嗟哉董生行 <42>#1Ⅱ韓退之(韓愈)詩315 紀頌之の漢詩ブログ 1024
嗟哉董生行(韓愈 唐詩 底本二巻)
(嗟哉【ああ】董生の行【うた】)


嗟哉董生行  #1
ああ嘆かわしい世だね、董くんに歌う。
淮水出桐柏,山東馳遙遙、千里不能休;
淮水は胎簪山を水源にして桐柏山のふもとをめぐり流れ出でている、山の東へはるばる馳せ流れる、千里の間休んだりすることはない。
淝水出其側,不能千里, 百里入淮流。
支流に淝水があり、その水源の傍から出ており、千里とはいかないが百里を過ぎると淮水に注入し合流する。
壽州屬縣有安豐,唐 貞元時,縣人 董生召南,隱居行義於其中。
そこに壽州があり、屬縣の安豐が有るのだ、唐の徳宗の貞元時代に、その県人の董召南くんがいる、その男は知識人なのに仕官せず、民間にいるが正義や忠義を心の中に持っていて行いの正しいことをしている。
刺史不能薦,天子 不聞名聲。

州長官はその男を推薦しようとはしないのだ、だから天子は彼の名声を聞き及ぶことはないのだ。

#2
爵祿不及門,門外惟有吏,日來征租更索錢。
嗟哉董生,朝出耕夜歸讀古人書,盡日不得息。
或山而樵,或水而漁。
入廚具甘旨,上堂問起居。
父母不戚戚,妻子不咨咨。
嗟哉董生孝且慈,人不識,惟有天翁知,生祥下瑞無時期。
#3
家有狗乳出求食,雞來哺其兒。
啄啄庭中拾蟲蟻,哺之不食鳴聲悲。
彷徨躑躅久不去,以翼來覆待狗歸。
嗟哉董生,誰將與儔?
時之人,夫妻相虐,兄弟爲讎。
食君之祿,而令父母愁。
亦獨何心,嗟哉董生無與儔。


(嗟哉【ああ】董生の行【うた】)
准水【わいすい】は桐柏【とうはく】より出で、山東に馳【は】せて 遙遙【ようよう】、千里 休む能【あた】はず。
淝水【ひすい】は其の側【かたわら】に出で、千里なる能はざれども、百里にして淮に入りて 流る。
壽州【じゅしゅう】の屬縣【ぞくけん】に安豊【あんぽう】有り、唐の貞元【ていげん】の時、縣人の董生【とうせい】召南【しょうなん】あり、隠れ居【す】みて 義を其の中【うち】に行ふ。
刺史【しし】は薦むる能はず、天子は名聾を聞かず。

#2
爵祿【しゃくろく】門に及ばず、門外 惟【ただ】吏【り】あるのみ、日に来って租を徹し更に餞を索【もと】む。
嗟哉【ああ】董生【とうせい】、朝に出でて耕し、夜は掃って古人の書を読む、尽日 息ふことを得ず。
或は山に樵【しょう】し、或は水に漁す。
厨【くりや】に入って甘旨【かんし】を具【ととの】へ、堂に上って起居を問ふ。
父母は戚戚たらず、妻子は咨咨【しし】たらず。
嗟哉【ああ】董生【とうせい】 孝にして且 慈【じ】、人識らず、惟 天翁【てんおう】のみ知る有り、祥を生じ 瑞【ずき】を下し 時期 無し。
#3

家に狗【いぬ】の乳する有り 出でて食を求む、鷄【にわとり】来って その児【こ】を哺【はぐく】まむとす。
啄啄【たくたく】として庭中に蟲蟻【ちゅうぎ】を拾ふ、之を哺【はぐく】ましめむとすれども食はず 鳴く聲悲し。
彷徨【ほうこう】し躑躅【てきちょく】して 久しく去らず、翼を以て来り覆うて 狗の歸るを待つ。
嗟哉 董生、誰を以てか與【とも】に儔【たぐ】へむ。
時の人、夫妻 相 虐【さいな】み 兄弟讎【あた】を爲す。
君の祿を食【は】み、而【しか】も 父母をして愁へしむ。
亦 濁り何の心ぞ、嗟哉 董生、與【とも】に儔【たぐ】へむもの無し。



現代語訳と訳註
(本文) 嗟哉董生行  #1

淮水出桐柏,山東馳遙遙、千里不能休;
淝水出其側,不能千里  ,百里入淮流。
壽州屬縣有安豐,唐 貞元時,縣人 董生召南,隱居行義於其中。
刺史不能薦,天子 不聞名聲。


