北徵 #5(北征全12回)杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 212

北徵 #5(全12回)

#4までのあらすじ
757年粛宗の至徳二載の秋。特別に天子の御恩寵を被って仰せにより、鄜州のあばら家へ帰ることを許された。今、天下はどこでも治安が悪く、無政府状態のところ多くなっているのだ、だからわたしの胸中の心配は増えつづけていったい何時終わるのだろうか。
心配を胸に、最初は徒歩ですすんでいくと、わたしがこの路で出会うこの里の人々の多くは傷をうけていた。そしてやっと馬を駆ることができ、鳳翔の方を振り返るとはるか遠くの山々が重なっていた。少量を過ぎ、邠州を過ぎていた。彌満和深くなり猛虎の声が大空を破りそうな声で唸っているのだ。少し行くと菊が今年の秋の花を変わりなく咲かせていた。山中の果物が多く、橡の実や栗などがあり、「桃源」の伯郷のようだ。自分の処世のまずさと世の移ろいがうまくいっていないことをなげかわしくおもう。


北徵(北征)#4
菊垂今秋花,石戴古車轍。青雲動高興,幽事亦可悅。
山果多瑣細,羅生雜橡栗。或紅如丹砂,或黑如點漆。
雨露之所濡,甘苦齊結實。緬思桃源內,益嘆身世拙。
#5
坡陀望鄜畤,岩穀互出沒。
そのうちに丘陵の起伏、高く広い場所に秦の文公が作ったといわれる土で盛った祭壇がみえてきた。そこに至るまでは大きな岩、深い谷が互いに出たり入ったりしている。
我行已水濱,我僕猶木末。
我々は底の侵入し巌崖と深谷と経過していき私が谷川の水のそばを進んでいるのに、下僕は後ろの崖の木の上の方に居るという具合である。
鴟梟鳴黃桑,野鼠拱亂穴。
ふくろうが黄ばんだ枯れ桑にとまって鳴いている、野ねずみがあちこち穴だらけにしていて顔を出してはおじぎをしている。
夜深經戰場,寒月照白骨。
夜がふけてきて戦揚を経過している、寒そうな月の光が戦死者の白骨を照らしている。
潼關百萬師,往者敗何卒?
あの前年潼関の戦に百万の王朝軍の師将がいたのだ。どうしてこの前のことだ、あんなにも簡単に敗れてしまったのか。
遂令半秦民,殘害為異物。』

その大敗によって殆ど長安地方の半分の人民を葬られず、放置されたままの死人にしてしまったのであろうか。』

#6
況我墮胡塵,及歸盡華發。經年至茅屋,妻子衣百結。
慟哭松聲回,悲泉共幽咽。平生所嬌兒,顏色白勝雪。
見耶背面啼,垢膩腳不襪。床前兩小女,補綴才過膝。

#4
菊は今秋の花を垂れ,石は古車の轍(わだち)を戴く。
青雲は高興を動かし,幽事は 亦 悅ぶ可し。
山果 瑣細なるもの多く,羅生して橡栗(しょうりつ)雜(まじ)う。
或いは紅なること丹砂の如く,或いは黑きこと點漆の如し。
雨露の濡す所,甘苦 齊(ひと)しく實を結ぶ。
緬(はる)かに桃源の內を思い,益々身世の拙なるを嘆く。
#5
坡陀(はだ)として鄜畤を望めば,岩穀(がんこく)互いに出沒す。
我が行 已に水濱(すいひん),我が僕(ぼく)猶 木末(ぼくまつ)。
鴟梟(しちょう)は黄桑(こうそう)に鳴き、野鼠(やそ)は乱穴(らんけつ)に拱(きょう)す。
夜 深(ふ)けて戦場を経(ふ)れば、寒月(かんげつ)  白骨を照らす。
潼関(どうかん)  百万の師(いくさ)、往者(さきには) 散ずるところ何ぞ卒(すみや)かなりし。
遂に半秦(はんしん)の民をして、残害(ざんがい)して異物と為(な)らしむ。』

#6
況(いわ)んや我は胡塵(こじん)に堕(お)ち、帰るに及んで尽(ことごと)く華髪(かはつ)なり。
年(とし)を経(へ)て茅屋(ぼうおく)に至れば、妻子  衣(ころも)は百結(ひゃくけつ)なり。
慟哭(どうこく)すれば松声(しょうせい)廻(めぐ)り、悲泉(ひせん)は共に幽咽(ゆうえつ)す。
平生(へいぜい)  嬌(きょう)とする所の児(じ)、顔色(がんしょく)  白くして雪にも勝(まさ)る。
耶(ちち)を見て面(おもて)を背(そむ)けて啼(な)く、垢膩(こうじ)して脚(あし)に襪(たび)はかず。
床前(しょうぜん)の両小女、補綴(ほてつ)して 才(わず)かに膝(ひざ)を過ごす。


現代語訳と訳註
(本文)

