南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#12>Ⅱ中唐詩388 紀頌之の漢詩ブログ1243


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部 終南山連峰の概要・四季
第二部 終南山朝夕・周辺の事項

第三部 (#9~#12―十句五聯を四章分)


#9 
拘官計日月,欲進不可又。
官吏の生活にしばられ身であるので休暇の日月をかぞえれば、この南山を廻りたんさくしようにもこれ以上はできないことである。
因緣窺其湫,凝湛閟陰獸。
何かのついでに山の池をのぞいてみることになる、瀞と水をたたえている底に竜をひそめている。
魚蝦可俯掇,神物安敢寇。
魚やえびは前かがみになって手攫みできるというものだが、竜となればそうやすやすと捕えることができものではない。
林柯有脱葉,欲堕鳥驚救。
池に森の木の枝から落ちる葉があり、落ちようとすると鳥があわててふせぎとめる。
爭銜彎環飛,投棄急哺鷇。

見るとわれ先に爭って葉をくわえて輪を描きつつ飛び、それらをさっさと投げ棄てるさまはいかにえさを与えるよりもあわただしい。
官に拘【つな】がれて日月を計【かぞ】うるに、進まんと欲っすれども又【ふたたび】すべからず。
因縁【いんえん】して其の湫【しゅう】を窺【うたが】えば、凝湛【ぎょうたん】として陰獸【いんきゅう】を閟【と】ざす。
魚蝦【ぎょか】は俯して掇【ひろ】うべきも、神物は安んぞ敢えて冦【こう】せんや。
林柯【りんか】に脱【お】つる葉有り、堕ちんと欲っすれば鳥驚き救う。
争い銜【ふく】んで彎環【わんかん】として飛び、投げ棄つること鷇【こう】に哺するよりも急なり。
#10  
鏇歸道回睨,達枿壯複奏。

かえり行く道からふりかえってみると、山はそそり立ち壮大にまた重なり合ってもいる。
籲嗟信奇怪,峙質能化貿。
ああ本当に不思議なものだと思うのは、この嶮しい山そのものが変化することができるということなのだ。
前年遭譴謫,探曆得邂逅。
さきの年803年に陽山に地方官に流されて、この南山を越えて行くこととなりおもいがげなくもわけ入ったのであった。
初從藍田入,顧盻勞頸脰。
まず藍田から山へはいったばかりのところである、あたりを見まわし、振り返り見て、山が高いので、首をつかれさせるばかりであった。
時天晦大雪,淚目苦矇瞀。
その時折悪しく一転、かき暗くなり大雪にかわったのだ、都を後にして涙のたまった目にはまったく何も見えなかった。
鏇【めぐ】り帰って道より回【かえ】り睨【み】れば、達枿【たつげつ】として壮にして復た奏【あつ】まる。
籲嗟【ああ】信に奇怪【きかい】なり、峙質【じしつ】も能く化貿【かぼう】す。
前年【ぜんねん】鑓鏑【けんたく】に遭い、探歴【たんれき】して邂逅【かいこう】することを得たり。
初じめ藍田【らんでん】より入りしとき、顧盻【こべん】して頸脰【けいとう】を労す。
時に 天 晦【くろ】うして大いに雪ふり、涙の目は苦【はなは】だ矇瞀【もうぼう】たり。

#11
峻塗拖長冰,直上若懸溜。
けわしい道の部分が峠まで積雪していたものが氷に変わり、反物のように長い、氷りでまっ白な坂道をまっすぐ上ぼって行くと、まるで凍りついた滝を登ようだ。
褰衣步推馬,顛蹶退且複。
着物の裾をからげて馬から降りて歩き、馬をおすこともある。つまずいたり、たおれたり、すべりおちてはまたのぼるという具合だ。
蒼黄忘遐睎,所矚才左右。
なかなか進めず心があわただしくなり、はるか先をながめ渡すことなど忘れてしまい、見えるところといえばほんの左右身近なところばかりである。
杉篁咤蒲蘇,杲耀攢介胄。
杉林と竹やぶなのかと、どちらでできた矛なのか見まがいをしてしまう、木か竹の上にはきらきらと氷雪のよろいかぶとをまとっていた。
專心憶平道,脱險逾避臭。
ひたすら心に浮かぶのは平らかな道を思うことであり、この難所を通り抜けたい一心はいやな臭いを避けようとするよりも増しているほどだ。
唆【けわ】しき塗【みち】に長き冰りを拖【ひ】き、直ちに上ぼれば懸かれる溜【なが】れの若し。
衣を襄【かか】げて歩んで馬を推せば、顛【たお】れ蹶【つまず】いて退いては且た復【ふたたび】す。
蒼黄【そうこう】として遐【とお】く睎【み】んことを忘れ、矚【み】る所は才【わず】かに左右のみ。
杉篁【さんこう】は蒲蘇【ほそ】かと咤【あや】しみ、杲耀【こうよう】として介冑【かいちゅう】を攢【あつ】む。
心を専【もっぱ】らにして平らかなる道を憶い、険を脱【まぬ】かるること臭【しゅう】を避【さ】くるに逾【こ】えたり。

