南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#3>Ⅱ中唐詩379 紀頌之の漢詩ブログ1216


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20

 第一部(#1~#4)・終南山連峰の概要・四季

#1 
吾聞京城南,茲惟群山囿。
わたしは聞いていた都長安城の南にあり、そこにこそ古代から修業の場として集う所である。
東西兩際海,巨細難悉究。
山も川も東西に連なっており、地の際、海にまで続き、大いなる山小さき山とことごとく調べ尽くすのはむずかしいこと。
山經及地志,茫昧非受授。
山経と地志とがあっても、とりとめなくてよくわからないので直接に伝授されるというものではない。
團辭試提挈,掛一念萬漏。
その地に伝わる言葉を取り集め試みに取り上げようとすれば、一つだけがとりあげられてその他の多くが漏れてしまうのではないかと気づかわしいとおもう。
欲休諒不能,粗叙所經覯。
だがやめようとしてもどうしてもやめられないもので、そこでわたしがこの目で見たところをあらまし書きつらねてみることにする。

南山の詩 #1
吾れ聞く 京城の南、茲【こ】こは維れ群山の囿【ゆう】なりと。
東西 両つながら海に際【まじ】わり
巨細【きょさい】悉【ことごと】くは究【きわ】め難し。
山經【さんきょう】及び地志【ちし】、茫昧【ぼうまい】として受授【じゅじゅ】するに非ず。
團辭【だんじ】して試みに提挈【ていけつ】せんとすれば,一を掛けて萬を漏らさんことを念う。
休めなんと欲すれば諒【まこと】に能【あたわ】ず,粗【ほ】ぼ經覯【へみ】し所を叙【つい】でん。

#2
嚐升崇丘望,戢戢見相湊。
かつて太白山ほどの高い丘にのぼって見渡したことがあった、この山に向かって山々が集まってきて、その上がかさなりあっているのだ。
晴明出棱角,縷脈碎分繡。
からりと晴れて山の稜線が際立ててつらなる、いと筋のように尾根がちりぢりの刺繍のような模様をなしている。
蒸嵐相澒洞,表里忽通透。
晴れの日の陽炎のわき上がる山のすんだ気がまじりあっている、そこに表側と裏側を山気がつきぬける。
無風自飄簸,融液煦柔茂。
風もないのにおのずと巻きあげられ、とけたあとのぬくもりが草木をうるおすのである。
横雲時平凝,點點露數岫。
空高く横長の雲が時に一文字となってたなびき、点点とその上に峰々がつき出ている
嘗つて昇りて崇丘【すうきゅう】に望まん、戢戢【しゅうしゅう】として相い湊【あつ】まるを見る。
晴明なるときに稜角【りょうかく】を出だせば、縷脈【りょうみゃく】砕けて繍を分かてり。
蒸嵐【じょうらん】相い鴻洞【こうどう】として、表裏【ひょうり】忽ち通透【つうとう】す。
風無けれども自のずから瓢簸【ひょうは】し、融液【ゆうえき】して 煦【あたた】めて 柔 茂【も】す。
横雲 時に平凝【へいぎょう】して,點點【てんてん】露數岫【すうしゅう】を【あら】わす。

#3  
天空浮修眉,濃綠畫新就。
高い空の下に広がる長い画き眉が浮かぶ、こいみどりに引かれたばかりのようである。
孤撑有巉絕,海浴褰鵬噣。
斜の支え柱のような一本柱がきり立っている、世のはてにある海に湯浴みする鵬がくちばしをあげているのだ。
春陽潛沮洳,濯濯吐深秀。
春の陽気がそのなかに潜めていた物を潤し始める、つやつやと新芽がおく深いところから目立ってつき出ている。
岩巒雖嵂崒,軟弱類含酎。
とんがった岩の峰は高くてけわしいものとはいうものの、その裾をつつむのはやわらかな緑で、山の中腹が微酔をおび、うっとりとした気持ちがあふれている。
夏炎百木盛,蔭鬱增埋覆。
夏のやけつく暑さがいろいろの木立の茂りに遭う、そこではこんもりしてますます覆い隠される。

天空 修眉【しゅうび】を浮かべ,濃綠【のうりょく】画がいて新たに就る。
孤撑【ことう】して巉絕【ざんぜつ】たること有るは,海に浴して鵬の噣【くちさき】を褰【あ】ぐ。
春陽 潛かに沮洳【しょじょ】たるとき,濯濯【たくたく】として深秀を吐く。
岩巒【がんらん】嵂崒【りつしゅ】たりと雖も,軟弱なること酎を含めるに類せり。
夏炎 百木【ひゃくぼく】盛んなるときは、蔭鬱【いんうつ】として増すます埋覆【まいふう】す。
#4
神靈日歊歔,雲氣爭結構。
秋霜喜刻轢,磔卓立臒瘦。
參差相叠重,剛耿陵宇宙。
冬行雖幽墨,冰雪工琢鏤。
新曦照危峨,億丈恒高袤。


