感春四首 其一(1) 韓退之(韓愈)詩<57>Ⅱ中唐詩357 紀頌之の漢詩ブログ1150

806年元和元年正月、南地の江陵には珍しく雪がどっさり降った。雪のふるなかに梅がさき、うぐいすが鳴いた。韓愈には、そのひとつびとつが、楽しく、うれしかった。うれしくなると詩ができた。『早春雪中聞鸎』(早春雪中に鷲を聞く)はそのひとつである。この詩には、いまにも都から、呼び戻されようとばかりに、そわそわしてしまって、それを鶯に言い訳しているようなところがみえる。
だが、待ちに待ったその便りは、杏の花のさくころになってもやって来ない。『杏花』『感春四首』(春に感ず四首)『憶昨行和張十一』(憶昨行張十一に和す)は、このころの作である。



83 感春四首 其一
我所思兮在何所,情多地遐兮遍處處。
東西南北皆欲往,千江隔兮萬山阻。
春風吹園雜花開,朝日照屋百鳥語。
三杯取醉不復論,一生長恨奈何許。
(春に感ず四首 其の一)
我が思ふ所 何所【いずこ】に在りや、情 多く 地遐【とお】くして處處【しょしょ】に偏【あまね】し
東西南北 皆 住かむと欲すれども、千江 隔たり 萬山【まんざん】阻【へだ】つ。
春風 園を吹いて 雜花 開き、朝日 屋【おく】を照して 百鳥【ひゃくちょう】語る。
三盃 酔を取りて 復た論ぜざれ、一生 長恨 奈【い】何【か】許【ばかり】ぞ と。


84  感春四首 其二
皇天平分成四時,春氣漫誕最可悲。
雜花妝林草蓋地,白日坐上傾天維。
蜂喧鳥咽留不得,紅萼萬片從風吹。
豈如秋霜雖慘冽,摧落老物誰惜之。
為此徑須沽酒飲,自外天地棄不疑。

(其の二)
皇天【こうてん】平分【へいぶん】して四時【しじ】と成す,春氣【しゅんき】漫誕【まんたん】として最も悲しむ可し。
雜花【ざつか】妝林【しょうりん】し 草は地を蓋【おお】う,白日【はくじつ】坐上【ざじょう】に 天維【てんい】を傾く。
蜂喧【かまびす】しく鳥咽【むせ】べども留め得ず,紅萼【こうがく】萬片【まんべん】風の吹くに從う。
豈 秋霜の如きは慘冽【さんれつ】と雖ども,老物を摧落【さいらく】する誰か之を惜まん。
此の為めに徑【ただ】ちに須【すべか】らく酒を沽【か】いて飲むべし,自ら天地を外にして 棄てて疑わず。

#2
近憐李杜無檢束,爛漫長醉多文辭。
屈原離騷二十五,不肯餔啜糟與醨。
惜哉此子巧言語,不到聖處寧非癡。
幸逢堯舜明四目,條理品彙皆得宜。
平明出門暮歸舍,酩酊馬上知為誰。

(其の二 #2)
近ごろ憐む李杜【りと】の檢束【けんそく】無くして,爛漫【らんまん】として長【とこしな】えに醉いて文辭【ぶんじ】多きを。
屈原 離騷 二十五,不肯【あ】えて糟【そう】と醨【り】を餔啜【ほせつ】せず。
惜しい哉 此の子 言語に巧【たくみ】なれども,聖處【せいしょ】に到らず寧【むし】ろ癡【さ】に非らざらんや。
幸【さいわい】に 堯舜【ぎょうしゅん】四目【しもく】を明かにするに逢い,品彙【ひんい】を條理【じょうり】して皆宜しきを得たり。
平明 出門して暮に歸舍し,馬上に酩酊【めいてい】することを知る誰とか為す。


