北徵 #4(北征全12回)杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 211
北徵 #4(全12回)

#3までのあらすじ
757年粛宗の至徳二載の秋。特別に天子の御恩寵を被って仰せにより、鄜州のあばら家へ帰ることを許された。今、天下はどこでも治安が悪く、無政府状態のところ多くなっているのだ、だからわたしの胸中の心配は増えつづけていったい何時終わるのだろうか。
心配を胸に、最初は徒歩ですすんでいくと、わたしがこの路で出会うこの里の人々の多くは傷をうけていた。そしてやっと馬を駆ることができ、鳳翔の方を振り返るとはるか遠くの山々が重なっていた。少量を過ぎ、邠州を過ぎていた。彌満和深くなり猛虎の声が大空を破りそうな声で唸っているのだ。


北徵(北征)3
靡靡逾阡陌,人煙眇蕭瑟。所遇多被傷,呻吟更流血。
回首鳳翔縣,旌旗晚明滅。前登寒山重,屢得飲馬窟。
邠郊入地底,涇水中蕩潏。猛虎立我前,蒼崖吼時裂。
#4
菊垂今秋花,石戴古車轍。
少し行くと菊が今年の秋の花を変わりなく咲かせていた、路上の石には古いわだちのあとが残っていたのだ。
青雲動高興,幽事亦可悅。
青い大空にうかんでいる雲をながめるとそれは私の詩人の風流の興味を高ぶらせてくれるものであり、また山路の一人静かな旅はいろいろの悦ばしい事にであわせてくれるのである。
山果多瑣細,羅生雜橡栗。
その興味や悦ばしいことというのは山中の果物が多くあり、それが小さいのである、それらと並んで生えているものには橡の実や栗などがいりまじっているである。
或紅如丹砂,或黑如點漆。
或るものは深紅であり、まるで丹砂のようであり、或るものは黒くてしっとり艶のある黒漆のようなのである。
雨露之所濡,甘苦齊結實。
これらのものには雨や露がうるおいを与えているものであり、甘い果実や苦いものも一様に実を結んでいる。
緬思桃源內,益嘆身世拙。

この様な場所をとおるとはるかに「桃源」の伯郷のことがおもわれるのであり、反対にいよいよ自分の処世のまずさと世の移ろいがうまくいっていないことをなげかわしくおもうのである。

5
坡陀望鄜畤,岩穀互出沒。我行已水濱,我僕猶木末。
鴟梟鳴黃桑,野鼠拱亂穴。夜深經戰場,寒月照白骨。
潼關百萬師,往者敗何卒?遂令半秦民,殘害為異物。』

#3
扉扉(ひひ)として阡陌(せんぱく)を逾(こ)ゆれば、人煙 眇(びょう)として蕭瑟(しょうしつ)たり。
遇う所は多く傷を被る 呻吟して更に血を流す。
首を回らす鳳翔県、旌旗(せいき)晩に明滅す。
前みて寒山の重れるに登る、屢々飲馬の窟(いわや)を得たり。
邠郊(ひんこう)地底に入る、涇水 中に蕩潏(とういつ)たり。
猛虎我が前に立つ、蒼崖吼ゆる時裂く。
#4
菊は今秋の花を垂れ,石は古車の轍(わだち)を戴く。
青雲は高興を動かし,幽事は 亦 悅ぶ可し。
山果 瑣細なるもの多く,羅生して橡栗(しょうりつ)雜(まじ)う。
或いは紅なること丹砂の如く,或いは黑きこと點漆の如し。
雨露の濡す所,甘苦 齊(ひと)しく實を結ぶ。
緬(はる)かに桃源の內を思い,益々身世の拙なるを嘆く。

#5
坡陀(はだ)として鄜畤を望めば,岩穀(がんこく)互いに出沒す。
我が行 已に水濱(すいひん),我が僕(ぼく)猶 木末(ぼくまつ)。
鴟梟(しちょう)は黄桑(こうそう)に鳴き、野鼠(やそ)は乱穴(らんけつ)に拱(きょう)す。
夜 深(ふ)けて戦場を経(ふ)れば、寒月(かんげつ)  白骨を照らす。
潼関(どうかん)  百万の師(いくさ)、往者(さきには) 散ずるところ何ぞ卒(すみや)かなりし。
遂に半秦(はんしん)の民をして、残害(ざんがい)して異物と為(な)らしむ。』


現代語訳と訳註 北徵 4
(本文)
菊垂今秋花,石戴古車轍。
青雲動高興,幽事亦可悅。
山果多瑣細,羅生雜橡栗。
或紅如丹砂,或黑如點漆。
雨露之所濡,甘苦齊結實。
緬思桃源內,益嘆身世拙。

(下し文)#4
菊は今秋の花を垂れ,石は古車の轍(わだち)を戴く。
青雲は高興を動かし,幽事は 亦 悅ぶ可し。
山果 瑣細なるもの多く,羅生して橡栗(しょうりつ)雜(まじ)う。
或いは紅なること丹砂の如く,或いは黑きこと點漆の如し。
雨露の濡す所,甘苦 齊(ひと)しく實を結ぶ。
緬(はる)かに桃源の內を思い,益々身世の拙なるを嘆く。


