白絲行  七言歌行
白絲行 杜甫 :kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 誠実な詩人杜甫特集 54


 杜甫は曲江三章で自分の心境を吐露したが、、このままでは家族の生活ができない。焦る気持ちで、手当たり次第に詩を贈り、口添えを頼んだ。媚びた詩に嫌気がしたのだろう原点に返った詩を書いた。
白糸は染められて彩糸となり、彩糸は織られて羅錦(らきん)となる。羅錦はさらに裁縫を経て美人の舞衣となる。
ただ衣の新しきものは用いられてもふるびて汗(よご)れると直ちに放棄される。

杜甫は、10年近く前に李白が天子に召され1年半年で都から追われたことをよく知っている。李白は道教による引張で、才能を生かすはずであったが、うまくいかなかった。本当に詩文の才能を評価されて召されないと、引張という華麗なものだけだと切れたら捨てられる。自分は、この詩文の才能を評価されるまで耐え忍んでいく。詩中には、李白のことは全くないが、ただ、尾聯の「君不見才士汲引難」才士汲引せらるること難きを。の「才士汲引」はりはくである。
752年天宝11載41歳長安に客寓していたときの作。

白絲行
繅絲須長不須白,越羅蜀錦金粟尺。
繅は繭から取りだす糸というものは長くさえあればよいので白ければいいというものではない。越羅や蜀錦のように織られて初めて物の価値が出てくる、だから、その長短を金の星の度盛りのついたものさしではかるのである。
象牀玉手亂殷紅,萬草千花動凝碧。
機織りの女が象床に坐って玉のような手で花模様の深紅が咲き乱れ、また万草の静かな碧色が深紅の花を包み動かすのだ。
已悲素質隨時染,裂下鳴機色相射。
元来白の糸地が時流にそうて染められるということは、本来の良さを殺すことであり悲しむべきものである。仕上がって、その織物を機から切り下す際には嫌がって機織り機が声を出すが模様の色が美しく輝きを放つのである。
美人細意熨貼平,裁縫滅盡針線跡。』
之を上手な織人はこまかいこころくばりをし、火小手と糊張りでしわをのばして反物にした。裁縫はしつけの針線あとをすべてなくすことで衣裳に仕立られるのである。』
春天衣著為君舞,蛺蝶飛來黃鸝語。
こののどかな春の空は出来上がったうつくしい衣裳をみにつけてあなたのために舞い踊った、衣装の深紅の花に草花ともみまちがえ、蛺蝶も飛び乗り、緑のこずえに鶯もさえずりのである。
落絮遊絲亦有情,隨風照日宜輕舉。
舞おちちる柳絮の花綿、萌えあがる陽炎にもまた風情がある、風のふくままただよって、日の光に照らされて軽らかにまいあがる衣裳とよくあって似つかわしいものだ。
香汗清塵汙顏色,開新合故置何許?
けれども香しき酒やあせ、清らかな化粧のちり、ほこりがその衣裳の模様の色をけがして取り返しのつかないことしてしまった、すぐに新しい着物を笥から出して汚した着物はどこかへ片づけられてしまうのだ。
君不見才士汲引難,恐懼棄捐忍羈旅。』

君は見たことはいないのか、才能を持った士であっても他の人からひっぱって用いてもらうことはなかなか難しいものであるということを。 恐れていることは、自分も容易に用いられても、容易に棄てられてしまうものだということ。仕官できず都に寓居している境遇をしのびこらえているのである。




繅は繭から取りだす糸というものは長くさえあればよいので白ければいいというものではない。越羅や蜀錦のように織られて初めて物の価値が出てくる、だから、その長短を金の星の度盛りのついたものさしではかるのである。
機織りの女が象床に坐って玉のような手で花模様の深紅が咲き乱れ、また万草の静かな碧色が深紅の花を包み動かすのだ。
元来白の糸地が時流にそうて染められるということは、本来の良さを殺すことであり悲しむべきものである。仕上がって、その織物を機から切り下す際には嫌がって機織り機が声を出すが模様の色が美しく輝きを放つのである。
之を上手な織人はこまかいこころくばりをし、火小手と糊張りでしわをのばして反物にした。裁縫はしつけの針線あとをすべてなくすことで衣裳に仕立られるのである。』
こののどかな春の空は出来上がったうつくしい衣裳をみにつけてあなたのために舞い踊った、衣装の深紅の花に草花ともみまちがえ、蛺蝶も飛び乗り、緑のこずえに鶯もさえずりのである。
舞おちちる柳絮の花綿、萌えあがる陽炎にもまた風情がある、風のふくままただよって、日の光に照らされて軽らかにまいあがる衣裳とよくあって似つかわしいものだ。
けれども香しき酒やあせ、清らかな化粧のちり、ほこりがその衣裳の模様の色をけがして取り返しのつかないことしてしまった、すぐに新しい着物を笥から出して汚した着物はどこかへ片づけられてしまうのだ。
君は見たことはいないのか、才能を持った士であっても他の人からひっぱって用いてもらうことはなかなか難しいものであるということを。 恐れていることは、自分も容易に用いられても、容易に棄てられてしまうものだということ。仕官できず都に寓居している境遇をしのびこらえているのである。




糸を繅(たぐ)るには長きを須うるも白きを須いず、越羅蜀錦金粟(きんぞく)の尺。
象牀(ぞうしょう)玉手(ぎょくしゅ)殷紅(あんこう)乱る、万草千花凝碧(ぎょうへき)を動かす。
己に悲む素質の時に随いて染まることを、鳴機(めいき)より裂下(れつか)すれば色相射る。
美人 細意 慰賠(いちよう)平かなり、裁縫 滅し尽す針線の跡』
春天 衣著して君が為めに舞う、蛺蝶(ちょうちょう)飛び来って黃鸝(こうり)語る。
落架遊糸も亦た情有り、風に随い日に照らされて軽挙(けいきょ)に宜し。
香汗(こうかん)清塵(せいじん)顔色を汗(けが)せば、新を開き故を合じて何の許にか置く。
君見ずや才士 汲引(きゅういん)せらるること難きを、棄捐(きえん)せられんことを恐催して韓旅を忍ぶ』



