重雲李觀疾贈之 #2 唐宋詩201Ⅱ韓退之(韓愈) 紀頌之の漢詩ブログ 韓愈特集-5
孟郊が進士の試に合格したのは貞元十二年〈七九六〉であった。すなわちこの詩は、合格前の郊に贈ったものである。礼部の試には合格したが、吏部の試には落第した愈と、礼部の試にも合格できぬ郊と、落第の段階は違うが、官職につけず、俸給がもらえない点では、変わりがない。だから愈のこの時期の詩はヽ進士の試に合格はしたもののヽ「門を昨ず」と同じ調子をもっている・ そして翌貞元十年〈七九四〉に、愈が最も尊敬していた同輩の李観が死んだ。観はすでに博学鴻辞の科にも合格し、太子校書の職を授けられていた。その最後の病床に、愈は一首の詩を贈った。
李観が死んだのは、貞元十年の春である。この春は異常に長雨が続き、『唐書』「五行志」によれば、四か月のあいだに降らなかったのはたった一日か二日であったという。詩はそのときに作られたのであろう。
重雲李觀疾贈之
#1
天行失其度,陰氣來幹陽。
重雲閉白日,炎燠成寒涼。
小人但咨怨,君子惟憂傷。
飲食爲減少,身體豈寧康。」
#2
此志誠足貴,懼非職所當。
君の気持はほんとうに貴ばれる値うちのあるものである、ただ、おそらくは君の職責の該当する問題ではあるまい。
藜羹尚如此,肉食安可嚐。
わたしにしたって、俸禄がなくアカザを実にした吸い物を啜る今の身分ではあるがこのとおりである、高い身分の人が食ベる肉料理など、味わうことができるものか。
窮冬百草死,幽桂乃芬芳。
冬の極まった季節には全部の草が枯れてしまうものであるが、そうなると奥まったところに植えられている桂であってもよい香りを放つということなのだ。
且況天地間,大運自有常。
ましてこの天地の間に、めぐり来る運命にはそれなりの法則性があるものだ(だから君の病気はきっと全快する。
勸君善飲食,鸞鳳本高翔。」
しっかり食事をとることを君に進める。君は非几な鸞鳳である、もともと世俗を超越して、高く翔るものなのだ。
#1
天行 其の度を失い、陰気 来たりて陽を干(おか)す。
重雲(ちょううん)は白日を閉し、炎燠(えんいく)は寒涼と成る。
小人は但だ咨怨(しえん)するのみ、君子は惟れ憂傷す。
飲食 為に減少す、身体 豈 寧康ならんや。
#2
此の志 誠に貴ぶに足るも、懼(おそ)らくは職の当たる所に非じ。
藜羹(れいこう)すら 尚 此の如し、肉食 安くんぞ嚐(な)む可けんや。
窮冬(きゅうとう) 百草 死し、幽桂(ゆうけい) 乃ち芬芳(ぶんほう)。
且つ況んや天地の間、大運 自から常有るをや。
君に勸む善く飲食せよ、鸞鳳 本 高翔す。
重雲李觀疾贈之 " 現代語訳と訳註
(本文) #2
此志誠足貴,懼非職所當。
藜羹尚如此,肉食安可嚐。
窮冬百草死,幽桂乃芬芳。
且況天地間,大運自有常。
勸君善飲食,鸞鳳本高翔。」
(下し文) #2
此の志 誠に貴ぶに足るも、懼(おそ)らくは職の当たる所に非じ。
藜羹(れいこう)すら 尚 此の如し、肉食 安くんぞ嚐(な)む可けんや。
窮冬(きゅうとう) 百草 死し、幽桂(ゆうけい) 乃ち芬芳(ぶんほう)。
且つ況んや天地の間、大運 自から常有るをや。
君に勸む善く飲食せよ、鸞鳳 本 高翔す。
(現代語訳) #2
君の気持はほんとうに貴ばれる値うちのあるものである、ただ、おそらくは君の職責の該当する問題ではあるまい。
わたしにしたって、俸禄がなくアカザを実にした吸い物を啜る今の身分ではあるがこのとおりである、高い身分の人が食ベる肉料理など、味わうことができるものか。
冬の極まった季節には全部の草が枯れてしまうものであるが、そうなると奥まったところに植えられている桂であってもよい香りを放つということなのだ。
ましてこの天地の間に、めぐり来る運命にはそれなりの法則性があるものだ(だから君の病気はきっと全快する)。
しっかり食事をとることを君に進める。君は非几な鸞鳳である、もともと世俗を超越して、高く翔るものなのだ。
(訳注)
此志誠足貴,懼非職所當。
(此の志 誠に貴ぶに足るも、懼(おそ)らくは職の当たる所に非じ。)
君の気持はほんとうに貴ばれる値うちのあるものである、ただ、おそらくは君の職責の該当する問題ではあるまい。
○職 職責 李観博学鴻辞の科にも合格し、太子校書の職。
藜羹尚如此,肉食安可嚐。
(藜羹(れいこう)すら 尚 此の如し、肉食 安くんぞ嚐(な)む可けんや。)
わたしにしたって、俸禄がなくアカザを実にした吸い物を啜る今の身分ではあるがこのとおりである、高い身分の人が食ベる肉料理など、味わうことができるものか。
○藜羹 アカザを実にした吸い物。粗末な食物のたとえ。(藜羹を食らう者は大牢の滋味を知らず.)
窮冬百草死,幽桂乃芬芳。
(窮冬(きゅうとう) 百草 死し、幽桂(ゆうけい) 乃ち芬芳(ぶんほう)。)
冬の極まった季節には全部の草が枯れてしまうものであるが、そうなると奥まったところに植えられている桂であってもよい香りを放つということなのだ。
桂 1 カツラ科の落葉高木。山地に自生。葉は広卵形で裏面が白い。雌雄異株。5月ごろ、紅色の雄花、淡紅色の雌花をつけ、花びらはない。材を建築・家具や碁盤・将棋盤などに用いる。おかつら。かもかつら。
2 中国の伝説で、月の世界にあるという木。
桂を折る
《「晋書」郤詵(げきしん)伝から。すぐれた人材を桂の枝にたとえて》官吏登用試験に合格する。桂林(けいりん)の一枝(いっし)
○芬 よいかおりのするさま。匂いただようさま。
且況天地間,大運自有常。
(且つ況んや天地の間、大運 自から常有るをや。)
ましてこの天地の間に、めぐり来る運命にはそれなりの法則性があるものだ(だから君の病気はきっと全快する。
勸君善飲食,鸞鳳本高翔。」
(君に勸む善く飲食せよ、鸞鳳 本 高翔す。)
しっかり食事をとることを君に進める。君は非几な鸞鳳である、もともと世俗を超越して、高く翔るものなのだ。
詩は、韓愈が李観の家へは行かずに、詩のみを贈って病気見舞いとしたらしい。観の病気に対して愈はあまり重大に考えず、気侯不順のため食欲も進まず、身体に違和を来たしたと思っていたようである。それに加えて、天侯の異変は天のいましめであるとする通念がある。まじめな李観は、それを心配しているのであろう。だが、そんなことを心配するのは宰相の職分で、太子校書ごときが心配するのは、越権行為である。そんなことは気にかけず、療養につとめなさい、と愈は言っているのである。
そのかいもなく、李観は死んだ。享年二十九であった。
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