冬日洛城北謁玄元皇帝廟 杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集 35
冬の日に洛陽の城の北で玄元皇帝(老子)の廟に詣でて作った詩。天宝八載冬洛陽での作。


冬日洛城北謁玄元皇帝廟
天宝8載 749年 38歳

冬日洛城北謁玄元皇帝廟
 冬日洛城の北にて、玄元皇帝の廟に拝謁。
    〔原注〕廟有呉道子圭五聖囲。
作者註;廟には呉道子が画いた五聖図が有る。

配極元都閟,憑高禁禦長。
山上に老子廟があるが、北極に配してここに天上の玄都の世界をかこっているであるここは高所からの地勢によって人の出入りを禁ずる竹矢来が長くつらなっている。
守祧嚴具禮,掌節鎮非常。
守祧の官は厳重に礼をもってここを守っている、掌節の官は符信によって人を確認をしているし、急変を鎮圧するのである。
碧瓦初寒外,金莖一氣旁。
碧の屋根瓦にも冬日の初寒をかんじさせている、天地間に横たわる元気の傍に銅柱が高く突っ立っている。
山河扶繡戶,日月近雕梁。』
周囲の山河は此の廟の繍戸をかかえて保護する、日も月も此の廟の雕刻した梁木に近くかがやいている。』
仙李蟠根大,猗蘭奕葉光。
老子以後神聖なる李樹はそのわだかまる根がますます大きく、またうつくしい蘭がその葉をつぎつぎとだして光っているように後代になって盛になってきた。
世家遺舊史,道德付今王。』
老子から我が唐までの系譜がどんなにして脈絡をひいて来たかのすじみちは旧来の史官から遺忘され、かきしるされていぬからよくわからぬが、ともかく老子が説いたような道徳そのものは、立派に今の天子(玄宗)に附与せられている。』
畫手看前輩,吳生遠擅場。
此の廟に墻壁にかいた画がある。画家にもいろいろあるが前輩と称せられている人々をも見わたしてみるに呉道子こそは現代に於てのみならず遠く過去へかけてみても画壇の独壇場の者だ。
森羅移地軸,妙絕動宮牆。
彼がかいた森羅せる万象はそれをみると大地から抜けでてここへ移されたかとおもわれその非凡の妙はこの廟の墻面に活動している。
五聖聯龍袞,千官列雁行。
高祖以下の五人の聖天子はその褒竜の御衣をおならべになっているし、また多くの官吏たちが雁の行列のようにはすかいにつらなっている。
冕旒皆秀發,旌旆盡飛揚。』
冕旒(べんりゅう)の色彩はいずれも飛びたつ様にみえ、旌旆のたぐいもことごとくまいあがっている。』
翠柏深留景,紅梨迥得霜。
庭さきをみると翠の柏樹が深々としげって緑影をたもっているし、梨の紅葉ははるかに霜をおびているのがみえる。
風箏吹玉柱,露井凍銀床。』
玉柱には風鈴が風に吹かれてチリンチリン鳴っているし、屋根なし井には銀飾の木架が凍っている。』
身退卑周室,經傳拱漢皇。
老子は生前自分と自分の身をひきこめて周室に於いて卑賤な地位に甘んじていたが、その書きのこした「道徳経」五千言は後代まで伝わって、漢の天子(文帝・景帝の如き)から敬礼を以て迎えられた。
穀神如不死,養拙更何鄉。』

老子自身がといたように谷神というものがあってそれがほんとうに死なぬものとするならば、老子の谷神は今日も存在しているだろうが、その神はどの地方で拙を養いつつあるだろうか。』

冬日洛城の北にて、玄元皇帝の廟に拝謁。
作者註;廟には呉道子が画いた五聖図が有る。
山上に老子廟があるが、北極に配してここに天上の玄都の世界をかこっているであるここは高所からの地勢によって人の出入りを禁ずる竹矢来が長くつらなっている。
守祧の官は厳重に礼をもってここを守っている、掌節の官は符信によって人を確認をしているし、急変を鎮圧するのである。
碧の屋根瓦にも冬日の初寒をかんじさせている、天地間に横たわる元気の傍に銅柱が高く突っ立っている。
周囲の山河は此の廟の繍戸をかかえて保護する、日も月も此の廟の雕刻した梁木に近くかがやいている。』

老子以後神聖なる李樹はそのわだかまる根がますます大きく、またうつくしい蘭がその葉をつぎつぎとだして光っているように後代になって盛になってきた。
老子から我が唐までの系譜がどんなにして脈絡をひいて来たかのすじみちは旧来の史官から遺忘され、かきしるされていぬからよくわからぬが、ともかく老子が説いたような道徳そのものは、立派に今の天子(玄宗)に附与せられている。』

