奉同郭給事湯東靈湫作 杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 115

 (前半22句11聯・韻)
給事中の郭氏が騒山温泉の東にある霊漱について作った詩に和して作った詩。とほが奉先県に赴くときの作である。
 天宝十四載(755)冬十一月の初め、杜甫は馬車で真夜中に長安を発った。奉先県への路は、冷たい風が北の砂漠地帯から吹きつけてくる。杜甫は四十四歳を過ぎて、やっと官職につけた。自京赴奉先縣詠懷五百字の#1~7まで今回の詩の給事中の郭氏と一緒に語らっていたということなのだ。特に#4~#7につぃては詩の内容の共通点も確認もできる。
白京赴奉先牒詠懐 五百字 
#4
歲暮百草零,疾風高岡裂。天衢陰崢嶸,客子中夜發。
霜嚴衣帶斷,指直不得結。淩晨過驪山,禦榻在嵽嵲。』
(歳暮れて百草零ち、疾風に高岡裂く。天衢 陰として崢嶸たり、客子 中夜に発す。霜は厳しくして衣帯断え、指は直にして結ぶ能わず。晨を凌いで驪山を過ぐれば、御榻は帶臬に在り。)
#5
蚩尤塞寒空,蹴蹋崖谷滑。瑤池氣鬱律,羽林相摩戛。
君臣留歡娛,樂動殷膠葛。賜浴皆長纓,與宴非短褐。』
(蚩尤は寒空に塞がり、崖谷の滑かなるに蹴踏す。瑤池に気は鬱律として、羽林は相い摩戛す。君臣 留まりて懽娯し、楽は動きて膠嵑に殷たり。浴を賜わるは皆な長纓、宴に与かるは短褐に非ず。)


奉同郭給事湯東靈湫作
#1
東山氣鴻蒙,宮殿居上頭。
長安の東にあたる驪山にはもくもくと煙、湯気が立ち込めている、華清宮の宮殿はその上方にかぶさるように存在している。
君來必十月,樹羽臨九州。
我が君がここへおいでになるのはかならず十月になってからだ、ここに羽旗をたてて天下九州のまつりごとにあたられるのである。
陰火煮玉泉,噴薄漲岩幽。
ここでは地の底にある火が美しい温泉の水を煮たたせているのだ、そしてその湯気は噴出してあたりに充満し、巌と一緒になって周りを暗くしている。 
有時浴赤日,光抱空中摟。』

時にはその温泉の水は赤き太陽を浸したような色になる、光を抱き込んで空中たかくそびえた楼閣のように見えることもある。』 
閬風入轍跡,曠原延冥搜。
ここへ我が君玄宗は周の穆王のように行幸になり、閬風顛ともいうべき仙山は天子の轍のあとにはいったのだ、そして崑崙の曠原でさえ天子の御さぐりをさそっている。
沸天萬乘動,觀水百丈湫。
天上に湧きかえり、万乗の御車が動いているのだ、温泉の東にある百丈の湫に水をごらんになる。
幽靈斯可佳,王命官屬休。
湫の中には怪物がいる。ここで天子は従臣のものたちに休息の命を賜わった。
初聞龍用壯,擘石摧林丘。
まえもって聞いたことだが、竜は勇壮な力をだした、石をたたき割り、林や丘を切り裂きくだいた。
中夜窟宅改,移因風雨秋。
そうしてその竜は夜なかごろ自分のすまいのいわやをかえ、この秋の風雨、長雨に乗じてこの湫へ移転してきたということなのだ。
倒懸瑤池影,屈注滄江流。
今この瑤池ともいうべき湫には温泉宮の影が逆さまに懸かって映っている、そして湫からあふれ出る湯水は屈折し、冷水となって大江の流れに注ぎ込むのである。
味如甘露漿,揮弄滑且柔。』

この水を舐めてみると甘くして甘露汁のようである、手で掻きまぜみれば滑かであり、柔かなのである。』

#2
翠旗澹偃蹇,雲車紛少留。簫鼓蕩四溟,異香泱漭浮。
鮫人獻微綃,曾祝沉豪牛。百祥奔盛明,古先莫能儔。
坡陀金蝦蟆,出見蓋有由。至尊顧之笑,王母不肯收。
複歸虛無底,化作長黃虯。』

飄搖青瑣郎,文采珊瑚鉤。浩歌淥水曲,清絕聽者愁。』



(郭給事が湯東の霊漱の作に同し奉る)
東山気濠鴻たり 宮殿上頭に居る、君の来るは必ず十月なり 羽を樹てて九州に臨む。
陰火玉泉を煮る 噴薄巌に漲って幽なり、時有ってか赤目を浴せしむ 光は抱く空中の楼。』
閬風轍跡に入る 曠原冥搜を延く、天に沸いて万乗動く 水を観る百丈の湫。
幽霊斯れ怪む可し 王官属に命じて休せしむ、初め聞く竜壮を用い 石を擘って林丘摧く。
中夜窟宅改まる 移ることは風雨の秋に因ると、倒に懸る瑤池の影 槍江の流れに屈注す。
味は甘露の漿の如し 揮弄すれば滑にして且つ柔なり。』

