「樂遊園歌」  杜甫 紀頌之の漢詩ブログ杜甫詩 特集 38
楽遊園のことをうたった歌、長史賀蘭場という人の宴席で酔時の歌である。天宝十載正月晦日の作。
天宝10載 751年 40歳


楽遊園歌
* 〔原注〕晦日。賀蘭楊長史延酔歌。
樂游古園萃森爽,煙綿碧草萋萋長。
楽遊園のこの由緒ある高台の庭は高くそびえて木立ちが繁り、気象さわやかな処だが、もはや春になったから春靄がたなびき碧の草がシュウシュウと生え出、のびてきた。
公子華筵勢最高,秦川對酒平如掌。』

ここに賀蘭公子が設けたはなやかな酒のむしろの宴は、一番高い地勢に設定されているので、ここからみると我が手にする酒と対して秦川の水面が手のひらにのったようにみえる。』
長生木瓢示真率,更調鞍馬狂歡賞。
天然のままの長生木の瓢をぶらさげ、何事も気にしないで、さらに鞍おいた馬をのりこなしながら正気のさたとおもわれぬほどあちらこちらと喜んで眺めまわっている。
青春波浪芙蓉園,白日雷霆夾城仗。
この春真っただ中にあって、波をたたえている芙蓉園がある、そこに、真昼であるのに雷靂がとどろくかとおもわれるような音をたてて爽城の路に天子の旗指物の列が通られている。
閶闔晴開詄蕩蕩,曲江翠幕排銀榜。
御所の御門が晴天に蕩々と音をたてながら開かれると、曲江では翠幕をはりつらね外面に銀字のぴかりあざやかに座席のふだが排列せられる。
拂水低回舞袖翻,緣雲清切歌聲上。』

水を拂い、低く回る美人の袖はひるがえり舞っている、すみきった歌の声はたかく雲によりそういながらのぼっている。』
卻憶年年人醉時,只今未醉已先悲。
ひるがえっておもう毎年毎年、衆人の酔う時節になっている。ただ、いまはまだ酔えない、その前に悲しくなるのである。
數莖白發那拋得?百罰深杯亦不辭。
いつのまにか生じた四五本の白髪はすて去ることもできない。深い杯を百盃の罰を科せられても辞退せぬつもりだ。
聖朝亦知賤士醜,一物自荷皇天慈。
今日の朝廷がまた自分のような賤士のおいぼれを知っていただきたい、その一杯の酒は皇天の慈愛を蒙っているものとしてありがたくお受けいたします。
此身飲罷無歸處,獨立蒼茫自詠詩。』

このからだは酒を飲み終わったところで何処へとも帰えるべき場処をもっていない、一人立ちどまってぼんやりと、みずからの詩を詠うのである。』



楽遊園のこの由緒ある高台の庭は高くそびえて木立ちが繁り、気象さわやかな処だが、もはや春になったから春靄がたなびき碧の草がシュウシュウと生え出、のびてきた。
ここに賀蘭公子が設けたはなやかな酒のむしろの宴は、一番高い地勢に設定されているので、ここからみると我が手にする酒と対して秦川の水面が手のひらにのったようにみえる。』

天然のままの長生木の瓢をぶらさげ、何事も気にしないで、さらに鞍おいた馬をのりこなしながら正気のさたとおもわれぬほどあちらこちらと喜んで眺めまわっている。
この春真っただ中にあって、波をたたえている芙蓉園がある、そこに、真昼であるのに雷靂がとどろくかとおもわれるような音をたてて爽城の路に天子の旗指物の列が通られている。
御所の御門が晴天に蕩々と音をたてながら開かれると、曲江では翠幕をはりつらね外面に銀字のぴかりあざやかに座席のふだが排列せられる。
水を拂い、低く回る美人の袖はひるがえり舞っている、すみきった歌の声はたかく雲によりそういながらのぼっている。』

