南山詩 韓退之(韓愈)詩<63-#20>Ⅱ中唐詩396 紀頌之の漢詩ブログ1267
806年 元和元年夏まで江陵におり、権知国子博士に転任、長安に帰る。 


南山詩(韓愈 唐詩)(全20回)#1~#20
第一部 終南山連峰の概要・四季
第二部 終南山朝夕・周辺の事項
第三部 以前左遷の際、冬に終南山を抜けた時の事
第四部 以前左遷の際、冬に終南山を抜けた時の事
終南山01
第五部 (#17~#20―十句五聯を四章分)終南山の特徴

#17  
或屹若戰陣,或圍若蒐狩。
あるものは戦陣のとりでのようにそば立ち、あるものは巻き狩りのようにとり囲んでいる。
或靡然東注,或偃然北首。
あるものはなだらかに東に流れこみ、あるものはながながと北向きに寝そべっている。
或如火熹焰,或若氣饙餾。
あるものは御飯をたく火のように、あるものは蒸し上げるゆげのようである。
或行而不輟,或遺而不收。
あるものはどこまでも歩いて行き止まることはない、あるものは片付けられずおいてきぼりになっている。
或斜而不倚,或弛而不彀。
あるものは斜面ではあるがかたむくほどではなく、あるものはぴんと張らずにだらりとゆるんでいる。
或るいは屹【きつ】として戦陣【せんじん】の若く、或るいは囲んで蒐狩【しゅうしゅ】の若し。
或るいは靡然【びぜん】として東に注ぎ、或るいは偃然【えんぜん】として北に首【む】こう。
或るいは火の熹焰【きえん】するが如く、或るいは気の饙餾【ふんりゅう】するが若し。
或るいは行って輟【とど】まらず、或るいは遺【のこ】して収【おさ】めず。
或るいは斜【ななめ】にして倚【かたよ】らず、或るいは弛【ゆる】うして彀【は】らず。

#18
或赤若禿鬝,或熏若柴槱。
あるものは頭のはげのように赤裸に、あるものは天を祭る薠柴の儀式のように煙をあげている。
或如龜拆兆,或若卦分繇。
あるものはうらないの亀が前兆を告げてひびわれたかのように、あるものは易の卦が叉を分けて吉凶を定めているかのようである。
或前横若剝,或後斷若姤。
ある唇のは剥の卦のように前の山が横たわり、あるものは姤の卦のように後の峰が断ち切れている。
延延離又屬,夬夬叛還遘。
ながながと連なり、きれて離れては又続くところもあり、ちぎれちぎれにそむきあってはまた出逢うところもある。
喁喁魚闖萍,落落月經宿。
ぱくぱくと魚が浮き草の間から頭を出しているのもある。そしてちらりほらりと星が瞬き、月が通り過ぎるときの空の星のまばらになったものもある。
或るいは赤として禿鬝【とうかん】の若く、或るいは熏【くん】じて柴槱【さいゆう】の若し。
或るいは亀【き】の兆【ちょう】を柝【わか】つが如く、或るいは卦【か】の繇【ちゅう】を分かつが若し。
或るいは前の横たわって剥【はく】の若く、攻るいは後【しり】えの断えて姤【こう】の若し。
延延【えんえん】として離れて又属【つら】なり、夬夬【かいかい】として叛いて還た遘【あ】えり。
喁喁【ぎょうぎょう】として魚は萍【うきぐさ】を闖【うか】がい、落落【らくらく】として月は宿を経【ふ】。


