薦士 韓退之(韓愈)詩<62-#4>Ⅱ中唐詩371 紀頌之の漢詩ブログ1192



薦士(薦孟郊于鄭餘慶也) #1
周詩三百篇,雅麗理訓誥。
『詩経』は三百篇の詩からなり、風雅にして麗わしく、聖天子の教えの道・理を保持している。
曾經聖人手,議論安敢到。
それは一度聖人の手による編纂を経ているので(長い間『詩経』は孔子が編集してものと伝えられてきた)、したがって、軽々に議論できるような安易なものでは到底ない。
五言出漢時,蘇李首更號。
五言詩は漢代から現われ、蘇武・李陵が新しい創始者となった。
東都漸瀰漫,派別百川導。
後漢ではしだいにひろまり、流派が多く分かれてそれぞれに系統を作った。
建安能者七,卓犖變風操。 
建安で詩をよくする者が七人いたが、彼らは人よりすぐれた才能によって、『詩経』や「琴操」の詩風を一変させた。
#1
周詩 三百篇、雅麗 訓誥【くんこう】を理【おさ】む。
曾て聖人の手を経たれば、議論 安【いず】くんぞ敢て到らん。
五言は漢時より出で、蘇・李 首【はじ】めて号を更【あらた】む。
東都 漸【ようや】く瀰漫【びまん】し、派別して百川導かる。
建安の能くする者 七。卓犖【たくらく】として風操を変ず。

#2
逶迤抵晉宋,氣象日凋耗。
それからも詩の流れはずるずると晋・宋まで続き、性格は日ましに衰えていった。
中間數鮑謝,比近最清奧。
そのあいだでは鮑照・謝霊運・謝誂が挙げられ、おくれて出た詩人たちにくらべればとりわけ清新で奥深いものをもっている。
齊梁及陳隋,眾作等蟬噪。
しかし斉・宋から陳・隋となれば、多くの詩は作られているが蝉の鳴くのにひとしく、ただやかましいだけだ。
搜春摘花卉,沿襲傷剽盜。
六朝からの詩は春の息吹を搜して花を摘みとるように、美しい言葉ばかりを求めたあげく、続々と同じ表現が続いて剽窃という欠陥さえ見られ、妖艶、華美なものが文学に傷をつけた。
朝盛文章,子昂始高蹈。
わが唐王朝では中國の歴史上最高に文学が栄え、初唐、陳子昂は始めて六朝の華美秀麗の詩風を一変し、高らかな第一歩を踏み出したのだ。
#2
逶迤【いい】として晋・宋に抵【いた】り。気象 日に凋耗【ちょうこう】す。
中間 鮑・謝【ほうしゃ】を数う、近に比すれば最も清奥【せいおう】なり。
斉・梁【せいりょう】と陳・隋【ちんずい】と、衆作 蝉噪【ぜんそう】に等し。
春を捜【さぐ】って花舟を摘み、沿襲【えんしゅう】して剽盗【ひょうとう】に傷つく。
国朝 文章盛んなり、子昂【すこう】 始めて高踏す。


#3
勃興得李杜,萬類困陵暴。
詩風はさらに興起して李白・杜甫が現われ、おおよそ詩文に関するあらゆる表現をしつくされてしまった。
後來相繼生,亦各臻閫奧。
それからは後を継ぐ詩人たちが続々と生まれたが、それぞれに李白・杜甫の詩文学の奥義までとどく詩(李白・杜甫の詩の、少なくとも一面は正しく継承した詩)を作った。
有窮者孟郊,受材實雄驁。
そのなかに儒者で文学一圖で困窮してはいるが孟郊というものがあるが、この人は勇壮な名馬のようでまことにすぐれた才能をもっている。
冥觀洞古今,象外逐幽好。
暗くて見えないところを見る洞察力は古今を貫通し、現実の世界を超越したところの奥深い美を発見する力を備えているのだ。
#3
勃興して李・杜を得たり、万類 陵暴【りょうぼう】に困しむ。
後来 相継ぎて生じ、亦各【おのお】の閫奧【こんおく】に臻【いた】る。
窮せる者に孟郊有り、材を受くること実に雄驁【ゆうごう】なり。
冥観【めいかん】古今を洞【つらぬ】き、象外 幽好【ゆうこう】を逐う。
#4
橫空盤硬語,妥帖力排奡。
天空に横たわるほど硬質な言葉を自在にあやつり並べ立てる、穏やかに見える表現でも筆力は扉、古代神話に出てくるカ持ちをもしのぐほどだ。
敷柔肆紆餘,奮猛卷海潦。
柔軟な表現では紆餘曲折をつくし、ふるい立ったところでは海の水をも巻き上げるほどの力を出す。
榮華肖天秀,捷疾逾響報。
つややかな言葉は天然に咲き出た花のよう、詩を作る速さはこだまの聞こえてくるにもまさる。
行身踐規矩,甘辱恥媚灶。

