哀江頭 杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 162

唐詩三百首   樂府  杜甫 哀江頭(哀いかな江頭)

長安の南郊、安禄山の叛乱で家族と離れ離れになって、叛乱軍に捕縛された。杜曲の旧居へ帰ろうとして叛乱軍の間をくぐりぬけ、曲江のほとりを経過して見る所、感ずる所を詠ったものである。製作時は757年至徳二載の春。46歳 杜甫の佳作詩。10韻の長詩のために5韻で分割して紹介する。杜甫が杜曲の家で作っていた主な詩は以下のものである。
(長安城外に林、畑が広がる。古くから、桑畑がひろがる一体である。声をかければ聞こえる程度の広がりを持った杜曲に家を借りていた。この家から出かけて、

75342歳 陪鄭広文遊何将軍山林十首 其一  55 ~64  重過何氏五首其一 6872   渼陂行66  75443 陪諸貴公子丈八溝携妓納涼晩際遇雨二首其一  73 奉陪鄭駙馬韋曲二首其一  75  夏日李公見訪   83

              
何将軍山林で遊び、渼陂の水面に舟遊びし、丈八溝携妓納涼の晩際に雨に遇う、鄭駙馬につきそって韋曲で遊んだのも754年天宝13載43歳の夏のことだ。
 同じ夏のある日、皇太子の家令李炎が杜曲の家を訪ねてきたのだ。公子は遠き林のなかからやって来た。)


哀江頭  #1
曲江の畔で哀しむ
少陵野老呑聲哭,春日潛行曲江曲。
少陵先の杜曲の野良爺であるわたしは、叛乱軍に捕縛され拘束されて、深い悲しみのあまり声に出して泣きたいけれど我慢している。春のある日に、目立たないようにこっそりと曲江の奥深いところに行ったのだ。
江頭宮殿鎖千門,細柳新蒲爲誰綠。」
曲江の畔の紫雲楼などの宮殿の全ての門が閉ざされている。新芽の吹き出るしだれヤナギに若々しい緑色をしたガマは、こんなことが起こっていても誰のために緑色にるのか知らずに色吹くのである。
憶昔霓旌下南苑,苑中萬物生顏色。
天寶の昔を思い起こせば、天子が五彩旗を掲げて曲江の南苑、芙蓉苑に行幸をされたものだ。御苑にあるあらゆるものは、生き生きとし、それぞれが輝かしく動いていた。 
昭陽殿裏第一人,同輦隨君侍君側。
昭陽殿での中で承知のように第一人者は楊貴妃であった。楊貴妃はその折、天子の輦に同乗して、天子に随伴し、あたかも楊貴妃のおそばに天子がいつも帯同していたかのようであった。  
輦前才人帶弓箭,白馬嚼齧黄金勒。

天子の乗り物の前に才人などの騎兵隊の女官たちが、弓矢を腰に携えていたのだ。先導する白馬は、黄金製のくつわを噛んで堂々としたものだった。
翻身向天仰射雲,一笑正墜雙飛翼。」
明眸皓齒今何在,血汚遊魂歸不得。
清渭東流劍閣深,去住彼此無消息。
人生有情涙霑臆,江草江花豈終極。
黄昏胡騎塵滿城,欲往城南望城北。」


