驄馬行  杜甫 : kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 誠実な詩人杜甫特集 102
もと天子から太常寺卿梁某に賜わったもので、現在は李鄧公が自分の所有として愛している驄馬について、杜甫が鄧公の命をうけて作った詩である。製作時は天宝十四載。
* 〔原注〕太常梁卿敢賜馬也。李鄧公。愛而有之。命甫製詩
755年天宝14載44歳



驄馬行
鄧公馬癖人共知,初得花驄大宛種。
李鄧公が愛馬の癖あることは人がみな知っているが、鄧公は初めて大宛の種である花紋様ある驄馬.を得られたのだ。
夙昔傳聞思一見,牽來左右神皆竦。
自分はその話を前々から聞いていたから一度見たいと思っていたのだ。この馬をひきだしてくると左右にいるもの皆びっくりして神々しさを持って見上げている。
雄姿逸態何崷崒,顧影驕嘶自衿寵。
その雄々しいすがた、すぐれた風格はどうしてあんなに堂々としているか。そのわが身の影をふりかりながら誇らしく嘶く様子は主人の寵愛をうけておることを顕示するのである。
隅目青熒夾鏡懸,肉鬃碨礧連錢動。』
その目は菱型形で青くひかりかがいて、左右からはさんだ明鏡がぶらさがっている様である、身をふるわせて突起したたてがみの肉がゆれて銭がたの模様を動かしている。』
朝來少試華軒下,未覺千金滿高價。
主人は朝からかけて少しくこの馬をうつくしい車をひかせてみたが、この馬の様子は千金を出したのも高すぎるとは考えられないものなのだ。
赤汗微生白雪毛,銀鞍卻覆香羅帕。
試乗後は白雪の様な毛に赤い汗がすこし出たが、銀の鞍にはかえって香わしき薄絹の腹かけをかけて馬をいたわっている。
卿家舊賜公取之,天廄真龍此其亞。
この馬は太常寺卿梁氏の家の拝領物であったのを李郭公が得られたのだが、この馬こそ天厩の竜馬に次ぐものであるのだ。
晝洗須騰涇渭深,夕趨可刷幽並夜。』

この馬こそ千里馬である、昼は涇水と渭水の深き水に騰りあがってわたり、夕にはずいぶん進み、夜には幽州・井州に達して、毛を刷う事ができるであろう馬なのだ。』
吾聞良驥老始成,此馬數年人更驚。
私は聞き及んでいる、よい千里馬は年をとっても成熟するということを。したがって、この馬も数年経たならば一層人が驚歎するものになるであろう。
豈有四蹄疾於鳥,不與八駿俱先鳴。
鳥よりはやい四足をもちながら天子の御馬の八頭の駿馬といっしょに先ず鳴かぬということがどうしてあるというのか。
時俗造次那得致,雲霧晦冥方降精。
此の種類の馬は世俗の人がほしいからとしてあわただしく得ようとしてできるものか、このような馬は、雲や霧がとざして真っ暗という様な時はじめて天が精気を降してこの馬を下界へ送りくださるものである。
近聞下詔喧都邑,肯使騏驎地上行。』

ちかごろきくとお上から詔を下されて都も地方もかましく騒ぎ立てて良馬を求められるということだ、まさか誰もが麒麟のような馬を地面の上に歩かせるというのではないのだろう。


郭公の馬癖は人共に知る、初めて得たり花膿大宛の種を

夙昔より伝聞して一たび見んことを思う、牽き来れば左右神皆錬る

雄姿逸態何ぞ酋拳たる、影を顧みて騎噺し自ら寵に治る

隅目青焚として爽鏡懸り、肉駿埠欄として連銭動く』


朝来少しく試む華軒の下、未だ覚えず千金の高価に満つるを

赤汗微しく生ず白雪の毛、銀鞍彿って覆う香羅帖

卿家の旧賜公之を取る、天厩の真竜此其の亜なり

昼洗須らく騰るぺし浬洞の深きに、夕趨刷く可し幽井の夜』


吾聞く良駿は老いて始めて成ると、此の馬数年人更に驚かん

豈 四蹄の鳥より疾くして、八駿と供に先ず鳴かざる有らんや

時俗造次に郵ぞ致すことを得ん、雲霧晦冥にして方に精を降す

近ろ聞く詔を下して都邑に喧しと、肯て麒麟をして地上に行かしめんや』




驄馬行  現代語訳と訳註 -#1

(本文)
鄧公馬癖人共知,初得花驄大宛種。
夙昔傳聞思一見,牽來左右神皆竦。
雄姿逸態何崷崒,顧影驕嘶自衿寵。
隅目青熒夾鏡懸,肉鬃碨礧連錢動。』


(下し文)
郭公の馬癖は人共に知る、初めて得たり花膿大宛の種を
夙昔より伝聞して一たび見んことを思う、牽き来れば左右神皆錬る
雄姿逸態何ぞ酋拳たる、影を顧みて騎噺し自ら寵に治る
隅目青焚として爽鏡懸り、肉駿埠欄として連銭動く』