此の廟に墻壁にかいた画がある。画家にもいろいろあるが前輩と称せられている人々をも見わたしてみるに呉道子こそは現代に於てのみならず遠く過去へかけてみても画壇の独壇場の者だ。
彼がかいた森羅せる万象はそれをみると大地から抜けでてここへ移されたかとおもわれその非凡の妙はこの廟の墻面に活動している。
高祖以下の五人の聖天子はその褒竜の御衣をおならべになっているし、また多くの官吏たちが雁の行列のようにはすかいにつらなっている。
冕旒(べんりゅう)の色彩はいずれも飛びたつ様にみえ、旌旆のたぐいもことごとくまいあがっている。』

庭さきをみると翠の柏樹が深々としげって緑影をたもっているし、梨の紅葉ははるかに霜をおびているのがみえる。
玉柱には風鈴が風に吹かれてチリンチリン鳴っているし、屋根なし井には銀飾の木架が凍っている。』

老子は生前自分と自分の身をひきこめて周室に於いて卑賤な地位に甘んじていたが、その書きのこした「道徳経」五千言は後代まで伝わって、漢の天子(文帝・景帝の如き)から敬礼を以て迎えられた。
老子自身がといたように谷神というものがあってそれがほんとうに死なぬものとするならば、老子の谷神は今日も存在しているだろうが、その神はどの地方で拙を養いつつあるだろうか。』

(冬日洛城の北にて、玄元皇帝の廟に謁す)
極に配して玄都閟ず 高きに憑りて禁禦長L
守祧 嚴に礼を具う 掌節非常を鎮す
碧瓦 初寒の外 金莖一気の勇
山河 繍戸を扶け 日月雕梁に近し』
仙李 嗜根大に 猗蘭奕葉光る
世家 旧史に遺さるるも 道徳は今王に付す』
画手 前輩を看るに 呉生 遠く場を擅にす
森羅 地軸を移す  妙絶 宮牆に動く
五聖 竜袞を聯ぬ  千官 雁行列す
冕旒 供に秀発す  旌旆 尽く飛揚す』
翠柏 深くして景を留め 紅梨 迥にして霜を得
風箏 玉柱に吹かれ  露井に銀床凍る』
身退きて周室に卑し 経伝りて漢皇に拱せらる
谷神如し死せずんば 拙を養う更に何の郷ぞ』


冬日洛城北謁玄元皇帝廟
冬日、洛城の北にて、玄元皇帝の廟に謁す
○冬日 天宝八載の冬の日。○洛城 洛陽城。○玄元皇帝廟 老子の廟。唐の高宗の乾封元年に亳州(安徽省穎州府亳州治)に幸して老君廟に詣り、老子を追尊して玄元皇帝となした。玄宗の741年開元二十九年詔して両京諸州に各上玄元皇帝の廟を置かせた。744年天宝二年三月王子、親ら玄元廟を祀り、西京(長安)の玄元廟を改めて太清宮となす、東京(洛陽)の廟を太微官となし、天下のものを紫微官となした。廟を宮と改めたのは己に天宝二年のことであるのに此の詩の題に玄元皇帝廟というのは旧称によったものである。詩中に「五聖聯二竜衰ことある事実は749年天宝八載閏六月の事であり、題の「冬日」というのは其の年の冬であることを知る。750年天宝九載には作者は長安に帰って「三大礼賦」を献じ、洛陽にはいなかった。

漢魏隋唐の洛陽城


配極元都閟,憑高禁禦長。
山上に老子廟があるが、北極に配してここに天上の玄都の世界をかこっているであるここは高所からの地勢によって人の出入りを禁ずる竹矢来が長くつらなっている。
配極 極とは北極星。廟は洛陽城の北にあるゆえに極に配すという。漢魏期の洛陽城を基本にしている。○玄都  玄都は即ち老子神の住む都、廟地を基本にいう。○ 深く閉ざすこと。○憑高 廟は北部山の上にある故にかくいう。○禁禦 禦は竹矢来の類、人の往来を禁じているので禁という。


