哀江頭 杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 163

唐詩三百首   樂府  杜甫 哀江頭(哀いかな江頭)

長安の南郊、少陵の故居へかえらんとして賊軍の間をくぐりぬけ、曲江のほとりを経過して見る所、感ずる所を詠ったものである。製作時は至徳二載の春。757年 46歳 杜甫の佳作詩。

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哀江頭 杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 162
哀江頭  
少陵野老呑聲哭,春日潛行曲江曲。
江頭宮殿鎖千門,細柳新蒲爲誰綠。』
憶昔霓旌下南苑,苑中萬物生顏色。
昭陽殿裏第一人,同輦隨君侍君側。
輦前才人帶弓箭,白馬嚼齧黄金勒。
翻身向天仰射雲,一笑正墜雙飛翼。』
体の向きを変えるように、恩ある天子に向かって仰向(あおむ)いて、雲に反旗の矢を射掛ける。楊貴妃の微笑による王朝の頽廃は、梧桐のつがいになって翼を並べて飛んでいた鳥が、ちょうど墜されたのだ。
明眸皓齒今何在,血汚遊魂歸不得。
美しく澄んだ瞳、あの白い歯、馬嵬で殺された美女は、今、どこにいったのだろうか。 血で穢されて、さすらっている霊魂は帰れないでいる。
清渭東流劍閣深,去住彼此無消息。
清らかに澄んだ渭水は楊貴妃が葬られた馬嵬の傍を流れ、東流して長安にまで流れつくのだが、肝心の玄宗はいない、剣閣の奥く深く、はるか蜀の成都に落ち延びているのだ。去っていった玄宗と留まる楊貴妃の魂とは、相互に心のやり取りさえ無いのだ。
人生有情涙霑臆,江草江花豈終極。
人と生まれては、感情の働きがあり、人の世の儚い営みに対して涙が胸を潤してくる。ところが、川辺に生えている草や川辺の花には、どうして尽きはてることがあるのだろうか。自然の営みは、終わることが無く続いていくことである。
黄昏胡騎塵滿城,欲往城南望城北。』

夕闇の迫るなかに、叛乱軍の軍勢は長安の街全体に戦さの騒ぎを引き起こしてきたのだ。自分の住まいであった城南の少陵、杜曲の方へ行こうとして、城北のはるか先に霊武に粛宗がいる方ので、その空を眺めるのだ。


江頭を哀しむ      
少陵(せうりょう)の野老(やらう)  聲を呑(の)みて 哭(こく)し,春日 潛行す  曲江の曲(くま)。
江頭(かうとう)の宮殿  千門を 鎖(とざ)し,細柳 新蒲  誰(た)が爲にか綠なる。
憶(おも)ふ 昔  霓旌(げいせい)の南苑(なんゑん)に下(くだ)りしとき,苑中の萬物  顏色を生ぜしを。
昭陽殿裏  第一の人,輦(れん)を同じくし 君に隨(したが)ひて  君側に侍す。
輦前の才人  弓箭(きゅうせん)を 帶び,白馬 嚼噛(しゃくげつ)す  黄金の勒(くつわ)。

身を 翻(ひるがへ)して 天に 向ひ  仰(あふ)ぎて 雲を射れば,一笑 正(まさ)に堕(お)つ  雙飛翼。

明眸晧齒(めいぼうかうし)  今 何(いづ)くにか在(あ)る,血汚(けつを)の遊魂  歸り得(え)ず。

清渭(せいゐ)は 東流して  劍閣は 深く,去住(きょぢゅう) 彼比(ひし)  消息 無し。

人生 情(じゃう) 有り  涙 臆(むね)を霑(うるほ)す,江草(かうさう) 江花(かうくゎ)  豈(あ)に 終(つひ)に極(きは)まらんや。

黄昏 胡騎  塵は 城に滿ち,城南に 往(ゆ)かんと欲(ほっ)して  城北を望む。




江頭を哀しむ 現代語訳と訳註
(本文)

翻身向天仰射雲,一笑正墜雙飛翼。』
明眸皓齒今何在,血汚遊魂歸不得。
清渭東流劍閣深,去住彼此無消息。
人生有情涙霑臆,江草江花豈終極。
黄昏胡騎塵滿城,欲往城南望城北。』

(下し文)
身を 翻(ひるがへ)して 天に 向ひ  仰(あふ)ぎて 雲を射れば,一笑 正(まさ)に堕(お)つ  雙 飛翼。
明眸晧齒(めいぼうかうし)  今 何(いづ)くにか在(あ)る,血汚(けつを)の遊魂  歸り得(え)ず。
清渭(せいゐ)は 東流して  劍閣は 深く,去住(きょぢゅう) 彼比(ひし)  消息 無し。
人生 情(じゃう) 有り  涙 臆(むね)を霑(うるほ)す,江草(かうさう) 江花(かうくゎ)  豈(あ)に 終(つひ)に極(きは)まらんや。
黄昏 胡騎  塵は 城に滿ち,城南に 往(ゆ)かんと欲(ほっ)して  城北を望む。

(現代語訳)
体の向きを変えるように、恩ある天子に向かって仰向(あおむ)いて、雲に反旗の矢を射掛ける。楊貴妃の微笑による王朝の頽廃は、梧桐のつがいになって翼を並べて飛んでいた鳥が、ちょうど墜されたのだ。
美しく澄んだ瞳、あの白い歯、馬嵬で殺された美女は、今、どこにいったのだろうか。 血で穢されて、さすらっている霊魂は帰れないでいる。
清らかに澄んだ渭水は楊貴妃が葬られた馬嵬の傍を流れ、東流して長安にまで流れつくのだが、肝心の玄宗はいない、剣閣の奥く深く、はるか蜀の成都に落ち延びているのだ。去っていった玄宗と留まる楊貴妃の魂とは、相互に心のやり取りさえ無いのだ。
人と生まれては、感情の働きがあり、人の世の儚い営みに対して涙が胸を潤してくる。ところが、川辺に生えている草や川辺の花には、どうして尽きはてることがあるのだろうか。自然の営みは、終わることが無く続いていくことである。
夕闇の迫るなかに、叛乱軍の軍勢は長安の街全体に戦さの騒ぎを引き起こしてきたのだ。自分の住まいであった城南の少陵、杜曲の方へ行こうとして、城北のはるか先に霊武に粛宗がいる方ので、その空を眺めるのだ。



