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醉時歌  漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の 漢詩ブログ 誠実な詩人 杜甫 特集 77

酔ったときの気もちを詠ったもの。杜甫の親友である広文館の博士鄭虔に贈ったもの。作時は754年天宝13載43歳。長安。〔原注〕に贈虞文館博士鄭虔。とある。別に、755年春の「酔歌行」がある。


酔時歌 
#1
諸公袞袞登臺省,廣文先生官獨冷。
仕官している方々は続々として三省六部、九寺、御史台の官庁へ登用されるが、広文先生(鄭虔)は部下ひとりだけのさびしい官についておられる。
甲第紛紛厭粱肉,廣文先生飯不足。
また他の諸官員は上等の邸宅を無数にかまえて梁肉の御馳走にあききっておるが、我が広文先生はご飯も不足がちである。
先生有道出羲皇,先生有才過屈宋。
先生は身に道義をそなえていることは三皇五帝以上である、また文才をもっておられること屈原や宋玉よりもまさっておられる。
德尊一代常坎軻,名垂萬古知何用。』
道や徳が生きている一代にどんなに尊いものであってもいつも不遇でおられる、之を見ると後の世にその名を遺したとしても何の役に立つかというような気がする。』
#2
杜陵野客人更嗤,被褐短窄鬢如絲。
杜陵近くに住む無冠の自分に至ってはいっそう他人から笑われている。きている毛織物は着丈が短くて身はばがせまく、髪の毛は白糸混じりのようだ。
日糴太倉五升米,時赴鄭老同襟期。
日々御米屋から五升ずつの米をかいいれ、詩文を売り金を手にすると、同志たる鄭虔老先生のところへでかけるのである。
得錢即相覓,沽酒不複疑,
自分は銭を得さえすればすぐ先生をもとめ、何等のためらうことなく酒をかう。
忘形到爾汝,痛飲真吾師。』
そうして外形を忘れて貴様とよびあうほどになる、ひどく酒を飲めば飲のむほど吾が師とすべき人である。』

こんなことを言いはしましたがそれをきいて哀しみ痛む必要はありません、生前にこうして遭遇した以上、盃を口にすることが一番です。

#3
清夜沈沈動春酌,燈前細雨簷花落。
きょうもこの清らかな夜にあたり、人の寝静まるころ春酒を酌みはじめた。燈の前には雨がほそほそとふりそそいで簷花がちらちらする。
但覺高歌有鬼神,焉知餓死填溝壑。
興に乗じて声高に歌をうたいだすたびに人の霊魂と天の神のたすけがあるかと覚えるのだが、あすにも餓死して溝やたにに屍をうずめるかも知れぬなどの心配の念はちっともおこらぬものだ。
相如逸才親滌器,子雲識字終投閣。』
司馬相如ほどのすぐれた才人は窮したときには自分みずから食器あらいをしたし、揚子雲ほどの字を知った学者でも結局一人合点で高い楼閣から地上に身を投げた。』
#4
先生早賦歸去來,石田茅屋荒蒼苔。
先生、早く賦を書かれたらよいのでは、陶淵明の帰去来の辞ように、故郷の石ころのあるわるい田地や茅屋には蒼苔などであれはててしまいますよ。
儒術於我何有哉、孔丘盜跖俱塵埃。
儒者の学術などは我々にとって何の効があるというのか、聖人孔子も大泥棒の拓もひとしくともに死して塵攻にかわるだけである。
不須聞此意慘愴,生前相遇且銜杯。』



#1
仕官している方々は続々として三省六部、九寺、御史台の官庁へ登用されるが、広文先生(鄭虔)は部下ひとりだけのさびしい官についておられる。
また他の諸官員は上等の邸宅を無数にかまえて梁肉の御馳走にあききっておるが、我が広文先生はご飯も不足がちである。
先生は身に道義をそなえていることは三皇五帝以上である、また文才をもっておられること屈原や宋玉よりもまさっておられる。
道や徳が生きている一代にどんなに尊いものであってもいつも不遇でおられる、之を見ると後の世にその名を遺したとしても何の役に立つかというような気がする。』

#2
杜陵近くに住む無冠の自分に至ってはいっそう他人から笑われている。きている毛織物は着丈が短くて身はばがせまく、髪の毛は白糸混じりのようだ。
日々御米屋から五升ずつの米をかいいれ、詩文を売り金を手にすると、同志たる鄭虔老先生のところへでかけるのである。
自分は銭を得さえすればすぐ先生をもとめ、何等のためらうことなく酒をかう。
そうして外形を忘れて貴様とよびあうほどになる、ひどく酒を飲めば飲のむほど吾が師とすべき人である。』

#3
きょうもこの清らかな夜にあたり、人の寝静まるころ春酒を酌みはじめた。燈の前には雨がほそほそとふりそそいで簷花がちらちらする。
興に乗じて声高に歌をうたいだすたびに人の霊魂と天の神のたすけがあるかと覚えるのだが、あすにも餓死して溝やたにに屍をうずめるかも知れぬなどの心配の念はちっともおこらぬものだ。
司馬相如ほどのすぐれた才人は窮したときには自分みずから食器あらいをしたし、揚子雲ほどの字を知った学者でも結局一人合点で高い楼閣から地上に身を投げた。』

