《贈別賀蘭銛》国の進んでいく路も国の始めのころは正しい施政に立ち返る。それが今、天地には未だに戦火の風塵が舞っているのだ。ここの悲しい歌ばかりではこのように白髪頭になってしまう。だから今度の旅立ちでは湘水地方や呉の国(湘水・吳興)に行けば春を迎えることになる赴任になる。
廣徳2年764-8-2 《贈別賀蘭銛》 蜀中転々 杜甫 <658-2> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ3680 杜甫詩1000-658-2-930/1500752-2
作時年:
764年 廣德二年 53歲
卷別: 卷二二○
文體: 五言古詩
詩題: 贈別賀蘭銛
作地點: 目前尚無資料
及地點:
湖州 (江南東道 湖州 湖州) 別名:吳興、吳 ・岷山 (劍南道北部 茂州 岷山) 別名:西山、汶山
交遊人物/地點: 賀蘭銛 當地交遊(山南西道 閬州 閬州)
贈別賀蘭銛 #1
(賀蘭銛君にこの詩を贈って別れる。)
黃雀飽野粟,群飛動荊榛。
食べ飽きることがないという「黃雀」でさえ、野になっている粟に飽きてしまったら、群れをなして飛んで、イバラとハシバミが茂る雑木林に移動するだろう。
今君抱何恨,寂寞向時人。
今の君の立場はそのようなもので、何の怨みを抱くことがあろうか。それはたしかに、一般人の中に入っていくのは心寂しく淋しい思うことであろう。
老驥倦驤首,蒼鷹愁易馴。
年を取った馬は飛び跳ねて走ることを嫌がる。情け容赦のない蒼鷹でさえ愁うことには容易になれるものだ。
高賢世未識,固合嬰飢貧。
高士であり、賢人である儒者がいまだ世に知られていないことではあるが、その清廉潔白な生活で、自分はもとより、かわいいわが乳飲み子でさえ飢えさせているのである。
#2
國步初返正,乾坤尚風塵。
国の進んでいく路も国の始めのころは正しい施政に立ち返る。それが今、天地には未だに戦火の風塵が舞っているのだ。
悲歌鬢髮白,遠赴湘吳春。
ここの悲しい歌ばかりではこのように白髪頭になってしまう。だから今度の旅立ちでは湘水地方や呉の国(湘水・吳興)に行けば春を迎えることになる赴任になる。
我戀岷下芋,君思千里蓴。
わたしは岷山を下って草や芋生い茂る平原を恋しいと思うし、君は千里先の蓴羹鱸膾を楽しめると思う。
生離與死別,自古鼻酸辛。
今の世は、生きていても別れれば死に別れを受けると同じだ、この事は古より別れは辛酸が鼻をついて涙が出るほどのことだといわれているのだ。
(賀蘭銛【がらんせん】に贈り別る)
黃雀 野粟に飽き,群飛して 荊榛に動く。
今君は何の恨を抱きしか,寂寞として 時として人に向う。
老驥 驤首を倦き,蒼鷹 愁いて馴み易し。
高賢 世未だ識らざるなり,固より嬰 飢貧せしに合う。
#2
國の步みは初めて正に返し,乾坤 尚お風塵。
悲歌 鬢髮白にし,遠赴 湘吳の春。
我れ戀きは岷下り芋とし,君思う千里の蓴を。
生離れるは死別を與う,古え自り 鼻 酸辛たり。
『贈別賀蘭銛』 現代語訳と訳註
(本文) #2
國步初返正,乾坤尚風塵。
悲歌鬢髮白,遠赴湘吳春。
我戀岷下芋,君思千里蓴。
生離與死別,自古鼻酸辛。
(下し文) #2
國の步みは初めて正に返し,乾坤 尚お風塵。
悲歌 鬢髮白にし,遠赴 湘吳の春。
我れ戀きは岷下り芋とし,君思う千里の蓴を。
生離れるは死別を與う,古え自り 鼻 酸辛たり。
(現代語訳)
国の進んでいく路も国の始めのころは正しい施政に立ち返る。それが今、天地には未だに戦火の風塵が舞っているのだ。
ここの悲しい歌ばかりではこのように白髪頭になってしまう。だから今度の旅立ちでは湘水地方や呉の国(湘水・吳興)に行けば春を迎えることになる赴任になる。
わたしは岷山を下って草や芋生い茂る平原を恋しいと思うし、君は千里先の蓴羹鱸膾を楽しめると思う。
今の世は、生きていても別れれば死に別れを受けると同じだ、この事は古より別れは辛酸が鼻をついて涙が出るほどのことだといわれているのだ。
(訳注) #2
贈別賀蘭銛
(賀蘭銛君にこの詩を贈って別れる。)
○賀蘭銛 事歴は詳かでない。別にこの詩の数か月後に作った「寄賀蘭銛」詩がある。
朝野歡娛後,乾坤震盪中。相隨萬里日,總作白頭翁。
歲晚仍分袂,江邊更轉蓬。勿雲俱異域,飲啄幾回同。
一時太平全盛で朝となく野となく歓娯をつくしたあと、にわかに兵乱がおこって天地がうごきだしたまっさいちゅう。そのとき君と自分とは万里の遠くまで相随ってきたが、いまやふたりとも白髪のじいさんとなってしまった。いま歳の晩だというのにもやっぱり袂を分かたねばならぬそのうえ此の蜀の江辺で蓬のごとくころがりあるくのである。ここはおたがい他郷の地だから悲しいなどとはいいたもうな、こうやっていっしょに飲食することのできることは生涯に幾度あるのだとおもわれるか、そこを楽しむべきではないか。
國步 初 返正 ,乾坤 尚風塵 。
国の進んでいく路も国の始めのころは正しい施政に立ち返る。それが今、天地には未だに戦火の風塵が舞っているのだ。
「國步」国の進んでいく路。正しい施政。
「乾坤」1 易(えき)の卦(け)の乾と坤。2 天と地。天地。「奔騰狂転せる風は…、―を震撼し、樹石を動盪(どうとう)しぬ」〈露伴・運命〉3 陰陽。4 いぬい(北西)の方角とひつじさる(南西)の方角。5 2巻で一組となっている書物の、上巻と下巻。
悲歌 鬢髮 白 ,遠赴 湘吳 春 。
ここの悲しい歌ばかりではこのように白髪頭になってしまう。だから今度の旅立ちでは湘水地方や呉の国(湘水・吳興)に行けば春を迎えることになる赴任になる。
「湘吳」湘水、吳興。
我戀 岷下 芋 ,君思 千里 蓴 。
わたしは岷山を下って草や芋生い茂る平原を恋しいと思うし、君は千里先の蓴羹鱸膾を楽しめると思う。
「岷」山嶺地名、岷山。岷江
「蓴」蓴羹鱸膾【じゅんこうろかい】故郷を懐かしく思い慕う情のこと。「蓴羹」は蓴菜じゅんさいの吸い物。「羹」はあつもの・吸い物。「鱸膾」は鱸すずきのなますの意。
生離 與死別 ,自古 鼻 酸辛 。
今の世は、生きていても別れれば死に別れを受けると同じだ、この事は古より別れは辛酸が鼻をついて涙が出るほどのことだといわれているのだ。