12 
昨來逢清霽,宿願忻始副。
昨日からは折りよく上天気にめぐまれた、長年の望みがありがたくもやっと叶えられるというものだ。
崢嶸躋塚頂,倏閃雜鼯鼬。
嶮しくそそりたつ山頂に登って行く、閃光のようにぱっ、ぱっと「むささび」や「いたち」があらわれてわれわれの前を連れ立って行くのである。
前低劃開闊,爛漫堆眾皺。
前が低くなってぱあっと急に開けたところにきた、いちめんに遠くの方へばらばらにちらばっているさまざまな山並みが積み重なっている。
或連若相從,或蹙若相鬥。
あるものは連れ添って行く様に連なり、あるものは戦い取っ組み合いをしているようにちぢこまっている。
或妥若弭伏,或竦若驚雊。

あるものは降参したようにどっかと坐り、あるものは驚いたキジが鳴いて立ちあがり、つまさき立っているようにも見える。

昨来【さくらい】清霽【せいせい】に逢い、宿願【しゅくがん】始めて副うことを忻【よろこ】ぶ。
崢嶸【そうこう】として塚頂【ちょうちょう】に躋【のぼ】れば、倏閃【しゅくせん】として鼯鼬【ごゆう】を雜【もじ】う。
前低くして劃【かく】して開闊【かいかつ】なるところ、爛漫【らんまん】として衆皺【しゅうしゅう】を堆す。
或るいは連なって相い従うが若く、或るいは蹙【ちじ】まって相い鬥【たたか】うが若し。
或るいは妥うして弭【なび】き伏すが若く、或るいは竦【つまさきだ】って驚き雊【な】くが若し。

#13 
或散若瓦解,或赴若輻湊。或翩若船游,或決若馬驟。
或背若相惡,或向若相佑。或亂若抽筍,或嵲若注灸。
或錯若繪畫,或繚若篆籀。
#14
或羅若星離,或蓊若雲逗。或浮若波濤,或碎若鋤耨。
或如賁育倫,賭勝勇前購。先強勢已出,後鈍嗔bz譳。
或如帝王尊,叢集朝賤幼。
#15
雖親不褻狎,雖遠不悖謬。或如臨食案,餚核紛饤饾。
又如游九原,墳墓包槨柩。或累若盆罌,或揭若bB豆。
或覆若曝鱉,或頹若寢獸。
#16 
或蜿若藏龍,或翼若搏鷲。或齊若友朋,或隨若先後。
或迸若流落,或顧若宿留。或戾若仇讎,或密若婚媾。
或儼若峨冠,或翻若舞袖。
#17  
或屹若戰陣,或圍若蒐狩。或靡然東注,或偃然北首。
或如火熹焰,或若氣饙餾。或行而不輟,或遺而不收。
或斜而不倚,或弛而不彀。
#18
或赤若禿鬝,或熏若柴槱。或如龜拆兆,或若卦分繇。
或前横若剝,或後斷若姤。延延離又屬,夬夬叛還遘。
喁喁魚闖萍,落落月經宿。
#19
誾誾樹牆垣,巘巘駕庫廄。參參削劍戟,煥煥銜瑩琇。
敷敷花披萼,闟闟屋摧霤。悠悠舒而安,兀兀狂以狃。
超超出猶奔,蠢蠢駭不懋。大哉立天地,經紀肖營腠。
#20 
厥初孰開張,黽勉誰勸侑。創茲樸而巧,戮力忍勞疚。
得非施斧斤,無乃假詛咒。鴻荒竟無傳,功大莫酬僦。
嚐聞於祠官,芬苾降歆嗅。斐然作歌詩,惟用讚報酭。


現代語訳と訳註
(本文)
12 
昨來逢清霽,宿願忻始副。
崢嶸躋塚頂,倏閃雜鼯鼬。
前低劃開闊,爛漫堆眾皺。
或連若相從,或蹙若相鬥。
或妥若弭伏,或竦若驚雊。
 
