題張氏隠居 杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集   3  

張氏とよぶ人の隠れ家にかきつけた詩で、736年 25歳 開元24年、斉州に遊んだ時の作。
七言律詩

題張氏隠居
春山無伴獨相求,伐木丁丁山更幽。
澗道餘寒歷冰雪,石門斜日到林丘。
不貪夜識金銀氣,遠害朝看麋鹿遊。
乘興杳然迷出處,對君疑是泛虛舟。


題張氏隠居
張氏がどんな人物なのかは未詳。竹渓の六逸の一人張叔明だといわれている。又、杜甫の「秋述」に登場する叔卿と同一人かそれとも兄弟かなどというが、いずれも臆説にすぎない。詩中の「石門斜日」の句によれば、其の人は石門山に隠れて居た者であることがわかる。

張氏が隠居に題す
春の山をだれもつれがなく自分一人で尋ね入ると。木びきの音がざあざあときこえて山は音あるためにいっそう静かな感じになる。 
君の品位はすこしも貪欲の念は無いが夜となれば霊地に埋蔵してある金銀の気はおのずからそれとわかり、害に近づくことなくして朝にはつねに麋鹿たちと遊んでいるのを見つけた。  
かかる場所へ来てみるとおもしろくてどんなに山深く仙境にわけ入ったかと思われ、ここの野で去るべきか、立ちどまって居るがよいか迷ってしまう。 君と相対しているときの感じをたとえたとすると、君は「荘子」のいわゆる虚舟を泛(うかべ)る者でその無心さがなんともいえないのである。 


張氏が隠居に題す
春山伴無く独り相求む
伐木丁丁として山更に幽なり
澗道の余寒に冰雪を歴
石門の斜日に林丘に到る
余らずして夜金銀の気を識り
害より遠ざかりて朝に廉鹿の遊ぶを看る
興に乗じて杏然として出処に迷う
君に対すれば疑うらくは足れ虚舟を淀ぶるかと

題張氏隠居:張氏が隠居に題す。 
張氏がどんな人物なのかは未詳。竹渓の六逸の一人張叔明だといわれている。又、杜甫の「秋述」に登場する叔卿と同一人かそれとも兄弟かなどというが、いずれも臆説にすぎない。詩中の「石門斜日」の句によれば、其の人は石門山に隠れて居た者であることがわかる。

春山無伴獨相求、伐木丁丁山更幽。
春の山をだれもつれがなく自分一人で尋ね入ると。木びきの音がざあざあときこえて山は音あるためにいっそう静かな感じになる。 
 ・伴:つれ。 ・相求:求とはその人を尋ねにゆくこと。相とは必ずしも相互的とはかぎらず、相手がありさえすれば使用し得る。ここはこちらから先方を求めるのである。・丁丁:木を伐る音、字面は「詩経」の伐木篇にある。 ・潤道: 谷沿いの道。


澗道餘寒歷冰雪、石門斜日到林丘。
余寒のおりに谷沿いの道を辿って冰や雪のある処をすぎてゆくと、石門に夕日がかかるその時君の住んでいる林丘にたどり着いた。
・余寒:春の残寒。 ・石門:山の名であろう。石門山は曲阜県の東北五十里にある。李白の集に「魯郡の東の石門にて重ねて杜甫に別る」という詩がある。李杜の集に石門というのは同一地をさすものであろう。 ・斜日:よこにさす日光、夕日。 ・林丘:はやしのある丘、張氏の住む処である。


不貪夜識金銀氣、遠害朝看麋鹿遊。

君の品位はすこしも貪欲の念は無いが夜となれば霊地に埋蔵してある金銀の気はおのずからそれとわかり、害に近づくことなくして朝にはつねに麋鹿たちと遊んでいるのを見つけた。  
・金銀気:地下に金銀があると、その気は自のずから上騰する。 ・麋:くじか。

乘興杳然迷出處、對君疑是泛虛舟。
かかる場所へ来てみるとおもしろくてどんなに山深く仙境にわけ入ったかと思われ、ここの野で去るべきか、立ちどまって居るがよいか迷ってしまう。 君と相対しているときの感じをたとえたとすると、君は「荘子」のいわゆる虚舟を泛(うかべ)る者でその無心さがなんともいえないのである。 
・乗興 おもしろさにのりきになる。 ・杳然:おくふかいかたち。 ・出処:いくべきか、処(居)るべきかの二つ。 ・君: 張氏をさす。  ・淀虚舟:「荘子」山木篇に舟で河をわたるとき虚船(人の乗っていない空の舟)が来てぶっつかったなら、いくら意固地の人でも怒らないという話がある。ここは張氏の自己というものの無い人がらをたとえていう。