赦書一日に万里を行き、罪の大辟【たへき】に従うは皆死を除かる。
遷者は追回し流者は還【かえ】し、瑕【きず】を滌【あら】い垢【あか】を蕩【そそ】いで朝【ちょう】 班【はん】を清む。
州家は名を申【の】べしも使家は抑え、坎軻【かんか】隻【ひとつ】荊蛮【けいばん】に移るを得しのみ。


(現代語訳)
隠れ住んでいるように感じるのは、寝台から降りれば毒蛇の心配があり、食事には毒薬の入っている恐れがある。海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂う。
先日のこと、州庁の前の太鼓が鳴らされた。そして、お世継ぎの天子が聖明の徳を継がれ、賢臣を登用されるということが知らされた。
赦免状は一日に一万里を行き、極刑以下の罪はすべて死を免ぜられた。
左遷された者はもとへもどされ、流された者は還され、加えられた恥辱をすすぎ、百官の仲間に加わって朝廷に参上した。
だが私の場合は、州の刺史は名前を上申してくれたのに湖南観察使がおさえてしまい、運の悪いことに蛮俗の土地である江陵へ移ることができただけだった。


(訳注)
下牀畏蛇食畏藥,海氣濕蟄熏腥臊。

隠れ住んでいるように感じるのは、寝台から降りれば毒蛇の心配があり、食事には毒薬の入っている恐れがある。海から立ちのぼる気は湿気を帯びていて、なまぐさい臭いがあたりに漂う。
○下牀 寝台から降りる。○畏蛇 毒蛇の心配があること。○食畏藥 食事には毒薬の入っている恐れがある。○海氣 海から立ちのぼる気○濕蟄 空気中の水分が多いこと、湿気を帯びていること。○熏腥臊 なまぐさい臭いがあたりに漂う。北回帰線付近の8月だから、まだ蒸しあつい日がある。


昨者州前捶大鼓,嗣皇繼聖登夔皋。
先日のこと、州庁の前の太鼓が鳴らされた。そして、お世継ぎの天子が聖明の徳を継がれ、賢臣を登用されるということが知らされた。
昨者 先日のこと。○捶大鼓 州庁の前の太鼓が鳴る。○嗣皇 世継ぎの天子。○繼聖 聖明の徳を継がれたこと○登夔皋 賢臣を登用される。


赦書一日行萬里,罪從大辟皆除死。
赦免状は一日に一万里を行き、極刑以下の罪はすべて死を免ぜられた。
赦書 赦免状○罪從 罪を負ったもののこと。○大辟 五刑のひとつ。死刑。死罪。○皆除死 すべて死を免ぜられ。


遷者追回流者還,滌瑕盪垢清朝班。
左遷された者はもとへもどされ、流された者は還され、加えられた恥辱をすすぎ、百官の仲間に加わって朝廷に参上した。
○遷 左遷された者。○追回 もとへもどされ。○流者還 流された者は還される。○滌瑕 加えられた恥辱をすすぎ。○盪垢 垢を洗い落とす。○清朝班 百官の仲間に加わって朝廷に参上した。


州家申名使家抑,坎軻隻得移荆蠻。―2
だが私の場合は、州の刺史は名前を上申してくれたのに湖南観察使がおさえてしまい、運の悪いことに蛮俗の土地である江陵へ移ることができただけだった。
州家 州の刺史○申名 名前を上申する。○使家抑湖南観察使がおさえる。○坎軻 いきなやむ。不遇なこと。○隻得 ただ一つだけ得る。○移荆蠻 蛮俗の土地である江陵へ移る。