繅絲須長不須白,越羅蜀錦金粟尺。
繅は繭から取りだす糸というものは長くさえあればよいので白ければいいというものではない。越羅や蜀錦のように織られて初めて物の価値が出てくる、だから、その長短を金の星の度盛りのついたものさしではかるのである。
繅絲 繅は繭から糸を取りだすこと。絲は絹糸。○須長 須はまつ、長くさえあればいいということ。○越羅 越の国(今の浙江省地方)でできる薄絹。○蜀錦 蜀の国(今の四川省地方)でできる錦。○金粟尺 尺はものさし、長短をはかる器、金粟はものさしの分・寸の度をもるところにめじるしとして黄金の星点を附したもの。



象牀玉手亂殷紅,萬草千花動凝碧。
機織りの女が象床に坐って玉のような手で花模様の深紅が咲き乱れ、また万草の静かな碧色が深紅の花を包み動かすのだ。
象牀 象牙でかざったこしかけ。或は機の台という。○玉手 機を織る美人の美しい手。この頃のはたおりの女性は最高に尊ばれた。○乱殷紅 殷紅とは深黒の紅色、主として花についていう。乱とは色のさまざまに動くこと、咲き乱れるをいう。〇万草千花 羅錦に織りだしてある模様。○  玉の手がうごく。○凝碧 しずかな碧色、主として草についていう。深紅を引き立たせてあでやかな模様に仕上がっていくさま。
 

已悲素質隨時染,裂下鳴機色相射。
元来白の糸地が時流にそうて染められるということは、本来の良さを殺すことであり悲しむべきものである。仕上がって、その織物を機から切り下す際には嫌がって機織り機が声を出すが模様の色が美しく輝きを放つのである。
己悲 悲とは染められて之をかなしむこと。時流に流されることを指す。○素質 糸の白い性質。そのものの持っている本来の性質、素質。○随時染 時世のはやりにしたがってそめられる。○裂下 出来あがった織物を刀できりたっておろす。○ 機織り声をたてているはた。○色相射 草花の模様の色が美しく輝きを放つ。



美人細意熨貼平,裁縫滅盡針線跡。』
之を上手な織人はこまかいこころくばりをし、火小手と糊張りでしわをのばして反物にした。裁縫はしつけの針線あとをすべてなくすことで衣裳に仕立られるのである。』
美人 これは裁縫をなす美人、織物の出来はすべて織女にかかっており、上手におる女性を示す表現で美人としている。○細意 こまかいこころくばりがなされていること。○熨貼 火小手と糊張りでしわをのばす。○裁 刀できれをたちきる。○ 糸でぬう。○滅尽 なくする。○針線跡 はりといとをはこんだ痕跡。しつけの針線あとをなくすこと。


春天衣著為君舞,蛺蝶飛來黃鸝語。
こののどかな春の空は出来上がったうつくしい衣裳をみにつけてあなたのために舞い踊った、衣装の深紅の花に草花ともみまちがえ、蛺蝶も飛び乗り、緑のこずえに鶯もさえずりのである。
春天 はるのそら。○衣著 前の句で出来上がった衣を身に着けること。○ あいてをさす、だれでもよい。○峡蚊ちょう。○黃鸝 うぐいす。



落絮遊絲亦有情,隨風照日宜輕舉。
舞おちちる柳絮の花綿、萌えあがる陽炎にもまた風情がある、風のふくままただよって、日の光に照らされて軽らかにまいあがる衣裳とよくあって似つかわしいものだ。
落絮  おちちる柳の花。柳絮。○遊糸 いとゆう、かげろう。○有情風情のあることをいう。○随風照日 系架のさま。○宜ふさわしい、につかわしい。○軽挙 舞うとき衣裳のひらひらすることをいう。



香汗清塵汙顏色,開新合故置何許?
けれども香しき酒やあせ、清らかな化粧のちり、ほこりがその衣裳の模様の色をけがして取り返しのつかないことしてしまった、すぐに新しい着物を笥から出して汚した着物はどこかへ片づけられてしまうのだ。
香汗 香しき酒やあせ。○清塵 清らかな化粧のちり。○顔色 衣裳の模様の色をいう。○開新合故 新故は新衣旧衣をいう。開合とはその衣をいれる笥をひらくことととじること。開新は新衣を笥からだしてきること、合故は旧衣を梱箪笥にかたづけてしまうこと。○置何許 許とは処というのに同じ、何許は何処に同じ。この三字は故衣についていう、故衣なんどはどこにおくか、置き場所もわからぬほどにしまいこむことをいう。



君不見才士汲引難,恐懼棄捐忍羈旅。』
君は見たことはいないのか、才能を持った士であっても他の人からひっぱって用いてもらうことはなかなか難しいものであるということを。 恐れていることは、自分も容易に用いられても、容易に棄てられてしまうものだということ。仕官できず都に寓居している境遇をしのびこらえているのである。
○君不見 君は見たことはいないのか。〇才士 才能ある人物。○汲引難 汲引とは水を汲みつるぺなわを引くこと。その如くに甲が乙をひっぱりよせることをいう。○棄捐 自分を用いる人からうちすてられる。○羈旅 羈は寄。旅は客。たびずまいのこと、仕官できず都に寓居しているさまをさす。