また彼の行動にはきちんとした規則正しくされており、権力者のごぎげんをとるのは恥とし、低い地位に甘んじている。
#4
空に横たわって硬語【こうご】を盤まらしめ、妥帖【だちょう】して力 孫を排す。
敷柔【ふじゅう】紆余【うよ】を肆【ほしい】ままにし、奮猛【ふんもう】海潦【かいりょう】を巻く。
栄華は天秀に肖【に】たり、捷疾【かいりょう】は響報【きょうほう】に逾【こ】ゆ。
身を行なうこと規矩【きく】を践み、辱しめに甘んじて竃に媚【こ】ぶるを恥ず。


#5
孟軻分邪正,眸子看了眊。杳然粹而清,可以鎮浮躁,
酸寒溧陽尉,五十幾何耄。孜孜營甘旨,辛苦久所冒。
#5
孟軻【もうか】は邪正を分かち、眸子【ぼうし】了眊【りょうもう】を看る。
杳然【ようぜん】として粋にして清し、以て浮躁【ふそう】を鎮【しず】む可し。
酸寒【さんかん】たり溧陽【りつよう】の尉、五十 幾何【いくばく】か耄【ぼう】せる。
孜孜【しし】として甘旨【かんし】を営み、辛苦【しんく】久しく冒す所。


#6
俗流知者誰,指注競嘲傲。聖皇索遺逸,髦士日登造。
廟堂有賢相,愛遇均覆燾。況承歸與張,二公迭嗟悼。
青冥送吹噓,強箭射魯縞。
#6
俗流 知る者は誰ぞ、指注して競って嘲傲【ちょうごう】す。
聖皇 遺逸を索【もと】め、髦士【ぼうし】 日に登造す。
廟堂【びょうどう】に賢相有り、愛遇【あいぐう】覆燾【ふとう】に均し。
況んや帰と張と、二公迭【たが】いに嵯悼【さとう】するを承【う】くるをや。
青冥に吹嘘【すいきょ】を送り、強箭【きょうせん】魯縞【ろこう】を射る。

#7
胡為久無成,使以歸期告。霜風破佳菊,嘉節迫吹帽。
念將決焉去,感物增戀嫪。彼微水中荇,尚煩左右芼。
魯侯國至小,廟鼎猶納郜。

胡【なん】為れぞ久しく成る無くして、帰期【きき】を以て告げしむる。
霜風 佳菊【かきく】を破り、嘉節【かせつ】吹帽に迫る。
将に決焉【けつぇん】として去らんとするを念えば、物に感じて恋謬【れんびゅう】を増す。
彼の微なる水中の抒も、尚左右の尾るを煩わす。
魯侯は国 至って小なるも、廟鼎【びょうてい】猶郜【こく】より納る。

#8
幸當擇瑉玉,寧有棄珪瑁。悠悠我之思,擾擾風中纛。
上言愧無路,日夜惟心禱。鶴翎不天生,變化在啄菢。
#8
幸いに瑉玉【みんぎょく】を択ぶに当たり、寧くんぞ珪瑁【けいぼう】を棄つること有らんや。
悠悠たり 我の思い、擾擾【じょうじょう】たり 風中の纛【はた】。
上言【じょうごん】路無きを愧じ、日夜 惟だ心に蒔るのみ。
鶴翎【かくれい】天生ぜず、変化 啄菢【たくほう】に在り。

