南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#8>Ⅱ中唐詩384 紀頌之の漢詩ブログ1231


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部 終南山連峰の概要・四季
第二部(#5~#8―十句五聯を四章分)

#5
明昏無停態,頃刻異狀候。

朝な夕なに姿を変えるときはない、しかし、瞬く間にもその徴候は異なるのである。
西南雄太白,突起莫間簉。
西南には太白山が一きわ目立っている、それは連なる山々を隔ててはいるもののその一群の中で聳え立っているのだ。
藩都配德運,分宅占丁戊。
帝都のまもりとして土徳の方位をあてがわれ、他の山々にその気を、徳を配分、配当している、そして、別の居所をかまえて丁戊の位を占めている。
逍遙越坤位,詆訐陷乾竇。
気ままにあちこち南山にある谷を散歩する坤の位の方向をのりこえて、南西、西、北西の乾の位までは低地になっており、広範囲に広がっている。
空虛寒兢兢,風氣較蒐漱。
しかし、その地はすべてがむなしく寒さも極寒になり身も凍るほどである、風の気はかなり早くざわざわとはげしく吹き下ろして來るのである。
明昏【めいこん】に態を停どむること無く、頃刻【けいこく】に状候【じょうこう】異なり。
西南【せいなん】に太白【たいはく】雄なり、突起【とっき】して間【まじ】わり簉【まじ】わること莫し。
都に藩【かき】として徳運【とくうん】に配し、宅【いえ】を分かちで丁戊【ていぼ】を占【し】む。
逍遙【しょうよう】坤位【こんい】を越えて、詆訐【ていけつ】として乾竇【けんとう】に陥る。
空虚【くうきょ】寒うして兢兢【きょうきょう】たり、風気【ふうき】較【やや】蒐漱【しゅうそう】す。

#6
朱維方燒日,陰霰縱騰糅。

真夏の道に太陽がまっかに焼けているちょうどそのときでさえも、凍ったあられがふり落ち、がわがもの顔におどりもみあうのである。
昆明大池北,去覿偶晴晝。
それは、昆明の大池の北がわあたりをながめにゆったときのことで、晴れた真昼のことである
綿聯窮俯視,倒側困清漚。
水面にはうつむいて見ると終南山の山なみが端から端までつづいている、それは逆さに傾きつつ清らかな水に山はひたされて困り顔に見えるのである。
微瀾動水面,踴躍躁猱狖。
さざなみが水の面を勤かすとき、木の上で踊りはねまわっているいろんな種類のさるどもがさわぐ。
驚呼惜破碎,仰喜呀不僕。
水面に映る猿の身が砕けようとするのをみてそれに驚き仲間を呼び、ふと見あげて仲間がなお落ちていないことに気づき歯をむき出して泣き叫び喜んでいる。
#6
朱維【しゅい】日を焼くに方【あた】れども,陰霰【いんせん】縦【ほしいまま】に騰糅【とうじゅう】す。
昆明【こんめい】大池の北に、去きて覿【み】れば偶【たまた】ま晴昼【せいちゅう】なり。
綿聯【めんれん】として俯【ふ】して視ることを窮【きわ】め,倒側【とうそく】して清漚【せいおう】に困【なや】む。
微瀾【びらん】の水面を動かせば,踊躍【ようやく】して猱狖【どうゆう】躁【さわ】ぐ。
驚き呼んで破碎【はさい】せんことを惜み,仰いで喜んで僕【たお】れざることを呀【か】す。