(現代語訳)
李鄧公が愛馬の癖あることは人がみな知っているが、鄧公は初めて大宛の種である花紋様ある驄馬.を得られたのだ。
自分はその話を前々から聞いていたから一度見たいと思っていたのだ。この馬をひきだしてくると左右にいるもの皆びっくりして神々しさを持って見上げている。
その雄々しいすがた、すぐれた風格はどうしてあんなに堂々としているか。そのわが身の影をふりかりながら誇らしく嘶く様子は主人の寵愛をうけておることを顕示するのである。
その目は菱型形で青くひかりかがいて、左右からはさんだ明鏡がぶらさがっている様である、身をふるわせて突起したたてがみの肉がゆれて銭がたの模様を動かしている。』





驄馬行(訳註)
* 〔原注〕太常梁卿敢賜馬也。李鄧公。愛而有之。命甫製詩
青白色の馬のうた。*太常梁卿に敢え賜し馬なのだ。李鄧公はこの馬を愛し、そしてこの馬を手に入れた。それから杜甫に命じてこの詩をつらせた
○驄馬 青白色の馬。○太常梁卿太常寺の卿という官の梁氏、名は詳かでない。○李郭公 郭は封地の名、其の人の宗室であろう、名は詳かでない。○有之 自分のものにした。


鄧公馬癖人共知,初得花驄大宛種。

李鄧公が愛馬の癖あることは人がみな知っているが、鄧公は初めて大宛の種である花紋様ある驄馬を得られたのだ。
馬癖 馬を愛するというくせ。○花随 随馬にして花紋があるもの。後に連銭というのがそれである。○大宛種 
大宛国の名馬の種。


夙昔傳聞思一見,牽來左右神皆竦。

自分はその話を前々から聞いていたから一度見たいと思っていたのだ。この馬をひきだしてくると左右にいるもの皆びっくりして神々しさを持って見上げている。
夙昔 はやき以前。○牽乗馬をひいてくる。○左右 左右の傍観の人々。○神皆竦 いい馬と理解すること。神々しく見上げる。又聾とも通じ、毛髪のそばだつ様をいう。



雄姿逸態何崷崒,顧影驕嘶自衿寵。
その雄々しいすがた、すぐれた風格はどうしてあんなに堂々としているか。そのわが身の影をふりかりながら誇らしく嘶く様子は主人の寵愛をうけておることを顕示するのである。
雄姿逸 態雄々しいすがた、すぐれたようす。○崷崒 たかく聾えるさま。○顧影馬が自己のかげをかえりみる。○驕嘶 いばっていななく。誇らしく嘶く。○衿寵 寵愛をうけておることを顕示する。



隅目青熒夾鏡懸,肉鬃碨礧連錢動。』 
その目は菱型形で青くひかりかがいて、左右からはさんだ明鏡がぶらさがっている様である、身をふるわせて突起したたてがみの肉がゆれて銭がたの模様を動かしている。』
隅目 眼の輪郭の菱形であるのをいう。○青焚 青くして光りかがやく。○爽鏡 左右よりはさむかがみ、両眼をたとえていう、顔延年の「赭白馬賦」に「雙瞳爽鏡」の語がある。○肉鬃 鬃は鬣(たてがみ)。肉鬃はたてがみの辺に肉の多いことをいう。○碨礧 突起しているさま。○連銭 ぜにがたのもよう。○少試 すこしためしに乗る。





驄馬行  現代語訳と訳註 -#2
(本文)
朝來少試華軒下,未覺千金滿高價。
赤汗微生白雪毛,銀鞍卻覆香羅帕。
卿家舊賜公取之,天廄真龍此其亞。
晝洗須騰涇渭深,夕趨可刷幽並夜。』