85  感春四首 其三
朝騎一馬出,暝就一床臥。
詩書漸欲拋,節行久已惰。
冠欹感發禿,語誤驚齒墮。
孤負平生心,已矣知何奈。

其の三
朝に一馬を騎して出で,暝【くれ】に一床【いっしょう】に就【つ】きて臥す。
詩書【ししょ】漸【ようや】く拋【なげう】たんと欲す,節行【せつこう】久しく已に惰【おこた】れり。
冠 欹【そばだ】ちて 發【かみ】の禿【とく】なるを感ず,語 誤【あやま】ちて 齒の墮【おつ】るに。驚く。
孤負【こふ】す 平生の心,已【やんぬる】矣 知る何奈【いかん】せん。

86  感春四首 其四
我恨不如江頭人,長網橫江遮紫鱗。
獨宿荒陂射鳧雁,賣納租賦官不嗔。
歸來歡笑對妻子,衣食自給寧羞貧。
今者無端讀書史,智慧只足勞精神。

其の四
我は恨む 江頭【こうとう】の人に如かざることを,長網【ちょうもう】江に橫たへ 紫鱗【しりん】を遮【さえぎ】る。
獨り荒陂【こうは】に宿り鳧雁【ふがん】を射,賣りて租賦【そふ】を納めて 官 嗔【いか】らず。
歸り來りて 歡笑して妻子に對し,衣食は自給す 寧【なん】ぞ 貧を羞じむや。
今者【いま】端なくも書史を讀み,智慧【ちけい】は只 精神を勞するに足れり。
#2
畫蛇著足無處用,兩鬢霜白趨埃塵。
乾愁漫解坐自累,與眾異趣誰相親。
數杯澆腸雖暫醉,皎皎萬慮醒還新。
百年未滿不得死,且可勤買拋青春。
#2
蛇【へび】を畫【えが】いて足を著【つ】く 用うるに處 無し,兩鬢【りょうびん】霜白【しょうはく】埃塵【あいじん】に趨【はし】る。
乾愁【かんしゅう】漫【みだ】りに解し 坐【そぞろ】に自ら累【わずら】う,眾【しゅう】と趣を異にせば誰か相い親まん。
數杯 腸【はらわた】に澆【そそ】いで 暫く醉うと雖ども,皎皎【こうこう】たる萬慮【ばんりょ】醒めて還【ま】た新【あらた】なり。
百年 未だ滿たず 死するを得ず,且可【しばらく】勤めて拋【はう】青春【せいしゅん】を買【か】へ。




感春四首 其一
我所思兮在何所,情多地遐兮遍處處。
わたしがいつも心におもうところ、それはどこだというのか、人と長く接すれば情というもの多くの行ったところで育つものであり、それはあちらこちら、遙かな所に点在するのである。
東西南北皆欲往,千江隔兮萬山阻。
東西南北、どこへでも行きたいと思っている。黄河、長江、淮河、あまたある河川に隔てられている、それはあまたの山々によって阻まれているのだ。
春風吹園雜花開,朝日照屋百鳥語。
今も吹いてくる東風、春の風はこの庭に吹き多くの花を咲かせ木々や草を成長させる。朝日はこの建物を照らし あらゆる鳥たちが囀り始めるのである。
三杯取醉不復論,一生長恨奈何許。
いっぱい飲む度、愚痴を言い、三杯も盃を傾けるころには酔いどれてしまい、もう論理が成り立たない。人生にとって理不尽な事への裏には長く続くものであり、これをどうしたらよいというのか。 

(春に感ず四首 其の一)
我が思ふ所 何所【いずこ】に在りや、情 多く 地遐【とお】くして處處【しょしょ】に偏【あまね】し。
東西南北 皆 住かむと欲すれども、千江 隔たり 萬山【まんざん】阻【へだ】つ。
春風 園を吹いて 雜花 開き、朝日 屋【おく】を照して 百鳥【ひゃくちょう】語る。
三盃 酔を取りて 復た論ぜざれ、一生 長恨 奈【い】何【か】許【ばかり】ぞ と。



現代語訳と訳註
(本文)

