白水崔少府十九翁高齋三十韻 杜甫 121 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 121-#1


安禄山が反旗を翻したとき、杜甫はまだ奉先県の家族のもとにいたが、その後の数か月間の足どりは明らかでない。そのまま奉先県に留まっていたとも思える。しかし、家族のもとからすぐに長安に引き返して右衛率府の仕事についていたが、しだいにぞく叛乱軍が迫ってきたため、家族を避難させるため長安を離れた。帰省後の数か月間の杜甫の行動は、このように不明であるが、五月には、家族を連れて、親戚の崔氏が県令となっている白水県に移っている。白水県は奉先県の北にある県であるが、この地も戦雲がみなぎり、厳しい状況のもとにあったので、その後、鄭州の羌村に避難した。

白水県の尉官である崔十九翁の高斎で作った詩、叛乱軍に捕縛される前、天宝十五載夏の作である。



#1
客從南縣來,浩蕩無與適。
わたしは南の奉先県からこの白水へやって来たのであるが、心はとりとめなくうごいて自分の意にかなうこととしてここに来たのではない。
旅食白日長,況當朱炎赫。』
ここに食客となっていると日長が一日ということである、ましてこんなに炎天の夏の頃にあたっているのだ。』
高齋坐林杪,信宿遊衍闃。
高い書斎が林の梢のようなところに設置されたところにわたしは坐っている、数日をすごすに、きままにくつろいであそぶのだがいたってものさびしいことでもある。
清晨陪躋攀,傲睨俯峭壁。
きょうの朝の清々しさのあいだに主人におともをしてここのところへよじのぼってきたのだ、随分気張ってながめそして絶壁をうつぶせてみおろした。
崇岡相枕帶,曠野回咫尺。
たかい岡は互に帯のようにまつわりめぐりあったりしている、ひろい原野はとおくはあるが咫尺な間近くにある様な感じがする。
始知賢主人,贈此譴岑寂。』
そこで始めて知った、ここの賢い主人についてであるが、崔十九翁は此の景色眺望をわたしに贈ってくれてそれで自分のうれい、さびしさをどこかへ追いやってしまわせようとしてくれているのだということなのだ。』


危階根青冥,曾冰生淅瀝。
上有無心雲,下有欲落石。
泉聲聞複息,動靜隨所激。
鳥呼藏其身,有似懼彈射。』

白水崔少府十九翁高齋三十韻 #1

客南県従り来る 浩蕩として与に通する無し

旅食自日長し 況や朱炎の赫たるに当るをや』

高斎林秒に坐す 信宿潜行閲たり

清最陪して臍攣し 倣晩晴壁に傭す

崇岡相枕帯す 境野過にして爬尺なり

始めて知る賢主人 此を贈って愁寂を遥らしむるを』


危階青冥に根す 曾泳漸靡たるに生ず
上には無心の雲有り 下には落ちんと欲する石有り
泉声聞こえて復た息む 動静激する所に随う
鳥呼びて其の身を蔵す 弾射を憤るるに似たる有り』




白水崔少府十九翁高齋三十韻 現代語訳と訳註 #1
(本文) #1

客從南縣來,浩蕩無與適。
旅食白日長,況當朱炎赫。』
高齋坐林杪,信宿遊衍闃。
清晨陪躋攀,傲睨俯峭壁。
崇岡相枕帶,曠野回咫尺。
始知賢主人,贈此譴岑寂。』

(下し文)
客南県従り来る 浩蕩として与に通する無し
旅食自日長し 況や朱炎の赫たるに当るをや』
高斎林秒に坐す 信宿潜行閲たり
清最陪して臍攣し 倣晩晴壁に傭す
崇岡相枕帯す 境野過にして爬尺なり
始めて知る賢主人 此を贈って愁寂を遥らしむるを』
  
