杜甫 偶題#2
前輩飛騰入,餘波綺麗為。後賢兼舊列,歷代各清規。
法自儒家有,心從弱歲疲。永懷江左逸,多病鄴中奇。
漢魏、建安文学の先輩たちは飛躍してその盛なる漢道のガへ進み入ったが、その余波である六朝ごろになると綺麗なすがたのものとなった。また其の以後の賢人も各のその前代の体制を兼ね、列を為し、歴代それぞれ清新な規律を有して文學の體制をなしたのである。自分の文章の法は、詩の名家であり、儒家であった父祖から得ているので、弱年の時から文章のために心が疲れるほどに懸命にしているのである。分はいつも鮑照・謝靈運以下六朝諸家のすぐれたことを懐うており、三曹建安七子以下の鄴中諸家の非凡なさまを見ては之に対して病というほど夢中になり、飽き足らすことなどないほどのものと考えるのである。
766年-114杜甫 《1801偶題》#2 杜甫詩index-15-766年大暦元年55歲-114 <976-#2> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ6540
杜甫詩1500-976-#2-1479/2500
卷別: 卷二三○ 文體: 五言古詩
詩題: 偶題
作地點: 目前尚無資料
及地點: 相州 (河北道南部 相州 相州) 別名:鄴城、鄴、鄴中
白閣峰 (京畿道 無第二級行政層級 終南山)
皇陂 (京畿道 京兆府 長安) 別名:皇陂、黃陂
偶題 #1
(偶然に書き付けた詩) #1
文章千古事,得失寸心知。
文章は永遠不朽の事業であるが、その任否得失に至ってはただ作者自家の方寸の心が知るばかりのものである。
作者皆殊列,名聲豈浪垂。
むかしから作者とよばれるほどの人人はみな特殊な列位にあるもので、その人人の名聲は故なくしてみだりに後世に垂れるものではない。(それぞれ他人には言えない獨知の長所をもっているから永久につたはったのだ)。
騷人嗟不見,漢道盛於斯。
すっとふるい騒人はなげかわしくも今は見られないが、漢の代になって文章の道はその時に盛となった。
(偶題) #1
文章 千古の事,得失 寸心知る。
作者 皆 殊列なり,名聲 豈に浪りに垂れむや。
騷人 嗟 見えず,漢道 斯に盛んなり。
#2
前輩飛騰入,餘波綺麗為。
漢魏、建安文学の先輩たちは飛躍してその盛なる漢道のガへ進み入ったが、その余波である六朝ごろになると綺麗なすがたのものとなった。
後賢兼舊列,歷代各清規。
また其の以後の賢人も各のその前代の体制を兼ね、列を為し、歴代それぞれ清新な規律を有して文學の體制をなしたのである。
法自儒家有,心從弱歲疲。
自分の文章の法は、詩の名家であり、儒家であった父祖から得ているので、弱年の時から文章のために心が疲れるほどに懸命にしているのである。
永懷江左逸,多病鄴中奇。
分はいつも鮑照・謝靈運以下六朝諸家のすぐれたことを懐うており、三曹建安七子以下の鄴中諸家の非凡なさまを見ては之に対して病というほど夢中になり、飽き足らすことなどないほどのものと考えるのである。
#2
前輩 飛騰して入る,餘波 綺麗と為る。
後賢 舊列を兼ぬ,歷代 各の清規あり。
法は儒家自り有り,心は弱歲從り疲る。
永く懷う 江左の逸,多く病ましめらる鄴中の奇なるに。
#3
騄驥皆良馬,騏驎帶好兒。車輪徒已斲,堂構惜仍虧。
漫作《潛夫論》,虛傳幼婦碑。緣情慰漂蕩,抱疾屢遷移。
#4
經濟慚長策,飛棲假一枝。塵沙傍蜂蠆,江峽繞蛟螭。
蕭瑟唐虞遠,聯翩楚漢危。聖朝兼盜賊,異俗更喧卑。
#5
鬱鬱星辰劍,蒼蒼雲雨池。兩都開幕府,萬宇插軍麾。
南海殘銅柱,東風避月支。
#6
音書恨烏鵲,號怒怪熊羆。稼穡分詩興,柴荊學土宜。
故山迷白閣,秋水隱黃陂。不敢要佳句,愁來賦別離。
#3
騄驥 皆 良馬なり,騏驎 好兒を帶ぶ。
車輪凝らに己に斲す、堂構仍お虧けたるを惜む。
漫りに作る《潜夫論》、虚しく傳う幼婦の碑。
緣情 漂蕩を慰む、抱疾屢ば遷移す。
#4
経済長策を慙づ、飛棲一枝を假る。
塵沙に蜂蠆に傍ふ、江峽蛟螭繞る。
蕭瑟として唐虞遠く,聯翩として楚漢危し。