感春四首 其一
我所思兮在何所,情多地遐兮遍處處。
東西南北皆欲往,千江隔兮萬山阻。
春風吹園雜花開,朝日照屋百鳥語。
三杯取醉不復論,一生長恨奈何許。


(下し文)
(春に感ず四首 其の一)
我が思ふ所 何所【いずこ】に在りや、情 多く 地遐【とお】くして處處【しょしょ】に偏【あまね】し
東西南北 皆 住かむと欲すれども、千江 隔たり 萬山【まんざん】阻【へだ】つ。
春風 園を吹いて 雜花 開き、朝日 屋【おく】を照して 百鳥【ひゃくちょう】語る。
三盃 酔を取りて 復た論ぜざれ、一生 長恨 奈【い】何【か】許【ばかり】ぞ と。

(現代語訳)
わたしがいつも心におもうところ、それはどこだというのか、人と長く接すれば情というもの多くの行ったところで育つものであり、それはあちらこちら、遙かな所に点在するのである。
東西南北、どこへでも行きたいと思っている。黄河、長江、淮河、あまたある河川に隔てられている、それはあまたの山々によって阻まれているのだ。
今も吹いてくる東風、春の風はこの庭に吹き多くの花を咲かせ木々や草を成長させる。朝日はこの建物を照らし あらゆる鳥たちが囀り始めるのである。


(訳注)
感春四首 其一

・感春四首 底本巻三。杏花と同じころの作。


我所思兮在何所,情多地遐兮遍處處。
わたしがいつも心におもうところ、それはどこだというのか、人と長く接すれば情というもの多くの行ったところで育つものであり、それはあちらこちら、遙かな所に点在するのである。
所思 思う対象。・兮 韻文の語句の中間につけて意気のあがる勢いを示すまたは末尾につけて一時語勢をとどめ調える。訓読では読まない。詩経、史記、老子など古い詩には多く出る。韓愈は復古主義であるから多く使う。
情多地遐兮編処処 人生のこと、詩文のこと、どこでもぎろんをたたk愛すべきひとはたくさんいる、ただ遠いところにいるだけなのだ。遠いところになら、あちらにも、こちらにも、いっぱいいる。


東西南北皆欲往,千江隔兮萬山阻。
東西南北、どこへでも行きたいと思っている。黄河、長江、淮河、あまたある河川に隔てられている、それはあまたの山々によって阻まれているのだ。


春風吹園雜花開,朝日照屋百鳥語
今も吹いてくる東風、春の風はこの庭に吹き多くの花を咲かせ木々や草を成長させる。朝日はこの建物を照らし あらゆる鳥たちが囀り始めるのである。
春風吹園雜花開 都から朗報をさびしく待つ、孤独なわたしにはかかわりなく、春風は園に吹き、さまざまの花がさきみだれ、万物を成長させるが、私はここで埋もれてしまうのか、 という程度の意味。


三杯取醉不復論,一生長恨奈何許。
いっぱい飲む度、愚痴を言い、三杯も盃を傾けるころには酔いどれてしまい、もう論理が成り立たない。人生にとって理不尽な事への裏には長く続くものであり、これをどうしたらよいというのか。 
三杯取酔不復諭、一生長恨奈何許。 酒を呑む度に理不尽な罪を着せられ、永嘉に流され、恩赦で罪を説かれたとしても元の地位さえつけてくれない。こうした怨み、長恨を酒を傾けるごとに長々と論じている。三杯の酒は酔うほどにわからなくなり、同じことの繰り返しであったり、論理が、滅裂になったりする。この自分の人生どうしたらいいのか、隠遁したら、自分の意見を、仲間と戦わしてきた正論を進めることはできない。このジレンマどうにかしてくれ。同時期に作った韓愈『早春雪中聞鸎』(早春雪中に鶯を聞く)と詩の内容は同じである。
朝鸎雪裏新,雪樹眼前春。
帶澀先迎氣,侵寒已報人。
共矜初聽早,誰貴後聞頻。
暫囀那成曲,孤鳴豈及辰。
風霜徒自保,桃李詎相親。
寄謝幽棲友,辛勤不為身。