渼陂行  杜甫 :kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 誠実な詩人杜甫特集 66
渼陂の水面に舟遊びしたことを叙する。製作時は753年天宝十二載の夏42歳 七言歌行である。

渼陂行
岑參兄弟皆好奇,攜我遠來遊渼陂。
友人の琴参兄弟は一家そろって趣きのある人たちである、自分をつれてこんなに遠い渼陂池まであそびに来たのだ。
天地黯慘忽異色,波濤萬頃堆琉璃。』
初は好天気であったが、琉璃をつみかさねたかとおもわれたいけが大波の大きな音が池じゅうにひろがり、波涛万頃のさまである。』
琉利汗漫泛舟入,事殊興極憂思集。
ひろびろとした琉璃状の水面へ舟をうかべて中へ進んだが、今は事情が変わってしまい、これ以上興趣を進めていいのか悪天候についての心配になってきた。
鼉作鯨吞不複知,惡風白浪何嗟及。』
大がめがあばれはじめ、鯨が舟を呑んでしまうような状態になった。いじ悪な風、白く波立ってきた、なげいたとしてももう及ばない。』
主人錦帆相為開,舟子喜甚無氛埃。
こまったと思ったが天候もなおったので主人は我々のために錦帆を張ってくれた、舟人たちも靄や水しぶきがなくなってとても喜んだ。
鳧鷖散亂棹謳發,絲管啁啾空翠來。』
かもやかもめもふなうたが始まってうれしくてみだれ飛び交い、こんどはやかましく糸竹の音がしだして山の方から嵐の前触れの風が吹いてきた。』
沉竿續蔓深莫測,菱葉荷花淨如拭。
釣り竿につる糸をつけしずめてみても陂の水の深さは測ることができないほどふかい。そこに菱の葉や蓮の花がふきとったようにきよらかに生えている。
宛在中流渤澥清,下歸無極終南黑。』
舟はあたかも渤澥の清き中流にうかんでいるようであり、水は下へ底しれぬところまで達していて終南山の山影が水底に黒く横わっている。』
半陂以南純浸山,動影裊窕沖融間。
この陂の南岸の半分は専ら山影をひたしている。その水面の山影はたおやかに動かされ、水波の間に溶け込んでゆくように見える
船舷暝戛雲際寺,水面月出藍田關。』
たそがれに船縁のぎゅーっ、ぎゅーっ、という音が山上の雲中の寺のあたりまでひびきわたる、水面に月が出る、それは藍田関ともおもわれるあたりからでてきたのである。』
此時驪龍亦吐珠,馮夷擊鼓群龍趨。
このときには水底の淵にひそめる黒竜も珠を吐きだしたかと疑われ、馮夷は太鼓をうちだし、多くの電影がはしった。
湘妃漢女出歌舞,金支翠旗光有無。』
湘妃・漢女の女神も出てきて歌い舞う、周囲にならぶ楽器の金支、翠旗の装飾の光りもまばゆい。』
咫尺但愁雷雨至,蒼茫不曉神靈意。
さっきみたように面前爬尺のまぢかに雷雨がやってくるかも知れないというのが心配でならないが、いまはこんなに晴れておもしろい、神霊の意というものははっきりとはわかりかねるものであるからこれがいいのだ。
少壯幾時奈老何,向來哀樂何其多?』
わかい時はいくばくもなく、やがて年老いてゆくことだけはどうしようもない、さきほどから一陰一晴すこぶる哀楽の情をうごかしたことなどどういたってもがわずかなことでわないか?!


友人の琴参兄弟は一家そろって趣きのある人たちである、自分をつれてこんなに遠い渼陂池まであそびに来たのだ。
初は好天気であったが、琉璃をつみかさねたかとおもわれたいけが大波の大きな音が池じゅうにひろがり、波涛万頃のさまである。』
ひろびろとした琉璃状の水面へ舟をうかべて中へ進んだが、今は事情が変わってしまい、これ以上興趣を進めていいのか悪天候についての心配になってきた。
大がめがあばれはじめ、鯨が舟を呑んでしまうような状態になった。いじ悪な風、白く波立ってきた、なげいたとしてももう及ばない。』
こまったと思ったが天候もなおったので主人は我々のために錦帆を張ってくれた、舟人たちも靄や水しぶきがなくなってとても喜んだ。
かもやかもめもふなうたが始まってうれしくてみだれ飛び交い、こんどはやかましく糸竹の音がしだして山の方から嵐の前触れの風が吹いてきた。』
釣り竿につる糸をつけしずめてみても陂の水の深さは測ることができないほどふかい。そこに菱の葉や蓮の花がふきとったようにきよらかに生えている。
舟はあたかも渤澥の清き中流にうかんでいるようであり、水は下へ底しれぬところまで達していて終南山の山影が水底に黒く横わっている。』
この陂の南岸の半分は専ら山影をひたしている。その水面の山影はたおやかに動かされ、水波の間に溶け込んでゆくように見える
たそがれに船縁のぎゅーっ、ぎゅーっ、という音が山上の雲中の寺のあたりまでひびきわたる、水面に月が出る、それは藍田関ともおもわれるあたりからでてきたのである。』
このときには水底の淵にひそめる黒竜も珠を吐きだしたかと疑われ、馮夷は太鼓をうちだし、多くの電影がはしった。
湘妃・漢女の女神も出てきて歌い舞う、周囲にならぶ楽器の金支、翠旗の装飾の光りもまばゆい。』
さっきみたように面前爬尺のまぢかに雷雨がやってくるかも知れないというのが心配でならないが、いまはこんなに晴れておもしろい、神霊の意というものははっきりとはわかりかねるものであるからこれがいいのだ。
わかい時はいくばくもなく、やがて年老いてゆくことだけはどうしようもない、さきほどから一陰一晴すこぶる哀楽の情をうごかしたことなどどういたってもがわずかなことでわないか?!



