送高三十五書記 杜甫 :kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 誠実な詩人杜甫特集 50
 
五言古詩。友人の高適が武威郡(甘粛省武威県)に駐屯する河西節度使の哥舒翰の書記として赴任するのを送る。「三十五」とは、従兄弟をもふくめての兄弟順を示す、いわゆる排行である。高適は杜甫より五歳の年長で、河南・山東を李白などと放浪していたときの友人。天宝12載 753年の夏、四十二歳のときの作。



送高三十五書記
崆峒小麥熟,且願休王師。
いま君が赴く崆峒山のあたりは夏になって小麦が熟したが、自分はしばらく官軍を休息させてもらいたいと願っている。
請公問主將﹕焉用窮荒為?』
君の主人に尋ねたらい、こんな国の果ての不毛の武力を使おうとする必要がどこにあるかと。』
饑鷹未飽肉,側翅隨人飛。
うえた鷹が肉に飽かない間は、羽をそばだてて指示する人の側で飛ぶというものだ。
高生跨鞍馬,有似幽並兒。
高適君が鞍馬にまたがった様子は幽州地方の健児に似て勇ましい。
脫身簿尉中,始與捶楚辭。』
君が河西の書記となったから、これまでの主簿や尉官の境遇から脱けでて、やっとこんど上官からむちうたれることを免れることになった。』
借問今何官,觸熱向武威?
いったい君は今どういう官となったとしても、この熱気をおかして夏の時節に武威あたりの遠方へ向ってでかけるのか。
答雲一書記,所愧國士知。
君は答えていうに、第一書記に過ぎないが、はずかしながら(哥舒翰から)国士としての知遇を得たのだと。
人實不易知,更須慎其儀。』、
人というものは認められにくいもの、さらに一層の人としての儀を慎重にしなければいけないのだ。』
十年出幕府,自可持旌麾。
十年くらいたったら哥舒翰の幕府を出るころには、おのずから軍務の長官になっているだろう。
此行既特達,足以慰所思。
このたびの赴任も特別の栄達で僕の心配を慰めるに足る。
男兒功名遂,亦在老大時。』
更に前途をおもえば男児たるものの功名の志の遂げられるのは年ふけてからことで、十年以後の君が今から想像されるのだ。』
常恨結歡淺,各在天一涯。
常日頃恨んでいることは親しく付き合うことが浅く、互いにそれぞれが別々におり、一方が天のはてに居るのである。
又如參與商,慘慘中腸悲。
又、参星や商星のようにめったに逢えないでいるので、腸のなかまでひどく悲しくてならないのだ。
驚風吹鴻鵠,不得相追隨。
今、突風によって大鳥が吹き飛ばされ遠方へ遠のくが、自分がそれに後にしたがってゆくことができないのだ。
黃塵翳沙漠,念子何當歸。
黄色の砂塵は沙漠の天を暗くしおおっている。君がいつになったら帰ることができるのかとかんがえている。
邊城有餘力,早寄從軍詩。』

君は国境の城内で余力ができたなら、早く従軍詩を作って寄せてくれるといいのだ。




いま君が赴く崆峒山のあたりは夏になって小麦が熟したが、自分はしばらく官軍を休息させてもらいたいと願っている。
君の主人に尋ねたらい、こんな国の果ての不毛の武力を使おうとする必要がどこにあるかと。』

うえた鷹が肉に飽かない間は、羽をそばだてて指示する人の側で飛ぶというものだ。
高適君が鞍馬にまたがった様子は幽州地方の健児に似て勇ましい。
君が河西の書記となったから、これまでの主簿や尉官の境遇から脱けでて、やっとこんど上官からむちうたれることを免れることになった。』

