南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#6>Ⅱ中唐詩382 紀頌之の漢詩ブログ1225



南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部 終南山連峰の概要・四季
第二部(#5~#8―十句五聯を四章分)

#5
明昏無停態,頃刻異狀候。

朝な夕なに姿を変えるときはない、しかし、瞬く間にもその徴候は異なるのである。
西南雄太白,突起莫間簉。
西南には太白山が一きわ目立っている、それは連なる山々を隔ててはいるもののその一群の中で聳え立っているのだ。
藩都配德運,分宅占丁戊。
帝都のまもりとして土徳の方位をあてがわれ、他の山々にその気を、徳を配分、配当している、そして、別の居所をかまえて丁戊の位を占めている。
逍遙越坤位,詆訐陷乾竇。
気ままにあちこち南山にある谷を散歩する坤の位の方向をのりこえて、南西、西、北西の乾の位までは低地になっており、広範囲に広がっている。
空虛寒兢兢,風氣較蒐漱。
しかし、その地はすべてがむなしく寒さも極寒になり身も凍るほどである、風の気はかなり早くざわざわとはげしく吹き下ろして來るのである。
明昏【めいこん】に態を停どむること無く、頃刻【けいこく】に状候【じょうこう】異なり。
西南【せいなん】に太白【たいはく】雄なり、突起【とっき】して間【まじ】わり簉【まじ】わること莫し。
都に藩【かき】として徳運【とくうん】に配し、宅【いえ】を分かちで丁戊【ていぼ】を占【し】む。
逍遙【しょうよう】坤位【こんい】を越えて、詆訐【ていけつ】として乾竇【けんとう】に陥る。
空虚【くうきょ】寒うして兢兢【きょうきょう】たり、風気【ふうき】較【やや】蒐漱【しゅうそう】す。

#6
朱維方燒日,陰霰縱騰糅。
真夏の道に太陽がまっかに焼けているちょうどそのときでさえも、凍ったあられがふり落ち、がわがもの顔におどりもみあうのである。
昆明大池北,去覿偶晴晝。
それは、昆明の大池の北がわあたりをながめにゆったときのことで、晴れた真昼のことである
綿聯窮俯視,倒側困清漚。
水面にはうつむいて見ると終南山の山なみが端から端までつづいている、それは逆さに傾きつつ清らかな水に山はひたされて困り顔に見えるのである。
微瀾動水面,踴躍躁猱狖。
さざなみが水の面を勤かすとき、木の上で踊りはねまわっているいろんな種類のさるどもがさわぐ。
驚呼惜破碎,仰喜呀不僕。
水面に映る猿の身が砕けようとするのをみてそれに驚き仲間を呼び、ふと見あげて仲間がなお落ちていないことに気づき歯をむき出して泣き叫び喜んでいる。
#6
朱維【しゅい】日を焼くに方【あた】れども,陰霰【いんせん】縦【ほしいまま】に騰糅【とうじゅう】す。
昆明【こんめい】大池の北に、去きて覿【み】れば偶【たまた】ま晴昼【せいちゅう】なり。
綿聯【めんれん】として俯【ふ】して視ることを窮【きわ】め,倒側【とうそく】して清漚【せいおう】に困【なや】む。
微瀾【びらん】の水面を動かせば,踊躍【ようやく】して猱狖【どうゆう】躁【さわ】ぐ。
驚き呼んで破碎【はさい】せんことを惜み,仰いで喜んで僕【たお】れざることを呀【か】す。

#7
前尋徑杜墅,岔蔽畢原陋。
崎嶇上軒昂,始得觀覽富。
行行將遂窮,嶺陸煩互走。
勃然思坼裂,擁掩難恕宥。
巨靈與誇蛾,遠賈期必售。
#8
還疑造物意,固護蓄精祐。
力雖能排斡,雷電怯呵詬。
攀緣脱手足,蹭蹬抵積甃。
茫如試矯首,堛塞生怐愗。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。


現代語訳と訳註
(本文)
#6
朱維方燒日,陰霰縱騰糅。
昆明大池北,去覿偶晴晝。
綿聯窮俯視,倒側困清漚。
微瀾動水面,踴躍躁猱狖。
驚呼惜破碎,仰喜呀不僕。


(下し文) #6
朱維【しゅい】日を焼くに方【あた】れども,陰霰【いんせん】縦【ほしいまま】に騰糅【とうじゅう】す。
昆明【こんめい】大池の北に、去きて覿【み】れば偶【たまた】ま晴昼【せいちゅう】なり。
綿聯【めんれん】として俯【ふ】して視ることを窮【きわ】め,倒側【とうそく】して清漚【せいおう】に困【なや】む。
微瀾【びらん】の水面を動かせば,踊躍【ようやく】して猱狖【どうゆう】躁【さわ】ぐ。
驚き呼んで破碎【はさい】せんことを惜み,仰いで喜んで僕【たお】れざることを呀【か】す。