守祧嚴具禮,掌節鎮非常。
守祧の官は厳重に礼をもってここを守っている、掌節の官は符信によって人を確認をしているし、急変を鎮圧するのである。
守祧 祧とは一方より他の廟へ遷した先祖の御位牌を蔵するところをいう、ただ廟の事にいう、その廟を守る役人を守祧という。唐では老子を尊んで聖祖とし、先祖あっかいをするゆえ老子廟を守る役人を守祧という。○掌節 これも役人の称、節とは信(しるしの物、切符其の他の此処に出入することを許される証拠物件)であり、その信のことを掌る掛りのものを掌節という。○ 鎮圧する、防衛の任にあたる。○非常 変事をいう。


碧瓦初寒外,金莖一氣旁。
碧の屋根瓦にも冬日の初寒をかんじさせている、天地間に横たわる元気の傍に銅柱が高く突っ立っている。
碧瓦 琉璃色の瓦、これをもって屋根を葺く。○初寒 冬日ゆえ寒気が初めて催す。○金茎 銅でつくった柱。廟に銅柱があったことは書籍には見えないが此の詩句によればあったものとみえる。〇一気 天地間に横たわる元気をいう。
 
山河扶繡戶,日月近雕梁。』
周囲の山河は此の廟の繍戸をかかえて保護する、日も月も此の廟の雕刻した梁木に近くかがやいている。』
 わきからかかえて保護する。○繍戸 錦繍の類をはりつけてかざった廟の戸。○ 日月が近いとは廟の高いことをいう。○雕梁 雕刻を施したはり。


仙李蟠根大,猗蘭奕葉光。
老子以後神聖なる李樹はそのわだかまる根がますます大きく、またうつくしい蘭がその葉をつぎつぎとだして光っているように後代になって盛になってきた。
仙李 仙とは神聖なるという意。老子は生まれたとき李樹を指さして、「此を以て我が姓とせん」といったとの伝説がある。老子は、姓は李、名は耳、字は伯陽、認して恥という。唐も李姓で遠祖は老子より出たと自称していたので李のことを用いる。○蟠根 わだかまる根。○猗蘭 猗は美しく盛んなこと。ここは上の李と対して蘭を用いているけれども意は一事をつづけていう。○奕葉 奕は絶えぬこと。その実がつぎつぎと生じて光輝があるということ。


世家遺舊史,道德付今王。』

老子から我が唐までの系譜がどんなにして脈絡をひいて来たかのすじみちは旧来の史官から遺忘され、かきしるされていぬからよくわからぬが、ともかく老子が説いたような道徳そのものは、立派に今の天子(玄宗)に附与せられている。』
世家 単に李氏の系譜。○ 過忘・遺失の義。○旧史 ふるい歴史の官、または「史記」の著者司馬遷。○道徳 これにつき旧説は老子の著わした「道徳経」ととき、玄宗が嘗て「遺徳経」に注した。


畫手看前輩,吳生遠擅場。
此の廟に墻壁にかいた画がある。画家にもいろいろあるが前輩と称せられている人々をも見わたしてみるに呉道子こそは現代に於てのみならず遠く過去へかけてみても画壇の独壇場の者だ。
画手 画家。○前輩 さきに出身したもの。○呉生 呉遣玄。道玄字は道子、東京陽雀の人。玄宗は其の名を知り、召して内に入れて供奉させた。その画は人物仏像、神鬼禽獣、山水台殿草木において皆世に冠絶し唐朝第一と称せられる。○ 過去をさす。○檀揚 場を接にするとは独り舞台であることをいう。○森羅 万象のつらなっているさま。


森羅移地軸,妙絕動宮牆。

彼がかいた森羅せる万象はそれをみると大地から抜けでてここへ移されたかとおもわれその非凡の妙はこの廟の墻面に活動している。
移地軸 移とは此の廟へうつし来たることをいう。地軸は古人も地に多くの軸があると考えた、ただしここの地軸とは大地の根というほどの義であろう。○妙絶 非常の妙。○動宮堵 動とは活動すること、えがかれた事物が活き活きしていること。


五聖聯龍袞,千官列雁行。

高祖以下の五人の聖天子はその褒竜の御衣をおならべになっているし、また多くの官吏たちが雁の行列のようにはすかいにつらなっている。
五聖 五人の聖天子、高祖・太宗・高宗・中宗・容宗をいう。○ ならんでいること。○竜衰 「礼記」礼器第に「天子竜衰」とあり、注に「衰ハ巻ナリ」とみえる。天子の御衣には巻き竜の模様がついている。○雁行 はすかいに列をなす。