陝西甘粛出塞 杜甫65
(訳注)
翻身向天仰射雲、一笑正墜雙飛翼。

体の向きを変えるように、恩ある天子に向かって仰向(あおむ)いて、雲に反旗の矢を射掛ける。楊貴妃の微笑による王朝の頽廃は、梧桐のつがいになって翼を並べて飛んでいた鳥が、ちょうど墜されたのだ。
翻身 〔ほんしん〕体の向きを変える。身を翻(ひるがえ)す。裏切りをする、安禄山の行動を暗示する。 ○向天 天子に向かって。 ○仰射雲 仰向(あおむ)いて、雲に射掛ける。天子に、天下に矢を射る。 ○一笑 一笑は嫣薫、傾国、笑牽牛、多くの詩人に国を滅ぼす王朝の奢侈と頽廃を象徴する語として使われる。天子は貴妃の微笑に満足する。楊貴妃との宮廷生活のようす。ここはその微笑が安禄山の叛乱を生んだ。 ○ ちょうど。正(まさ)しく。 ○ おちる。おとす。 ○雙飛翼 つがいになって翼を並べて飛ぶ鳥。ここは、玄宗と楊貴妃の悲劇を暗示する。
○杜甫は叛乱軍の拘束の中で作詩している。したがって直接的な語は使っていない。輦前の才人の行為は、実に大胆な振る舞いで、安禄山の謀叛を暗示するものである。 


明眸皓齒今何在、血汚遊魂歸不得。
美しく澄んだ瞳、あの白い歯、馬嵬で殺された美女は、今、どこにいったのだろうか。 血で穢されて、さすらっている霊魂は帰れないでいる。
明眸 めいぼう、美しく澄んだ瞳。 ○皓齒 白い歯。美人の表現。 ○何在 どこにいったのか。○血汚 血で穢された。○遊魂 さすらっている魂。遊離した霊魂。ここでは血で穢されさすらう魂。馬嵬で殺された楊貴妃の霊魂のことになる。 ○歸不得 帰りおおせない。帰れない。

清渭東流劍閣深、去住彼此無消息。
清らかに澄んだ渭水は楊貴妃が葬られた馬嵬の傍を流れ、東流して長安にまで流れつくのだが、肝心の玄宗はいない、剣閣の奥く深く、はるか蜀の成都に落ち延びているのだ。去っていった玄宗と留まる楊貴妃の魂とは、相互に心のやり取りさえ無いのだ。
清渭 清らかに澄んだ渭水。楊貴妃が殺され葬られた馬嵬の傍を渭水が流れ 、長安の北に流れ到る。 ○東流 東に向かって流れる。川は東流の通常の姿であり、常識、摂理、天理でもある。ここは、楊貴妃の魂が、馬嵬の傍を流れる渭水に乗って、東流して、帝都長安に還ることをいう。 ○劍閣 剣門関。剣閣。陝西省の長安から四川の成都へ到る街道の、四川側の関山。○去住 去る者と留まる者。蜀に避れた玄宗と、馬嵬で殺されて、そこに埋葬されとどまることとなった楊貴妃のこと。ここでは、死別をいう。 ○彼此 あちらとこちら。お互いに。蜀の玄宗と、馬嵬の楊貴妃の魂。 ○消息 音信。たより。手紙。動静。消長。消えることと生じること。ここでは心のやり取りという意味である。

人生有情涙霑臆、江草江花豈終極。
人と生まれては、感情の働きがあり、人の世の儚い営みに対して涙が胸を潤してくる。ところが、川辺に生えている草や川辺の花には、どうして尽きはてることがあるのだろうか。自然の営みは、終わることが無く続いていくことである。 
人生 人と生まれる。人が生きていく。生きていくための道理。 ○有情 感情の働きがある。 ○ うるおす。うるおう。湿る。 ○ 胸。心。思い。考え。○江草 川辺に生えている草。 ○江花 川辺の花。 ○ どうして…なのだろうか。あに…(ならん)や。強い反語。 ○終極 尽きはてる。最後に極まる。物事の最後になる。究極となる。


黄昏胡騎塵滿城、欲往城南望城北。
夕闇の迫るなかに、叛乱軍の軍勢は長安の街全体に戦さの騒ぎを引き起こしてきたのだ。自分の住まいであった城南の少陵、杜曲の方へ行こうとして、城北のはるか先に霊武に粛宗がいる方ので、その空を眺めるのだ。
黄昏 夕方の薄暗い時。夕闇の迫るさま。薄暮の薄暗さをいう。たそがれ時。夕暮れ。○胡騎 安禄山の軍勢。安禄山は突厥、ソグドの混血児で、その軍勢も、ソグド、突厥、奚、契丹…と、多くの西北異民族が関わっている。○ 戦塵。戟塵。戦さの騒ぎ。 ○ 長安の街。長安城。城郭都市。当時世界一の国際都市。○ …しようとする。…たいと思う。(…と)ほっす。  ○城南 長安城の南側。杜甫の家のあるところ。少陵の近くになる。 ○望城北 粛宗がいた長安城の北方にある霊武をのぞむ。


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