ひるがえっておもう毎年毎年、衆人の酔う時節になっている。ただ、いまはまだ酔えない、その前に悲しくなるのである。
いつのまにか生じた四五本の白髪はすて去ることもできない。深い杯を百盃の罰を科せられても辞退せぬつもりだ。
今日の朝廷がまた自分のような賤士のおいぼれを知っていただきたい、その一杯の酒は皇天の慈愛を蒙っているものとしてありがたくお受けいたします。
このからだは酒を飲み終わったところで何処へとも帰えるべき場処をもっていない、一人立ちどまってぼんやりと、みずからの詩を詠うのである。』


(楽遊園の歌)
楽遊の古園 萃として森爽、煙綿として碧草 萋萋長ず
公子の華筵 勢 最も高し、秦川 酒に対して平 掌の如し
長生 木の瓢 真率なるを示し、更に鞍馬を調して 歓賞に狂す』
青春 波浪 芙蓉の園、白日 雷靂 爽城の供
閶闔 晴れ開いて談として蕩蕩たり、曲江 翠幕 銀榜を排す
水を払うて 低回 舞袖 翻り、雲に縁って 清切 歌声上る』
卻って憶う 年年 人酔うの時、只今 未だ酔わざるに 己に先ず悲しむ
数茎の白髪 那ぞ拋ち得ん、百罰深杯も亦た辞せず
聖朝亦た知る賤士の醜なるを、一物自ら荷う皇天の慈
此の身飲み罷みて帰する処なし、独立蒼茫自ら詩を泳ず』



楽遊園歌
* 〔原注〕晦日。賀蘭楊長史延酔歌。
楽遊園 また楽遊原ともいう。唐の京兆万年県の南八里にあり、杜甫の居った杜陵の西北に在る。其の遊覧の盛んであった。 ○晦日  唐では正月晦日・三月三日・九月九日を三令節となした。これは正月晦日をさす。今の太陽暦の三月頃にあたるから草も萌え出るのである。○賀蘭楊 人の姓名。詳細不明。 ○長史 官名。長史の官は諸官府にあったので、この人はどの官府長史であるか不明。
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樂游古園萃森爽,煙綿碧草萋萋長。
楽遊園のこの由緒ある高台の庭は高くそびえて木立ちが繁り、気象さわやかな処だが、もはや春になったから春靄がたなびき碧の草がシュウシュウと生え出、のびてきた。
楽遊古園 楽遊園は古の字をはさみ用いる。長安の東南にあって、長安を眺め渡すことができる景勝地のことになる。
後世、杜牧は「將赴呉興登樂遊原」で
淸時有味是無能,閒愛孤雲靜愛僧。
欲把一麾江海去,樂遊原上望昭陵。

李商隠は、 「登樂遊原」
向晩意不適,驅車登古原。
夕陽無限好,只是近黄昏。

清・王士禛は「即目三首其一」で
蒼蒼遠煙起,槭槭疏林響。
落日隱西山,人耕古原上。
 
○萃  シュツ、ソツの二者がある。山の危峻なるさま。○森爽  木立ちがならんで気のさわやかなこと。 ○煙綿 綿とは連綿の綿、春靄のつらなる状態をいう。○萋萋  くさのしげるさま。 ○ のびる。



公子華筵勢最高,秦川對酒平如掌。』
ここに賀蘭公子が設けたはなやかな酒のむしろの宴は、一番高い地勢に設定されているので、ここからみると我が手にする酒と対して秦川の水面が手のひらにのったようにみえる。』
公子 賀蘭場長史をさす。○華造 りっぱな酒のむしろ。勢 地勢。○秦川 秦嶺より流れでる川、一名欒川という。○如掌 掌はたなごころ、手のひら。まったいらであることをいう。