坡陀望鄜畤,岩穀互出沒。
我行已水濱,我僕猶木末。
鴟梟鳴黃桑,野鼠拱亂穴。
夜深經戰場,寒月照白骨。
潼關百萬師,往者敗何卒?
遂令半秦民,殘害為異物。』

(下し文) #5
坡陀(はだ)として鄜畤(ふじ)を望めば,岩穀(がんこく)互いに出沒す。
我が行 已に水濱(すいひん),我が僕(ぼく)猶 木末(ぼくまつ)。
鴟梟(しちょう)は黄桑(こうそう)に鳴き、野鼠(やそ)は乱穴(らんけつ)に拱(きょう)す。
夜 深(ふ)けて戦場を経(ふ)れば、寒月(かんげつ)  白骨を照らす。
潼関(どうかん)  百万の師(いくさ)、往者(さきには) 散ずるところ何ぞ卒(すみや)かなりし。
遂に半秦(はんしん)の民をして、残害(ざんがい)して異物と為(な)らしむ。』


(現代語訳)
そのうちに丘陵の起伏、高く広い場所に秦の文公が作ったといわれる土で盛った祭壇がみえてきた。そこに至るまでは大きな岩、深い谷が互いに出たり入ったりしている。
我々は底の侵入し巌崖と深谷と経過していき私が谷川の水のそばを進んでいるのに、下僕は後ろの崖の木の上の方に居るという具合である。
ふくろうが黄ばんだ枯れ桑にとまって鳴いている、野ねずみがあちこち穴だらけにしていて顔を出してはおじぎをしている。
夜がふけてきて戦揚を経過している、寒そうな月の光が戦死者の白骨を照らしている。
あの前年謹関の戦に百万の王朝軍の師将がいたのだ。どうしてこの前のことだ、あんなにも簡単に敗れてしまったのか。
その大敗によって殆ど長安地方の半分の人民を葬られず、放置されたままの死人にしてしまったのであろうか。』

 
(訳注)北征 ⑤
坡陀望鄜畤,岩穀互出沒。

そのうちに丘陵の起伏、高く広い場所に秦の文公が作ったといわれる土で盛った祭壇がみえてきた。そこに至るまでは大きな岩、深い谷が互いに出たり入ったりしている。
○披陀 丘陵の起伏、高く広いさま。○鄜畤 畤は土を高くもりあげた祭壇の地。秦の文公が、夢に黄蛇が天より下って鄜州(あるいは大原野)に止まったというのでこれを作った。三牲(牛羊服)を用いて白帝を郊祀したと伝える。鄜州は即ち畤の在る所、これを望むというのはすでによほど鄜州に近づいたことを示す。○巌谷互出没 旧解は鄭時のさまととくが、予は作者自已の居地についていうものとみる。巌と谷と二つ、巌は巌崖をいい、谷は深谷をいう。出の字は巌をいい、没の字は谷をいう。出没は高低のあることをいう。次の句の水浜は谷をうけ、木末は巌をうけていう。


我行已水濱,我僕猶木末。
我々は底の侵入し巌崖と深谷と経過していき私が谷川の水のそばを進んでいるのに、下僕は後ろの崖の木の上の方に居るという具合である。
我行 我がゆく所は。○水 谷底の水のほとり。○ しもべ。○木末 崖上の木のうえの方。


鴟梟鳴黃桑,野鼠拱亂穴。
ふくろうが黄ばんだ枯れ桑にとまって鳴いている、野ねずみがあちこち穴だらけにしていて顔を出してはおじぎをしている。
鴟梟 。ふくろうのこと。○黄桑枯れかかった桑。○野鼠 のにいるねずみ。○ 両手をあわせかかえる様にする。穴から顔をだしお辞儀をする。○乱穴 あちこちやたらにある穴。

深經戰場,寒月照白骨。
夜がふけてきて戦揚を経過している、寒そうな月の光が戦死者の白骨を照らしている。
白骨 戦死者の骨。


潼關百萬師,往者敗何卒?
あの前年謹関の戦に百万の王朝軍の師将がいたのだ。どうしてこの前のことだ、あんなにも簡単に敗れてしまったのか。
潼関百万師 滝関は同州府華陰県の東にある。天宝十五載六月九日、唐王朝軍の将哥舒翰は潼関より出て河南の霊宝県の西原において大敗した。哥舒翰はじめ、諸将は叛乱軍に捕えられた。数万人の多くの兵士は、黄河に落ちて死んだ。遂に潼関の守りを失い玄宗の逃出となった。○往者 さきには。○ 唐王朝軍の逃離散したこと。○卒 倅と同じ、にわか。以下の詩は当時の戦況を解説したもので参考にされたい。

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遂令半秦民,殘害為異物。』
その大敗によって殆ど長安地方の半分の人民を葬られず、放置されたままの死人にしてしまったのであろうか。』
遂令 遂に~になってしまう。ほとんど~してしまう。
○半秦民 秦は映西省をさす、半とはその大半をいう。○残害 そこなう、殺され又は溺死したことをいう。○為異物 葬られずに死ぬることをいう。


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