(下し文)
朝来少しく試む華軒の下、未だ覚えず千金の高価に満つるを
赤汗微しく生ず白雪の毛、銀鞍彿って覆う香羅帖
卿家の旧賜公之を取る、天厩の真竜此其の亜なり
昼洗須らく騰るぺし浬洞の深きに、夕趨刷く可し幽井の夜』


(現代語訳)
主人は朝からかけて少しくこの馬をうつくしい車をひかせてみたが、この馬の様子は千金を出したのも高すぎるとは考えられないものなのだ。
試乗後は白雪の様な毛に赤い汗がすこし出たが、銀の鞍にはかえって香わしき薄絹の腹かけをかけて馬をいたわっている。
この馬は太常寺卿梁氏の家の拝領物であったのを李郭公が得られたのだが、この馬こそ天厩の竜馬に次ぐものであるのだ。
この馬こそ千里馬である、昼は涇水と渭水の深き水に騰りあがってわたり、夕にはずいぶん進み、夜には幽州・井州に達して、毛を刷う事ができるであろう馬なのだ。』


(訳註)

朝來少試華軒下,未覺千金滿高價。
主人は朝からかけて少しくこの馬をうつくしい車をひかせてみたが、この馬の様子は千金を出したのも高すぎるとは考えられないものなのだ。
華軒 軒は車。うつくしい車をひかせてみる。



赤汗微生白雪毛,銀鞍卻覆香羅帕。
試乗後は白雪の様な毛に赤い汗がすこし出たが、銀の鞍にはかえって香わしき薄絹の腹かけをかけて馬をいたわっている。
卻覆 卻ってとは汗ばんでいるので何かをかぶせなくてもよいのに、それに却ってかぶせるというのであり、これというのは主人の寵愛をあらわすものである。○香羅帕 帕は腹かけ、かんばしきうすぎぬのはらかけ。



卿家舊賜公取之,天廄真龍此其亞。

この馬は太常寺卿梁氏の家の拝領物であったのを李郭公が得られたのだが、この馬こそ天厩の竜馬に次ぐものであるのだ。
卿家 太常寺卿棄民の家。○旧賜 もと天子よりの拝領物。○公 李郭公。○天厩真竜 天子のおうまやのまことの竜馬。○ 李郭公のこの驄馬をさす。○ 上の兵竜をさす。○亜 それにつぐもの、次位にあるもの。



晝洗須騰涇渭深,夕趨可刷幽並夜。』
この馬こそ千里馬である、昼は涇水と渭水の深き水に騰りあがってわたり、夕にはずいぶん進み、夜には幽州・井州に達して、毛を刷う事ができるであろう馬なのだ。』
昼洗(二句)これは顔延年の「満目馬賊」の「且ハ幽燕二刷キ、昼ハ剤越二株り」とある意を活用したもの。洗とは体や足を水で洗うこと。○ おどりあがる。○涇渭深 涇渭は川の名、深は水の深いことをいう。○夕趨 ゆうべにはしる。○ はらう、よごれた毛をはらいおとす、毛なみをきれいにする。○幽並夜 幽州・井州の夜。幽は大体において河北省北部、並は山西省の地。



驄馬行  現代語訳と訳註 -#3
(本文)

吾聞良驥老始成,此馬數年人更驚。
豈有四蹄疾於鳥,不與八駿俱先鳴。
時俗造次那得致,雲霧晦冥方降精。
近聞下詔喧都邑,肯使騏驎地上行。』

(下し文)
吾聞く良駿は老いて始めて成ると、此の馬数年人更に驚かん
豊に四蹄の鳥より疾くして、八駿と供に先ず鳴かざる有らんや
時俗造次に郵ぞ致すことを得ん、雲霧晦冥にして方に精を降す
近ろ聞く詔を下して都邑に喧しと、肯て麒麟をして地上に行かしめんや』

(現代語訳)
私は聞き及んでいる、よい千里馬は年をとっても成熟するということを。したがって、この馬も数年経たならば一層人が驚歎するものになるであろう。
鳥よりはやい四足をもちながら天子の御馬の八頭の駿馬といっしょに先ず鳴かぬということがどうしてあるというのか。
此の種類の馬は世俗の人がほしいからとしてあわただしく得ようとしてできるものか、このような馬は、雲や霧がとざして真っ暗という様な時はじめて天が精気を降してこの馬を下界へ送りくださるものである。
ちかごろきくとお上から詔を下されて都も地方もかましく騒ぎ立てて良馬を求められるということだ、まさか誰もが麒麟のような馬を地面の上に歩かせるというのではないのだろう。