冕旒皆秀發,旌旆盡飛揚。』
冕旒(べんりゅう)の色彩はいずれも飛びたつ様にみえ、旌旆のたぐいもことごとくまいあがっている。』
○晃旗 晃は冠、旗は冠からさがっている玉をつらねたびらびら。天子の晃には朱緑のあやがあり、旗が十二本たれる。○秀発 色彩がすぐれてとびたつようにみえる。○旋旅 族は旗竿のさきに羽のついたはた。族は元来ははたの四周についた飾りのびらびらをいうが、はた其の物をもさす。これは行列に伴うものであろう。○飛揚 まいあがっている。


翠柏深留景,紅梨迥得霜。
庭さきをみると翠の柏樹が深々としげって緑影をたもっているし、梨の紅葉ははるかに霜をおびているのがみえる。
○翠柏深 みどりのはくじゅ、深とはずっと奥へつらなるさま。○留景 景は影と同じ。留は冬がれであるにもかかわらず色の残っているのをいう。○紅梨過 梨の葉色のあかくなったもの。通は遠方にみえること。○得霜 霜にあうこと。



風箏吹玉柱,露井凍銀床。』
玉柱にはふうりんが風に吹かれてちりんちりん鳴っているし、屋根なし井には銀飾の木架が凍っている。』
風箏 ふうりん。○ 風にふかれること。○玉柱 りっぱなはしら。○露井 屋根なしの井戸。○銀床 銀でかざった兢櫨架、つるべをつるす所の木架。


身退卑周室,經傳拱漢皇。
老子は生前自分と自分の身をひきこめて周室に於て卑賤な地位に甘んじていたが、その書きのこした「道徳経」五千言は後代まで伝わって、漢の天子(文帝・景帝の如き)から敬礼を以て迎えられた。
身退 我が一身をひきこめる、これは顕要の地位に仕えないことをいう。○卑周室 老子は周室の柱下史(国籍を掌る役)となったが、これは其の地位が甚だひくい。○経伝扶漢皇 「老氏聖紀図」に「河上公、漢ノ文帝二遺徳二経を授く、帝斎戒して之を受く」といい、「神仙伝」に「漢の孝貴、老子経を読み、解せざる所有れば、以て河上公に問う、公乃ち素書二巻を授く」という。漢皇とは漢の文帝・景帝をさす。とは両手をかかえるように合わせること、他人に対する敬礼のしかた、二帝が敬礼を以て老子の書を受けたことをいう。
 
穀神如不死,養拙更何鄉。』
老子自身がといたように谷神というものがあってそれがほんとうに死なぬものとするならば、老子の谷神は今日も存在しているだろうが、その神はどの地方で拙を養いつつあるだろうか。』
谷神如不死 「老子」に「谷神苑セズ、是ヲ玄牝卜謂り」とある。谷神とは人の身中の空寮があるところに元神のあることをいう。ここは老子の神をさす。〇養拙 老子の道は消極的にして巧を貴ばずして拙を貴び、或は雄を知って雌を守るという。○何郷 郷とは地方という。老子は散開を出て胡地に入ったなどの伝説があるが、ゆくえは不明である。故に老子自身の語を活用してかく反問する。
 

冬日洛城北謁玄元皇帝廟
配極元都閟,憑高禁禦長。
守祧嚴具禮,掌節鎮非常。
碧瓦初寒外,金莖一氣旁。
山河扶繡戶,日月近雕梁。』
仙李蟠根大,猗蘭奕葉光。
世家遺舊史,道德付今王。』
畫手看前輩,吳生遠擅場。
森羅移地軸,妙絕動宮牆。
五聖聯龍袞,千官列雁行。
冕旒皆秀發,旌旆盡飛揚。』
翠柏深留景,紅梨迥得霜。
風箏吹玉柱,露井凍銀床。』
身退卑周室,經傳拱漢皇。
穀神如不死,養拙更何鄉。』

(冬日洛城の北にて、玄元皇帝の廟に謁す)
極に配して玄都閟ず 高きに憑りて禁禦長L
守祧 嚴に礼を具う 掌節非常を鎮す
碧瓦 初寒の外 金莖一気の勇
山河 繍戸を扶け 日月雕梁に近し』
仙李 嗜根大に 猗蘭奕葉光る
世家 旧史に遺さるるも 道徳は今王に付す』
画手 前輩を看るに 呉生 遠く場を擅にす
森羅 地軸を移す  妙絶 宮牆に動く
五聖 竜袞を聯ぬ  千官 雁行列す
冕旒 供に秀発す  旌旆 尽く飛揚す』
翠柏 深くして景を留め 紅梨 迥にして霜を得
風箏 玉柱に吹かれ  露井に銀床凍る』
身退きて周室に卑し 経伝りて漢皇に拱せらる
谷神如し死せずんば 拙を養う更に何の郷ぞ』