南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#4>Ⅱ中唐詩380 紀頌之の漢詩ブログ1219


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部(#1~#4)・終南山連峰の概要・四季


#1
吾聞京城南,茲惟群山囿。
わたしは聞いていた都長安城の南にあり、そこにこそ古代から修業の場として集う所である。
東西兩際海,巨細難悉究。
山も川も東西に連なっており、地の際、海にまで続き、大いなる山小さき山とことごとく調べ尽くすのはむずかしいこと。
山經及地志,茫昧非受授。
山経と地志とがあっても、とりとめなくてよくわからないので直接に伝授されるというものではない。
團辭試提挈,掛一念萬漏。
その地に伝わる言葉を取り集め試みに取り上げようとすれば、一つだけがとりあげられてその他の多くが漏れてしまうのではないかと気づかわしいとおもう。
欲休諒不能,粗叙所經覯。
だがやめようとしてもどうしてもやめられないもので、そこでわたしがこの目で見たところをあらまし書きつらねてみることにする。

南山の詩 #1
吾れ聞く 京城の南、茲【こ】こは維れ群山の囿【ゆう】なりと。
東西 両つながら海に際【まじ】わり
巨細【きょさい】悉【ことごと】くは究【きわ】め難し。
山經【さんきょう】及び地志【ちし】、茫昧【ぼうまい】として受授【じゅじゅ】するに非ず。
團辭【だんじ】して試みに提挈【ていけつ】せんとすれば,一を掛けて萬を漏らさんことを念う。
休めなんと欲すれば諒【まこと】に能【あたわ】ず,粗【ほ】ぼ經覯【へみ】し所を叙【つい】でん。

#2
嚐升崇丘望,戢戢見相湊。
かつて太白山ほどの高い丘にのぼって見渡したことがあった、この山に向かって山々が集まってきて、その上がかさなりあっているのだ。
晴明出棱角,縷脈碎分繡。
からりと晴れて山の稜線が際立ててつらなる、いと筋のように尾根がちりぢりの刺繍のような模様をなしている。
蒸嵐相澒洞,表里忽通透。
晴れの日の陽炎のわき上がる山のすんだ気がまじりあっている、そこに表側と裏側を山気がつきぬける。
無風自飄簸,融液煦柔茂。
風もないのにおのずと巻きあげられ、とけたあとのぬくもりが草木をうるおすのである。
横雲時平凝,點點露數岫。
空高く横長の雲が時に一文字となってたなびき、点点とその上に峰々がつき出ている
嘗つて昇りて崇丘【すうきゅう】に望まん、戢戢【しゅうしゅう】として相い湊【あつ】まるを見る。
晴明なるときに稜角【りょうかく】を出だせば、縷脈【りょうみゃく】砕けて繍を分かてり。
蒸嵐【じょうらん】相い鴻洞【こうどう】として、表裏【ひょうり】忽ち通透【つうとう】す。
風無けれども自のずから瓢簸【ひょうは】し、融液【ゆうえき】して 煦【あたた】めて 柔 茂【も】す。
横雲 時に平凝【へいぎょう】して,點點【てんてん】露數岫【すうしゅう】を【あら】わす。

#3  
天空浮修眉,濃綠畫新就。
高い空の下に広がる長い画き眉が浮かぶ、こいみどりに引かれたばかりのようである。
孤撑有巉絕,海浴褰鵬噣。
斜の支え柱のような一本柱がきり立っている、世のはてにある海に湯浴みする鵬がくちばしをあげているのだ。
春陽潛沮洳,濯濯吐深秀。
春の陽気がそのなかに潜めていた物を潤し始める、つやつやと新芽がおく深いところから目立ってつき出ている。
岩巒雖嵂崒,軟弱類含酎。
とんがった岩の峰は高くてけわしいものとはいうものの、その裾をつつむのはやわらかな緑で、山の中腹が微酔をおび、うっとりとした気持ちがあふれている。
夏炎百木盛,蔭鬱增埋覆。
夏のやけつく暑さがいろいろの木立の茂りに遭う、そこではこんもりしてますます覆い隠される。
天空 修眉【しゅうび】を浮かべ,濃綠【のうりょく】画がいて新たに就る。
孤撑【ことう】して巉絕【ざんぜつ】たること有るは,海に浴して鵬の噣【くちさき】を褰【あ】ぐ。
春陽 潛かに沮洳【しょじょ】たるとき,濯濯【たくたく】として深秀を吐く。
岩巒【がんらん】嵂崒【りつしゅ】たりと雖も,軟弱なること酎を含めるに類せり。
夏炎 百木【ひゃくぼく】盛んなるときは、蔭鬱【いんうつ】として増すます埋覆【まいふう】す。
#4
神靈日歊歔,雲氣爭結構。
山の守り神は日日、山の持っている生命力といえる息吹をあげ、湧き上がる雲気がさまざまに造型をくみたてる。
秋霜喜刻轢,磔卓立臒瘦。
秋になり露霜が万物を傷める季節になると、草木は枯れて山だけがつっ立ちやせて骨だけになる。
參差相叠重,剛耿陵宇宙。
長短不ぞろいのままでそれぞれ重なり合いつつ、儒教者の気概のようなきびしさで宇宙にむかって聳え立つのである。
冬行雖幽墨,冰雪工琢鏤。
冬の季節はくろい墨色だけれども、氷と雪がたくみに白玉の細工をして飾ってくれる。
新曦照危峨,億丈恒高袤。