(下し文)
昨来【さくらい】清霽【せいせい】に逢い、宿願【しゅくがん】始めて副うことを忻【よろこ】ぶ。
崢嶸【そうこう】として塚頂【ちょうちょう】に躋【のぼ】れば、倏閃【しゅくせん】として鼯鼬【ごゆう】を雜【もじ】う。
前低くして劃【かく】して開闊【かいかつ】なるところ、爛漫【らんまん】として衆皺【しゅうしゅう】を堆す。
或るいは連なって相い従うが若く、或るいは蹙【ちじ】まって相い鬥【たたか】うが若し。
或るいは妥うして弭【なび】き伏すが若く、或るいは竦【つまさきだ】って驚き雊【な】くが若し。


(現代語訳)
昨日からは折りよく上天気にめぐまれた、長年の望みがありがたくもやっと叶えられるというものだ。
嶮しくそそりたつ山頂に登って行く、閃光のようにぱっ、ぱっと「むささび」や「いたち」があらわれてわれわれの前を連れ立って行くのである。
前が低くなってぱあっと急に開けたところにきた、いちめんに遠くの方へばらばらにちらばっているさまざまな山並みが積み重なっている。
あるものは連れ添って行く様に連なり、あるものは戦い取っ組み合いをしているようにちぢこまっている。
あるものは降参したようにどっかと坐り、あるものは驚いたキジが鳴いて立ちあがり、つまさき立っているようにも見える。


(訳注)
昨來逢清霽,宿願忻始副。
昨日からは折りよく上天気にめぐまれた、長年の望みがありがたくもやっと叶えられるというものだ。
昨來逢清霽 晴天にめぐまれて、はじめて頂上に到達し、ながめを存分にしたことを述べる。山の種種なさまを「或若」或るいは…・:の若し、という形で、形容しており、こうした羅列する形式は、詩というより、むしろ読誦された文「賦」の様式に多く用いられたものである。韓愈は、賦の形式をこの詩にとり入れて、新鮮さを感じさせ、と同時に詩経のような古風な味を出そうとしたもののように思われる。なお、山の状態の形容は、この段以下にもつづく。・咋来は、きのう以来。・来は、近来、年来の来。清霽は、きれいに晴れる、雲が一つもなくなる。〇宿願 まえからの願い。宿は、まえからもっていたということ、宿志などの宿。○ 欣と同じ。よろこぷ。○始副 始は、ここではじめて、やっと。副は、つりあう、願いが思い通りになる。


崢嶸躋塚頂,倏閃雜鼯鼬。
嶮しくそそりたつ山頂に登って行く、閃光のようにぱっ、ぱっと「むささび」や「いたち」があらわれてわれわれの前を連れ立って行くのである。
崢嶸 高くけわしいさま。○ 登る。○塚頂 塚も、山の頂上、○倏閃 倏も閃も速くうごくさま。ばっと。○鼯鼬 鼯鼬は、むささび。前肢と後肢のあいだに、皮阪があって、それをひろげ空中を滑走することができる。鼯鼬は、いたち。あるいは、むささびは、夷由ともいうから、辞典によると、鼯鼬で、むささびのことをいう場合もあるようだ。


前低劃開闊,爛漫堆眾皺。
前が低くなってぱあっと急に開けたところにきた、いちめんに遠くの方へばらばらにちらばっているさまざまな山並みが積み重なっている。
前低劃開闊 前が低くなってそこをくぎりとしてからりと闊けている。山頂についたわけである。劃は、そののぼりついたところを、はっきりさかいとして。○爛漫 遠くの方へばらばらにちらばっている形容。
 

或連若相從,或蹙若相鬥。
あるものは連れ添って行く様に連なり、あるものは戦い取っ組み合いをしているようにちぢこまっている。


或妥若弭伏,或竦若驚雊。
あるものは降参したようにどっかと坐り、あるものは驚いたキジが鳴いて立ちあがり、つまさき立っているようにも見える。
驚雊 雊は、きじの鳴くこと。


昨来【さくらい】清霽【せいせい】に逢い、宿願【しゅくがん】始めて副うことを忻【よろこ】ぶ。
崢嶸【そうこう】として塚頂【ちょうちょう】に躋【のぼ】れば、倏閃【しゅくせん】として鼯鼬【ごゆう】を雜【もじ】う。
前低くして劃【かく】して開闊【かいかつ】なるところ、爛漫【らんまん】として衆皺【しゅうしゅう】を堆す。
或るいは連なって相い従うが若く、或るいは蹙【ちじ】まって相い鬥【たたか】うが若し。
或るいは妥うして弭【なび】き伏すが若く、或るいは竦【つまさきだ】って驚き雊【な】くが若し。