長生木瓢示真率,更調鞍馬狂歡賞。
天然のままの長生木の瓢をぶらさげ、何事も気にしないで、さらに鞍おいた馬をのりこなしながら正気のさたとおもわれぬほどあちらこちらと喜んで眺めまわっている。
長生木 木の名、これを以て瓢をつくる。○ 酒をいれるふくべ。○ 奇形の瓢をぶらさげありのままを人にみせながらの意。○真率 心を飾らずありのままにしておくこと。飲器などにこだわらない、なんでもよい。○調 馬を調教すること。○ やたらにするをいう。



青春波浪芙蓉園,白日雷霆夾城仗。
この春真っただ中にあって、波をたたえている芙蓉園がある、そこに、真昼であるのに雷靂がとどろくかとおもわれるような音をたてて爽城の路に天子の旗指物の列が通られている
青春 はる、五行の考えでは春の色を青とする。○芙蓉園 長安城の東南にあり、曲江の西南に位する。これと香園とは秦の宜春下苑の地であり、園内に芙蓉池がある。○雷霆 かみなり、いかずち。これは車馬・音楽などの音をたとえていう。○爽城仗  仗は天子行幸の儀使(はたさしものをつらねた行列)をいう。宮廷警護の軍隊のみが使用する武器。爽城とは垣壁を以てはさんだ道路、開元二十年に大明宮より芙蓉園までこの道路を築いた。


閶闔晴開詄蕩蕩,曲江翠幕排銀榜。
御所の御門が晴天に蕩々と音をたてながら開かれると、曲江では翠幕をはりつらね外面に銀字のぴかりあざやかに座席のふだが排列せられる。
閶闔 天の門、これは宮城の門をさす。○詄蕩蕩  漢の郊祀歌に見える。如淳の解に「天体清堅ノ状」というが其の義を得ない。蓋し城門のがたついてとどろくさまをいうのであろう。○曲江 下にみえる。「青春」 の句よりこの「曲江」の句までは曲江と宮城とを交互に叙したもの。○翠帳 みどりのまく。○ 排列する。○銀榜 銀字で書いた看板。これは遊覧者の座次をあらわすために、帳の外へ貴族などが家名・爵号などを書いた看板をだすのである。

拂水低回舞袖翻、緣雲清切歌聲上。』
水を拂い、低く回る美人の袖はひるがえり舞っている、すみきった歌の声はたかく雲によりそういながらのぼっている。』
低回 ゆらつくさま。〇緣雲 たかくのぼるをいう。○清切 すみわたってみにしむように。○ 下より空ざまにたちのぼる。
 

卻憶年年人醉時、只今未醉已先悲。
ひるがえっておもう毎年毎年、衆人の酔う時節になっている。ただ、いまはまだ酔えない、その前に悲しくなるのである。
卻憶 前段は遊楽をのべ、ここは一転する。故に「郁って」という。○只今 現在。



數莖白發那拋得、百罰深杯亦不辭。
いつのまにか生じた四五本の白髪はすて去ることもできない。深い杯を百盃の罰を科せられても辞退せぬつもりだ
数茎 茎は本というの類。白髪の本数。 ○ 棄て去るという類。 〇百罰深杯 杯が深いので百杯も罰してのませる、桑乂の故事。○ 辞退する。

 
聖朝亦知賤士醜,一物自荷皇天慈。
今日の朝廷がまた自分のような賤士のおいぼれを知っていただきたい、その一杯の酒は皇天の慈愛を蒙っているものとしてありがたくお受けいたします。
聖朝  今の朝廷。 ○賤士醜  賤士とは作者自ずからをいう、醜とは老醜であることをいう。此の語によれば老醜の故を以て官途にのぼされぬということ。〇一物  一物とは酒を指す。○皇天慈  天のなさけ。



此身飲罷無歸處,獨立蒼茫自詠詩。』
このからだは酒を飲み終わったところで何処へとも帰えるべき場処をもっていない、一人立ちどまってぼんやりと、みずからの詩を詠うのである。
帰処 帰著すべきところ。○蒼茫 荒寂のさま。