昔遊 杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集  19(李白と旅する)(李白を詠う-4)

744年 天宝3載 33歳
三人は秋の終わりから冬のはじめにかけて、孟諸沢で狩りの遊でいる。「壮遊」『遣懐』『昔遊』766年大暦元年55歳のときの作品である。「壮遊」は杜甫の自叙伝ともいうべき五言古詩、『遣懐』『昔遊』は李白、高適と遊んだことの思い出を詠っている。ここでは744年頃の思い出ということで、少し取り上げることとする。

 杜甫14  
昔遊                
昔者与高李、晩登単父台。
昔  李白や高適(こうせき)と、日暮れに  単父の台の登る
寒蕪際碣石、万里風雲来。
寒空の下  荒地は碣石につらなり、万里の彼方から  風雲がやってきた
桑柘葉如雨、飛藿共徘徊。
桑の葉は  雨のように落ち、豆の葉も  あたりに飛び散る
清霜大沢凍、禽獣有余哀。』
霜は清らかに降りて  大沢は凍り、鳥や獣は  哀しげな声で啼く
是時倉廩実、洞達寰区開。
時に天下の米倉、穀物蔵は満ちあふれ、大道はいたるところに通じていた
猛士思滅胡、将帥望三台。
勇士は胡賊を滅ぼそうと思い、将軍は三公卿の位につこうと考えていた
君王無所惜、駕馭英雄材。』
君王は彼らの欲するものを惜しげなく与え、天下の人材を自由にあやつられた

幽燕盛用武,供給亦勞哉。吳門轉粟帛,泛海陵蓬萊。
肉食三十萬,獵射起黃埃。』
隔河憶長眺,青歲已摧頹。不及少年日,無複故人杯。
賦詩獨流涕,亂世想賢才。有能市駿骨,莫恨少龍媒。』
商山議得失,蜀主脫嫌猜。呂尚封國邑,傅說已鹽梅。
景晏楚山深,水鶴去低回。龐公任本性,攜子臥蒼苔。』

 昔 遊 
昔者(せきしゃ)  高李(こうり)と
晩(くれ)に単父(ぜんぽ)の台(だい)に登る
寒蕪(かんぶ)は碣石(けつせき)に際し
万里(ばんり)  風雲(ふううん)来たる
桑柘(そうしゃ)の葉は雨の如く
飛藿(ひかく)は共に徘徊(はいかい)す
清霜(せいそう)  大沢(だいたく)凍(こお)り
禽獣(きんじゅう)  余哀(よあい)有り

是(こ)の時  倉廩(そうりん)実(み)ち
洞達(どうたつ)  寰区(かんく)を開く
猛士(もうし)は胡(こ)を滅(めつ)せんことを思い
将帥(しょうすい)は三台(さんだい)を望む
君王(くんおう)  惜(おし)む所無く
英雄の材(ざい)を駕馭(がぎょ)す


幽燕 用武を盛す,供給 亦勞哉。吳門 粟帛を轉ず,海に泛ぶ蓬萊 陵こえる。
肉食 三十萬,獵射 黃埃を起す。』

河を隔てて長眺を憶う,青歲 已頹を摧す。少年の日及ず,複 故人の杯無し。
賦詩 獨り涕を流す,亂世 賢才を想う。能く市駿の骨 有り,少龍媒恨む莫れ。』

商山 得失を議す,蜀主 嫌猜を脫す。呂尚 國邑を封す,傅說 已に鹽梅。
景晏 楚山の深,水鶴 低く回りて去る。龐公 本性を任ず,攜子 蒼苔に臥す。』


大意
昔  李白や高適(こうせき)と、日暮れに  単父の台の登る
寒空の下  荒地は碣石につらなり、万里の彼方から  風雲がやってきた
桑の葉は  雨のように落ち、豆の葉も  あたりに飛び散る
霜は清らかに降りて  大沢は凍り、鳥や獣は  哀しげな声で啼く

時に天下の米倉、穀物蔵は満ちあふれ、大道はいたるところに通じていた
勇士は胡賊を滅ぼそうと思い、将軍は三公卿の位につこうと考えていた
君王は彼らの欲するものを惜しげなく与え、天下の人材を自由にあやつられた


