鄭駙馬宅宴洞中 杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集  23

鮒馬都尉鄭潜曜の宅にて、洞穴の中で宴をしたことをのべる。
杜甫は仕官活動の一環であった。
745年天宝4載34歳

鄭駙馬宅宴洞中
主家陰洞細煙霧,留客夏簟青瑯玕。
春酒杯濃琥珀薄,冰漿碗碧瑪瑙寒。
悞疑茅屋過江麓,已入風磴霾雲端。
自是秦樓壓鄭穀,時聞雜佩聲珊珊。

公主のお宅には日陰の洞穴に靄や霧の冷気が細かに湧き出ている、そこへ賓客を夏のたかむしろとして筵を編んだ竹むしろをしいてくれていた。
濃い春酒が薄い琥珀の盃にそそがれ、氷の飲料は寒そぅな色をした瑪瑙の椀のなかでつめたさで碧の宝玉のようにみえる。
洞辺の茅堂を過ぎたら、あたかも江辺の山麓をとおっているのではないかと間違うくらいの涼しさがある、すでに風通しの良い石段の路では雲の端から土粉が降りかかってきた。
元来ここには(洞宅といえば鄭谷であるが)それを圧倒するように秦楼が高くそびえていたのだ、時々仙女の雜佩の音がジャラジャラとにきこえてきた。


(鄭鮒馬が宅にて洞中に宴をする)
主家の陰洞(いんどう)  煙霧 細やかなり
客を留める夏簟(かてん)は  青瑯玕(せいろうかん)
春酒 盃 濃(こまやか)にして 琥珀 薄く
冰漿(ひょうしょう) 碗 碧にして 瑪瑙(めのう) 寒い
誤って疑う 茅堂(ぼうどう) 江麓に過ぎたかと
己に風磴(ふうとう)に入れば 雲端に霾(つちふる)
自ら是 秦楼(しんろう)  鄭谷(ていこく)を圧す
時に聞く 雑佩の声珊珊たるを

鄭駙馬宅宴洞中
○鄭鮒馬 齢馬都尉鄭潜曜をいう。潜曜は杜南の親友鄭処のおいで、玄宗と皇甫淑妃との間に生まれた臨晋公主という姫宮を娶った。潜曜の父は鄭万釣、母は睿宗の姫宮代国長公主(名は華、字は華婉)。○宅、洞 前の「重ネテ鄭氏ノ東亭二題ス」の詩と同じく新安に在る邸潜曜の宅をさす。
天宝四載夏洛陽の時の作である。○洞中 夏時はあっいために洞穴の中に宴した。

 

主家陰洞細煙霧,留客夏簟青瑯玕。
公主のお宅には日陰の洞穴に靄や霧の冷気が細かに湧き出ている、そこへ賓客を夏のたかむしろとして筵を編んだ竹むしろをしいてくれていた。
○主家 公主の家。○陰洞 日光のあたらぬ洞穴。○留客 客とは杜甫自身をさす。○簟 たかむしろ。○青瑯玕 青いくだ だま。これは筵を編んだ竹の色をたとえていう。

春酒杯濃琥珀薄,冰漿碗碧瑪瑙寒。
濃い春酒が薄い琥珀の盃にそそがれ、氷の飲料は寒そぅな色をした瑪瑙の椀のなかでつめたさで碧の宝玉のようにみえる。
○春酒 春できの酒。○濃 酒の濃いことをいう。○琥珀薄 琥珀は盃の材料。○冰漿 氷をいれた飲料。○瑪瑙 瑪瑙は椀の材料。
 
悞疑茅屋過江麓,已入風磴霾雲端。
洞辺の茅堂を過ぎたら、あたかも江辺の山麓をとおっているのではないかと間違うくらいの涼しさがある、すでに風通しの良い石段の路では雲の端から土粉が降りかかってきた。
○悞 誤りに同じ。○過江麓 江麓とは江辺の山麓をいう。○風磴 風磴は石段の路、磴とは磴が高くて風をうけることをいう。けだし洞を出て一層高い丘上に向かうのであろう。○霾 土ふる。灰の如く細かい土粉が風にあおられて雨の如くふりそそぐこと。○雲端 高い処をさす。

自是秦樓壓鄭穀,時聞雜佩聲珊珊。
元来ここには(洞宅といえば鄭谷であるが)それを圧倒するように秦楼が高くそびえていたのだ、時々仙女の雜佩の音がジャラジャラとにきこえてきた。
○自走 もとより。○秦楼 秦の穆公に女があり弄玉といったが、弄玉は簫の名人の蕭史を愛した。穆公は之を妻わしたところ、二人は日々楼上に於て簫を吹き鳳の鳴くが如くであったが、ある日鳳がやって来てその屋に止まり、夫妻はともにその鳳に随って飛び去った。秦楼とは弄玉のすむ楼をいい、臨晋公主の居楼に比する。○圧  高くそびえ下方を圧するが如くであることをいう。○鄭谷 漢の鄭撲、字は子兵。長安の谷口に耕し、賢を以て聞こえた。鄭潜曜のこの洞宅に此する。○雜佩 ぞうはい さまざまの古詩に付けた飾り玉。○珊珊 玉などの鳴るおと。