聖朝盜賊を兼ぬ,異俗更に喧卑なり。
#5
鬱鬱たり星辰劍,蒼蒼たり雲雨の池。
兩都幕府を開く,萬宇 軍麾を插む。
南海 銅柱殘る,東風 月支を避く。
#6
音書 烏鵲を恨む,號怒 熊羆を怪む。
稼穡 詩興を分つ,柴荊 土宜を學ぶ。
故山 白閣迷う,秋水 黃陂を隱う。
敢て佳句を要せず,愁い來りて別離を賦す。
<!--[if !supportLineBreakNewLine]-->
<!--[endif]-->
『偶題』 現代語訳と訳註解説
(本文)
#2
前輩飛騰入,餘波綺麗為。
後賢兼舊列,歷代各清規。
法自儒家有,心從弱歲疲。
永懷江左逸,多病鄴中奇。
(下し文)
#2
前輩 飛騰して入る,餘波 綺麗と為る。
後賢 舊列を兼ぬ,歷代 各の清規あり。
法は儒家自り有り,心は弱歲從り疲る。
永く懷う 江左の逸,多く病ましめらる鄴中の奇なるに。
(現代語訳)
#2
漢魏、建安文学の先輩たちは飛躍してその盛なる漢道のガへ進み入ったが、その余波である六朝ごろになると綺麗なすがたのものとなった。
また其の以後の賢人も各のその前代の体制を兼ね、列を為し、歴代それぞれ清新な規律を有して文學の體制をなしたのである。
自分の文章の法は、詩の名家であり、儒家であった父祖から得ているので、弱年の時から文章のために心が疲れるほどに懸命にしているのである。
分はいつも鮑照・謝靈運以下六朝諸家のすぐれたことを懐うており、三曹建安七子以下の鄴中諸家の非凡なさまを見ては之に対して病というほど夢中になり、飽き足らすことなどないほどのものと考えるのである。
偶題 #1
(偶然に書き付けた詩)
○自己の詩學・文学・儒学に及び、此詩を賦する所以を叙したもので、大暦元年秋夔州にての作ったものである。
前輩飛騰入,餘波綺麗為。
漢魏、建安文学の先輩たちは飛躍してその盛なる漢道のガへ進み入ったが、その余波である六朝ごろになると綺麗なすがたのものとなった。
○前輩 後漢の建安、魏の黃初等の時代の文革界の発輩。建安文学、三曹(曹操・曹丕・曹植)・七子、竹林の七賢(阮籍,王戎,山濤,向秀,けい康,劉伶,阮咸)をいう。
○飛騰入 鳥が飛び、馬が躍り上がるような気持ちで、奮って漢道に入ったということ。
○餘波 漢、魏の文章の流れの余波。
○綺麗為 六朝文学の華美、佳麗な姿をいう。
後賢兼舊列,歷代各清規。
また其の以後の賢人も各のその前代の体制を兼ね、列を為し、歴代それぞれ清新な規律を有して文學の體制をなしたのである。
○後賢 六朝詩人賢人の後の詩人賢人。
○兼舊列 後賢が其の自己より以前の時代の文學の體制を兼ね有すること、廣く材料を取るをいう。
○歷代 各時代。
○各清規 それぞれ清らかなる規律を有す、意匠の新しきところあるをいう。
・以上起十句は詩學の源流か叙す。
法自儒家有,心從弱歲疲。
自分の文章の法は、詩の名家であり、儒家であった父祖から得ているので、弱年の時から文章のために心が疲れるほどに懸命にしているのである。
○法自儒家有 法とは文章の法、儒家とに儒道の家、杜甫の家系は儒家である。杜甫の祖父杜審言は詩の名家である。之より詩法を傳えられしにより儒家より有すという。
○弱歲 二十歳。
永懷江左逸,多病鄴中奇。
自分はいつも鮑照・謝靈運以下六朝諸家のすぐれたことを懐うており、三曹建安七子以下の鄴中諸家の非凡なさまを見ては之に対して病というほど夢中になり、飽き足らすことなどないほどのものと考えるのである。
○江左逸 江左は江東、江南、即ち六朝の都とせし所をいう、鮑照・謝靈運以下六朝諸家をさす、逸とはすぐれたるをいう。
○多病鄴中 病とは鄴中の奇に対して自己を病めりとし、あきたらずとするなり、鄴中の奇なるをあきたらずとするにはあらず。不完全句といわれている。鄴は、魏の都にて今の河南省彰徳府臨漳縣なり。魏の時、三曹(曹操・曹丕・曹植)、鄴中(建安)七子あり、孔融・陳琳・王粲・徐幹・阮瑀・應瑒・劉楨、是なり、叉、曹植も傑出す、此等は謂ゆる鄴中の奇なり。・相州 (河北道南部 相州 相州) 別名:鄴城、鄴、鄴中