#4
先生、早く賦を書かれたらよいのでは、陶淵明の帰去来の辞ように、故郷の石ころのあるわるい田地や茅屋には蒼苔などであれはててしまいますよ。
儒者の学術などは我々にとって何の効があるというのか、聖人孔子も大泥棒の拓もひとしくともに死して塵攻にかわるだけである。
こんなことを言いはしましたがそれをきいて哀しみ痛む必要はありません、生前にこうして遭遇した以上、盃を口にすることが一番です。



(酔時の歌)
#1
諸公袞袞として台省に登る、広文先生官独り冷かなり。
甲第紛紛梁肉に厭く、広文先生飯足らず。
先生道有り義皇よりも出づ、先生才有り屈宋よりも過ぐ
徳一代に尊くして常に坎軻たり、名 万古に垂るるも知らず何の用ぞ』
#2
杜陵の野客人更に嗤う、被褐短窄賓糸の如し。
日に糴う大倉五升の米、時に鄭老が襟期を同じくするに赴く。
銭を得れば即ち相覓む、酒を清うて復た疑わず。
形を忘れて爾汝に到る、痛飲兵に吾が師なり。』
#3
晴夜沈沈春酌を動かす、燈前細雨に箸花落つ。
但だ覚ゆ高歌鬼神有るを、焉んぞ知らん餓死して溝壑に填するを
相如逸才なるも親ら器を滌う、子雲字を識るも終に闇より投ず』
#4
先生早く賦せよ帰去来、石田茅屋蒼苔荒れん。
儒術我に於で何か有らん哉、孔丘盗跖倶に塵挨なり
須いず此を聞いて意惨愴なるを、生前相遇う且つ杯を銜め。』


#1
諸公袞袞登臺省,廣文先生官獨冷。
仕官している方々は続々として三省六部、九寺、御史台の官庁へ登用されるが、広文先生(鄭虔)は部下ひとりだけのさびしい官についておられる。
諸公 当時、仕官している人々をさす。○袞袞 こんこん相い続いて絶えないさま。〇台省 三省六部、九寺、一台(御史台) 御史台は台院・殿院・察院に分かれ、台院は侍御史を長として百官を糾察し、殿院は殿中侍御史を長として殿廷供奉の儀式を担当し、察院は監察御史を長として州県を巡察した。三省とは、中書省・門下省・尚書省の三つの機関を指す。○広文先生 鄭虔をさす。天宝九載に国子監に広文館博士一人、助教一人を置き、生徒の進士たるものを領させた。これは玄宗が鄭虔を優遇しようと創設した機関であるが、優遇といえるものであったのか。○官独冷 冷とは熱の反対、人がよりつかないことを冷といぅ。



第紛紛厭粱肉,廣文先生飯不足。
また他の諸官員は上等の邸宅を無数にかまえて梁肉の御馳走にあききっておるが、我が広文先生はご飯も不足がちである。
甲第 上等の邸宅。○紛紛 多くあるさま。○梁肉 よいこめ、にく。



先生有道出羲皇,先生有才過屈宋。
先生は身に道義をそなえていることは三皇五帝以上である、また文才をもっておられること屈原や宋玉よりもまさっておられる。
有道 道義を身につける。○出 超出することをいう。○義皇 三皇五帝のこと。中国の神話伝説時代の帝王。現在ではこれらは実在の人物とは考えられていない。
三皇は神、五帝は聖人としての性格を持つとされた。
有才 才は文才をいう。○屈宋 楚の屈原、宋玉。騒賦の作家である。



德尊一代常坎軻,名垂萬古知何用。』
道や徳が生きている一代にどんなに尊いものであってもいつも不遇でおられる、之を見ると後の世にその名を遺したとしても何の役に立つかというような気がする。』
坎軻 不遇のさま。○知何用 何の役に立つかを知らず、用なしということ。意味がないのではなかろうか。



#2
杜陵野客人更嗤,被褐短窄鬢如絲。
杜陵近くに住む無冠の自分に至ってはいっそう他人から笑われている。きている毛織物は着丈が短くて身はばがせまく、髪の毛は白糸混じりのようだ。
杜陵野客 杜甫自ずから称する。杜陵は即ち少陵。官に仕えぬ故に野客という。〇 他の人。○ 自分の事をわらう。○被褐 きている粗末な毛織りもの。○ 着たけのみじかいこと。○ 身はばのせまいこと。前合わせ幅が足らない。体に合っていない。粗末な見栄えをいう。○如糸 頭髪の白髪のようす。



日糴太倉五升米,時赴鄭老同襟期。
日々御米屋から五升ずつの米をかいいれ、詩文を売り金を手にすると、同志たる鄭虔老先生のところへでかけるのである。
 日々。○糴 かいいれる。○太倉 天子の御米蔵。米屋。〇五升米 一家の買い得る制限額であろう。前年の天宝十二載八月に雨があって米価が騰貴したために、大倉の米十万石を出し価を減じて貧人にはらいさげた。〇時赴 時あって赴く。○鄭老 虔をさす。○同襟期 襟期は心期、心に期する所、同襟期は同志であることをいう。