岑參兄弟皆奇を好む、我を旗えて遠く来って洋陵に遊ぶ
天地希惨として忽ち色を異にす、波涛万頃琉璃堆し』

琉璃汗漫舟を淀べて入る、事殊に興極まりて憂思集る
竜作り鯨香まんも復た知らず、悪風白浪何ぞ嵯及ぼん』
主人錦帆相為めに開く、舟子喜ぶ甚し須挨無きを
昂鷲散乱樟謳発る、糸管咽秋として空翠来る』

竿を沈め損を続ぐも深くして測る莫し、菱葉荷花浄くして拭うが如し
宛も中流に在りて勧解汚く、下無極に帰して終南黒し』

半陵以南純ら山を浸す。影を動かすこと鼻究たり沖融の間
船舷瞑に毒す雲際の寺、水面月出づ藍田関』

此の時騒竜亦た珠を吐く、凋夷鼓を撃ち葦竜は趨る
湘妃漢女出でて歌舞す、金支翠旗光り有無』

爬尺但だ愁う雷雨の至らんことを、蒼茫暁らず神霊の意
少壮幾時ぞ老を奈何せん、向来哀楽何ぞ其れ多き』



 
渼陂行
渼陂 つつみ(池)の名。長安の南西約40kmにある。終南山の諸谷より出で胡公泉を合して陂(池)となる。広さ数里、上に紫閣峰がある。
長安洛陽鳳翔 渼陂


岑參兄弟皆好奇,攜我遠來遊渼陂。
友人の琴参兄弟は一家そろって趣きのある人たちである、自分をつれてこんなに遠い渼陂池まであそびに来たのだ。
岑参 作者の親友で当時の詩の大家。○好奇 非凡を愛する。〇滴惨 くらっぼく陰気なことをいう。


天地黯慘忽異色,波濤萬頃堆琉璃。』
初は好天気であったが、暗く陰気な様子に変わり、琉璃をつみかさねたかとおもわれたいけが大幅波の音が池じゅうにひろがったのである。』
異色 今までとは色がかわる。○万頃 頃は百畝の面積をいう。○堆琉璃 るりの色をうずたかくしたようだとは深い水がすみわたっていることをいう。


琉利汗漫泛舟入,事殊興極憂思集。
ひろびろとした琉璃状の水面へ舟をうかべて中へ進んだが、今は事情が変わってしまい、これ以上興趣を進めていいのか悪天候についての心配になってきた。
汗漫 ひろいさま。○事殊 前と事情がちがってきたこと。即ち晴れが陰りになったこと。○興極 興趣が盛りの極に達してゆきづまりになる。○憂思 悪天候についての心配。


鼉作鯨吞不複知,惡風白浪何嗟及。』
大がめがあばれはじめ、鯨が舟を呑んでしまうような状態になった。いじ悪な風、白く波立ってきた、なげいたとしてももう及ばない。』
鼉作 おおがめがあばれだす。○不復知 復た測り知ることができない。○何嗟 及なげいたとておいつけぬ、どうともできぬ。


主人錦帆相為開,舟子喜甚無氛埃。
こまったと思ったが天候もなおったので主人は我々のために錦帆を張ってくれた、舟人たちも靄や水しぶきがなくなってとても喜んだ。
主人 岑参をさす。○錦帆 にしきの帆。○相為開  我がためにかかげでのりだすこと。○舟子 ふなこ、せんどう。○氛埃 もやとほこり、ここでは水しぶき。


鳧鷖散亂棹謳發,絲管啁啾空翠來。』
かもやかもめもふなうたが始まってうれしくてみだれ飛び交い、こんどはやかましく糸竹の音がしだして山の方から嵐の前触れの風が吹いてきた。』
 かも。○ かもめ。○棹謳 ふなうた。○発はじまる。○糸管 いとたけの音。○咽秋 やかましいさま。○空翠 空中翠色の気、嵐のまえぶれ。


