南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#11>Ⅱ中唐詩387 紀頌之の漢詩ブログ1240


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部 終南山連峰の概要・四季
第二部 終南山朝夕・周辺の事項

第三部 (#9~#12―十句五聯を四章分)

#9 
拘官計日月,欲進不可又。
官吏の生活にしばられ身であるので休暇の日月をかぞえれば、この南山を廻りたんさくしようにもこれ以上はできないことである。
因緣窺其湫,凝湛閟陰獸。
何かのついでに山の池をのぞいてみることになる、瀞と水をたたえている底に竜をひそめている。
魚蝦可俯掇,神物安敢寇。
魚やえびは前かがみになって手攫みできるというものだが、竜となればそうやすやすと捕えることができものではない。
林柯有脱葉,欲堕鳥驚救。
池に森の木の枝から落ちる葉があり、落ちようとすると鳥があわててふせぎとめる。
爭銜彎環飛,投棄急哺鷇。

見るとわれ先に爭って葉をくわえて輪を描きつつ飛び、それらをさっさと投げ棄てるさまはいかにえさを与えるよりもあわただしい。
官に拘【つな】がれて日月を計【かぞ】うるに、進まんと欲っすれども又【ふたたび】すべからず。
因縁【いんえん】して其の湫【しゅう】を窺【うたが】えば、凝湛【ぎょうたん】として陰獸【いんきゅう】を閟【と】ざす。
魚蝦【ぎょか】は俯して掇【ひろ】うべきも、神物は安んぞ敢えて冦【こう】せんや。
林柯【りんか】に脱【お】つる葉有り、堕ちんと欲っすれば鳥驚き救う。
争い銜【ふく】んで彎環【わんかん】として飛び、投げ棄つること鷇【こう】に哺するよりも急なり。
#10  
鏇歸道回睨,達枿壯複奏。

かえり行く道からふりかえってみると、山はそそり立ち壮大にまた重なり合ってもいる。
籲嗟信奇怪,峙質能化貿。
ああ本当に不思議なものだと思うのは、この嶮しい山そのものが変化することができるということなのだ。
前年遭譴謫,探曆得邂逅。
さきの年803年に陽山に地方官に流されて、この南山を越えて行くこととなりおもいがげなくもわけ入ったのであった。
初從藍田入,顧盻勞頸脰。
まず藍田から山へはいったばかりのところである、あたりを見まわし、振り返り見て、山が高いので、首をつかれさせるばかりであった。
時天晦大雪,淚目苦矇瞀。
その時折悪しく一転、かき暗くなり大雪にかわったのだ、都を後にして涙のたまった目にはまったく何も見えなかった。
鏇【めぐ】り帰って道より回【かえ】り睨【み】れば、達枿【たつげつ】として壮にして復た奏【あつ】まる。
籲嗟【ああ】信に奇怪【きかい】なり、峙質【じしつ】も能く化貿【かぼう】す。
前年【ぜんねん】鑓鏑【けんたく】に遭い、探歴【たんれき】して邂逅【かいこう】することを得たり。
初じめ藍田【らんでん】より入りしとき、顧盻【こべん】して頸脰【けいとう】を労す。
時に 天 晦【くろ】うして大いに雪ふり、涙の目は苦【はなは】だ矇瞀【もうぼう】たり。

#11
峻塗拖長冰,直上若懸溜。
けわしい道の部分が峠まで積雪していたものが氷に変わり、反物のように長い、氷りでまっ白な坂道をまっすぐ上ぼって行くと、まるで凍りついた滝を登ようだ。
褰衣步推馬,顛蹶退且複。
着物の裾をからげて馬から降りて歩き、馬をおすこともある。つまずいたり、たおれたり、すべりおちてはまたのぼるという具合だ。
蒼黄忘遐睎,所矚才左右。
なかなか進めず心があわただしくなり、はるか先をながめ渡すことなど忘れてしまい、見えるところといえばほんの左右身近なところばかりである。
杉篁咤蒲蘇,杲耀攢介胄。
杉林と竹やぶなのかと、どちらでできた矛なのか見まがいをしてしまう、木か竹の上にはきらきらと氷雪のよろいかぶとをまとっていた。
專心憶平道,脱險逾避臭。

