贈特進汝陽王二十韻  杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集  27

天宝5載 746年 35歳
特進汝陽王十韻(特進汝陽王に贈る二十韻)
特進の位にある汝陽王李礎に贈った詩である。

贈特進汝陽王二十韻
特進のくらいにある汝陽王李璡に贈る
特進羣公表,天人夙德升。
特進李璡公は多くの王公のあるなかにもそのめじるしとなる人で、天下の人としてつとに出きあがった徳は諸公の上に高く出でていた。
霜蹄千裡駿,風翮九霄鵬。』
これをたとえていうと、秋の霜に蹄でもって踏みとどろかす千里駿馬か、九重の天に風にはばたきする鵬鳥のようなものである。』
服禮求毫髪,推思忘寢興。
汝陽王はよく礼儀にしたがい、その些細な点までをも求められ筋を通される。忠誠心もしっかりしていて寝たり起きたりすることさえ忘れられる程である
聖情常有眷,朝退若無憑。
だから聖天子のみこころからいつもお目をかけて御寵愛になり、王が朝廷より退出せられると
仙醴來浮蟻,奇毛或賜鷹。
浮蟻の如き甘酒が王の処へは天子から来る、又時としては奇特な毛色を有する鷹を賜わることもある。
清關塵不雜,中使日相乘。』
邸の門は清掃が行き届き、塵がたまることなくその上閑静である、宮中からのお使いが毎日馬にのってくる。』
晚節嬉游簡,平居孝義稱。
王は中年後になって他人との交遊に礼儀を至って簡略にされたが、平生は孝義ある人物として世間からいわれている。
自多親棣萼,誰敢問山陵。
王は嘗て玄宗が寧王の生前に、之と血筋をわけた兄弟がむつまじくせられたということだけで己に十分満足されておられた、その父の死後、優礼を以て葬られる時に、わざわざ山陵までいかなくてよいと謙遜されていた。
學業醇儒富,詞華哲匠能。
王の学業の富めることは道の正しき儒者の如く、その文辞の華やかなことはすぐれた名人ぐらいの技能がある。
筆飛鸞聳立,章罷鳳騫騰。
文字をかくために筆を飛ばせば鸞鳥がそびえ立ち、一章をかきおわれば鳳凰がとびたつ勢がある。
精理通談笑,忘形向友朋。
談笑の際にもいつも精微な道理が存在しており、朋友には精神を以て交るようにされる。
寸長堪繾綣,一諾豈驕矜。』

その人物に一寸の長所があればそれと親密にし、いか そうとされる情合いがある、なにか人に頼みごとをしてやっても、それでいばったりする様なことはない。』

巳忝歸曹植,何知對李膺。

私は昔の王粲のようなもので、己にかたじけなくも曹植ともいうべきあなたに身を託するようになりましたが、杜密でもない私がどうして李贋ともいうべきあなたに対することができましょう。
招要恩屢至,崇重力難勝。
私を招いてくださる御恩命がしばしば私の処へきます、私を尊重してくださるので、私の力はそれに勝るの難しいほどです。
披霧初歡夕,高秋爽氣澄。
あの雲霧をおしのけて青天をながめるような心地した初めてお会いした夕べには、秋の天高く爽な気がすみわたっていた。
尊罍臨極浦,鳧雁宿張燈。
泉池の一番奥まった浦畔に臨んで酒樽を設け、燈をかかげたそばにはカモや雁がとまっていた。
花月窮遊宴,炎天避鬱蒸。
冬を超えて春は花月の下で遊宴をきわめられ、夏は炎天のむしあつさを避けられる。
硯寒金井水,簷動玉壺冰。』
秋は金井から汲んだ水を硯に寒く滴たらせ、冬は玉壺中の氷かと見間違えるような氷柱が軒端にかかりはじめた。』
瓢飲唯三徑,岩棲在百層。
私は許由の如く瓢で水を飲み、蒋詔の如くただ三径を開いて遁棲していますが、あなたは巌穴に隠棲をされて三径が百層にまでの修行をされている。
謬持蠡測海,況挹酒如澠。
あなたの胸中をおしはかるということ螺杯で海水を測るようなものである、王の饗応に預りその恩のあつさにいたみいっているのです。
鴻寶寧全秘,丹梯庶可淩。
あなたは鴻宝である全ての秘籍を私にかくされない、私はあかい梯をよじ登ってあなたの高きお住居へちかづけると希望している。
淮王門有客,終不愧孫登。』