#9
通波非難圖,尺地易可漕。善善不汲汲,後時徒悔懊。
救死具八珍,不如一簞犒。微詩公勿誚,愷悌神所勞。
通波 図り難きに非ず、尺地 漕ぐ可きこと易し。
善を善として汲汲たらずんば、後時 徒らに悔懊【かいおう】せん。
死を救うに八珍を具【そな】うるは、一箪【いったん】の犒に如かず。
微詩【びし】云 誚【そし】る勿かれ、愷悌【がいてい】は神の労【ねぎら】う所なり。



現代語訳と訳註
(本文)
#4
橫空盤硬語,妥帖力排奡。敷柔肆紆餘,奮猛卷海潦。
榮華肖天秀,捷疾逾響報。行身踐規矩,甘辱恥媚灶。


(下し文) #4
空に横たわって硬語【こうご】を盤まらしめ、妥帖【だちょう】して力 奡を排す。
敷柔【ふじゅう】紆余【うよ】を肆【ほしい】ままにし、奮猛【ふんもう】海潦【かいりょう】を巻く。
栄華は天秀に肖【に】たり、捷疾【かいりょう】は響報【きょうほう】に逾【こ】ゆ。
身を行なうこと規矩【きく】を践み、辱しめに甘んじて竃に媚【こ】ぶるを恥ず。


(現代語訳)
天空に横たわるほど硬質な言葉を自在にあやつり並べ立てる、穏やかに見える表現でも筆力は扉、古代神話に出てくるカ持ちをもしのぐほどだ。
柔軟な表現では紆餘曲折をつくし、ふるい立ったところでは海の水をも巻き上げるほどの力を出す。
つややかな言葉は天然に咲き出た花のよう、詩を作る速さはこだまの聞こえてくるにもまさる。
また彼の行動にはきちんとした規則正しくされており、権力者のごぎげんをとるのは恥とし、低い地位に甘んじている。


(訳注) #4
橫空盤硬語,妥帖力排奡。

天空に横たわるほど硬質な言葉を自在にあやつり並べ立てる、穏やかに見える表現でも筆力は扉、古代神話に出てくるカ持ちをもしのぐほどだ。
 1 表面の平らな台。碁盤や将棋盤などに駒を並べる2食物を盛る平たい円形の器。皿。鉢。3 食器などをのせる台。・硬語 硬質な言葉。華麗・妖艶な言葉・妥帖 適切な,ぴったりした。は、今は使わない漢字、陸上で船を動かすほどの力の持ち主。暴力的人物。羿と奡は暴力的人物、禹は道徳的諸侯、弓は出来ない。船を押す力もない。天下の庶民を理解するやさしさを自らに課して天下を有(たも)った。孔子からみれば代表的な儒家。
 

敷柔肆紆餘,奮猛卷海潦。
柔軟な表現では紆餘曲折をつくし、ふるい立ったところでは海の水をも巻き上げるほどの力を出す。
敷柔 柔軟な表現。・紆餘 1 うねり曲がっていること。 2 伸び伸びとしてゆとりのあること。・海潦 雨が降って、地上にたまり流れる水。「はなはだも降らぬ雨故―いたくな行きそ人の知るべく」〈万・一三七〇〉 [枕]地上にたまった水が流れるようすから、「流る」「すまぬ」「行方しらぬ」にかかる。


榮華肖天秀,捷疾逾響報。
つややかな言葉は天然に咲き出た花のよう、詩を作る速さはこだまの聞こえてくるにもまさる。
・榮華 つややかな言葉。・天秀 天然に咲き出た花。・捷疾 詩を作る速さ。・響報 こだま。


行身踐規矩,甘辱恥媚灶。
また彼の行動にはきちんとした規則正しくされており、権力者のごぎげんをとるのは恥とし、低い地位に甘んじている。
規矩 行動にきちんとしたきまりがあること。