南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#10>Ⅱ中唐詩386 紀頌之の漢詩ブログ1237


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部 終南山連峰の概要・四季
第二部 終南山朝夕・周辺の事項

第三部 (#9~#12―十句五聯を四章分)

#9 
拘官計日月,欲進不可又。
官吏の生活にしばられ身であるので休暇の日月をかぞえれば、この南山を廻りたんさくしようにもこれ以上はできないことである。
因緣窺其湫,凝湛閟陰獸。
何かのついでに山の池をのぞいてみることになる、瀞と水をたたえている底に竜をひそめている。
魚蝦可俯掇,神物安敢寇。
魚やえびは前かがみになって手攫みできるというものだが、竜となればそうやすやすと捕えることができものではない。
林柯有脱葉,欲堕鳥驚救。
池に森の木の枝から落ちる葉があり、落ちようとすると鳥があわててふせぎとめる。
爭銜彎環飛,投棄急哺鷇。

見るとわれ先に爭って葉をくわえて輪を描きつつ飛び、それらをさっさと投げ棄てるさまはいかにえさを与えるよりもあわただしい。
官に拘【つな】がれて日月を計【かぞ】うるに、進まんと欲っすれども又【ふたたび】すべからず。
因縁【いんえん】して其の湫【しゅう】を窺【うたが】えば、凝湛【ぎょうたん】として陰獸【いんきゅう】を閟【と】ざす。
魚蝦【ぎょか】は俯して掇【ひろ】うべきも、神物は安んぞ敢えて冦【こう】せんや。
林柯【りんか】に脱【お】つる葉有り、堕ちんと欲っすれば鳥驚き救う。
争い銜【ふく】んで彎環【わんかん】として飛び、投げ棄つること鷇【こう】に哺するよりも急なり。
#10  
鏇歸道回睨,達枿壯複奏。
かえり行く道からふりかえってみると、山はそそり立ち壮大にまた重なり合ってもいる。
籲嗟信奇怪,峙質能化貿。
ああ本当に不思議なものだと思うのは、この嶮しい山そのものが変化することができるということなのだ。
前年遭譴謫,探曆得邂逅。
さきの年803年に陽山に地方官に流されて、この南山を越えて行くこととなりおもいがげなくもわけ入ったのであった。
初從藍田入,顧盻勞頸脰。
まず藍田から山へはいったばかりのところである、あたりを見まわし、振り返り見て、山が高いので、首をつかれさせるばかりであった。
時天晦大雪,淚目苦矇瞀。

その時折悪しく一転、かき暗くなり大雪にかわったのだ、都を後にして涙のたまった目にはまったく何も見えなかった。
鏇【めぐ】り帰って道より回【かえ】り睨【み】れば、達枿【たつげつ】として壮にして復た奏【あつ】まる。
籲嗟【ああ】信に奇怪【きかい】なり、峙質【じしつ】も能く化貿【かぼう】す。
前年【ぜんねん】鑓鏑【けんたく】に遭い、探歴【たんれき】して邂逅【かいこう】することを得たり。
初じめ藍田【らんでん】より入りしとき、顧盻【こべん】して頸脰【けいとう】を労す。
時に 天 晦【くろ】うして大いに雪ふり、涙の目は苦【はなは】だ矇瞀【もうぼう】たり。

#11
峻塗拖長冰,直上若懸溜。
褰衣步推馬,顛蹶退且複。
蒼黄忘遐睎,所矚才左右。
杉篁咤蒲蘇,杲耀攢介胄。
專心憶平道,脱險逾避臭。
12 
昨來逢清霽,宿願忻始副。
崢嶸躋塚頂,倏閃雜鼯鼬。
前低劃開闊,爛漫堆眾皺。
或連若相從,或蹙若相鬥。
或妥若弭伏,或竦若驚雊。