ひたすら心に浮かぶのは平らかな道を思うことであり、この難所を通り抜けたい一心はいやな臭いを避けようとするよりも増しているほどだ。
唆【けわ】しき塗【みち】に長き冰りを拖【ひ】き、直ちに上ぼれば懸かれる溜【なが】れの若し。
衣を襄【かか】げて歩んで馬を推せば、顛【たお】れ蹶【つまず】いて退いては且た復【ふたたび】す。
蒼黄【そうこう】として遐【とお】く睎【み】んことを忘れ、矚【み】る所は才【わず】かに左右のみ。
杉篁【さんこう】は蒲蘇【ほそ】かと咤【あや】しみ、杲耀【こうよう】として介冑【かいちゅう】を攢【あつ】む。
心を専【もっぱ】らにして平らかなる道を憶い、険を脱【まぬ】かるること臭【しゅう】を避【さ】くるに逾【こ】えたり。

12 
昨來逢清霽,宿願忻始副。
崢嶸躋塚頂,倏閃雜鼯鼬。
前低劃開闊,爛漫堆眾皺。
或連若相從,或蹙若相鬥。
或妥若弭伏,或竦若驚雊。

第4部
#13 
或散若瓦解,或赴若輻湊。或翩若船游,或決若馬驟。
或背若相惡,或向若相佑。或亂若抽筍,或嵲若注灸。
或錯若繪畫,或繚若篆籀。
#14
或羅若星離,或蓊若雲逗。或浮若波濤,或碎若鋤耨。
或如賁育倫,賭勝勇前購。先強勢已出,後鈍嗔bz譳。
或如帝王尊,叢集朝賤幼。
#15
雖親不褻狎,雖遠不悖謬。或如臨食案,餚核紛饤饾。
又如游九原,墳墓包槨柩。或累若盆罌,或揭若bB豆。
或覆若曝鱉,或頹若寢獸。
#16 
或蜿若藏龍,或翼若搏鷲。或齊若友朋,或隨若先後。
或迸若流落,或顧若宿留。或戾若仇讎,或密若婚媾。
或儼若峨冠,或翻若舞袖。
第5部
#17  
或屹若戰陣,或圍若蒐狩。或靡然東注,或偃然北首。
或如火熹焰,或若氣饙餾。或行而不輟,或遺而不收。
或斜而不倚,或弛而不彀。
#18
或赤若禿鬝,或熏若柴槱。或如龜拆兆,或若卦分繇。
或前横若剝,或後斷若姤。延延離又屬,夬夬叛還遘。
喁喁魚闖萍,落落月經宿。
#19
誾誾樹牆垣,巘巘駕庫廄。參參削劍戟,煥煥銜瑩琇。
敷敷花披萼,闟闟屋摧霤。悠悠舒而安,兀兀狂以狃。
超超出猶奔,蠢蠢駭不懋。大哉立天地,經紀肖營腠。
#20 
厥初孰開張,黽勉誰勸侑。創茲樸而巧,戮力忍勞疚。
得非施斧斤,無乃假詛咒。鴻荒竟無傳,功大莫酬僦。
嚐聞於祠官,芬苾降歆嗅。斐然作歌詩,惟用讚報酭。



現代語訳と訳註
(本文) #11
褰衣步推馬,顛蹶退且複。
蒼黄忘遐睎,所矚才左右。
杉篁咤蒲蘇,杲耀攢介胄。
專心憶平道,脱險逾避臭。


(下し文)
唆【けわ】しき塗【みち】に長き冰りを拖【ひ】き、直ちに上ぼれば懸かれる溜【なが】れの若し。
衣を襄【かか】げて歩んで馬を推せば、顛【たお】れ蹶【つまず】いて退いては且た復【ふたたび】す。
蒼黄【そうこう】として遐【とお】く睎【み】んことを忘れ、矚【み】る所は才【わず】かに左右のみ。
杉篁【さんこう】は蒲蘇【ほそ】かと咤【あや】しみ、杲耀【こうよう】として介冑【かいちゅう】を攢【あつ】む。
心を専【もっぱ】らにして平らかなる道を憶い、険を脱【まぬ】かるること臭【しゅう】を避【さ】くるに逾【こ】えたり。


