送無本師歸范陽 韓退之(韓愈)詩<50-#4>Ⅱ中唐詩343 紀頌之の漢詩ブログ1108


送無本師歸范陽(賈島初為浮屠,名無本)
無本僧師が范陽に帰るを送る。(賈島は初め僧侶であった、戒名を無本と称した。)
無本於為文,身大不及膽。
無本僧師は詩文を作るにおいて、身の丈に応じたものをつくる、勇気や度胸の生じる範囲のものに及んではいない。
吾嘗示之難,勇往無不敢。
私もいつものこととしてこの範囲を超えることは難しいことを示しているし、勇気や度胸で行くことは、あえてすることはないと思っている。
蛟龍弄角牙,造次欲手攬。
蛟龍というものは角や牙を持っていて奮っているものだ。ほんのわずかの時間でほしいものを手に入れてしまうのである。
眾鬼囚大幽,下覷襲玄窞。
そして大勢の鬼たちは広くて静かなところで囚われ、下を見ると暗い穴の中で襲われている。
天陽熙四海,注視首不頷。」
天を仰ぐと太陽が世界中を照らしている。注意してみてみると首をうなだれてはいないのだ。

#2
鯨鵬相摩窣,兩舉快一啖。
巨鯨と大鳥は互いに磨り合うように突然に飛び出してくる。そして両手を挙げて快く軽やかにひとたび啖をはいた。
夫豈能必然,固已謝黯黮。
ということはどうしても必ずそうなるというわけではないのであって、もともと既に失望するので謝ることになる。
狂詞肆滂葩,低昂見舒慘。
おとぼけの意を含んだ言葉、詩文が花びらが開くように盛んな勢いでわき起こってくる。
奸窮怪變得,往往造平澹。
正道にそむいたよこしまなことしかしないことは奇怪な方向へ行ってしまい、まあ、往々にしてしつこくない妥協の産物になるのである。
蜂蟬碎錦纈,綠池披菡萏。」
蜂と蝉はにしきと絞り染めの絹を砕く、澄み切った水の池は美しい蓮の花におおわれる。
#3
芝英擢荒榛,孤翮起連菼。
草と花房があるが荒れ果てたところでカバノキが抜きんでるものだ、孤独な鳥は連続して生え始めた稲の苗を起してしまう。
家住幽都遠,未識氣先感。
家は黄泉のように遠いところに住まいしている。どこなのかいまだに認識はしていないが気配としてはまず感じるのである。
來尋吾何能,無殊嗜昌歜。
尋ねてきたとしたら私は何をしてあげれ良いのだろうか、ほめあげたり、激しくしかったりしてあげてほかのことはしようがない。
始見洛陽春,桃枝綴紅糝。
始めて洛陽の春を見た桃の枝には紅色に惨めなものでつづったのである。
遂來長安里,時卦轉習坎。」

そしてとうとう、長安の街に来たときには時間の経過するに伴い一難去ってまた一難ということになってしまった。

#4
老懶無鬥心,久不事鉛槧。
年老いて物憂いになったし闘争心はなくなったのではあるが、久しくことをなし、詩文に携わることをしてきたこれを止める気にはならない。
欲以金帛酬,舉室常顑頷。
でもって、金銭と布帛の報酬を欲するというけれど、その居室を挙げて常に顔や顎に火が出るほどの恥と思っている。
念當委我去,雪霜刻以憯。
こんなことにあたって思うことは、わたしはこの仕事をしかるべきひとに任せここを去ろうと思うのである。雪と霜の極寒に時を刻み以て憂えるのである。
獰飆攪空衢,天地與頓撼。
大風が吹き、大空の四方を撹拌する、天と地はともにゆるく感じている。
勉率吐歌詩,慰女別後覽。」
出来る限りの努力をしてしいかを作り歌う、そのことはあなたがここ去り別れてから慰めることになるだろう。



(無本師 范陽に歸るを送る〈賈島 初め浮屠と為す,名は無本〉)
#1
無本 文を爲【つく】るに於て、身の大いさ 胆に及ばず。
吾 嘗【つね】に之に難きを示すに、勇往 敢てせざる無し。
蛟龍【こうりゅう】角牙【かくし】を弄し、造次に手づから攬【と】らむと欲す。
衆鬼 大幽に因【とら】はるるに、下覷【かき】して 玄窞【げんたん】ぞ襲ふ。
天陽 四海に煕るに、注視して 首頷【た】れず。
#2
鯨と鵬と相摩窣【まそつ】するに、両挙して 快かに一啖【いつたん】す。
夫れ豈能く必ずしも然らむや、固【まこと】に已に黯黮【あんたん】を謝す。
狂詞肆【ほしいまま】にして滂葩【ぼうは】たり、低昂【ていこう】 舒惨【じょさん】を見る。
姦 窮まり 怪変じ得て、往往 平淡に 造【いた】る。
蜂蝉【ほうせん】 錦纈【きんけつ】を碎き、緑池菡萏【かんたん】を披く。
#3
芝英 荒榛【こうしん】より擢【ぬき】んで、孤翮【こかく】連菼【れんたん】より起る。
家は幽都の遠きに住し、未だ識らざれども 気先【ま】づ感ず。
来り尋ぬ 吾何をか能くせむ、昌歜【しょうしょく】を嗜【たしな】に殊なること無し。
始めて見る格陽の春、桃枝 紅惨【こうさん】を綴る。
遂に長安の里に来り、時卦【じたつ】習坎【しゅうかん】に転ず。
#4
老懶【ろうらん】 闘心無く、久しく鉛槧【えんぜん】を事とせず。
金帛を以て酬いむと欲すれども、挙室 常に顑頷【かんがん】たり。
念ふに当に我を委【す】てて去【ゆ】くべし、霜雪 刻にして以て憯【せん】たり。
獰飆【どうひょう】 空衢【くうく】を攬【みだ】し、天地 与に 頓撼。
勉め率いて歌詩を吐き、女【なんじ】が別後の覧を尉【なぐさ】めむ。


