上韋左相二十韻 杜甫 : kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 誠実な詩人杜甫特集 92

韋左相にたてまつった詩。天宝14載 755年 44歳 初春 

以前、李白と別れ、洛陽から長安に登って初めのころ詩をたてまつっている。
奉贈韋左丞丈二十二韻 32(五言古詩747年36歳)

士官活動をしている杜甫が自分の才能を示そうとかなり焦っている様子がよくでている。現在残っている就職活動の詩は、基本的に、長詩である。
この詩について、訳注と解説は割愛する。


上韋左相二十韻
鳳歷軒轅紀,龍飛四十春。八荒開壽域,一氣轉洪釣。』

霖雨思賢佐,丹青憶老臣。應圖求駿馬,驚代得麒麟。
沙汰江河濁,調和鼎鼐新。韋賢初相漢,範叔巳歸秦。
盛業今如此,傳經固絕倫。豫章深出地,滄海闊無津。』

北斗司喉舌,東方領縉紳。持衡留藻鑒,聽履上星辰。
獨步才超古,餘波德照鄰。聰明過管輅,尺牘倒陳遵。
豈是池中物?由來席上珍。廟堂知至理,風俗盡還淳。』

才傑俱登用,愚蒙但隱淪。長卿多病久,子夏索居頻。
回首驅流俗,生涯似眾人。巫鹹不可問,鄒魯莫容身。
感激時將晚,蒼茫興有神。為公歌此曲,涕淚在衣巾。』

(韋左相に上る 二十韻)
鳳暦(ほうれき)軒轅(けんえき)紀す 竜飛ぶこと四十春、八荒 壽域を開,一氣 洪釣(こうきん)転ず』

霖雨賢佐を思い,丹青老臣を憶う。
圖に應じて駿馬を求め,驚代(きょうだい) 麒麟を得たり。
江河の濁れるを沙汰し 鼎鼐(ていだい)の新なるを調和す。
韋賢初めて漢に相たり 范叔 己に秦に帰る。
盛業今此の如し、経を伝うる固と絶倫なり。
予樟(よしょう)深く地を出づ、蒼海(そうかい)闊(ひろ)くして津無し。』

北斗喉舌を司り、東方縉紳(しんしん)を領す。
持衡(きこう)藻鑒(そうかん)を留め、聴履(ちょうり)星辰に上る。
独歩才古に超え、余波 徳 隣を照らす。
聡明管路に過ぎ、尺牘(せきとく) 陳遵(ちんじゅん)を倒す。
豈 走れ地中の物ならんや 由来席上の珍なり
廟堂(びょうどう)至理を知らば 風俗尽く淳に還らん』

才傑供に登用せらる 愚蒙但だ隠淪す
長卿多病久しく 子夏 索居 頻(しき)りなり
首を回らせば流俗に駆らる 生涯衆人に似たり
巫鹹(ふかん)問う可からず 鄒魯(しゅうろ)身を容るる莫し
感激時将に晩からんとす 蒼茫興神有り
公の為めに此の曲を歌う 涕淚衣巾に在り』



(現代語訳)
むかし黄帝軒壊氏が紀(き)したという鳳暦がつづいている、今の天子が君臨されて四十度目の春が来た。
天下太平、八方のはてまで人々長寿を保つの世界が開かれている、造化の大自然はなめらかに宇宙間の元気に転じた。』

我が君(玄宗)は殿の高宗の如く大草の霧雨にも充つべき賢き輔佐の臣を思われ、漢の成帝の如く赤と青の系統図によって旧臣(あなたの父)を憶われた。
また駿馬を絵にかいてその絵にてらして駿馬を求められたが果して世を驚かすような隣鱗というべきあなたを得られた。
これまでの江河の濁れる水をふるいだすように陳希烈を罷め、鼎の中の美味を新しく調和せしめられように貴君を相に任じることにせられた。
今や韋賢は初めて漢延に宰相となった。范叔は己に秦に帰ってまた宰相になった。
あなたの家は経学を伝えられて他にたぐいなき家すじであるが今やまた盛んに業務をされることはこのような状況である。
あなたの材器度量はたとえば予章樹が深く地からぬけでたようなもの、またはてしない大海原に出てたどりつく港もないようなものである。』

あなたはこれまで兵部尚書としてゆるぎない北極星のように喉舌をつかさどり、東方の縉紳を領卒された。
また吏部侍郎としては均衡をとられ、裁判、鑑定のあり方を決められ書きとめられた、天子の親信を得て下々の声までききわけられるほどになり宮廷内の高い地位にまでのぼられた。
あなたの独特の能力というものは古昔からのものをこえ、そのなごりの徳の光りは近隣までを照らしているのだ。
あなたの聡明な事は管路よりすぎるものであり、尺槙の書のうまいことは陳遵を圧倒する。
あなたはどうして池中にくすぶっているものでなく、必ず雲雨を巻き起して天へのぼる蚊竜である。
元来が儒者が席上においておくという珪璋のような珍らしい宝玉である。
あなたのような人が廟堂(朝廷)にあって天下政治を極点にする術を知っておられるならば天下の風俗は必ずことごとく淳横にたちもどることであろう。』

(以下は自己についてのべる。)
このような時世なので人傑たるものは皆官吏として登用せられているが、自分のような愚な者はただ世間からかくれて沈倫している、漢の司馬相如長卿のような人物は久しく多病であるし、格子の弟子の子夏はしきりと朋友からはなれてくらしている(自分はその長卿子夏である)。
首をめぐらして考えてみるに自分は流俗のものに流されて自己の生涯はまるで世間並である。
自己の運命如何は巫咸という予言者に問うことはできない、自己のからだは自己の生れ育った国にさえ容れられない。
感激の心情は十分持っているがだんだん老衰の境に近づいてきているが、或る種の不思議な感興がわきおこるのを感じている。
それで此の詩を作ってあなたのために此の曲を歌うと、ただなにとなく涕淚が流れあふれて着物や手巾におちているのである。