・三台 星の名。北斗七星の第一星から第四星に至る四つの星のもとに上下に並ぶ六個の星を言う。これを上台、中台、下台の三階級に分け、上台は天子后妃、中台は諸侯三公卿太夫、下台は士庶人にあてる。
・粟帛 ゾクハク お供えの穀物と絹。

 宋城の東北には、当時、孟諸沢(もうしょたく)という沼沢が広がっていて、良い猟場だ。三人は秋の終わりから冬のはじめにかけて、孟諸沢で狩りの遊んでいる。

 三人は狩りが終わると、孟諸沢の東北にあった単父(山東省単県)の東楼に登楼して、酒宴を開いたことが李白の詩にみえる。「単父台」というのは単父の北にあった琴台(きんだい)のことで、三人がここを訪ねたのは孟諸沢での狩りのあとだ。琴台はむかし孔子の弟子の宓子賎(ひつしせん)が琴を奏しながら良い政事を行ったという伝説の場所だ。
 琴台の地は、北は碣石山(河北省昌黎県の北)につらなり、霜が降りて孟諸沢は凍りつき、淋しげな荒れた風景であった。


 「昔遊」の詩句からは、杜甫が乱が迫っているのを予感しているような印象を受けるが、当時、箇条書きで示したように知識人なら、比較的常識的予想されたことであった。
・国の体制が従来の冠位以上に実力を加えられた節度使制度に依存する体質に変わっていく。
・この間に府兵制度が崩壊、皇帝の直属の軍隊が実質的になくなる     ⇒律令体制(税と兵)の崩壊へ、

・皇帝の政治からの逃避し、宰相、宦官権限移譲、奢侈、道教へののめりこみなどにより皇帝の威信は完全失墜。
・長期の平穏は腐敗を生んでいく。もともと賄賂を正当な行為とする国民性がある。
・宦官についてはこれより1000年も宮廷の重要な存在となっていくのである。
・これらのことは、当時の一部の知識人たちにはわかっていたようだ。


 皇帝の奢侈と李林甫の強権、道教への傾斜により威信は完璧に失墜していた。杜甫も「是の時 倉廩実ち 洞達 寰区を開く」と詠っているように「開元の盛世」はなおつづいていたその裏では、安禄山に限らず謀叛の火種は燃え始めていた。同時に宦官高力氏を筆頭に大きな力を発揮始めていたのである。

「昔遊」
昔者與高李,晚登單父台。寒蕪際碣石,萬里風雲來。
桑柘葉如雨,飛藿去裴回。清霜大澤凍,禽獸有餘哀。
是時倉廩實,洞達寰區開。猛士思滅胡,將帥望三台。
君王無所惜,駕馭英雄材。幽燕盛用武,供給亦勞哉。
吳門轉粟帛,泛海陵蓬萊。肉食三十萬,獵射起黃埃。
隔河憶長眺,青歲已摧頹。不及少年日,無複故人杯。
賦詩獨流涕,亂世想賢才。有能市駿骨,莫恨少龍媒。
商山議得失,蜀主脫嫌猜。呂尚封國邑,傅說已鹽梅。
景晏楚山深,水鶴去低回。龐公任本性,攜子臥蒼苔。


279 「遣懷」杜甫
昔我游宋中,惟梁孝王都。名今陳留亞,劇則貝魏俱。
邑中九萬家,高棟照通衢。舟車半天下,主客多歡娛。
白刃讎不義,黃金傾有無。殺人紅塵裏,報答在斯須。
憶與高李輩,論交入酒壚。兩公壯藻思,得我色敷腴。
氣酣登吹台,懷古視平蕪。芒碭雲一去,雁鶩空相呼。
先帝正好武,寰海未凋枯。猛將收西域,長戟破林胡。
百萬攻一城,獻捷不雲輸。組練棄如泥,尺土負百夫。
拓境功未已,元和辭大爐。亂離朋友盡,合遝歲月徂。
吾衰將焉托,存歿再嗚呼。蕭條益堪愧,獨在天一隅。
乘黃已去矣,凡馬徒區區。不復見顏鮑,系舟臥荊巫。
臨餐吐更食,常恐違撫孤。