(訳註)

吾聞良驥老始成,此馬數年人更驚。
私は聞き及んでいる、よい千里馬は年をとっても成熟するということを。したがって、この馬も数年経たならば一層人が驚歎するものになるであろう。
艮驥 よい千里馬。○老姶成 年をとっても成熟する。



豈有四蹄疾於鳥,不與八駿俱先鳴。
鳥よりはやい四足をもちながら天子の御馬の八頭の駿馬といっしょに先ず鳴かぬということがどうしてあるというのか。
豈有 この二字は下句までかかる。う。〇四蹄疾於鳥四本のびづめが鳥よりはやく走る。〇八駿 周の穆王の八匹の駿馬、その名は赤旗・盗驪・白義・踰輸・山子・渠黄・驊騮・騄耳。○先鳴 他の凡馬に先だちて声をあげる、先ず用いられることをいう。



時俗造次那得致,雲霧晦冥方降精。
此の種類の馬は世俗の人がほしいからとしてあわただしく得ようとしてできるものか、このような馬は、雲や霧がとざして真っ暗という様な時はじめて天が精気を降してこの馬を下界へ送りくださるものである。
時俗 世俗の人。○造次 急遽のさま、あわただしいさま。○我が手もとへまねきいたすことをいう。○晦冥 まっくら。○降精 馬は月の精であるといい、河水の精であるといい、房星の精であるという。大宛の天馬も其の国の高山の上にいて得ることができないので、五色の母馬を其の下に置いて交らせて駒を生ませると言い伝えられているが、それは山上の馬を天より下った馬とみたものなのであろう。いい種馬といい雌馬、それに天の精が加わってこのような馬が生まれる。



近聞下詔喧都邑,肯使騏驎地上行。』
ちかごろきくとお上から詔を下されて都も地方もかましく騒ぎ立てて良馬を求められるということだ、まさか誰もが麒麟のような馬を地面の上に歩かせるというのではないのだろう。
喧都邑 喧とはやかましくさわざで善馬を求めること。○肯使反語。○麒麟 善く走る馬をいう。○地上行 地面の上をあるく。



巷では、国内で戦の様相を呈してきたということを述べている。穀物の値段が数十倍になり、それでも、尚買えないという状況になっている。飢饉があり、運河航行が天候不良で難しい。
 世界の歴史で、大変化のおこる兆候である飢饉、天候不良がまさにおこったのだ。 良馬を求めるのも戦の前兆である。





驄馬行
鄧公馬癖人共知,初得花驄大宛種。
夙昔傳聞思一見,牽來左右神皆竦。
雄姿逸態何崷崒,顧影驕嘶自衿寵。
隅目青熒夾鏡懸,肉鬃碨礧連錢動。』

朝來少試華軒下,未覺千金滿高價。
赤汗微生白雪毛,銀鞍卻覆香羅帕。
卿家舊賜公取之,天廄真龍此其亞。
晝洗須騰涇渭深,夕趨可刷幽並夜。』

吾聞良驥老始成,此馬數年人更驚。
豈有四蹄疾於鳥,不與八駿俱先鳴。
時俗造次那得致,雲霧晦冥方降精。
近聞下詔喧都邑,肯使騏驎地上行。』


郭公の馬癖は人共に知る、初めて得たり花膿大宛の種を
夙昔より伝聞して一たび見んことを思う、牽き来れば左右神皆錬る
雄姿逸態何ぞ酋拳たる、影を顧みて騎噺し自ら寵に治る
隅目青焚として爽鏡懸り、肉駿埠欄として連銭動く』

朝来少しく試む華軒の下、未だ覚えず千金の高価に満つるを
赤汗微しく生ず白雪の毛、銀鞍彿って覆う香羅帖
卿家の旧賜公之を取る、天厩の真竜此其の亜なり
昼洗須らく騰るぺし浬洞の深きに、夕趨刷く可し幽井の夜』

吾聞く良駿は老いて始めて成ると、此の馬数年人更に驚かん
豈 四蹄の鳥より疾くして、八駿と供に先ず鳴かざる有らんや
時俗造次に郵ぞ致すことを得ん、雲霧晦冥にして方に精を降す
近ろ聞く詔を下して都邑に喧しと、肯て麒麟をして地上に行かしめんや』