准南王に匹敵するあなたの門には賓客があるものである。私は嵆康のような半隠半仕で、孫登に塊ずるようなことはしない信念があるのである。



特進のくらいにある汝陽王李璡に贈る
特進李璡公は多くの王公のあるなかにもそのめじるしとなる人で、天下の人としてつとに出きあがった徳は諸公の上に高く出でていた。
これをたとえていうと、秋の霜に蹄でもって踏みとどろかす千里駿馬か、九重の天に風にはばたきする鵬鳥のようなものである。』

汝陽王はよく礼儀にしたがい、その些細な点までをも求められ筋を通される。忠誠心もしっかりしていて寝たり起きたりすることさえ忘れられる程である
だから聖天子のみこころからいつもお目をかけて御寵愛になり、王が朝廷より退出せられると、天子はたよりを失うたようにおぼしめされたし、地位をたのんでいばるようなことは無い様であった。
浮蟻の如き甘酒が王の処へは天子から来る、又時としては奇特な毛色を有する鷹を賜わることもある。
邸の門は清掃が行き届き、塵がたまることなくその上閑静である、宮中からのお使いが毎日馬にのってくる。』

王は中年後になって他人との交遊に礼儀を至って簡略にされたが、平生は孝義ある人物として世間からいわれている。
王は嘗て玄宗が寧王の生前に、之と血筋をわけた兄弟がむつまじくせられたということだけで己に十分満足されておられた、その父の死後、優礼を以て葬られる時に、わざわざ山陵までいかなくてよいと謙遜されていた。
王邸の門は清掃が行き届き、塵がたまることなくその上閑静である、宮中からのお使いが毎日馬にのってくる。』


王の学業の富めることは道の正しき儒者の如く、その文辞の華やかなことはすぐれた名人ぐらいの技能がある。
文字をかくために筆を飛ばせば鸞鳥がそびえ立ち、一章をかきおわれば鳳凰がとびたつ勢がある。
談笑の際にもいつも精微な道理が存在しており、朋友には精神を以て交るようにされる。
その人物に一寸の長所があればそれと親密にし、いか そうとされる情合いがある、なにか人に頼みごとをしてやっても、それでいばったりする様なことはない。』


私は昔の王粲のようなもので、己にかたじけなくも曹植ともいうべきあなたに身を託するようになりましたが、杜密でもない私がどうして李贋ともいうべきあなたに対することができましょう。
私を招いてくださる御恩命がしばしば私の処へきます、私を尊重してくださるので、私の力はそれに勝るの難しいほどです。
あの雲霧をおしのけて青天をながめるような心地した初めてお会いした夕べには、秋の天高く爽な気がすみわたっていた。
泉池の一番奥まった浦畔に臨んで酒樽を設け、燈をかかげたそばにはカモや雁がとまっていた。
冬を超えて春は花月の下で遊宴をきわめられ、夏は炎天のむしあつさを避けられる。
秋は金井から汲んだ水を硯に寒く滴たらせ、冬は玉壺中の氷かと見間違えるような氷柱が軒端にかかりはじめた。』

私は許由の如く瓢で水を飲み、蒋詔の如くただ三径を開いて遁棲していますが、あなたは巌穴に隠棲をされて三径が百層にまでの修行をされている。
あなたの胸中をおしはかるということ螺杯で海水を測るようなものである、王の饗応に預りその恩のあつさにいたみいっているのです。
あなたは鴻宝である全ての秘籍を私にかくされない、私はあかい梯をよじ登ってあなたの高きお住居へちかづけると希望している。
准南王に匹敵するあなたの門には賓客があるものである。私は嵆康のような半隠半仕で、孫登に塊ずるようなことはしない信念があるのである。



(下し文)贈特進汝陽王二十韻
特進のくらいにある汝陽王李璡に贈る

特進は羣公の表 天人 夙德(しゅくとく) 升(のぼ)る
霜蹄(そうてい) 千里の駿 風翮(ふうかく) 九霄(きゅうしょう)の鵬』
礼に服して毫髪を求む 惟れ忠にして寝興を忘る
聖情常に眷(かえりみ)ることあり 朝より退けば憑(よ)る無きが若(ごと)し
仙醴 浮蟻 来る 奇毛 或は 鷹を賜う
清関 塵 雑ならず 中使 日に相乗ず』