翠旗澹として偃蹇たり 雲車粉として少しく留まる
簫鼓四溟を蕩かす 異香泱漭として浮ぶ
鮫人微綃を献じ 曾祝豪牛を沈む
百祥盛明に奔る 古先も能く鱒する莫し
披陀たる金の蝦娯 出見する蓋し由有り
至尊之を顧みて笑う 王母収め遣めず
復た虚無の底に帰し 化して長き黄札と作る』
諷諷たる青瑣の郎  文宋珊瑚の鉤
浩歌す淥水の曲 清絶聴く者愁う』


奉同郭給事湯東靈湫作 現代語訳と訳註
(本文)
#1

東山氣鴻蒙,宮殿居上頭。君來必十月,樹羽臨九州。
陰火煮玉泉,噴薄漲岩幽。有時浴赤日,光抱空中摟。』

閬風入轍跡,曠原延冥搜。沸天萬乘動,觀水百丈湫。
幽靈斯可佳,王命官屬休。初聞龍用壯,擘石摧林丘。
中夜窟宅改,移因風雨秋。倒懸瑤池影,屈注滄江流。
味如甘露漿,揮弄滑且柔。』

(下し文)
東山気濠鴻たり 宮殿上頭に居る、君の来るは必ず十月なり 羽を樹てて九州に臨む。
陰火玉泉を煮る 噴薄巌に漲って幽なり、時有ってか赤目を浴せしむ 光は抱く空中の楼。』
閬風轍跡に入る 曠原冥搜を延く、天に沸いて万乗動く 水を観る百丈の湫。
幽霊斯れ怪む可し 王官属に命じて休せしむ、初め聞く竜壮を用い 石を擘って林丘摧く。
中夜窟宅改まる 移ることは風雨の秋に因ると、倒に懸る瑤池の影 槍江の流れに屈注す。
味は甘露の漿の如し 揮弄すれば滑にして且つ柔なり。』


(現代語訳)
長安の東にあたる驪山にはもくもくと煙、湯気が立ち込めている、華清宮の宮殿はその上方にかぶさるように存在している。
我が君がここへおいでになるのはかならず十月になってからだ、ここに羽旗をたてて天下九州のまつりごとにあたられるのである。
ここでは地の底にある火が美しい温泉の水を煮たたせているのだ、そしてその湯気は噴出してあたりに充満し、巌と一緒になって周りを暗くしている。 
時にはその温泉の水は赤き太陽を浸したような色になる、光を抱き込んで空中たかくそびえた楼閣のように見えることもある。』 

ここへ我が君玄宗は周の穆王のように行幸になり、閬風顛ともいうべき仙山は天子の轍のあとにはいったのだ、そして崑崙の曠原でさえ天子の御さぐりをさそっている。
天上に湧きかえり、万乗の御車が動いているのだ、温泉の東にある百丈の湫に水をごらんになる。
湫の中には怪物がいる。ここで天子は従臣のものたちに休息の命を賜わった。
まえもって聞いたことだが、竜は勇壮な力をだした、石をたたき割り、林や丘を切り裂きくだいた。
そうしてその竜は夜なかごろ自分のすまいのいわやをかえ、この秋の風雨、長雨に乗じてこの湫へ移転してきたということなのだ。
今この瑤池ともいうべき湫には温泉宮の影が逆さまに懸かって映っている、そして湫からあふれ出る湯水は屈折し、冷水となって大江の流れに注ぎ込むのである。
この水を舐めてみると甘くして甘露汁のようである、手で掻きまぜみれば滑かであり、柔かなのである。』


(訳註)

奉同郭給事湯東靈湫作
郭給事が湯東の靈湫の作に同し奉る。
 和するをいう。他人が作った詩につけて、我が意をのべること。○郭給事 郭は姓、名は詳かでない、給事は官名、給事中をいう。○湯東靈湫 湯は驪山の温泉をいう。前詩では、華清宮。靈湫とは竜の住む不思議な池をいう。
#1
東山氣鴻蒙,宮殿居上頭。

長安の東にあたる驪山にはもくもくと煙、湯気が立ち込めている、華清宮の宮殿はその上方にかぶさるように存在している。
東山 驪山をいう、長安の東に在るからである。○ 温泉の気。○濠鴻 或は鴻濠に作る、もやくや。○宮殿 華清宮をいう。○上頭 上方にかぶさるように存在するさま。。