沉竿續蔓深莫測,菱葉荷花淨如拭。
釣り竿につる糸をつけしずめてみても陂の水の深さは測ることができないほどふかい。そこに菱の葉や蓮の花がふきとったようにきよらかに生えている。
続綬 綬はつるいと。続はつり糸にそれをつぎたすことをいう。○深 水のふかさ。


宛在中流渤澥清,下歸無極終南黑。』
舟はあたかも渤澥の清き中流にうかんでいるようであり、水は下へ底しれぬところまで達していて終南山の山影が水底に黒く横わっている。』
 あたかも、さながら。○渤澥 海の名。○下帰 無極そこははてがしれぬ。○終南 山の名、隈のほとりに在る。


陂以南純浸山,動影裊窕沖融間。
この陂の南岸の半分は専ら山影をひたしている。その水面の山影はたおやかに動かされ、水波の間に溶け込んでゆくように見える。
半陂 隈の半面積。○以南 南へかけて。○浸山 山影をひたす。○動影 水面に山影をただよわせる。○裊窕 たおやかに山かげのゆらぐさま。○沖融 水波より溶け込んでゆくように見える。


船舷暝戛雲際寺,水面月出藍田關。』
たそがれに船縁のぎゅーっ、ぎゅーっ、という音が山上の雲中の寺のあたりまでひびきわたる、水面に月が出る、それは藍田関ともおもわれるあたりからでてきたのである。』
 ふなばた。○暝戛 戛はこつこつなるおと、これは船をかいでこぐ音をいう、瞑は黄昏をいう。○雲際寺旧説に寺名とする。雲際山大定寺は都県の東南六十里にあるというが、恐らくは水上の舷声の到り得べき地ではない。雲中の寺をさすものとおもわれる。○藍田 関関の名、渓陵よりは東南にあたり、藍田県の東南六十八里にある。これは月の出たあたりを想像していうもの故、肉眼には見えぬ地であるが用いでも妨げはない。


此時驪龍亦吐珠,馮夷擊鼓群龍趨。
このときには水底の淵にひそめる黒竜も珠を吐きだしたかと疑われ、馮夷は太鼓をうちだし、多くの電影がはしった。
牒竜 くろい竜。騒竜の領の下に珠があるということが「荘子」列禦冠第にみえる。水面の月影を竜珠とみたてていうのであろう。○馮夷 また氷夷ともいい、河を掌る水神である。


湘妃漢女出歌舞,金支翠旗光有無。』
湘妃・漢女の女神も出てきて歌い舞う、周囲にならぶ楽器の金支、翠旗の装飾の光りもまばゆい。』
湘妃 湘水の女神、亮の二女にして舜の妻であった人。舜の南征を追って湘水に到ったが、舜がすでに死んだときいて湘水に身を投じて神となった。これを湘君、湘妃という。○漢女 鄭交甫が漢水にあそんで二女を見て、その凧を請うと、二女は凧を解いて。これに与えた。二女は蓋し漢水の女神であった。○金支翠旗 漢の「房中歌」に「金支秀華、庶施翠施」の語がある。金支は黄金色の枝、秀華はその先きにふさふさの華がついたもの、族は牛尾にて作ったはた、翠族とはそのさきに五色の羽をふさふさにして簫の笛としたもの。金支翠旗は共に楽器につける飾りのものである。○光有無 あるが如く無きが如く光の恍惚たるさまをいう。月と水面に映る月の影とを詩的に歌ったもの。


咫尺但愁雷雨至,蒼茫不曉神靈意。
さっきみたように面前爬尺のまぢかに雷雨がやってくるかも知れないというのが心配でならないが、いまはこんなに晴れておもしろい、神霊の意というものははっきりとはわかりかねるものであるからこれがいいのだ。
爬尺 八寸、一尺、わずかの距離をいう。○蒼茫はっきりせぬさま。○神霊 かみ。


少壯幾時奈老何,向來哀樂何其多?』
わかい時はいくばくもなく、やがて年老いてゆくことだけはどうしようもない、さきほどから一陰一晴すこぶる哀楽の情をうごかしたことなどどういたってもがわずかなことでわないか?!
少壯幾時奈老何 漢武帝の「秋風辞」に「歓楽極マリテ哀情多シ、少壮幾時ゾ老ヲ奈何セン」にもとづく。わかい時はいくばくもなく、やがて年老いてゆくことだけはどうしようもないという意。○向来 前よりこのかた。この時に限ってみる説と従前の生涯を通じてみる説とがあるが、今は前説に拠る。然るときは此の一目の中についてのみいう。○哀楽 この一日についてのみいうときは表とは天候の険悪となった場合をさし、楽とは天候の快晴となった場合をさしていう。此の段の爬尺二句、少壮二句は出に倒装としてみるのがよい。