嗟哉董生行 <42>#3Ⅱ韓退之(韓愈)詩317 紀頌之の漢詩ブログ 1030
嗟哉董生行(韓愈 唐詩 底本二巻)
(嗟哉【ああ】董生の行【うた】)


嗟哉董生行  #1
淮水出桐柏,山東馳遙遙、千里不能休;
淝水出其側,不能千里, 百里入淮流。
壽州屬縣有安豐,唐 貞元時,縣人 董生召南,隱居行義於其中。
刺史不能薦,天子 不聞名聲。
#2
爵祿不及門,門外惟有吏,日來征租更索錢。
嗟哉董生,朝出耕夜歸讀古人書,盡日不得息。
或山而樵,或水而漁。
入廚具甘旨,上堂問起居。
父母不戚戚,妻子不咨咨。
嗟哉董生孝且慈,人不識,惟有天翁知,生祥下瑞無時期。
#3
家有狗乳出求食,雞來哺其兒。
家に仔犬をそだてる母犬がいた、その犬が子を生んで 餌をさがしに出る、すると鶏がやって来て 犬の子に食べさせようとする。
啄啄庭中拾蟲蟻,哺之不食鳴聲悲。
コツコツと庭の虫や蟻を拾ってきて、口移しで食べさせようとするのだが 食べないで悲しげに鳴いている。
彷徨躑躅久不去,以翼來覆待狗歸。
鶏は行ったり来たりうろついて、行ってしまうこともしないでそこにいる。翼で小犬をだきかかえ 親犬の帰りを待った。
嗟哉董生,誰將與儔?
ああ 董くん、誰をきみにくらべることができようか。
時之人,夫妻相虐,兄弟爲讎。
世間の人というものは、夫婦が互いに苦しめ合い、兄弟同士でまるで仇のようになる。
食君之祿,而令父母愁。
天子からから俸禄をもらっている、そうしながら、父母を泣かせている連中がいる。
亦獨何心,嗟哉董生無與儔。

これはいったいどんな気持ちというのだろうか、ああ 董くん、きみのようなひとはいないのだ。



(嗟哉【ああ】董生の行【うた】)
准水【わいすい】は桐柏【とうはく】より出で、山東に馳【は】せて 遙遙【ようよう】、千里 休む能【あた】はず。
淝水【ひすい】は其の側【かたわら】に出で、千里なる能はざれども、百里にして淮に入りて 流る。
壽州【じゅしゅう】の屬縣【ぞくけん】に安豊【あんぽう】有り、唐の貞元【ていげん】の時、縣人の董生【とうせい】召南【しょうなん】あり、隠れ居【す】みて 義を其の中【うち】に行ふ。
刺史【しし】は薦むる能はず、天子は名聾を聞かず。
#2

爵祿【しゃくろく】門に及ばず、門外 惟【ただ】吏【り】あるのみ、日に来って租を徹し更に餞を索【もと】む。
嗟哉【ああ】董生【とうせい】、朝に出でて耕し、夜は掃って古人の書を読む、尽日 息ふことを得ず。
或は山に樵【しょう】し、或は水に漁す。
厨【くりや】に入って甘旨【かんし】を具【ととの】へ、堂に上って起居を問ふ。
父母は戚戚たらず、妻子は咨咨【しし】たらず。
嗟哉【ああ】董生【とうせい】 孝にして且 慈【じ】、人識らず、惟 天翁【てんおう】のみ知る有り、祥を生じ 瑞【ずき】を下し 時期 無し。

#3
家に狗【いぬ】の乳する有り 出でて食を求む、鷄【にわとり】来って その児【こ】を哺【はぐく】まむとす。
啄啄【たくたく】として庭中に蟲蟻【ちゅうぎ】を拾ふ、之を哺【はぐく】ましめむとすれども食はず 鳴く聲悲し。
彷徨【ほうこう】し躑躅【てきちょく】して 久しく去らず、翼を以て来り覆うて 狗の歸るを待つ。
嗟哉 董生、誰を以てか與【とも】に儔【たぐ】へむ。
時の人、夫妻 相 虐【さいな】み 兄弟讎【あた】を爲す。
君の祿を食【は】み、而【しか】も 父母をして愁へしむ。
亦 濁り何の心ぞ、嗟哉 董生、與【とも】に儔【たぐ】へむもの無し。