いったい君は今どういう官となったとしても、この熱気をおかして夏の時節に武威あたりの遠方へ向ってでかけるのか。
君は答えていうに、第一書記に過ぎないが、はずかしながら(哥舒翰から)国士としての知遇を得たのだと。
人というものは認められにくいもの、さらに一層の人としての儀を慎重にしなければいけないのだ。
十年くらいたったら哥舒翰の幕府を出るころには、おのずから軍務の長官になっているだろう。
このたびの赴任も特別の栄達で僕の心配を慰めるに足る。
更に前途をおもえば男児たるものの功名の志の遂げられるのは年ふけてからことで、十年以後の君が今から想像されるのだ。』

常日頃恨んでいることは親しく付き合うことが浅く、互いにそれぞれが別々におり、一方が天のはてに居るのである。
又、参星や商星のようにめったに逢えないでいるので、腸のなかまでひどく悲しくてならないのだ。
今、突風によって大鳥が吹き飛ばされ遠方へ遠のくが、自分がそれに後にしたがってゆくことができないのだ。
黄色の砂塵は沙漠の天を暗くしおおっている。君がいつになったら帰ることができるのかとかんがえている。
君は国境の城内で余力ができたなら、早く従軍詩を作って寄せてくれるといいのだ。』



崆峒に小麦熟す 且つ願わくは王師を休めよ
請う 公よ 主将に問え
蔦んぞ荒を窮むるを用て為さんと』

饑鷹 未だ肉に飽かざれば
翅を側めて人に随いて飛ぶ
高生の鞍馬に跨るは
身を簿尉の中より脱す 始めて捶楚と辞す』

借問す今何の官ぞ 熱に触れて武威に向うや
答えて云う一書記 媿ずる所は国士として知らると
人実に知り易からず 更に須らく其の儀を慎むべし』

十年幕府より出なば 自から旌麾を持すべし。
此の行 既に特達す 以て所思を慰むるに足る
男児功名の遂ぐるは 亦た老大の時に在り』

常に歡を結ぶことの浅きを恨む 各々天の一涯に在らんとす
又 参と商との如くならんとす 惨惨として中腸悲しむ
驚風鴻鵠を吹く 相追随することを得ず
黄塵沙漠に翳し 子が何か当に帰るべきかを念う
辺城余力あらば 早く従軍の詩を寄せよ』



・高三十五書記:高は高適、適が河西節度使哥舒翰の掌書記となって河西に赴こうとするのを送るのである。河西節度使の府は涼州武威郡(甘粛省涼州府治)に在った。




崆峒小麥熟,且願休王師。
いま君が赴く崆峒山のあたりは夏になって小麦が熟したが、自分はしばらく官軍を休息させてもらいたいと願っている。
崆峒 山の名、臨挑(甘粛省輩昌府眠州)に在る11 4任所に近い地の名山を挙げていう。○小麦熟 初夏の候。○且願 作者が願う。○ 休息。○王師 唐の官軍、即ち哥舒翰の部兵し翰はこの兵を用いて吐蕃と戦争したが、杜甫は吐蕃との戦に批判的である。



請公問主將﹕焉用窮荒為?』
君の主人に尋ねたらい、こんな国の果ての不毛の武力を使おうとする必要がどこにあるかと。』
 高適をさす。○主将 適の主人である大将、哥舒翰をさす。○焉用…為 無用であろうとの意。○窮荒 不毛の地を窮めつくすをいう。



饑鷹未飽肉,側翅隨人飛。
うえた鷹が肉に飽かない間は、羽をそばだてて指示する人の側で飛ぶというものだ。
饑鷹(二句)高適をたとえていう。「魏志」に陳登が曹操の語であるとして呂布に告げた言があるが、曹操は呂布を評して「誓エバ鷹ヲ養ウガ如シ。磯ウレバ則チ用ヲ為シ、飽ケバ則チ颺去ス」という。通も餞鷹のごとく肉のために翰の部下となろうとする。○側麺 はねをそばだてる。



高生跨鞍馬,有似幽並兒。
高適君が鞍馬にまたがった様子は幽州地方の健児に似て勇ましい。
高生 適をさす。○幽井児 幽州(直隷省北部)・井州(山西省)の少年児。此の地方は遊侠を出す、晋の山筒の詩句に「鞭ヲ挙ゲテ葛強二閉り、井州ノ児二何如ゾ」とみえる。
 