晩節 嬉遊 簡なり 平居(へいきょ) 孝義 称せらる
自ら多とす 棣萼に親みしを 誰か敢て 山陵を問わん
学業 醇儒 富み 辞華哲匠の能あり
筆飛べば 鸞聾 立し 章 罷めば 鳳騫 騰す
精理 談笑に通ず 形を忘れて友朋に向う
寸長繾綣に堪えたり 一諾 豈に驕矜せんや』

己に曹植に帰するを忝くす 何如ぞ李膺に対せん
招要恩 屢々(しばしば)至る 崇重 力 勝(た)え難し
霧を披(ひら)く 初歓の夕 高秋 爽気(そうき)澄めり
樽罍(そんらい)  極浦に臨む 鳧雁(ふがん)張燈(ちょうとう)に宿す
花月 遊宴を窮め 炎天 鬱蒸を避く
硯には寒し金井(きんせい) の水 簷には動く玉壷の冰』

瓢飲 惟だ三径 巌棲百層に在り
謬って持す蠡(れい)の海を測るを 況んや挹む酒の澠の如くなるを
鴻宝寧(なん)ぞ全く秘せん 丹梯 庶(こいねがわ)くは凌ぐ可けん
准王門に客有り 終に孫登に愧(は)じず』

 
贈特進汝陽王二十韻
特進のくらいにある汝陽王李璡に贈る
特進 文官の散階正二晶を特進という。元二十九年十一月菜、年六十三)があり、○汝陽王 李璡。容宗と粛明皇后との間に寧主意(初名は成器、開憲の子が進である。進は天宝三載に特進を加えられ、九載に卒した。


特進羣公表,天人夙德升。
特進李璡公は多くの王公のあるなかにもそのめじるしとなる人で、天下の人としてつとに出きあがった徳は諸公の上に高く出でていた。
特進 李璡其の人をさす。○羣公 多くの王公。○ 儀表、めじるしとなっていること。○天人 天上界の人、進は皇族なるゆえかくいう。 ○ 羣公の上にのぼること。 ○夙徳 夙は早に同じ、夙徳とは若くして早くすでにできあがった徳をいう。

霜蹄千裡駿,風翮九霄鵬。
これをたとえていうと、秋の霜に蹄でもって踏みとどろかす千里駿馬か、九重の天に風にはばたきする鵬鳥のようなものである。』
霜蹄 霜を踏むひづめ、馬にたとえる。○風翮 風にうつたちばね、鳥にたとえる。〇九霄 九重のそら。多くの王公。○ おおとり。
 
服禮求毫髪,推思忘寢興。
汝陽王はよく礼儀にしたがい、その些細な点までをも求められ筋を通される。忠誠心もしっかりしていて寝たり起きたりすることさえ忘れられる程である。
服礼 服とは身につけること、従うこと。○毫髪 毫とは髪の十分の一、共にすこしばかりの量をいう。○惟忠 惟は語助辞、忠は君に対する誠心。
 
聖情常有眷,朝退若無憑。
だから聖天子のみこころからいつもお目をかけて御寵愛になり、王が朝廷より退出せられると、天子はたよりを失うたようにおぼしめされたし、地位をたのんでいばるようなことは無い様であった」。
聖情 天子(玄宗)のこころ。○ かえりみる、めをかけて愛する。○朝退 朝廷よりさがる。〇着無憑 天子の側よりみる説と汝陽王の側よりみる説とがある。前説によれば天子がたよりなしとされるとみる。後説によれはたのむ所がない、貴位を挟んで威張ったりせぬこととみる。

仙醴來浮蟻,奇毛或賜鷹。
浮蟻の如き甘酒が王の処へは天子から来る、又時としては奇特な毛色を有する鷹を賜わることもある。
仙醴 仙は飾りの語、醴は甘酒、王室よりくださる甘酒を仙醴という。漢の世に楚の元王が申公・穆生という学者を敬礼し、醴を設けたとの故事がある。○浮蟻 酒の名、けだし泡立てるありさまより名づける。○奇毛 奇特な毛色。

清關塵不雜,中使日相乘。』
王邸の門は清掃が行き届き、塵がたまることなくその上閑静である、宮中からのお使いが毎日馬にのってくる。』
清關 関とは門をいう。○塵不雜 ほこりがごたごたせぬ、俗客と交らぬことをいう。○中便 楚中よりの御使い。○ 馬にのってくる。


