中唐詩-283 赴江陵途中寄贈王二十補闕李十一拾遺李二十六員外翰林三學士 #2 Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-35-#2

803年貞元十九年七月、かれは四門博士から監察御史に遷った。官吏をとりしまるのが、その役目である。冬、京兆の尹、すなわち首都長安の長官である李実の暴政を弾劾したため、まもなく陽山県の令に左遷された。陽山県は、広東省西北部にあるまちで、唐代の長安や洛陽に住むひとにとっては、地の涯、瘴癘の地と感ぜられた地方である。この左遷はかれの生涯における重要な事件の一つで、その文学にも大きな影響を与えた。時に36歳。「江陵に赴く途中、王二十補闕、李十一拾遺、李二十六員外翰林三学士に寄贈す」 は、すでに恩赦によりその罪をゆるされて、江陵府法曹参軍事として新任地にむかう途中、さきの左遷の始終を追想した長詩で、代表作の一つである。其の2回目。(全13回)


#2
有司恤經費,未免煩徴求。
係の役人は必要な費用のことを心配して、予定どおり徴収する手間をかけ、民は免れなかった。
富者既雲急,貧者固已流。
富んでいる者すら追いつめられるしまつなのだから、貧しい者はもちろん流民となってしまうのはしかたがない。
傳聞閭裏間,赤子棄渠溝。
こんな話を人づてに聞いた、村里で、赤ん妨を溝に捨てているという。
持男易鬥粟,掉臂莫肯酬。
また自分の息子を一升の穀物と取りかえようとする者がいて、手を振って断わる人ばかりで、代価を払ってくれようとする者はない。
我時出衢路,餓者何其稠。
私はじっとしておれず道路に出て見たのだが、飢えた人がなんと多いことか。目の前で道ばたの死体に逢った。
親逢道邊死,佇立久咿憂。
思わずその場に立ちつくし、久しくもぐもぐしてなげかずにはおられなかった。
歸舍不能食,有如魚中鉤。
家に帰っても貧しい食膳に向かっても食事がのどを通らない、魚が釣り針を飲みこんだようなものであった。

#2
有司 經費を恤【うれ】え,未だ徴求【ちょうきゅう】を煩【わずら】わすを免れず。
富者は既に雲【ここ】に急に,貧者は固より已に流る。
傳え聞く閭裏【りょり】の間,赤子【せきし】渠溝【きょこう】に棄つと。
男を持して鬥粟【とぞく】易【か】うるも,臂【ひじ】を掉【ふる】って肯えて酬【むく】ゆる莫【な】し。
我時に衢路【くろ】に出ずるも,餓えたる者 何んぞ其れ稠【おお】き。
親しく道邊の死に逢い,佇立【ちょりつ】して久しく咿憂【いゆう】す。
舍に歸るも食うこと能わず,魚の鉤に中【あた】れるが如き有り。


現代語訳と訳註
(本文)#2

有司恤經費,未免煩徴求。
富者既雲急,貧者固已流。
傳聞閭裏間,赤子棄渠溝。
持男易鬥粟,掉臂莫肯酬。
我時出衢路,餓者何其稠。
親逢道邊死,佇立久咿憂。
歸舍不能食,有如魚中鉤。


(下し文) #2
有司 經費を恤【うれ】え,未だ徴求【ちょうきゅう】を煩【わずら】わすを免れず。
富者は既に雲【ここ】に急に,貧者は固より已に流る。
傳え聞く閭裏【りょり】の間,赤子【せきし】渠溝【きょこう】に棄つと。
男を持して鬥粟【とぞく】易【か】うるも,臂【ひじ】を掉【ふる】って肯えて酬【むく】ゆる莫【な】し。
我時に衢路【くろ】に出ずるも,餓えたる者 何んぞ其れ稠【おお】き。
親しく道邊の死に逢い,佇立【ちょりつ】して久しく咿憂【いゆう】す。
舍に歸るも食うこと能わず,魚の鉤に中【あた】れるが如き有り。


(現代語訳)
係の役人は必要な費用のことを心配して、予定どおり徴収する手間をかけ、民は免れなかった。
富んでいる者すら追いつめられるしまつなのだから、貧しい者はもちろん流民となってしまうのはしかたがない。
こんな話を人づてに聞いた、村里で、赤ん妨を溝に捨てているという。
また自分の息子を一升の穀物と取りかえようとする者がいて、手を振って断わる人ばかりで、代価を払ってくれようとする者はない。
私はじっとしておれず道路に出て見たのだが、飢えた人がなんと多いことか。目の前で道ばたの死体に逢った。
思わずその場に立ちつくし、久しくもぐもぐしてなげかずにはおられなかった。
家に帰っても貧しい食膳に向かっても食事がのどを通らない、魚が釣り針を飲みこんだようなものであった。


(訳注)#2
有司恤經費,未免煩徴求。

係の役人は必要な費用のことを心配して、予定どおり徴収する手間をかけ、民は免れなかった。
有司 官吏。この場合は京兆尹李実をさす。李実は、免税などしていては国費がまかなえぬと考え「ひでりはつづき京したが、五穀のみのりはなかなかよろしい」と奏上し、免税排置を中止させた上、家誕税や道路税などを新設したため、住居をこわして瓦や木材を売り、この秋まくべき麦を売って税金にあてるものも出た。役者の成昿端が徴税攻勢を皮肉った謳をつくってやんやのかっさいをあびた。李実はこれを知ると、朝政誹膀の名目で、鞭うって殺した。


富者既雲急,貧者固已流。
富んでいる者すら追いつめられるしまつなのだから、貧しい者はもちろん流民となってしまうのはしかたがない。


傳聞閭裏間,赤子棄渠溝。
こんな話を人づてに聞いた、村里で、赤ん妨を溝に捨てているという。
棄渠溝 みぞにすてられている。


持男易鬥粟,掉臂莫肯酬。
また自分の息子を一升の穀物と取りかえようとする者がいて、手を振って断わる人ばかりで、代価を払ってくれようとする者はない。
掉臂 いらないよ、と手をふる。


我時出衢路,餓者何其稠。
私はじっとしておれず道路に出て見たのだが、飢えた人がなんと多いことか。目の前で道ばたの死体に逢った。


親逢道邊死,佇立久咿憂。
思わずその場に立ちつくし、久しくもぐもぐしてなげかずにはおられなかった。
咿憂 なげく。


歸舍不能食,有如魚中鉤。
家に帰っても貧しい食膳に向かっても食事がのどを通らない、魚が釣り針を飲みこんだようなものであった。
魚中鈎 つり針をノドにひっかけた魚。つり好きの斡愈でなければ出ないようなうまい言葉。陸機の『文賦』に「遊魚の鈎を銜んで重淵の深ぎより出づるが若し」の語がみえる。