現代語訳と訳註
(本文)
#3
家有狗乳出求食,雞來哺其兒。
啄啄庭中拾蟲蟻,哺之不食鳴聲悲。
彷徨躑躅久不去,以翼來覆待狗歸。
嗟哉董生,誰將與儔?
時之人,夫妻相虐,兄弟爲讎。
食君之祿,而令父母愁。
亦獨何心,嗟哉董生,無與儔。

(下し文) #3
家に狗【いぬ】の乳する有り 出でて食を求む、鷄【にわとり】来って その児【こ】を哺【はぐく】まむとす。
啄啄【たくたく】として庭中に蟲蟻【ちゅうぎ】を拾ふ、之を哺【はぐく】ましめむとすれども食はず 鳴く聲悲し。
彷徨【ほうこう】し躑躅【てきちょく】して 久しく去らず、翼を以て来り覆うて 狗の歸るを待つ。
嗟哉 董生、誰を以てか與【とも】に儔【たぐ】へむ。
時の人、夫妻 相 虐【さいな】み 兄弟讎【あた】を爲す。
君の祿を食【は】み、而【しか】も 父母をして愁へしむ。
亦 濁り何の心ぞ、嗟哉 董生、與【とも】に儔【たぐ】へむもの無し。


(現代語訳)
家に仔犬をそだてる母犬がいた、その犬が子を生んで 餌をさがしに出る、すると鶏がやって来て 犬の子に食べさせようとする。
コツコツと庭の虫や蟻を拾ってきて、口移しで食べさせようとするのだが 食べないで悲しげに鳴いている。
鶏は行ったり来たりうろついて、行ってしまうこともしないでそこにいる。翼で小犬をだきかかえ 親犬の帰りを待った。
ああ 董くん、誰をきみにくらべることができようか。
世間の人というものは、夫婦が互いに苦しめ合い、兄弟同士でまるで仇のようになる。
天子からから俸禄をもらっている、そうしながら、父母を泣かせている連中がいる。
これはいったいどんな気持ちというのだろうか、ああ 董くん、きみのようなひとはいないのだ。


(訳注)
家有狗乳出求食,雞來哺其兒。

家に仔犬をそだてる母犬がいた、その犬が子を生んで 餌をさがしに出る、すると鶏がやって来て 犬の子に食べさせようとする。
 乳をのませる。家有狗乳は、家に仔犬をそだてる母犬がいた。○ ロうつしに食物を与えること。


啄啄庭中拾蟲蟻,哺之不食鳴聲悲。
コツコツと庭の虫や蟻を拾ってきて、口移しで食べさせようとするのだが 食べないで悲しげに鳴いている。
啄啄 ついばみついばむ。タクタクという字音が、こつこつついばむさまをたくみに表現している。陶侃に「山鷄啄蟲蟻」杜甫に「家人厭鷄食蟲蟻」の句がある。○鳴声悲 仔犬は腹がへって鳴く声が悲しそうだ。


彷徨躑躅久不去,以翼來覆待狗歸。
鶏は行ったり来たりうろついて、行ってしまうこともしないでそこにいる。翼で小犬をだきかかえ 親犬の帰りを待った。
彷徨 うろつく。○躑躅 行きつもどりつする。


嗟哉董生,誰將與儔?
ああ 董くん、誰をきみにくらべることができようか。


時之人,夫妻相虐,兄弟爲讎。
世間の人というものは、夫婦が互いに苦しめ合い、兄弟同士でがまるで仇のようになる。


食君之祿,而令父母愁。
天子からから俸禄をもらっている、そうしながら、父母を泣かせている連中がいる。


亦獨何心,嗟哉董生,無與儔。
これはいったいどんな気持ちというのだろうか、ああ 董くん、きみのようなひとはいないのだ。