自京赴奉先縣詠懷五百字 杜甫 106 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700-105-2



自京赴奉先縣詠懷 五百字 2/10 2

窮年憂黎元,嘆息腸熱。

かねてこの方、一年中一般の民衆の身の上を心配し、どうしようもない思いで腸が内部で熱くなる。
取笑同學翁,浩歌彌激烈。

少年時のいっしょに学問をした老人などから笑われるが、彼は大声で歌いはじめるといよいよ激烈になるのである。
非無江海誌,蕭灑送日月。

彼は江海へのがれ志をすて去って、のんきに月日を送るということもおもわないわけでもない。
生逢堯舜君,不忍便永訣。

せっかく尭舜のような聖天子に生れあわせることができたので、すぐ永久のおわかれをするには忍びないのである。
當今廊廟具,構廈豈雲缺?

今にあたって、朝廷の政務を担う人物は唐王朝を構える良材として欠けているとまではいわないのではあるが。
傾太陽,物性固莫奪。

ひまわりが太陽の光の方へ必ず傾くように育っていく、万物の本性というものは実に他からその本性を奪いとることはできないはずのものである。』


窮年(きゅうねん)黎元(れいげん)を憂え、嘆息(たんそく)して腸内(ちょううち)に熱す。

笑いを同学(どうがく)の翁(おう)に取るも、浩歌(こうか)すること弥々(いよいよ)激烈なり。

江海(こうかい)の志の瀟洒(しょうしゃ)として日月(じつげつ)を送る無きに非(あら)ざるを。

生まれて堯舜(ぎょうしゅん)の君(きみ)に逢い、便(すなわち)、永訣(えいけつ)するに忍(しの)びず。

当今(とうこん) 廊廟(ろうびょう)の具、構廈(こうか) 豈(あに)、欠けたりと云わんや。

(きかく)太陽に傾く、物性(ぶつせい)  固(まこと)に 奪い難し。


(本文)
窮年憂黎元,嘆息腸內熱。
取笑同學翁,浩歌彌激烈。
非無江海誌,蕭灑送日月。
生逢堯舜君,不忍便永訣。
當今廊廟具,構廈豈雲缺?
葵藿傾太陽,物性固莫奪。』


(下し文)
窮年(きゅうねん)黎元(れいげん)を憂え、嘆息(たんそく)して腸内(ちょううち)に熱す。
笑いを同学(どうがく)の翁(おう)に取るも、浩歌(こうか)すること弥々(いよいよ)激烈なり。
江海(こうかい)の志の瀟洒(しょうしゃ)として日月(じつげつ)を送る無きに非(あら)ざるを。
生まれて堯舜(ぎょうしゅん)の君(きみ)に逢い、便(すなわち)、永訣(えいけつ)するに忍(しの)びず。
当今(とうこん) 廊廟(ろうびょう)の具、構廈(こうか) 豈(あに)、欠けたりと云わんや。
葵藿(きかく)太陽に傾く、物性(ぶつせい)  固(まこと)に 奪い難し。

(現代語訳)
かねてこの方、一年中一般の民衆の身の上を心配し、どうしようもない思いで腸が内部で熱くなる。
少年時のいっしょに学問をした老人などから笑われるが、彼は大声で歌いはじめるといよいよ激烈になるのである。
彼は江海へのがれ志をすて去って、のんきに月日を送るということもおもわないわけでもない。
せっかく尭舜のような聖天子に生れあわせることができたので、すぐ永久のおわかれをするには忍びないのである。
今にあたって、朝廷の政務を担う人物は唐王朝を構える良材として欠けているとまではいわないのではあるが。
ひまわりが太陽の光の方へ必ず傾くように育っていく、万物の本性というものは実に他からその本性を奪いとることはできないはずのものである。』




#2 (訳註)
 
窮年憂黎元,嘆息腸內熱。
かねてこの方、一年中一般の民衆の身の上を心配し、どうしようもない思いで腸が内部で熱くなる。
窮年 ねんじゅう。○黎元 黒首の義とし民衆のこととする。秦の時、民衆を黔首(くろいくび)といった。或は、元は性善説では善の意で、善人をさし、一般の人を意味する。○ 杜甫は「嘆」をよく使うが、嘆くと訳すと少し違う。どうしようもないもどかしさで訴えるように。嘆くのである。


取笑同學翁,浩歌彌激烈。
少年時のいっしょに学問をした老人などから笑われるが、彼は大声で歌いはじめるといよいよ激烈になるのである。
同学翁 いっしょに学問をなした老人。○浩歌 大声で歌う。


非無江海誌,蕭灑送日月。
彼は江海へのがれ志をすて去って、のんきに月日を送るということもおもわないわけでもない。
江海志 江海の地に隠遁して現状から去る陶淵明の志。○蕭灑 あっさり、人事に拘泥せぬさま。