現代語訳と訳註
(本文)
#3  
天空浮修眉,濃綠畫新就。
孤撑有巉絕,海浴褰鵬噣。
春陽潛沮洳,濯濯吐深秀。
岩巒雖嵂崒,軟弱類含酎。
夏炎百木盛,蔭鬱增埋覆。


(下し文)#3  
天空 修眉【しゅうび】を浮かべ,濃綠【のうりょく】画がいて新たに就る。
孤撑【ことう】して巉絕【ざんぜつ】たること有るは,海に浴して鵬の噣【くちさき】を褰【あ】ぐ。
春陽 潛かに沮洳【しょじょ】たるとき,濯濯【たくたく】として深秀を吐く。
岩巒【がんらん】嵂崒【りつしゅ】たりと雖も,軟弱なること酎を含めるに類せり。
夏炎 百木【ひゃくぼく】盛んなるときは、蔭鬱【いんうつ】として増すます埋覆【まいふう】す。


(現代語訳)
高い空の下に広がる長い画き眉が浮かぶ、こいみどりに引かれたばかりのようである。
斜の支え柱のような一本柱がきり立っている、世のはてにある海に湯浴みする鵬がくちばしをあげているのだ。
春の陽気がそのなかに潜めていた物を潤し始める、つやつやと新芽がおく深いところから目立ってつき出ている。
とんがった岩の峰は高くてけわしいものとはいうものの、その裾をつつむのはやわらかな緑で、山の中腹が微酔をおび、うっとりとした気持ちがあふれている。
夏のやけつく暑さがいろいろの木立の茂りに遭う、そこではこんもりしてますます覆い隠される。


(訳注)#3  
天空浮修眉,濃綠畫新就。
高い空の下に広がる長い画き眉が浮かぶ、こいみどりに引かれたばかりのようである。
修眉 咲は、長い。女性の化粧の一つである長い眉を画がくこと、ここは遠くから見た山のすがたをいう。○新就 えがきあげたばかりである。就は、でき上がること。


孤撑有巉絕,海浴褰鵬噣。
斜の支え柱のような一本柱がきり立っている、世のはてにある海に湯浴みする鵬がくちばしをあげているのだ。
孤撑 撑は、斜に入れる支え柱。孤撑は、ひとつの峰だけが他とはなれて斜につっ立っていること。○巉絶 山が切り立っている形容。○褰 もちあげる。○鵬噣 噣は、「荘子」逍逢游篇に出て来る寓話上の巨大な鳥で、その背は何千里あるか分からないほどであり、北海に住み、南海に移動することがある・(「北極李観に贈る」詩、北極贈李觀 
北極有羈羽,南溟有沉鱗。川原浩浩隔,影響兩無因。
風雲一朝會,變化成一身。誰言道裏遠,感激疾如神。
我年二十五,求友昧其人。哀歌西京市,乃與夫子親。
所尚茍同趨,賢愚豈異倫。方為金石姿,萬世無緇磷。
無為兒女態,憔悴悲賤貧。
『荘子、逍逢游篇』「北凕有魚焉,其廣數千里,未有知其修者,其名爲鯤。有鳥焉,其名爲鵬,背若泰山,翼若垂天之雲;摶扶摇羊角而上者九萬里,絶雲氣,負青天,然後圖南,且適南冥也。去以六月息者也。且夫水之積也不厚,(讀若“户”)則其負大舟也無力。」
ここから「海浴」ということばがみちびかれる。櫛ぞ島のくちぱし。


春陽潛沮洳,濯濯吐深秀。
春の陽気がそのなかに潜めていた物を潤し始める、つやつやと新芽がおく深いところから目立ってつき出ている。
春陽 生物を育てる春の陽気。春を青陽というように、陽は、春の性質とされる。以下ここから一季節四句で、南山の四季の移り変わりを述べている。○沮洳 じめじめしたさま。ものをうるおすさま。○濯濯 つやつやしているさま。○深秀 おく深くめばえているさま。秀は、他よりくらべて目立ってつき出ているさま。ここは草木の芽生え始めを描写している。


岩巒雖嵂崒,軟弱類含酎。
とんがった岩の峰は高くてけわしいものとはいうものの、その裾をつつむのはやわらかな緑で、山の中腹が微酔をおび、うっとりとした気持ちがあふれている。
巌巒 巒は、けわしい小山。巌巒で、とんがった岩の峰をいう。○嵂崒 高くてけわしい形容。○軟弱 やわらかくてよわよわしい。○含酎 酎は、よくかもされたこい酒の雰囲気を持ち、酎を含むとは、山の中腹が微酔をおび、うっとりとした気持ちがあふれていることをいうのである。


夏炎百木盛,蔭鬱增埋覆。
夏のやけつく暑さがいろいろの木立の茂りに遭う、そこではこんもりしてますます覆い隠される。
夏炎 夏のやけつく暑さ。夏は、五行思想で赤、南、火星、火であり、その司る帝は、炎帝である。○百木 いろいろの木。○蔭鬱 こんもりしているさま・○埋覆 覆は、おおうこと。