現代語訳と訳註
(本文) #10  
鏇歸道回睨,達枿壯複奏。
籲嗟信奇怪,峙質能化貿。
前年遭譴謫,探曆得邂逅。
初從藍田入,顧盻勞頸脰。
時天晦大雪,淚目苦矇瞀。


(下し文)
鏇【めぐ】り帰って道より回【かえ】り睨【み】れば、達枿【たつげつ】として壮にして復た奏【あつ】まる。
籲嗟【ああ】信に奇怪【きかい】なり、峙質【じしつ】も能く化貿【かぼう】す。
前年【ぜんねん】鑓鏑【けんたく】に遭い、探歴【たんれき】して邂逅【かいこう】することを得たり。
初じめ藍田【らんでん】より入りしとき、顧盻【こべん】して頸脰【けいとう】を労す。
時に 天 晦【くろ】うして大いに雪ふり、涙の目は苦【はなは】だ矇瞀【もうぼう】たり。


(現代語訳)
かえり行く道からふりかえってみると、山はそそり立ち壮大にまた重なり合ってもいる。
ああ本当に不思議なものだと思うのは、この嶮しい山そのものが変化することができるということなのだ。
さきの年803年に陽山に地方官に流されて、この南山を越えて行くこととなりおもいがげなくもわけ入ったのであった。
まず藍田から山へはいったばかりのところである、あたりを見まわし、振り返り見て、山が高いので、首をつかれさせるばかりであった。
その時折悪しく一転、かき暗くなり大雪にかわったのだ、都を後にして涙のたまった目にはまったく何も見えなかった。


(訳注) #10  
鏇歸道回睨,達枿壯複奏。
かえり行く道からふりかえってみると、山はそそり立ち壮大にまた重なり合ってもいる。
旋帰 旋も、かえる。○廻睨 首をめぐらしてふりかえりみる。睨は、横日で見ること。○達枿【たつげつ】高くそそり立っているさま。○ この奏は、湊、輳と同じく、あつまる、つみかさなっている、ということ。


籲嗟信奇怪,峙質能化貿。
ああ本当に不思議なものだと思うのは、この嶮しい山そのものが変化することができるということなのだ。
籲嗟 呼嗟 感嘆のこえ。○峙質 そびえている性貿。山の本休をいう。○化貿 貿は、変易する、かわる。化貿は、変化する。


前年遭譴謫,探曆得邂逅。
さきの年803年に陽山に地方官に流されて、この南山を越えて行くこととなりおもいがげなくもわけ入ったのであった。
前年遭譴謫 803年貞元十九年、韓愈が広東省の陽山県令に流されたとき、南山山脈の東部のとうげ、藍関をこえて行ったときのことを述べる。前年は、先年。譴謫は、もともと罪あって罰せられることをいうが、ここでは、流罪で官吏が位を下げて地方に追いやられることである。806年この詩を書く、三年前のこと。○探曆 探は、うかがうこと。曆は、そこをとおりすぎること。○邂逅 ゆくりなくめぐりあう。おもいがけなく南山にわけ入ることになったことをいう。 


初從藍田入,顧盻勞頸脰。
まず藍田から山へはいったばかりのところである、あたりを見まわし、振り返り見て、山が高いので、首をつかれさせるばかりであった。
藍田 長安の東南にある県の名。唐代、長安から、華中・華南へ旅行するには、ここを経て藍関・武関の二つのとうげを越え、今の河南省の南部から漢江流域に出るのが、ふつうの道すじであった。○顧盻 ふりかえりみる。○頸脰 くび。


時天晦大雪,淚目苦矇瞀。
その時折悪しく一転、かき暗くなり大雪にかわったのだ、都を後にして涙のたまった目にはまったく何も見えなかった。
 くらい。○大雪 この「雪」は、動詞。○ 非常に。程度がすぎて苦しんでいるという心持ちを含む副詞。○矇瞀 ぼんやりと目がかすんで見えない形容。