晚節嬉游簡,平居孝義稱。
王は中年後になって他人との交遊に礼儀を至って簡略にされたが、平生は孝義ある人物として世間からいわれている。
晩節 中年以後をさす。○嬉游 他賓客とのあそび。○ 礼儀を簡略にすること。又案ずるに、「南斉書」文恵太子伝の「宮内に在り、遨遊玩弄より簡す」の簡と同じく、選択する義か。○平居 平生。○孝義 孝は父に対する道、義は兄弟に対する道についていう。

自多親棣萼,誰敢問山陵。
王は嘗て玄宗が寧王の生前に、之と血筋をわけた兄弟がむつまじくせられたということだけで己に十分満足されておられた、その父の死後、優礼を以て葬られる時に、わざわざ山陵までいかなくてよいと謙遜されていた。
自多 みずから多とする。自ずからとは汝陽王についていう。多とすとはその点を十分だとして満足すること。○親棣萼 棣萼は兄弟の義に用いる。「棠棣」とうていの詩に「棠棣の華、萼不韡韡イイたり」とある。不は跗と同じ、「ざいふり」の花は花に花のあしがうるわしくついているので兄弟のむつまじきことにたとえる。親とは玄宗が寧王に対し親しまれたことをいう。○問山陵 汝陽王の父の寧王が粟ずるや認して譲皇帝といい、橋陵の傍に葬り、恵陵と号したが、王は表を上って′懇辞した。寧王は容宗の太子として帝位に即くべき人であったが玄宗に譲られたのである。山陵を問わぬというのは汝陽王が父を重く葬ることを辞退することである。


學業醇儒富,詞華哲匠能。
王の学業の富めることは道の正しき儒者の如く、その文辞の華やかなことはすぐれた名人ぐらいの技能がある。
醇儒 道の正しき儒者。○哲匠 すぐれた名人。
 
筆飛鸞聳立,章罷鳳騫騰。
文字をかくために筆を飛ばせば鸞鳥がそびえ立ち、一章をかきおわれば鳳凰がとびたつ勢がある。
筆飛 文字を書することをいう。○、鳳 奴に字形の形容。○ あがりとぶ。
 
精理通談笑,忘形向友朋。
談笑の際にもいつも精微な道理が存在しており、朋友には精神を以て交るようにされる。
○精理 精微なる道理。○通談笑 通とは共に存在することをいう。○忘形 形骸のうわべを忘れ、精神を以て交る。
 
寸長堪繾綣,一諾豈驕矜。』
その人物に一寸の長所があればそれと親密にし、いか そうとされる情合いがある、なにか人に頼みごとをしてやっても、それでいばったりする様なことはない。』
寸長 わずかな長所。○繾綣 糸のもつれる貌(親交の情についていう)。〇一諾 漢の季布の故事、季布は侠客であり、その一諸を得ることは黄金百斤を得ることよりもまさるといわれた。王が他人のたのみをひきうけられることをいう。○驕矜 おごり、ほこる。

巳忝歸曹植,何知對李膺。 
私は昔の王粲のようなもので、己にかたじけなくも曹植ともいうべきあなたに身を託するようになりましたが、杜密でもない私がどうして李贋ともいうべきあなたに対することができましょう。
 かたじけなくおもう、謙遜していう。○帰曹植 曹植は魏の曹操の次子、文辞に長じ、文士王粲の徒はこれに帰した。ここは曹植を以て汝陽王に比し、王粲を自己にたとえる。○李贋 後漢の賢人。杜密と親交があり、李杜と称せられる。ここは李贋を王に此し、杜密を自己に比する。

招要恩屢至,崇重力難勝。 
私を招いてくださる御恩命がしばしば私の処へきます、私を尊重してくださるので、私の力はそれに勝るの難しいほどです。
招要 要は邀(むかえる)に同じ、王が作者をむかえること。○恩、力 王の恩、自己の力。○崇重 王が作者を尊重してくれること。

披霧初歡夕,高秋爽氣澄。
あの雲霧をおしのけて青天をながめるような心地した初めてお会いした夕べには、秋の天高く爽な気がすみわたっていた。
披霧 初対面をいう、晋の衛瓘という者が楽広を見たとき、「此の人を見るは、雲霧を披きて青天を覩るが若し」と言ったという。○初歓 初めて王とうちとけて語る。 ○高秋 天高き秋。○爽気 さわやかな気。


尊罍臨極浦,鳧雁宿張燈。
泉池の一番奥まった浦畔に臨んで酒樽を設け、燈をかかげたそばにはカモや雁がとまっていた。
 ○ 大きな酒つぼ。○極浦 一番奥まった浦畔。○宿張燈 燈を張った傍に宿す。按ずるに「披霧」以下の四句は前年の秋について叙する。