(現代語訳)
けわしい道の部分が峠まで積雪していたものが氷に変わり、反物のように長い、氷りでまっ白な坂道をまっすぐ上ぼって行くと、まるで凍りついた滝を登ようだ。
着物の裾をからげて馬から降りて歩き、馬をおすこともある。つまずいたり、たおれたり、すべりおちてはまたのぼるという具合だ。
なかなか進めず心があわただしくなり、はるか先をながめ渡すことなど忘れてしまい、見えるところといえばほんの左右身近なところばかりである。
杉林と竹やぶなのかと、どちらでできた矛なのか見まがいをしてしまう、木か竹の上にはきらきらと氷雪のよろいかぶとをまとっていた。
ひたすら心に浮かぶのは平らかな道を思うことであり、この難所を通り抜けたい一心はいやな臭いを避けようとするよりも増しているほどだ。


(訳注) #11
峻塗拖長冰,直上若懸溜。
けわしい道の部分が峠まで積雪していたものが氷に変わり、反物のように長い、氷りでまっ白な坂道をまっすぐ上ぽって行くと、まるで凍りついた滝を登ようだ。
峻塗 けわしい道。塗は途と同じ。○拖 ひきずる。坂道いっぱいに氷りがはりつめているのをいう。雪が氷に変わっていること。○長冰 道に氷りがはっているから、道の部分が峠まで積雪していたものが氷に変わり、反物のように長いといったのであろう。冰は氷と同じ。○直上 まっすぐ上ぼって行く。○懸溜 溜は、水の流れおちること。懇溜、ぶらさがった水の流れとは、つららをいう。氷りでまっ白な坂道をまっすぐ上ぽって行くと、まるで凍りついた滝を登ようだ、ということ。


褰衣步推馬,顛蹶退且複。
着物のすそをからげて馬から降りて歩き、馬をおすこともある。つまずいたり、たおれたり、すべりおちてはまたのぼるという具合だ。
襲衣 きもののすそをはしおる・○推馬 馬に乗ったまま行かれないから、下りておすわけである。○顛諏 つまずいてたおれる。○退 氷ですべってあともどりする。○ すべったところ・をもう一度あがる。


蒼黄忘遐睎,所矚才左右。
なかなか進めず心があわただしくなり、はるか先をながめ渡すことなど忘れてしまい、見えるところといえばほんの左右身近なところばかりである。
蒼黄 進行が遅くいらだち、あわてるさま、倉皇と同じ。○遐睎 遐は、とおい。睎は、ながめる。○所矚 ながめられる範囲。見えるところ。所は、受け身をあらわして名詞句を作る助辞。 


杉篁咤蒲蘇,杲耀攢介胄。
杉林と竹やぶなのかと、どちらでできた矛なのか見まがいをしてしまう、木か竹の上にはきらきらと氷雪のよろいかぶとをまとっていた。
杉篁 篁は、たけやぶ・○ 詫と同じく、いぶかしむ。矛かと見まごう。○蒲蘇 大きな矛。○杲耀 あかるくかがやいているさま。○ あつめる。身によろっている。○胃 よろいかぶと。介がよろい、冑がかぶと。


專心憶平道,脱險逾避臭。
ひたすら心に浮かぶのは平らかな道を思うことであり、この難所を通り抜けたい一心はいやな臭いを避けようとするよりも増しているほどだ。
専心 一心に。○ 心にかける。なつかしむ。○平道 南山山中のけわしい山道に対し、平坦な道をなつかしむのである。○ すぎる。それ以上である。○避臭 いやなにおいを避ける。「呂氏春秋」孝行覧遇合篇に、いやな臭いを持った男には、兄弟妻子さえ一緒に住もうとはしなかったという話がある。いやな場所からの脱出のこと言う。


#11
褰衣步推馬,顛蹶退且複。
蒼黄忘遐睎,所矚才左右。
杉篁咤蒲蘇,杲耀攢介胄。
專心憶平道,脱險逾避臭。
唆【けわ】しき塗【みち】に長き冰りを拖【ひ】き、直ちに上ぼれば懸かれる溜【なが】れの若し。
衣を襄【かか】げて歩んで馬を推せば、顛【たお】れ蹶【つまず】いて退いては且た復【ふたたび】す。
蒼黄【そうこう】として遐【とお】く睎【み】んことを忘れ、矚【み】る所は才【わず】かに左右のみ。
杉篁【さんこう】は蒲蘇【ほそ】かと咤【あや】しみ、杲耀【こうよう】として介冑【かいちゅう】を攢【あつ】む。
心を専【もっぱ】らにして平らかなる道を憶い、険を脱【まぬ】かるること臭【しゅう】を避【さ】くるに逾【こ】えたり。