(現代語訳)
真夏の道に太陽がまっかに焼けているちょうどそのときでさえも、凍ったあられがふり落ち、がわがもの顔におどりもみあうのである。
それは、昆明の大池の北がわあたりをながめにゆったときのことで、晴れた真昼のことである
水面にはうつむいて見ると終南山の山なみが端から端までつづいている、それは逆さに傾きつつ清らかな水に山はひたされて困り顔に見えるのである。
さざなみが水の面を勤かすとき、木の上で踊りはねまわっているいろんな種類のさるどもがさわぐ。
水面に映る猿の身が砕けようとするのをみてそれに驚き仲間を呼び、ふと見あげて仲間がなお落ちていないことに気づき歯をむき出して泣き叫び喜んでいる。


(訳注) #6
朱維方燒日,陰霰縱騰糅。

真夏の道に太陽がまっかに焼けているちょうどそのときでさえも、凍ったあられがふり落ち、がわがものがおにおどりもみあうのである。
朱維 朱は、五行思想で夏を朱明というように、夏をあらわす色。維はつな。朱維は、夏の太陽の軌道ということ。○方 ちょうどそのときにあたる。○陰霰 陰の気がこりかたまってできたあられ。○ 思うままに。○騰糅 地上にあられが降り、落ちて飛び跳ね揉み合っている様子。


昆明大池北,去覿偶晴晝。
それは、昆明の大池の北がわあたりをながめにゆったときのことで、偶然にも晴れた真昼のことである
昆明大池北 南山のふもとにある昆明池に行ったたことをいう。昆明池は、長安の西南にある大きな池で、当時、周囲四十里(約20km)あったという。漢の武帝が紀元前121年の元狩二年に掘らせたが、四世紀ごろより水が涸れていた。唐の797年貞元十三年に、それを浚渫したというから、この806年元和元年には、水が湛えられていた。南山は、昆明池からすれば、南にあたるから、池の北がわの都からは、南山が水面にかげをおとしているのを見ることができるわけである。○去覿 覿は、ここでは、見ること。去覿は、現代中国語の「去看」と同じく、「見に行く」という意である。○ 偶然。おりよく。


綿聯窮俯視,倒側困清漚。
水面にはうつむいて見ると終南山の山なみが端から端までつづいている、それは逆さに傾きつつ清らかな水に山はひたされて困り顔に見えるのである。
綿聯 聯綿と同じく、ひきつづいて長くつらなっているさま。○窮俯視 うつむいて池にうつる南山の影を見るリ、その影がどこまでも連綿とつづいていることをいう。窮は、そのはてまで行くということ、ここでは、池の面のはてまで見てもなお山の影がつづいているということ。○倒側 山の影がさかさにかたむいて映っている。○困清漚 漚は、ひたすこと。南山の影が清らかな水にひたされてこまっている、ということであろう。


微瀾動水面,踴躍躁猱狖。
さざなみが水の面を勤かすとき、木の上で踊りはねまわっているいろんな種類のさるどもがさわぐ。
倣瀾 瀾は、なみ。水表面の上に波が波及する様子。かさぶた状になっている。○踊躍 はねまわる。○猱狖 猱、狖もさるの類。泣き方が違う猿のこと。また、狖は尾が長い猿で悲鳴のように泣く。猱は、鼠の類で、くるくるよくまわるというから、りすざるをいい、騒がしい猿である。○ さわぐ。狂躁。さるは、水面にうつる自分たちのかげが、さざなみにつれてゆれ動き、自分がもみけされそうに見えるのにびっくりしてさわぐことをいう。


驚呼惜破碎,仰喜呀不僕。
水面に映る猿の身が砕けようとするのをみてそれに驚き仲間を呼び、ふと見あげて仲間がなお落ちていないことに気づき歯をむき出して泣き叫び喜んでいる。
呀不僕 呀は、牙を出して哭く猿の口の形容であるが、ここは、さるの「キィーッ」という鳴き声をうつしたもの。水に映っていること、木から落ちていないことなどについて喜ぴさわいでいる様子をいう。