江頭を哀しむ      

少陵(せうりょう)の野老(やらう)  聲を呑(の)みて 哭(こく)し,春日 潛行す  曲江の曲(くま)。

江頭(かうとう)の宮殿  千門を 鎖(とざ)し,細柳 新蒲  誰(た)が爲にか綠なる。

憶(おも)ふ 昔  霓旌(げいせい)の南苑(なんゑん)に下(くだ)りしとき,苑中の萬物  顏色を生ぜしを。

昭陽殿裏  第一の人,輦(れん)を同じくし 君に隨(したが)ひて  君側に侍す。

輦前の才人  弓箭(きゅうせん)を 帶び,白馬 嚼噛(しゃくげつ)す  黄金の勒(くつわ)。


身を 翻(ひるがへ)して 天に 向ひ  仰(あふ)ぎて 雲を射れば,一笑 正(まさ)に堕(お)つ  雙 飛翼。
明眸晧齒(めいぼうかうし)  今 何(いづ)くにか在(あ)る,血汚(けつを)の遊魂  歸り得(え)ず。
清渭(せいゐ)は 東流して  劍閣は 深く,去住(きょぢゅう) 彼比(ひし)  消息 無し。
人生 情(じゃう) 有り  涙 臆(むね)を霑(うるほ)す,江草(かうさう) 江花(かうくゎ)  豈(あ)に 終(つひ)に極(きは)まらんや。
黄昏 胡騎  塵は 城に滿ち,城南に 往(ゆ)かんと欲(ほっ)して  城北を望む。

水辺0000

哀江頭 現代語訳と訳註
(本文) 哀江頭  
少陵野老呑聲哭,春日潛行曲江曲。
江頭宮殿鎖千門,細柳新蒲爲誰綠。」
憶昔霓旌下南苑,苑中萬物生顏色。
昭陽殿裏第一人,同輦隨君侍君側。
輦前才人帶弓箭,白馬嚼齧黄金勒。


(下し文) 哀江頭  
少陵野老呑聲哭,春日潛行曲江曲。
江頭宮殿鎖千門,細柳新蒲爲誰綠。」
憶昔霓旌下南苑,苑中萬物生顏色。
昭陽殿裏第一人,同輦隨君侍君側。
輦前才人帶弓箭,白馬嚼齧黄金勒。


(現代語訳)
曲江の畔で哀しむ。
少陵先の杜曲の野良爺であるわたしは、叛乱軍に捕縛され拘束されて、深い悲しみのあまり声に出して泣きたいけれど我慢している。春のある日に、目立たないようにこっそりと曲江の奥深いところに行ったのだ。
曲江の畔の紫雲楼などの宮殿の全ての門が閉ざされている。新芽の吹き出るしだれヤナギに若々しい緑色をしたガマは、こんなことが起こっていても誰のために緑色にるのか知らずに色吹くのである。
天寶の昔を思い起こせば、天子が五彩旗を掲げて曲江の南苑、芙蓉苑に行幸をされたものだ。御苑にあるあらゆるものは、生き生きとし、それぞれが輝かしく動いていた。 
昭陽殿での中で承知のように第一人者は楊貴妃であった。楊貴妃はその折、天子の輦に同乗して、天子に随伴し、あたかも楊貴妃のおそばに天子がいつも帯同していたかのようであった。  
天子の乗り物の前に才人などの騎兵隊の女官たちが、弓矢を腰に携えていたのだ。先導する白馬は、黄金製のくつわを噛んで堂々としたものだった。


(訳注)
哀江頭

曲江の畔で哀しむ
○安禄山の乱で殺された楊貴妃を悼み、先行きが見えない我が身を痛む詩。曲江池の辺で思い描いたのである。


少陵野老呑聲哭、春日潛行曲江曲。
少陵先の杜曲の野良爺であるわたしは、叛乱軍に捕縛され拘束されて、深い悲しみのあまり声に出して泣きたいけれど我慢している。春のある日に、目立たないようにこっそりと曲江の奥深いところに行ったのだ。
少陵:〔しょうりょう〕杜甫の住んでいたところの名。杜甫自身のことを謂う。やがて杜甫の号となる。漢・許后の陵墓名に由来する。漢・宣帝は長安の南郊の杜陵に葬られ、その東南に皇后の許后が葬られた。これを小陵と謂い、やがて、少陵と呼ばれるようになった、そのところに住んでいたことに由る。 ・野老:田舎の老人。杜甫自身のこと。 ・呑聲哭:深い悲しみのあまり泣き声に出さないで、傷みなく。 ・呑聲:〔どんせい〕忍びなく。声に出さないようにしてなく。また、声に出せない。悲しみのあまり、声が出ない。黙る。沈黙する。・春日:現実ののどかな春を詠い、物是人非の哀しさを強調する。 ・潛行:〔せんこう〕こっそりと行く。目立たないように人目を避けて行く。人目をしのんで行く。ひそやかに行く。微行。 ・曲江:長安中心部より東南東数キロのところにある池の名。風光明媚な所。漢・武帝がここに宜春苑を造営した。(地図の赤線は長安城の城郭、青印が曲江) ・曲:くま。この池はかなり曲線があり、池の奥深いところ。池の湾曲した部分をいう。
長安・杜曲韋曲
 