(現代語訳)
少し行くと菊が今年の秋の花を変わりなく咲かせていた、路上の石には古いわだちのあとが残っていたのだ。
青い大空にうかんでいる雲をながめるとそれは私の詩人の風流の興味を高ぶらせてくれるものであり、また山路の一人静かな旅はいろいろの悦ばしい事にであわせてくれるのである。
その興味や悦ばしいことというのは山中の果物が多くあり、それが小さいのである、それらと並んで生えているものには橡の実や栗などがいりまじっているである。
或るものは深紅であり、まるで丹砂のようであり、或るものは黒くてしっとり艶のある黒漆のようなのである。
これらのものには雨や露がうるおいを与えているものであり、甘い果実や苦いものも一様に実を結んでいる。
この様な場所をとおるとはるかに「桃源」の伯郷のことがおもわれるのであり、反対にいよいよ自分の処世のまずさと世の移ろいがうまくいっていないことをなげかわしくおもうのである。


(訳注)④
菊垂今秋花,石戴古車轍。

少し行くと菊が今年の秋の花を変わりなく咲かせている、路上の石には古いわだちのあとが残っているのだ。
石戴古車轍 石が古い車のわだちのあとをいただく、石の上にわだちのあとがあることをいう。


青雲動高興,幽事亦可悅。
青い大空にうかんでいる雲をながめるとそれは私の詩人の風流の興味を高ぶらせてくれるものであり、また山路の一人静かな旅はいろいろの悦ばしい事にであわせてくれるのである。
青雲 空高き雲。○動高興 さかんな興昧をうごかしだす。○幽事 山中の幽静なことがら、即ち「山果」以下のこと。


山果多瑣細,羅生雜橡栗。
その興味や悦ばしいことというのは山中の果物が多くあり、それが小さいのである、それらと並んで生えているものには橡の実や栗などがいりまじっているである。
山果 山のこのみ。○頂細 こまか。○羅生 つらなり生える。○ まざる。○橡栗 とちのみ、くり。


或紅如丹砂,或黑如點漆。
或るものは深紅であり、まるで丹砂のようであり、或るものは黒くてしっとり艶のある黒漆のようなのである。
丹砂 たんしゃ。○点漆 しっとり艶のある黒漆。


雨露之所濡,甘苦齊結實。
これらのものには雨や露がうるおいを与えているものであり、甘い果実や苦いものも一様に実を結んでいる。
甘苦 あまきも、にがきも。○ 一様に。並んで。等しい。○結実 みをむすぶ。
 
緬思桃源內,益嘆身世拙。
この様な場所をとおるとはるかに「桃源」の伯郷のことがおもわれるのであり、反対にいよいよ自分の処世のまずさと世の移ろいがうまくいっていないことをなげかわしくおもうのである。
桃源 陶淵明の記文に見える武陵の桃花源、世をはなれた仙境をいう。陶淵明は80日で官を辞して桃源郷を目指した。果実が実っていることから、この北征の旅に陶淵明の桃源郷、官を辞して隠遁することなどを重ねている。○身世拙 この身の処世が上手くいかないことでせつなくなる。俗塵の間に奔走し仙境に住することができぬのでかくいう。

954述懐  杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 177
ID詩 題摘要  (至徳二載 秋~冬 757年 杜甫46歳 五言古詩)
970晚行口號 鄜州へ赴く途中で、日ぐれにあるきながら口ずさんだ詩。
971徒步歸行鄜州へ赴く出発の詩
972九成宮鄜州へ赴く途中、九成宮のほとりを経過して作った詩である。
974行次昭陵鄜州へ帰る途すがら昭陵のほとりにやどって作る。大宗の施政が仁徳のあるものであったと賛美し、暗に粛宗の愚帝ぶりを批判している。秀作。
973玉華宮 鄜州へ赴く途次其の地をすぎて作る。
975北征五言百四十句の長篇古詩。 至徳二載六月一日、鄜州に帰ることを許された。作者が此の旅行をした所以である。製作時は至徳二載九月頃。八月初めに鳳翔より出発し,鄜州に到著して以後に作ったもの。旅の報告と上奏文であり、ウイグルに救援を求める粛宗批判といえる内容のものである。一番の秀作。
977羌村三首・黄土高原の雄大な夕景色。夕刻に到着。
978・家族全員無事、秋の装い、豊作であった。
979・村の長老たちと帰還の祝い。 
981重經昭陵帰り道、第二回に昭陵の地を経過したとき作る。
ID詩 題摘要  (至徳二載 秋~冬 757年 杜甫46歳 五言律詩)
980收京三首王朝軍の手に長安を奪回したことを聞きつけてにつけて作る。製作時は至徳二載十月末~十一月初めの作。
粛宗に徹底して嫌われ、居場所がなく、家族を向かえに山中の道を行く。疎外された朝廷を後にするがすさまじい孤独感が詩全体にあふれるものである。が、一方、この時期の作品は左拾位としての役目をしようとする杜甫の誠実さを浮き彫りにするものでもある。秀作ぞろいである。ウイグル援軍要請批判は安禄山軍に拘束された時期、「黄河二首」「送楊六判官使西蕃」から一貫している。



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