自京赴奉先縣詠懷五百字 杜甫 109 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700-105-#5


#5 
蚩尤塞寒空、蹴踏崖谷滑。
底冷えのする寒空には先行き不安をつげるような蛍尤の旗雲が塞いでいる、山路をふみゆくと崖や谷の路が氷結してすべりそうだ。
瑤池気鬱律、羽林相摩戛、
温泉のあたりは湯気がたてこめていて、羽林軍のたてならべている儀仗の武器や道具の器がからからすれおうて音をたてている。
君臣留懽娯、楽動殷膠嵑。
天子とその従臣とがここに逗留して娯楽に興じているので、山山石高険なところに音楽を奏する音が殿々とひびきわたって帰ってくる。
賜浴皆長纓、与宴非短褐。
我が君から浴みを賜わるものは皆長い樫を垂れた貴い位の人々であるし、御宴に加わるものは短裾を著た貧乏人ではない。』



自京赴奉先縣詠懷五百字 #5 現代語訳と訳註 解説

(本文)
蚩尤塞寒空、蹴踏崖谷滑。
瑤池気鬱律、羽林相摩戛、
君臣留懽娯、楽動殷膠嵑。
賜浴皆長纓、与宴非短褐。』

(下し文)
蚩尤(しゆう)は寒空(かんくう)に塞(ふさ)がり、崖谷(がいこく)の滑かなるに蹴踏(しゅくとう)す。
瑤池(ようち)に気は鬱律(うつりつ)として、羽林(うりん)は相い摩戛(まかつ)す。
君臣  留(とど)まりて懽娯(かんご)し、楽(がく)は動きて膠嵑(こうかつ)に殷(いん)たり。
浴(よく)を賜わるは皆(み)な長纓(ちょうえい)、宴(えん)に与(あず)かるは短褐(たんかつ)に非ず。
  
(現代語訳)
底冷えのする寒空には先行き不安をつげるような蛍尤の旗雲が塞いでいる、山路をふみゆくと崖や谷の路が氷結してすべりそうだ。
温泉のあたりは湯気がたてこめていて、羽林軍のたてならべている儀仗の武器や道具の器がからからすれおうて音をたてている。
天子とその従臣とがここに逗留して娯楽に興じているので、山山石高険なところに音楽を奏する音が殿々とひびきわたって帰ってくる。
我が君から浴みを賜わるものは皆長い樫を垂れた貴い位の人々であるし、御宴に加わるものは短裾を著た貧乏人ではない。』


(語訳と訳註)

蚩尤塞寒空、蹴踏崖谷滑。
底冷えのする寒空には先行き不安をつげるような蛍尤の旗雲が塞いでいる、山路をふみゆくと崖や谷の路が氷結してすべりそうだ。
蚩尤 蚩尤は古王の名、後に星の名、旗雲の名となる、ここは旗雲をいう。この雲は兵乱など先行き不安をつげるような雲である。○蹴踏 山路をふみゆく。

瑤池気鬱律、羽林相摩戛、
温泉のあたりは湯気がたてこめていて、羽林軍のたてならべている儀仗の武器や道具の器がからからすれおうて音をたてている。
瑤池、崑崙山頂、西王母の居る池をさすが、ここは驪山の温泉をさしていう。○ 温泉の気をいう。○鬱律 気のふさがるさま。○羽林 羽林軍をいう。参軍(羽林軍、龍武軍、神策軍)のこと。○摩戛 すれあってからからと昔がする。これは衛卒のいる所の旗竿儀仗など武器や道具の器がからからすれおうて音をたてていること。


君臣留懽娯、楽動殷膠嵑。
天子とその従臣とがここに逗留して娯楽に興じているので、山山石高険なところに音楽を奏する音が殿々とひびきわたって帰ってくる。
君臣 玄宗及びその庖従の臣。○ 音楽。○ とどろく声をいう。○膠嵑 山石高険なさま。


賜浴皆長纓、与宴非短褐。』
我が君から浴みを賜わるものは皆長い樫を垂れた貴い位の人々であるし、御宴に加わるものは短裾を著た貧乏人ではない。』
賜浴 浴をたまわる人々をいう、華清宮には浴槽が数十か所あって従臣に浴を賜わった。○長纓 ながい冠のひも、顕貴の人々をさす。○与宴 与はそれにくわわることをいう。○短褐 みじかい粗末な毛おりもの、かかる服をきた賤人をいう。



(解説)
 長安を出発して㶚陵橋須過ぎてしばらく行くと、右側(南)に驪山の華清宮が山の高い所にある。宮殿のまわりに、兵士たちが護衛に立ち、温泉からは湯気が立ちのぼっている。天子や高官たちは楽しみに耽っているけれども、入浴できるのは高位の者だけで、位の低い者は宴席にも関係ない。
 朝廷で臣下に賜わる「帛」(絹布)など、もともとは貧しい家の娘が織ったもので、貢ぎの品として税として、強制的に集めたものだと詠っているのである。