生逢堯舜君,不忍便永訣。
せっかく尭舜のような聖天子に生れあわせることができたので、すぐ永久のおわかれをするには忍びないのである。
尭舜君 尭舜の如き聖天子、玄宗をさす。○便永訣 すぐに永久のわかれをする。


當今廊廟具,構廈豈雲缺?
今にあたって、朝廷の政務を担う人物は唐王朝を構える良材として欠けているとまではいわないのではあるが。
廊廟具 廟堂の器をいう、宗廟朝廷に立って仕事をしてゆける人物。宰相、宦官の長など人材。宰相楊国忠と宦官高力士を指す。○構虜 木材をくみたてて大屋をつくること。○ 木材のよいもののないことをいう。


葵藿傾太陽,物性固莫奪。』
ひまわりが太陽の光の方へ必ず傾くように育っていく、万物の本性というものは実に他からその本性を奪いとることはできないはずのものである。』
葵藿 ひまわり。○ 菓花がそちらへむく。曹植の「親 親ヲ通ゼンコトヲ求ムル表」に「英幸ノ葉ヲ傾クルハ、太陽ノ為二光ヲ廻ラサズト錐モ、然レドモ終二之二向コウ者ハ誠ナリ。」とみえる、己が心のつねに君に向こうことをたとえていう。○物性 物とは葵章をさす、性は性質、すなわち太陽の方へむくという本性。○ うばいとる。


(解説)
この時代から、詩人は文人で、政治家、軍人ではなくなってきた。文人は、官僚にならなければ生きていけなかった。唐王朝、律令制のなかで、詩人であり続けたい、官僚に採用されたいと願っても、宰相、執務を取る宦官が良くなかった。無学のものが高官を占めると文人は徹底的に排除されたのだ。杜甫も他の高官との交際をしていたので自己の不遇をひしひしと感じていたのである。


「葵藿」(ひまわり)が太陽のほうを向くように人の本性を奪われることはない。だから、ときには隠遁のことも考えなかったわけではないが、きっと堯や舜のような聖天子の世に生まれたのだから、なんとしてでも官に就いて力を尽くしたい希望にあふれていた。逃避、隠遁は貧困、自給自足を意味し、家族十人を抱えた杜甫の選択指は士官しかないのである。



第一段(#1~#3)
杜陵有布衣,老大意轉拙。許身一何愚?竊比稷與契。
居然成獲落,白手甘契闊。蓋棺事則已,此誌常覬豁。』
窮年憂黎元,嘆息腸內熱。取笑同學翁,浩歌彌激烈。
非無江海誌,蕭灑送日月。生逢堯舜君,不忍便永訣。
當今廊廟具,構廈豈雲缺?葵藿傾太陽,物性固莫奪。』

顧惟螻蟻輩,但自求其穴。胡為慕大鯨,輒擬偃溟渤?
以茲誤生理,獨恥事幹謁。兀兀遂至今,忍為塵埃沒。
終愧巢與由,未能易其節。沉飲聊自遣,放歌破愁絕。』
第二段(#4~#8)
歲暮百草零,疾風高岡裂。天衢陰崢嶸,客子中夜發。
霜嚴衣帶斷,指直不得結。淩晨過驪山,禦榻在嵽嵲。』
蚩尤塞寒空,蹴蹋崖谷滑。瑤池氣鬱律,羽林相摩戛。
君臣留歡娛,樂動殷膠葛。賜浴皆長纓,與宴非短褐。』
彤庭所分帛,本自寒女出。鞭撻其夫家,聚斂貢城闕。
聖人筐篚恩,實欲邦國活。臣如忽至理。君豈棄此物?
多士盈朝廷,仁者宜戰慄。』
況聞內金盤,盡在衛霍室。中堂有神仙,煙霧蒙玉質。
暖客貂鼠裘,悲管逐清瑟。勸客駝蹄羹,霜橙壓香橘。
朱門酒肉臭,路有凍死骨。榮枯咫尺異,惆悵難再述。』
北轅就涇渭,官渡又改轍。群水從西下,極目高崒兀。
疑是崆峒來,恐觸天柱折。河梁幸未坼,枝撐聲窸窣。
行旅相攀援,川廣不可越。』
第三段(#9~10)
老妻寄異縣,十口隔風雪。誰能久不顧?庶往共饑渴。
入門聞號啕,幼子餓已卒。吾寧舍一哀?裡巷亦嗚咽。
所愧為人父,無食致夭折。豈知秋禾登,貧窶有蒼卒。』
生常免租稅,名不隸徵伐。撫跡猶酸辛,平人固騷屑。
默思失業徒,因念遠戍卒。憂端齊終南,澒洞不可掇。』