#7
前尋徑杜墅,岔蔽畢原陋。

この前におとずれたとき杜陵を過ぎると、時がたち見守られなくなり、畢原さえ塵ほこりにうずもれて、見苦しくなっている。
崎嶇上軒昂,始得觀覽富。
うねうねめぐり高く盛りあがった高い所に上れば視界はひらけて、やっとひろいながめを目にすることができる。
行行將遂窮,嶺陸煩互走。
だんだんとわけ入りそのまま頂きまで行こうとしたが、けわしいみねと、なだらかな丘陵とが面倒なほどいりまじって連なっている。
勃然思坼裂,擁掩難恕宥。
急に興奮するかのように山が盛り上がるかと思えば切ったように、あるいは裂いたようなっている、そして、南山をおおいかくしている景色に対する罪はゆるしがたい。
巨靈與誇蛾,遠賈期必售。
ここには黄河の神の巨霊と黄河を流れをゆがめていた山を動かす神の誇蛾氏とがいるが、はるばるこの遠くまで山の力と黄河の力を、その余力を売りに来たらきっと売れるにちがいない。
前に尋ねしとき杜墅【としょ】に径すれば、岔蔽【ふんへい】として畢原【ひつ】陋【いや】し。
崎嘔【きく】として上ぼれば軒昂【けんこう】として、始めて観覧【かんらん】の富【ゆた】かなるを得たり。
行き行きて将に遂に窮めんとすれども、嶺陸【れいりく】煩【わず】らわしく互に走る。
勃然【ぼつぜん】として柝【さ】き裂かんことを思い、擁掩【ようえん】すること恕宥【じょゆう】し難し。
巨霊【きょれい】と誇蛾【かが】と、遠く賈【あざ】なって必ず售【う】れんことを期す

#8
還疑造物意,固護蓄精祐。
また少し造物主の思意をよくよく考えてみると、この終南山を固く護っていることは、山に対していろいろ造物主が施こして加えた力をたくわえていようとするのではないかと思う。
力雖能排斡,雷電怯呵詬。
その力がたとえ前の山を押しのけるだけの力があったとしても、かみなりが落ち、いなずまがひかり、しかられ、ののしられるのではなかろうか。
攀緣脱手足,蹭蹬抵積甃。
今度は、崖をよじのぼると手足をすべらせた、あちこちにあたりながらよろよろと石ずみの所までに落ちた。
茫如試矯首,堛塞生怐愗。
ボーッとしたままで上を見上げてみると、土くれにふさがれており、どうしてよいかわからず、途方にくれてしまった。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
すると、終南山の雄雄しい姿がなくなってあたりはものさびしく、目新しい近景はかつて遠く見た終南山なのかと惑わせるものであった。

還た疑ごう 造物の意、固く護って精祐【せいゆう】を蓄【たくお】うるかと。
力 排斡【はいあつ】するに能【た】えたりと雖も、雷電して呵詬【かこう】せんことを怯る。
攀緣【はんえん】すれば手足【しゅそく】を脱して、蹭蹬【そうとう】として積甃【せきしゅう】に抵【いた】る。
茫如【ぼうじょ】として試みに首を矯【あ】ぐれば、堛塞【ひつそく】として怐愗【こうぼう】を生ず。
咸容【いよう】喪しなわれて蕭爽【しょうそう】たり、近新【きんしん】遠旧【えんきゅう】に迷う。


現代語訳と訳註
(本文) #8
還疑造物意,固護蓄精祐。
力雖能排斡,雷電怯呵詬。
攀緣脱手足,蹭蹬抵積甃。
茫如試矯首,堛塞生怐愗。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。


(下し文)
還た疑ごう 造物の意、固く護って精祐【せいゆう】を蓄【たくお】うるかと。
力 排斡【はいあつ】するに能【た】えたりと雖も、雷電して呵詬【かこう】せんことを怯る。
攀緣【はんえん】すれば手足【しゅそく】を脱して、蹭蹬【そうとう】として積甃【せきしゅう】に抵【いた】る。
茫如【ぼうじょ】として試みに首を矯【あ】ぐれば、堛塞【ひつそく】として怐愗【こうぼう】を生ず。
咸容【いよう】喪しなわれて蕭爽【しょうそう】たり、近新【きんしん】遠旧【えんきゅう】に迷う。