花月窮遊宴,炎天避鬱蒸。 
冬を超えて春は花月の下で遊宴をきわめられ、夏は炎天のむしあつさを避けられる。
花月 此の句は春をいう。○炎天 此の句は夏をいう。○鬱蒸 むっとしてむしあつい。

硯寒金井水,簷動玉壺冰。』
秋は金井から汲んだ水を硯に寒く滴たらせ、冬は玉壺中の氷かと見間違えるような氷柱が軒端にかかりはじめた。』
硯寒 秋をいう。○金井 銅の井戸がわを用いた井。○簷 軒端。○ 懸かりはじめること。○玉壺冰 玉壺中にあるが如き美しい氷ということ、氷柱をいう。


瓢飲唯三徑,岩棲在百層。
私は許由の如く瓢で水を飲み、蒋詔の如くただ三径を開いて遁棲していますが、あなたは巌穴に隠棲をされて三径が百層にまでの修行をされている。
瓢飲 許由の故事、むかし許由が手で水を飲んでいると、ある人がこれに一瓢をおくってくれた。由は飲みおわって木の上に掛けたところ風が吹くときひょうひょうと鳴ったので、由はうるさいとして瓢をすてた。ここは許由の遁棲に似ていることをいう。〇三径 後漢の蒋詞というものが隠居して門を塞ぎ舎中にただ三すじの径を開いたとの故事。隠者を学ぶことをいう、此の句は自己をいう。○巌棲在百層 隠棲をされて三径が百層にまでの修行をされている。
 

謬持蠡測海,況挹酒如澠。
あなたの胸中をおしはかるということ螺杯で海水を測るようなものである、王の饗応に預りその恩のあつさにいたみいっているのです。
謬持 謬とは謙辞、持とは抱きもつことをいう。○蠡測海 「漢書」東方朔伝にみえる。蠡は螺、螺貝にてつくった杯を以て海の水の多少をはかる。海とは王の識見度量の深いことをたとえる。○酒如澠 「左伝」昭公十二年にみえる、澠は川の名、澠の如しとは多いことをいう、王の饗応に預りその恩のあついことをいう。

鴻寶寧全秘,丹梯庶可淩。
あなたは鴻宝である全ての秘籍を私にかくされない、私はあかい梯をよじ登ってあなたの高きお住居へちかづけると希望している。
鴻宝 秘籍の名。劉安に「枕中鴻宝苑秘書」があったという、蓋し神仙・黄白(錬金術)の事をかいたもの。○丹梯 梯ははしご、これは赤色の土の山路をさしていう。此の句は上の巌棲百層の句と応ずる。○ おかしてのぼること。

淮王門有客,終不愧孫登。
准南王に匹敵するあなたの門には賓客があるものである。私は嵆康のような半隠半仕で、孫登に塊ずるようなことはしない信念があるのである。
准王 漢の准南王劉安、汝陽王に此する。○ 自己をいう。○愧孫登 魏末に孫登が汲郡の北山に居たとき、嵆康は之に従って遊ぶこと三年、別れんとするとき登は嵆康に謂って「子は才多きも識寡し、今の世に於て禍よリ免るること難し」といった。嵆康は後、非命に死んだが、死に臨み「幽憤詩」を作って、「昔は柳下に慙じ、今は孫登に愧ず」といった。柳下は柳下恵、柳下恵は治世にも乱世にも出でて仕え、孫登は乱世と知って隠遁して仕えなかった。嵆康は二人の如くであることができなかったので二人に対して慙愧するというのである。

嵆康(けいこう) (223~262) 字は叔夜。譙郡の人。嵆昭の子。河内郡山陽に住んだ。竹林に入り、清談にふけった。あるとき訪ねてきた鍾会に挨拶せず、まともに相手をしなかったので恨まれた。官は中散大夫に上った。呂安の罪に連座して、刑死した。竹林七賢のひとり。
『養生論』、『釈仏論』、『声無哀楽論』。 ・幽憤詩 ・贈秀才入軍五首 ・呉謡 ・呂安題鳳
 7/10 ブログ 阮籍 詠懐詩、 白眼視  嵆康 幽憤詩 7/10 ブログ 幽憤詩  嵆康 訳注篇(詳細) 
孫登 竹林の七賢などと絡み、司馬昭が興味を示した魏末の隠逸の士、仙人のような逸話も残る汲郡の孫登も三国時代の人と言える。