脫身簿尉中,始與捶楚辭。』
君が河西の書記となったから、これまでの主簿や尉官の境遇から脱けでて、やっとこんど上官からむちうたれることを免れることになった。』
 身からだをぬけだす。○簿尉 簿は州県の書記、尉は警察官。高適は嘗て封丘尉となったことがあるのでかくいう。○ こんどはじめて。○捶楚 捶は撃つこと、楚は刑枚(いばらのむち)。唐の時、参軍・功曹・簿・尉等の卑官は上司よりむちうたれることがあった。○ 辞去する、いとまごいする、それから遠ざかることをいう。



借問今何官,觸熱向武威?
いったい君は今どういう官となったとしても、この熱気をおかして夏の時節に武威あたりの遠方へ向ってでかけるのか。
借問 かりに問う、作者が問うのである。次の句までかかる。○触熱 夏をいう。○武威 涼州府、河西節度使の所在地。○答云 高適の答え、次の句までかかる。



答雲一書記,所愧國士知。
君は答えていうに、第一書記に過ぎないが、はずかしながら(哥舒翰から)国士としての知遇を得たのだと。
○国士知 戦国の時の晋の予譲の語に本づく。国士とは一国をひきうけて立つ人物をいう、知とは苛野翰から知られることをいう。



人實不易知,更須慎其儀。』
人というものは認められにくいもの、さらに一層の人としての儀を慎重にしなければいけないのだ。
〇人実(二句)以下は又杜甫よりいう。○慎其儀 儀は威儀、人としての儀、自己の品位をいう。



十年出幕府,自可持旌麾。
十年くらいたったら哥舒翰の幕府を出るころには、おのずから軍務の長官になっているだろう。
十年 限って言うのではなく、おおよそをいう。○幕府 河西節度の府をいう。○旌麾 旌ははた、麾は軍を指揮する采配。これを持つのは軍務の長官となることをいう。

 

此行既特達,足以慰所思。
このたびの赴任も特別の栄達で僕の心配を慰めるに足る。
特達 自己一人の力で其の地位に達したこと。○所思 作者の思いをいう。



男兒功名遂,亦在老大時。』
更に前途をおもえば男児たるものの功名の志の遂げられるのは年ふけてからことで、十年以後の君が今から想像されるのだ。』
老大時 十年後を想像していう、老大は老成の時をいう。
(この予想は適中して高速は後に萄州の刺史、西川の節度使とまでなった。)


常恨結歡淺,各在天一涯。
常日頃恨んでいることは親しく付き合うことが浅く、互いにそれぞれが別々におり、一方が天のはてに居るのである。
結歡 塵は歓に同じ、よろこび、結歡とはなかよく交ることをいう。○天一涯 天の一方の果て。



又如參與商,慘慘中腸悲。
又、参星や商星のようにめったに逢えないでいるので、腸のなかまでひどく悲しくてならないのだ。
又如 如とは如くならんとすることをいう。○参商 星の名、両星は容易にめぐりあわぬという。隔って逢いがたいことをたとえていう。○惨惨 ものがなしいさま。



驚風吹鴻鵠,不得相追隨。
今、突風によって大鳥が吹き飛ばされ遠方へ遠のくが、自分がそれに後にしたがってゆくことができないのだ。
驚風 がさつく風。突風。○鴻鵠 おおとりと、こうのとり。高適のこと。○追随 あとにつきしたがう。



黃塵翳沙漠,念子何當歸。
黄色の砂塵は沙漠の天を暗くしおおっている。君がいつになったら帰ることができるのかとかんがえている。
 かげくらくおおう。○何 何時に同じ。


邊城有餘力,早寄從軍詩。』
君は国境の城内で余力ができたなら、早く従軍詩を作って寄せてくれるといいのだ。
辺城 河西地方の城をさす。国境の城郭。○有余力 軍務にはたらく以外のあまった力。○従軍詩 魏の王粲に名高い従軍の詩がある。