君來必十月,樹羽臨九州。
我が君がここへおいでになるのはかならず十月になってからだ、ここに羽旗をたてて天下九州のまつりごとにあたられるのである。
 玄宗。〇十月 玄宗は避寒のため十月に行幸し、歳が尽きて帰る。○樹羽 羽旗をたてる、羽旗は羽をかざった旗。「赴奉先県詠懐」詩の「羽林相摩真ス」と同意であろう。或は楽器の装飾ととくが恐らくは非であろう。○臨九州 九州は天下をいう。天下に臨むとはここで政治を視られることをいう。


陰火煮玉泉,噴薄漲岩幽。
ここでは地の底にある火が美しい温泉の水を煮たたせているのだ、そしてその湯気は噴出してあたりに充満し、巌と一緒になって周りを暗くしている。 
陰火 地の底の火。○玉泉 温泉のうつくしい水。○噴薄 湯気の下よりふきだすさま。


有時浴赤日,光抱空中摟。』
時にはその温泉の水は赤き太陽を浸したような色になる、光を抱き込んで空中たかくそびえた楼閣のように見えることもある。』 
浴赤目 酸化鉄を含んだ温泉巣のこと。ここは温泉が太陽を浸すことをいう。○空中楼 間欠泉のように空中に湧き出る温泉水が樓閣のようにみある。


閬風入轍跡,曠原延冥搜。
ここへ我が君玄宗は周の穆王のように行幸になり、閬風顛ともいうべき仙山は天子の轍のあとにはいったのだ、そして崑崙の曠原でさえ天子の御さぐりをさそっている。
閬風 崑崙山に三角(隅)があり、其の一角を閬風顛(ろうふうてん)という山の名。〇人轍跡 周の穆王は八匹の駿馬に駕して崑崙の上にのぼった。玄宗が騒山に遊ぶのを穆王が崖嵩に遊ぶのに此した。又旬の造り方は天子の馬車が間風を踏むというべきところを逆に聞風が轍跡に入るといったものである。轍跡はくるまのわだちのあと。○曠原 崑崙東北脚の野の名。○延冥捜 延はまねきよせる、冥捜は奥ふかくさぐること、これも上旬の如く、天子が曠原を冥捜するということを、曠原の方が天子の冥捜をひくといいなしたもの。この時代天子は神であるから、このような言い回しをしている。天子に対する思い入れが多いことを示す句である。


沸天萬乘動,觀水百丈湫。
天上に湧きかえり、万乗の御車が動いているのだ、温泉の東にある百丈の湫に水をごらんになる。
沸天やかましい音響が天辺にわきおこる。○万乗動 天子の一行が動きだす。乗は車一台をいう、昔、天子の国は兵車万乗を出し、天子が出御されるときには千乗万騎のお伴があった。○観水 水は霊湫の水。〇百丈 百丈のふかさをいう。○ 低くて狭い湧き出る穴。


幽靈斯可佳,王命官屬休。
湫の中には怪物がいる。ここで天子は従臣のものたちに休息の命を賜わった。
○幽霊 漱の中にすむ怪物をさす。○王命官属休 これは「穆・天子伝」中の語を用いてとる。玄宗が、臣下に命じて休息をたまわることをいう。それは幽霊を観、且つ祭るためである。


初聞龍用壯,擘石摧林丘。
まえもって聞いたことだが、竜は勇壮な力をだした、石をたたき割り、林や丘を切り裂きくだいた。
○初聞 まえかたきく。此の下四句は昔のことをさかのぼって叙する。○竜用壮 牡とは竜の壮なるカをいう。

中夜窟宅改,移因風雨秋。
そうしてその竜は夜なかごろ自分のすまいのいわやをかえ、この秋の風雨、長雨に乗じてこの湫へ移転してきたということなのだ。
居宅 いわあなのすみか、これは竜がこの湫へ来る以前に棲息していた所。○ かわること。○ こちらへ移転すること。○風雨秋 この秋の長雨。
 
倒懸瑤池影,屈注滄江流。
今この瑤池ともいうべき湫には温泉宮の影が逆さまに懸かって映っている、そして湫からあふれ出る湯水は屈折し、冷水となって大江の流れに注ぎ込むのである。
倒懸 この湫上にさかさまにぶらさがる、影がうつることをいう。○瑤池影 瑤池は驪山の温泉をさすが、ここは温泉宮全体をさし、その宮殿楼閣の影を影といっている。○屈注 屈折してそそぐ、この湫は冷水(又は零水)となって北方向の渭水にそそぐ。○滄江流 ひろい川の流れ、渭水をさす。


味如甘露漿,揮弄滑且柔。』 
この水を舐めてみると甘くして甘露汁のようである、手で掻きまぜみれば滑かであり、柔かなのである。』
漿しる。○揮弄ふるいもてあそぶ。○滑且柔 水質のきめのよいこと。



○押韻 蒙,頭。州。幽。摟。/搜。湫。休。丘。秋。流。柔