得錢即相覓,沽酒不複疑
自分は銭を得さえすればすぐ先生をもとめ、何等のためらうことなく酒をかう。
○得銭 銭を得さえすれば。○相覓 互いにではなく杜甫の方から鄭慶をもとめる。○沽酒 杜甫が酒をかうこと。○不複疑 ぐずぐずせずすぐさま買う。ためらわずに。



忘形到爾汝,痛飲真吾師。』
そうして外形を忘れて貴様とよびあうほどになる、ひどく酒を飲めば飲のむほど吾が師とすべき人である。』
忘形 精神を互いに契って外形を忘れる。○到爾汝 爾汝の間柄に達する。親友となればお互いに俺、貴様といいあうものであり、親交がそこまでに到るということ。○痛飲 ひどく酒をのむ。



#3
清夜沈沈動春酌,燈前細雨簷花落。
きょうもこの清らかな夜にあたり、人の寝静まるころ春酒を酌みはじめた。燈の前には雨がほそほそとふりそそいで簷花がちらちらする。
清夜 清は聖人を示し、女気のない夜。○沈沈 しずかなさま。○ 為しはじめることをいう。○春酌 通常女性と性的な交じりを込めた酒を酌み交わすことであるが、女気のないのを強調している。○簷花 軒端より雨のしたたるさまを花にみたてている。通常は軒端に立っている女性を示すが、女がいないので雨をことさら女性のようにあらわしたもの。



但覺高歌有鬼神,焉知餓死填溝壑。
興に乗じて声高に歌をうたいだすたびに人の霊魂と天の神のたすけがあるかと覚えるのだが、あすにも餓死して溝やたにに屍をうずめるかも知れぬなどの心配の念はちっともおこらぬものだ。
高歌有鬼神 声高に歌をうたいだすと人の霊魂と天の神のたすけがある○墳溝壑 死んで骨を溝や壑(たに)にうずめること。



相如逸才親滌器,子雲識字終投閣。』
司馬相如ほどのすぐれた才人は窮したときには自分みずから食器あらいをしたし、揚子雲ほどの字を知った学者でも結局一人合点で高い楼閣から地上に身を投げた。』
相如 漢の司馬相如。卓文君に詩を書き、駆け落ちし、酒店をひらき、文君と二人で財を成した。みずから雑役をなし飲食の器物をすすいだ。○逸才 文学にすぐれた才。○滌器 よごれた食器をあらいすすぐこと。○子雲 漢の揚雄、字は子雲。王莽の後継者問題に巻き込まれ、司直の手を逃れられぬと感じた揚雄は、思い余った末に天禄閣の上から投身自殺を図る。○識字 揚雄は大学者にして特に古代の文字に精通していた。



#4
先生早賦歸去來,石田茅屋荒蒼苔。
先生、早く賦を書かれたらよいのでは、陶淵明の帰去来の辞ように、故郷の石ころのあるわるい田地や茅屋には蒼苔などであれはててしまいますよ。
帰去来 晋の陶淵明は彰沢の県令となったが、80数日で「帰去来の辞」を賦して官を辞した。○石田 石ころのあるわるい田地。○ 蒼ゴケや草などの生い茂ること。



儒術於我何有哉、孔丘盜跖俱塵埃。
儒者の学術などは我々にとって何の効があるというのか、聖人孔子も大泥棒の拓もひとしくともに死して塵攻にかわるだけである。
儒術儒者の学術。○何有哉何の効があろうか、ない。○孔丘孔夫子、大聖人である。○盗拓 大泥棒である拓。○倶塵挨 聖も盗も善悪の極端なるにかかわらずつまりはともに死んでちりほこりにかわるだけである。ちょっと道教的な文になっているのは鄭虔が道士であるため。



不須聞此意慘愴,生前相遇且銜杯。』
こんなことを言いはしましたがそれをきいて哀しみ痛む必要はありません、生前にこうして遭遇した以上、盃を口にすることが一番です。
不須 必要がない。○此 この歌をさす。○惨槍 かなしくいたむ。○相遇 知己のものが遭遇した。○まあまあということ。○銜杯 酒杯を口にくわえる。



○韻 省、冷/肉、足/皇、宋、用。/嗤、絲、期、疑、師。/酌、落、壑、閣。/來、苔、埃、杯。


 杜甫も鄭虔も気まぐれな玄宗の犠牲者の一人であろう。玄宗としては、優遇したつもりであろうが、命を下しても宦官の高力士や、李林甫が受けるのである。文人を嫌い排除していった人物である。
 小賢しいものであれば玄宗にお目どおりして実情を訴えるであろうが立派な人物なのだろう、姑息なことをしないのである。
 李白が都を追われて以降、玄宗は「一芸に秀でたものを登用」と天下に詔を下したが、実際は文人を冷遇していたのは有名なことだ。