 (現代語訳)
また少し造物主の思意をよくよく考えてみると、この終南山を固く護っていることは、山に対していろいろ造物主が施こして加えた力をたくわえていようとするのではないかと思う。
その力がたとえ前の山を押しのけるだけの力があったとしても、かみなりが落ち、いなずまがひかり、しかられ、ののしられるのではなかろうか。
今度は、崖をよじのぼると手足をすべらせた、あちこちにあたりながらよろよろと石ずみの所までに落ちた。
ボーッとしたままで上を見上げてみると、土くれにふさがれており、どうしてよいかわからず、途方にくれてしまった。
すると、終南山の雄雄しい姿がなくなってあたりはものさびしく、目新しい近景はかつて遠く見た終南山なのかと惑わせるものであった。


(訳注)#8
還疑造物意,固護蓄精祐。

また少し造物主の思意をよくよく考えてみると、この終南山を固く護っていることは、山に対していろいろ造物主が施こして加えた力をたくわえていようとするのではないかと思う。
還疑 還は、それでもやはり。疑は、ではないかと思う。○造物 道。造物主。この天地自然を造った神。『烈子、周穆王』「造物主、其巧妙、其功深、固難窮難終。」(造物主、其の巧妙にして、其の功深く、固より難窮難終)○精祐 徴妙な造物主のしわざをいう。祐は、神の助けということ。ここは山に対していろいろ造物主が施こして加えた力をいう。
 

力雖能排斡,雷電怯呵詬。
その力がたとえ前の山を押しのけるだけの力があったとしても、かみなりが落ち、いなずまがひかり、しかられ、ののしられるのではなかろうか。
排斡 斡は、まわすこと。排斡で、おしのけ動かすことをいう。○雷電 かみなりといなずま。○ びくびくと心配する。○呵詬 呵は、しかりつける。詬は、ののしる。


攀緣脱手足,蹭蹬抵積甃。
今度は、崖をよじのぼると手足をすべらせた、あちこちにあたりながらよろよろと石ずみの所までに落ちた。
攀緣 よじのぼる。攀緣は、よじる。縁は、たよって行く。○脱手足 手をはなし足をふみはずすことであろう。よじのぼっていくうちに、ふみはずし、崖下に落ちたということ。○蹭蹬 よろよろするさま。○積甃 甃は、井戸のまわりに積む煉瓦。この積甃とは、煉瓦のような石のつみかさなった瓦礫をいうのであろう。


茫如試矯首,堛塞生怐愗。
ボーッとしたままで上を見上げてみると、土くれにふさがれており、どうしてよいかわからず、途方にくれてしまった。
○茫如 如は、然などと同じく形容詞につく語尾。ボーッとしたままで。なにげなく。○矯首 あたまを上向ける。○堛塞 堛は、土くれ。堛塞は、土くれがいっぱいつまっているさま。○恂悲 おろかなさま。ここでは、どうしてよいかわからず、途方にくれたことをいう。


威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
すると、終南山の雄雄しい姿がなくなってあたりはものさびしく、目新しい近景はかつて遠く見た終南山なのかと惑わせるものであった。
威容 南山のりっぱなすがた。雄々しき姿。○蕭爽 ものさびしいさま。○近新迷遠旧 南山の近い新しい風景が、遠くから見ていた以前の風景とちがうので、迷ってしまうこと。
 


#8
還疑造物意,固護蓄精祐。
力雖能排斡,雷電怯呵詬。
攀緣脱手足,蹭蹬抵積甃。
茫如試矯首,堛塞生怐愗。
威容喪蕭爽,近新迷遠舊。
還た疑ごう 造物の意、固く護って精祐【せいゆう】を蓄【たくお】うるかと。
力 排斡【はいあつ】するに能【た】えたりと雖も、雷電して呵詬【かこう】せんことを怯る。
攀緣【はんえん】すれば手足【しゅそく】を脱して、蹭蹬【そうとう】として積甃【せきしゅう】に抵【いた】る。
茫如【ぼうじょ】として試みに首を矯【あ】ぐれば、堛塞【ひつそく】として怐愗【こうぼう】を生ず。
咸容【いよう】喪しなわれて蕭爽【しょうそう】たり、近新【きんしん】遠旧【えんきゅう】に迷う。