(下し文) (嗟哉【ああ】董生の行【うた】)#1
准水【わいすい】は桐柏【とうはく】より出で、山東に馳【は】せて 遙遙【ようよう】、千里 休む能【あた】はず。
淝水【ひすい】は其の側【かたわら】に出で、千里なる能はざれども、百里にして淮に入りて 流る。
壽州【じゅしゅう】の屬縣【ぞくけん】に安豊【あんぽう】有り、唐の貞元【ていげん】の時、縣人の董生【とうせい】召南【しょうなん】あり、隠れ居【す】みて 義を其の中【うち】に行ふ。
刺史【しし】は薦むる能はず、天子は名聾を聞かず。


(現代語訳)#1
ああ嘆かわしい世だね、董くんに歌う。
淮水は胎簪山を水源にして桐柏山のふもとをめぐり流れ出でている、山の東へはるばる馳せ流れる、千里の間休んだりすることはない。
支流に淝水があり、その水源の傍から出ており、千里とはいかないが百里を過ぎると淮水に注入し合流する。
そこに壽州があり、屬縣の安豐が有るのだ、唐の徳宗の貞元時代に、その県人の董召南くんがいる、その男は知識人なのに仕官せず、民間にいるが正義や忠義を心の中に持っていて行いの正しいことをしている。
州長官はその男を推薦しようとはしないのだ、だから天子は彼の名声を聞き及ぶことはないのだ。


(訳注) 嗟哉董生行  #1
ああ嘆かわしい世だね、董くんに歌う。
嗟哉董生行 底本巻二。董召南というすぐれた民間知識人をたたえたうた。嗟哉は「ああ」。董生は董召南をさす。生はもと学者という意味で、唐の時代には、くん、とか、さん、とかぐらいの敬称として用いられた。は詩体の一種。「男はつらいよ」の寅さんが口上を言うような詩である。このブログでは、漢詩の訳文を「現代詩」として付くことはしない事としている。できるだけ漢詩の意味が深く理解できるように考えて掲載しているが、この詩は、韓愈が啖呵を切るため、あるいは強調するため五言を四言にしたり、七言を六言にしている。その表現については原文に空白にしてあらわした。


淮水出桐柏,山東馳遙遙,千里不能休;
淮水は胎簪山を水源にして桐柏山のふもとをめぐり流れ出でている、山の東へはるばる馳せ流れる、千里の間休んだりすることはない。
推水 推陽平民県胎簪山から流れ出、東北方の桐柏山のふもとをめぐり、遠く東流して洪沢湖に注ぐ河。○遙遙 はるばる。『左伝、昭公二十五』「鸚鵠来巣、遠哉遙遙」(鸚鵠 巣より来たり、遠き遙遙たり)の句がみえる。


淝水出其側,不能千里 ,百里入淮流。
支流に淝水があり、その水源の傍から出ており、千里とはいかないが百里を過ぎると淮水に注入し合流する。
淝水 九江成徳県広陽郷から流出し西北に走って淮水に合流する。


壽州屬縣有安豐,唐貞元時 ,縣人 董生召南,隱居行義於其中。
そこに壽州があり、屬縣の安豐が有るのだ、唐の徳宗の貞元時代に、その県人の董召南くんがいる、その男は知識人なのに仕官せず、民間にいるが正義や忠義を心の中に持っていて行いの正しいことをしている。
寿州 淮・淝二水の合流点にある。いまは安徽省に属する。○隠居 知識人が仕官せず、民間にいること。中国の通念では、知識人は官文になって社会に奉仕すべきだとされる。それを官吏にならないから隠れ棲むことになる。おのれの意志で仕官しない場合と、望んでもできない場合とがある。董生は後者であった。


刺史不能薦,天子 不聞名聲。
州長官はその男を推薦しようとはしないのだ、だから天子は彼の名声を聞き及ぶことはないのだ。
刺史 州長官。○薦 州長官は管下の人材を天子に推薦する義務をもち、唐代には、だいたい毎年、長官が主宰して試験し、合格したものを、長安の郡で行なわれる官吏資格認定試験に送ることになっていた。これを「薦【せん】」という。この詩で「不能薦」というのは、董生が州での試験に合格しなかったことをさす。このような試験にも裏口の存在したこと、「古来非独今」である。『從仕』 (韓愈)を参照。

從仕  (韓愈)
居閑食不足,從仕力難任。
兩事皆害性,一生恒苦心。
黄昏歸私室,惆悵起歎音。
棄置人間世,古來非獨今。