(現代語訳)
わたしは南の奉先県からこの白水へやって来たのであるが、心はとりとめなくうごいて自分の意にかなうこととしてここに来たのではない。
ここに食客となっていると日長が一日ということである、ましてこんなに炎天の夏の頃にあたっているのだ。』
高い書斎が林の梢のようなところに設置されたところにわたしは坐っている、数日をすごすに、きままにくつろいであそぶのだがいたってものさびしいことでもある。
きょうの朝の清々しさのあいだに主人におともをしてここのところへよじのぼってきたのだ、随分気張ってながめそして絶壁をうつぶせてみおろした。
たかい岡は互に帯のようにまつわりめぐりあったりしている、ひろい原野はとおくはあるが咫尺な間近くにある様な感じがする。 
そこで始めて知った、ここの賢い主人についてであるが、崔十九翁は此の景色眺望をわたしに贈ってくれてそれで自分のうれい、さびしさをどこかへ追いやってしまわせようとしてくれているのだということなのだ。』



(語訳と訳註)#1 の6韻
白水県の尉官である崔十九翁の高斎で作った詩三十韻

白水 県の名、陝西省同州府にある。○崔少府十九翁 少府は県尉の敬称。○高斎 山岡の上にある書斎。


客從南縣來,浩蕩無與適。
わたしは南の奉先県からこの白水へやって来たのであるが、心はとりとめなくうごいて自分の意にかなうこととしてここに来たのではない。
 作者杜甫のことをいう。○南県 奉先県をさす、白水県は奉先の北に在る。○浩蕩 心のとりとめなくただようさま。○無与適 意にかなう者がない。


旅食白日長,況當朱炎赫。』
ここに食客となっていると日長が一日ということである、ましてこんなに炎天の夏の頃にあたっているのだ。』
旅食 たびずまいする。〇白日長 日の長いこと、時が夏にあたることをいう。○朱炎赫 太陽のあかいほのおがあかあかとてる、これはあついことをいう。


高齋坐林杪,信宿遊衍闃。
高い書斎が林の梢のようなところに設置されたところにわたしは坐っている、数日をすごすに、きままにくつろいであそぶのだがいたってものさびしいことでもある。
 設置の席にいる。○林杪 杪はこずえ、書斎が林の上方の高いところに在ることをいう。○信宿 二日宿することを信という、信宿は数日滞在すること。○遊衍 衍は広がること、遊衍はきままにくつろいであそぶこと。○ さびしいさま。


清晨陪躋攀,傲睨俯峭壁。
きょうの朝の清々しさのあいだに主人におともをしてここのところへよじのぼってきたのだ、随分気張ってながめそして絶壁をうつぶせてみおろした。
清晨 清々しい朝方。○陪 雀翁のおともをする。○躋攀 のぼり、よじる。高斉に向かってのぼること。○傲睨 随分気張ってながめる。○俯 上からうつぶしてみおろす。○峭壁 けわしくきりたったようになった岩壁。
 
崇岡相枕帶,曠野回咫尺。
たかい岡は互に帯のようにまつわりめぐりあったりしている、ひろい原野はとおくはあるが咫尺な間近くにある様な感じがする。 
崇岡 たかいおか。○枕帯 枕にしあい、帯のようにまつわりあう。○曠野 ひろの。○ 廻に作る本があるが、それに従う。○咫尺 八寸、一尺、まぢかく見えることをいう。


始知賢主人,贈此譴岑寂。』
そこで始めて知った、ここの賢い主人についてであるが、崔十九翁は此の景色眺望をわたしに贈ってくれてそれで自分のうれい、さびしさをどこかへ追いやってしまわせようとしてくれているのだということなのだ。』
賢主人 主人とは崔十九翁をさす、我(作者)を客としてくれる、賢人ということは政治的な見識もあるということ。○贈此 此とはこの高斎からの眺望をさす。○ おいはらう。○岑寂 杜甫が抱いているうれい、さびしさをいう。


○押韻 適。赫。闃。壁。尺。寂。