#19
誾誾樹牆垣,巘巘駕庫廄。
きちんと土塀を築き上げているもあり、高高と蔵や馬屋を建てているもある。
參參削劍戟,煥煥銜瑩琇。
するどく聳えるようで、ちょうど剣や戈をとがらせて立たせているもあり、死者がきらきらと宝石を口にくわえているもある。
敷敷花披萼,闟闟屋摧霤。
蕾を咲かせ、爛漫と花がさいているようであり、ぼたぼたと屋根が雨だれをたたきつけているものもある。
悠悠舒而安,兀兀狂以狃。
ゆったりとのどかにして安らかなものもあり、めったやたらに狂ったように昂奮し、それでもってなれなれしいのもある。
超超出猶奔,蠢蠢駭不懋。
ひらりととび出してなお走りつづけるようなものもあり、がやがやとさわぎ立てるばかりで努力しようとしないものもある。
大哉立天地,經紀肖營腠。
大いなるかな この山は天地のあいだに立ち、秩序の正しさはからだの組織にも似ている。
誾誾【ぎんぎん】として牆垣【ちょうたん】を樹【た】て、巘巘【げんげん】として庫厩【こきゅう】を駕す。
参参【しんしん】として剣戟【けんげき】を削り、煥煥【かんかん】として瑩琇【えいしゅう】を銜【ふく】めり。
敷敷【ふふ】として花は萼【がく】を披【ひら】き、闟闟【とうとう】として屋は霤【したた】りを摧【くだ】く。
悠悠として舒【の】べて安く、兀兀【ごつごつ】として狂【たわ】れて以て狃【な】る。
超超として出でて猶奔【はし】り、蠢蠢【しゅんしゅん】として駭【おどろ】いて懋【つと】めず。
大【だい】なるかな天地に立ち,經紀【けいき】は營腠【えいそう】に肖【に】たり。終南山05

#20 
厥初孰開張,黽勉誰勸侑。
最初は誰が入山し、展開したのか、誰が熱心につとめはげみ勧めつづけたのか。
創茲樸而巧,戮力忍勞疚。
この南山の創りだしたのはかざりけのないが巧妙なものだ、力を合わせて苦労を耐えていったのであろう。
得非施斧斤,無乃假詛咒。
斧や鉈を加えたのではなかったらできるわけはない、それともまじないの力を借りたのではなかろうか。
鴻荒竟無傳,功大莫酬僦。
大昔、天地の創造の開けはじめたときからすべて伝わる言葉もなく、仕事の大きさゆえに報いることもできない。
嚐聞於祠官,芬苾降歆嗅。
かつてあるとき祭祀に奉仕する官吏に聞いたことがあった、かぐわしい香には神が降りてきて嗅ぎわけられたのである。
斐然作歌詩,惟用讚報酭。

目にも美しいもようのようにこの詩を作り、それをもってささげつものの一助とするのである。

厥【そ】の初め孰【た】れか開張【かいちょう】せし,黽勉【びんべん】として誰か勸侑【かんゆう】せす。
茲を創【はじ】むること樸にして巧みに,力を戮【あわ】せて勞疚【ろうきゅう】を忍びたるか。
斧斤【ふきん】を施すに非ざるを得【え】んや,無乃【むしろ】詛咒【そじゅつ】を假れるか。
鴻荒【こうこう】にして竟に傳うること無く,功大にして酬僦【しゅうしゅう】すること莫し。
嚐って祠官【しかん】に聞けり,芬苾【ふんひつ】には降【くだ】って歆嗅【きんきゅう】すと。
斐然【ひぜん】として歌詩を作り,惟れ用って報酭【ほうゆう】を讚【たす】けん。

終南山03

現代語訳と訳註
(本文) #20 
厥初孰開張,黽勉誰勸侑。
創茲樸而巧,戮力忍勞疚。
得非施斧斤,無乃假詛咒。
鴻荒竟無傳,功大莫酬僦。
嚐聞於祠官,芬苾降歆嗅。
斐然作歌詩,惟用讚報酭。