現代語訳と訳註
(本文)
#4
老懶無鬥心,久不事鉛槧。
欲以金帛酬,舉室常顑頷。
念當委我去,雪霜刻以憯。
獰飆攪空衢,天地與頓撼。
勉率吐歌詩,慰女別後覽。」


(下し文) #4
老懶【ろうらん】 闘心無く、久しく鉛槧【えんぜん】を事とせず。
金帛を以て酬いむと欲すれども、挙室 常に顑頷【かんがん】たり。
念ふに当に我を委【す】てて去【ゆ】くべし、霜雪 刻にして以て憯【せん】たり。
獰飆【どうひょう】 空衢【くうく】を攬【みだ】し、天地 与に 頓撼。
勉め率いて歌詩を吐き、女【なんじ】が別後の覧を尉【なぐさ】めむ。


(現代語訳)
年老いて物憂いになったし闘争心はなくなったのではあるが、久しくことをなし、詩文に携わることをしてきたこれを止める気にはならない。
でもって、金銭と布帛の報酬を欲するというけれど、その居室を挙げて常に顔や顎に火が出るほどの恥と思っている。
こんなことにあたって思うことは、わたしはこの仕事をしかるべきひとに任せここを去ろうと思うのである。雪と霜の極寒に時を刻み以て憂えるのである。
大風が吹き、大空の四方を撹拌する、天と地はともにゆるく感じている。
出来る限りの努力をしてしいかを作り歌う、そのことはあなたがここ去り別れてから慰めることになるだろう。


(訳注)#4
老懶無鬥心,久不事鉛槧。
老懶【ろうらん】 闘心無く、久しく鉛槧【えんぜん】を事とせず。
年老いて物憂いになったし闘争心はなくなったのではあるが、久しくことをなし、詩文に携わることをしてきたこれを止める気にはならない。
老懶 おこた(る)、ものう(い)、ものぐさ、なま(ける)、ものぐさ(い).○鉛槧 〔昔、中国で、槧(木の札)に鉛粉で文字を書いていたことから〕詩文を書くこと。文筆に携わること。操觚(そうこ)。


欲以金帛酬,舉室常顑頷。
金帛を以て酬いむと欲すれども、挙室 常に顑頷【かんがん】たり。
でもって、金銭と布帛の報酬を欲するというけれど、その居室を挙げて常に顔や顎に火が出るほどの恥と思っている。
金帛【きんぱく】金と絹。金銭と布帛(ふはく)。どちらも貨幣価値のあるもの。○  顔かたち • 顔から火がでる • 顔から血の気が引く • 顔がいい •○あご。


念當委我去,雪霜刻以憯。
念ふに当に我を委【す】てて去【ゆ】くべし、霜雪 刻にして以て憯【せん】たり。
こんなことにあたって思うことは、わたしはこの仕事をしかるべきひとに任せここを去ろうと思うのである。雪と霜の極寒に時を刻み以て憂えるのである。
【こく】1 きざむこと。彫りつけること。2 (「剋」とも書く)漏刻の漏壺(ろうこ)内の箭(や)に刻んである目盛り。旧暦の時間および時刻の単位。○ いたむ。うれえる。するどい。


獰飆攪空衢,天地與頓撼。
獰飆【どうひょう】 空衢【くうく】を攬【みだ】し、天地 与に 頓撼。
大風が吹き、大空の四方を撹拌する、天と地はともにゆるく感じている。
獰飆 【どうひょう】 大風○空衢 四方に通じる道。よつつじ。○頓撼 頓ぬかずく。たおれる。くるしむ。撼うらむ。うれえる。


勉率吐歌詩,慰女別後覽。」
勉め率いて歌詩を吐き、女【なんじ】が別後の覧を尉【なぐさ】めむ。
出来る限りの努力をしてしいかを作り歌う、そのことはあなたがここ去り別れてから慰めることになるだろう。



送無本師歸范陽(賈島初為浮屠,名無本)
無本於為文,身大不及膽。吾嘗示之難,勇往無不敢。
蛟龍弄角牙,造次欲手攬。眾鬼囚大幽,下覷襲玄窞。
天陽熙四海,注視首不頷。鯨鵬相摩窣,兩舉快一啖。
夫豈能必然,固已謝黯黮。狂詞肆滂葩,低昂見舒慘。
奸窮怪變得,往往造平澹。蜂蟬碎錦纈,綠池披菡萏。
芝英擢荒榛,孤翮起連菼。家住幽都遠,未識氣先感。
來尋吾何能,無殊嗜昌歜。始見洛陽春,桃枝綴紅糝。
遂來長安里,時卦轉習坎。老懶無鬥心,久不事鉛槧。
欲以金帛酬,舉室常顑頷。念當委我去,雪霜刻以憯。
獰飆攪空衢,天地與頓撼。勉率吐歌詩,慰女別後覽。