江頭宮殿鎖千門、細柳新蒲爲誰綠。
曲江の畔の紫雲楼などの宮殿の全ての門が閉ざされている。新芽の吹き出ているしだれヤナギに、若々しい緑色をしたガマは、こんなことが起こっていても誰のために緑色になるのか、知らずに色吹くのである。
江頭:曲江の畔。 ・宮殿:紫雲楼を謂う。 ・:閉ざす。 ・千門:全ての門。多くの門。 ・細柳:若葉が出たばかりで、枝が細く見えるヤナギ。 ・新蒲:初々しい緑色をしたガマ。 ・爲誰:いったい誰のために。甲斐もなく。誰(た)がために。 ・:緑になる。動詞。ここでは、動乱で変化を来した世上の光景をいい、変わることのない自然、春の情景を謂う。


憶昔霓旌下南苑、苑中萬物生顏色。
天寶の昔を思い起こせば、天子が五彩旗を掲げて曲江の南苑、芙蓉苑に行幸をされたものだ。御苑にあるあらゆるものは、生き生きとし、それぞれが輝かしく動いていた。 
・憶:開元の治、天寶の平安な時代を思い起こす。 ・霓旌:〔げいせい〕虹色の旗。鳥の羽を五色に染め、それを綴って虹を象(かたど)って作った五色旗。天子の儀式や行列に掲げる。 ・:行幸する。 ・南苑:曲江の南にあった庭園。芙蓉苑のこと。 ・苑中:御苑の。 ・萬物:あらゆるもの。 ・生顏色:生き生きとし出す。元気を出す。


昭陽殿裏第一人、同輦隨君侍君側。
昭陽殿での中で承知のように第一人者は楊貴妃であった。楊貴妃はその折、天子の輦に同乗して、天子に随伴し、あたかも楊貴妃のおそばに天子がいつも帯同していたかのようであった。  
昭陽殿:漢の成帝の建てた宮殿で、皇后の趙飛燕とその妹が住んでいた。ここでは、玄宗の宮殿で、楊貴妃が住んでいた宮殿を指す。・:…の中で。・第一人:ここでは、楊貴妃を指す。昭陽殿での第一人者の意。通常詩に使われる場合、漢・成帝の皇后の趙飛燕のことになる。・同輦:天子の輦に同乗する。非常な寵愛を賜っている女性をいう。 ・:〔れん〕天子の乗り物。 ・隨君:天子が楊貴妃に随伴しているようだ。 ・:側近く仕えること。はべる。さぶらう。この場合常時いることを指す。 ・君側:君は楊貴妃で、楊貴妃日のそば。


輦前才人帶弓箭、白馬嚼齧黄金勒。
天子の乗り物の前に才人などの騎兵隊の女官たちが、弓矢を腰に携えていたのだ。先導する白馬は、黄金製のくつわを噛んで堂々としたものだった。
輦前:天子の乗り物の前に(供奉している)。 ・才人:女官の位。蛇足になるが、武則天も才人だったときがあったように思う。未確認。 ・:おびる。携える。 ・弓箭:〔きゅうせん〕弓と矢。弓矢。 ・嚼齧:〔しゃくげつ〕歯でかむ。 ・:〔ろく〕くつわ。


女官により騎兵隊を組ませていたことは、近衛兵の参軍とは別に組織するもので贅沢の極みということをあらわしている。年を取って、妖艶な貴妃との生活、天寶の世の豪奢な宮廷風俗描写の聯である。杜甫の描写にその生活態度にたいして尊敬の念はまったくないものと映る。