(下し文)
厥【そ】の初め孰【た】れか開張【かいちょう】せし,黽勉【びんべん】として誰か勸侑【かんゆう】せす。
茲を創【はじ】むること樸にして巧みに,力を戮【あわ】せて勞疚【ろうきゅう】を忍びたるか。
斧斤【ふきん】を施すに非ざるを得【え】んや,無乃【むしろ】詛咒【そじゅつ】を假れるか。
鴻荒【こうこう】にして竟に傳うること無く,功大にして酬僦【しゅうしゅう】すること莫し。
嚐って祠官【しかん】に聞けり,芬苾【ふんひつ】には降【くだ】って歆嗅【きんきゅう】すと。
斐然【ひぜん】として歌詩を作り,惟れ用って報酭【ほうゆう】を讚【たす】けん。


(現代語訳)
最初は誰が入山し、展開したのか、誰が熱心につとめはげみ勧めつづけたのか。
この南山の創りだしたのはかざりけのないが巧妙なものだ、力を合わせて苦労を耐えていったのであろう。
斧や鉈を加えたのではなかったらできるわけはない、それともまじないの力を借りたのではなかろうか。
大昔、天地の創造の開けはじめたときからすべて伝わる言葉もなく、仕事の大きさゆえに報いることもできない。
かつてあるとき祭祀に奉仕する官吏に聞いたことがあった、かぐわしい香には神が降りてきて嗅ぎわけられたのである。
目にも美しいもようのようにこの詩を作り、それをもってささげつものの一助とするのである。


(訳注)
厥初孰開張,黽勉誰勸侑。

最初は誰が入山し、展開したのか、誰が熱心につとめはげみ勧めつづけたのか。
厥初 厥は、その。「書経」などに見える古いいい方である。隠棲の場所として開かれ、浄土教や道教の修行山とされている。○ 誰。○開張 展開する。くりひろげる。○黽勉 熱心につとめはげむさま。○勧侑 勧も侑も、すすめる。


創茲樸而巧,戮力忍勞疚。
この南山の創りだしたのはかざりけのないが巧妙なものだ、力を合わせて苦労を耐えていったのであろう。
 素朴。かざりけがない。○戮力 力をあわせる。あるいは、努力する。○ 卒抱する。耐え忍ぶ。○勞疚 苦労。疚は、苦しみ。


得非施斧斤,無乃假詛咒。
斧や鉈を加えたのではなかったらできるわけはない、それともまじないの力を借りたのではなかろうか。
得非……無乃 ……でなければ、……ではなかろうか。得非は、反語。……ではないか。無乃も、反語。古い訓読の習慣にしたがい、「むしろ」と読むが、「乃ち……無からんや」、「……ではないか」の意。同じような構文をかさねて、その二つのどちらかであることを示す。○斧斤 斧も斤も、ともに木を伐採する。○ 借りる。その助けを得る。○詛咒 まじない。おのうという悪い意味はなく、自分の願いがかなうように神に祈る単純なまじないの意。


荒竟無傳,功大莫酬僦。
大昔、天地の創造の開けはじめたときからすべて伝わる言葉もなく、仕事の大きさゆえに報いることもできない。
鴻荒 天地開闢の大昔。○酬僦 酬は、がんらい主人が客に返杯すること。僦は、何かを借りたとき借り賃を支払うこと。酬僦は、ここでは、山を造った労苦に対して報酬を支払うことをいう。
 

嚐聞於祠官,芬苾降歆嗅。
かつてあるとき祭祀に奉仕する官吏に聞いたことがあった、かぐわしい香には神が降りてきて嗅ぎわけられたのである。
 過去にあった経験であることを示す助辞。……したことがあった。○官 祭祀に奉仕する官吏。神官。○芬苾 ぷんぷんとよいかおりがする形容。○歆嗅 歆は、神が供物の香気を享けさせられること。嗅は、においをかぐこと。


斐然作歌詩,惟用讚報酭。
目にも美しいもようのようにこの詩を作り、それをもってささげつものの一助とするのである。
斐然 美しいもようのあるさま。それから、文章の美しいのを形容する。○ 文のはじめに来る詞子を整える助辞。○ それを用いて、それで。○ 助ける。補助とする。○報酭 酭も報の意味。ここでは、造物主のこの大きな仕事に対するお礼をいう。