清廉な時、出たばかりの朝日がけわしい崖を照らす、霊賢な光のひろがりはいつも億丈にまで行きわたる。
神靈 日びに歊歔【きょうきょ】し,雲氣 爭って結構【けっこう】す。
秋霜 刻轢【こくれき】を喜【この】むときは,磔卓【たくたく】として立って臒【や】せ瘦【や】せたり。
參差【しんし】として相い叠重【じょうちょう】し,剛耿【ごうこう】として宇宙を陵ぐ。
冬行【とうこう】幽墨【ゆうぼく】なりと雖も,冰雪【ひゃうせつ】工【たく】みに琢鏤【たくろう】す。
新曦【しんぎ】危峨【きが】たるを照らせば,億丈【おくじょう】恒【つね】に高袤【こうぼう】。



現代語訳と訳註
(本文)
#4
神靈日歊歔,雲氣爭結構。
秋霜喜刻轢,磔卓立臒瘦。
參差相叠重,剛耿陵宇宙。
冬行雖幽墨,冰雪工琢鏤。
新曦照危峨,億丈恒高袤。


(下し文)#4
神靈 日びに歊歔【きょうきょ】し,雲氣 爭って結構【けっこう】す。
秋霜 刻轢【こくれき】を喜【この】むときは,磔卓【たくたく】として立って臒【や】せ瘦【や】せたり。
參差【しんし】として相い叠重【じょうちょう】し,剛耿【ごうこう】として宇宙を陵ぐ。
冬行【とうこう】幽墨【ゆうぼく】なりと雖も,冰雪【ひゃうせつ】工【たく】みに琢鏤【たくろう】す。
新曦【しんぎ】危峨【きが】たるを照らせば,億丈【おくじょう】恒【つね】に高袤【こうぼう】。


(現代語訳)
山の守り神は日日、山の持っている生命力といえる息吹をあげ、湧き上がる雲気がさまざまに造型をくみたてる。
秋になり露霜が万物を傷める季節になると、草木は枯れて山だけがつっ立ちやせて骨だけになる。
長短不ぞろいのままでそれぞれ重なり合いつつ、儒教者の気概のようなきびしさで宇宙にむかって聳え立つのである。
冬の季節はくろい墨色だけれども、氷と雪がたくみに白玉の細工をして飾ってくれる。
清廉な時、出たばかりの朝日がけわしい崖を照らす、霊賢な光のひろがりはいつも億丈にまで行きわたる。


(訳注)#4
神靈日歊歔,雲氣爭結構。

山の守り神は日日、山の持っている生命力といえる息吹をあげ、湧き上がる雲気がさまざまに造型をくみたてる。
日歊歔 は、日日に・歊歔は、山の持っている生命力といえる気を上にふきあげるさま。その気が吐き上げられて雲氣となる。○争結構 競争でいろいろの造型をおこなう。桔構は、くみたてる。


秋霜喜刻轢,磔卓立臒瘦。
秋になり露霜が万物を傷める季節になると、草木は枯れて山だけがつっ立ちやせて骨だけになる。
刻轢いためつけること。○磔卓 草木が闌れて山だけがつっ立っている形容。○臒瘦 臒も瘦も、やせていること。


參差相叠重,剛耿陵宇宙。
長短不ぞろいのままでそれぞれ重なり合いつつ、儒教者の気概のようなきびしさで宇宙にむかって聳え立つのである。
参差 長短不そろいのさま。○剛耿 しっかりとして人とたやすく妥協しない儒教者の気概をいう。・ 明るい,まばゆい.気概がある,公正な.誠実な,忠実な忠心。忠義に篤い.気掛かりな,○ 下に見くだす。○宇宙 四次元世界。宇は、空間系であり、宙は、時間系である。


冬行雖幽墨,冰雪工琢鏤。
冬の季節はくろい墨色だけれども、氷と雪がたくみに白玉の細工をして飾ってくれる。
冬行 冬の季節。行は、運行、めぐひあわせということであろう。○幽墨 幽はくらい、墨はすみ。冬は、五行思想で玄(黒)、北、重陽、辰星(水星)で、水であり、黒色に相当する。○琢鏤 は、玉に細工する。は、彫刻する。


新曦照危峨,億丈恒高袤。
清廉な時、出たばかりの朝日がけわしい崖を照らす、霊賢な光のひろがりはいつも億丈にまで行きわたる。
新曦 曦は、日のひかり。新曦では、清廉な時、出たばかりの朝日。○危峨 山のけわしい形容。○億丈恒高洸 高袤は、高さとひろさ。ここは、「高袤恒に億丈」という意で、いつも億丈の高さとひろさとを、朝日が照らすということであろう。
丈は約3m。「広」は東西の、「袤」は南北の長さの意》幅と長さ。広さ。面積。


#4
神靈日歊歔,雲氣爭結構。
秋霜喜刻轢,磔卓立臒瘦。
參差相叠重,剛耿陵宇宙。
冬行雖幽墨,冰雪工琢鏤。
新曦照危峨,億丈恒高袤。

神靈 日びに歊歔【きょうきょ】し,雲氣 爭って結構【けっこう】す。
秋霜 刻轢【こくれき】を喜【この】むときは,磔卓【たくたく】として立って臒【や】せ瘦【や】せたり。
參差【しんし】として相い叠重【じょうちょう】し,剛耿【ごうこう】として宇宙を陵ぐ。
冬行【とうこう】幽墨【ゆうぼく】なりと雖も,冰雪【ひゃうせつ】工【たく】みに琢鏤【たくろう】す。
新曦【しんぎ】危峨【きが】たるを照らせば,億丈【おくじょう】恒【つね】に高袤【こうぼう】。