題李尊師松樹障子歌 #1 杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 255
(李尊師が松樹の障子に題する歌)

玄都観の道士李が示した松をえがいたついたてに題した歌。乾元元年の作とする説に従う。


題李尊師松樹障子歌
老夫清晨梳白頭,玄都道士來相訪。
自分はきょうのはれあがったあした、しらがあたまをとかしていたとき、玄都観の道士李尊師がたずねてこられた。
握發呼兒延入戶,手提新畫青松障。
大いそぎで髪をにぎりながら、こどもをよんで之を戸内へ招きいれた。尊師の手には新たにかかれたばかりの靑松の木を描かれた障子立をかかえている。』
障子松林靜杳冥,憑軒忽若無丹青。
その障子屏風の描かれた松林はしずかにとおく暗くつらなって居て、軒端の欄干によって眺めると丹青の画が消えて実物ばかりがある様におもわれる。
陰崖卻承霜雪幹,偃蓋反走虬龍形。』

日陰のくらっぽいそばがけは霜雪をしのぐ松の幹をうけており、松の枝葉がかさなりあって笠のようであり、蛟や竜のようなさまを走らせている。』
老夫平生好奇古,對此興與精靈聚。已知仙客意相親,更覺良工心獨苦。
松下丈人巾屨同,偶坐似是商山翁。悵望聊歌紫芝曲,時危慘澹來悲風。』

(李尊師が松樹の障子に題する歌)
老夫 清晨【せいしん】に白頭を梳【くしけず】る、玄都の道士来りて相 訪【と】う。
髪を握り児を呼び延【ひ】きて戸に入らしむ、手に提【ひっさ】ぐ新画の青松の障。』
障子の松林 静かにして杳冥【ようめい】、軒に憑【よ】れば忽ち丹青無きが若し。
陰崖【いんがい】卻【かえ】って承【う】く霜雪の幹、偃蓋【えんがい】反って走らす虬龍【きゅうりょう】の形。』

老夫 平生 奇古【きこ】を好む、此に対して興 精霊と聚まる。
己に知る仙客の意 相親しむを、更に覺【おぼ】ゆ 良工【りょうこう】の心独り苦しむを。』
松下の丈人 巾屨【きんく】同じ、偶坐是れ商山の翁なるに似たり。
悵望【ちょうぼう】聊【いささ】か歌う紫芝【しし】の曲、時危くして惨澹【さんたん】悲風来る』



現代語訳と訳註
(本文)

老夫清晨梳白頭,玄都道士來相訪。
握發呼兒延入戶,手提新畫青松障。」
障子松林靜杳冥,憑軒忽若無丹青。
陰崖卻承霜雪幹,偃蓋反走虬龍形。』


(下し文)  (李尊師が松樹の障子に題する歌)
老夫 清晨【せいしん】に白頭を梳【くしけず】る、玄都の道士来りて相 訪【と】う。
髪を握り児を呼び延【ひ】きて戸に入らしむ、手に提【ひっさ】ぐ新画の青松の障。』
障子の松林 静かにして杳冥【ようめい】、軒に憑【よ】れば忽ち丹青無きが若し。
陰崖【いんがい】卻【かえ】って承【う】く霜雪の幹、偃蓋【えんがい】反って走らす虬龍【きゅうりょう】の形。』


(現代語訳)
自分はきょうのはれあがったあした、しらがあたまをとかしていたとき、玄都観の道士李尊師がたずねてこられた。
大いそぎで髪をにぎりながら、こどもをよんで之を戸内へ招きいれた。尊師の手には新たにかかれたばかりの靑松の木を描かれた障子立をかかえている。』
その障子屏風の描かれた松林はしずかにとおく暗くつらなって居て、軒端の欄干によって眺めると丹青の画が消えて実物ばかりがある様におもわれる。
日陰のくらっぽいそばがけは霜雪をしのぐ松の幹をうけており、松の枝葉がかさなりあって笠のようであり、蛟や竜のようなさまを走らせている。』


(訳注)
老夫清晨梳白頭,玄都道士來相訪。

自分はきょうのはれあがったあした、しらがあたまをとかしていたとき、玄都観の道士李尊師がたずねてこられた。
老夫 杜甫のこと。○清晨 ほれたあした。○ くしでとかす。○玄都道士 玄都は観(道教のてら)の名、長安の朱雀街崇業坊にあったもの。道士は道教の僧、即ち題の李尊師をさす、尊師は尊者というごとく道士を敬していう。


握發呼兒延入戶,手提新畫青松障。
大いそぎで髪をにぎりながら、こどもをよんで之を戸内へ招きいれた。尊師の手には新たにかかれたばかりの靑松の木を描かれた障子屏風をかかえている。』
握髪 とかしっつあったかみのけをにぎりつついそいで賓客をむかえるさま。延 こちらへと招請する。○手提 手は李の手。○ 題の障子の屏風。


障子松林靜杳冥,憑軒忽若無丹青。
その障子屏風の描かれた松林はしずかにとおく暗くつらなって居て、軒端の欄干によって眺めると丹青の画が消えて実物ばかりがある様におもわれる。
香冥 はるかなかんじでうすぐらいこと。○憑軒 軒端の欄干によってながめる。○若無丹青 丹青とは画の彩色をいう、若無とは画そのものは無いようで、実物があるようだということ。


陰崖卻承霜雪幹,偃蓋反走虬龍形。』
日陰のくらっぽいそばがけは霜雪をしのぐ松の幹をうけており、松の枝葉がかさなりあって笠のようであり、蛟や竜のようなさまを走らせている。』
陰崖 山の北側のがけ。逆光、日の当たらぬがけ。○卻承 松幹が崖をしりぞけるさま。○霜雪幹 霜雪をしのぐみき、松のみきをいう。〇偃蓋 ふせた笠。その形をした松。松の枝葉のかさなりあったさまをいう。○反走 幹が走るならば普通であるが、これは偃蓋のすがたがかえってそのようだというのである。○虬龍形 みずち、竜のようにうねりくねっているかたち。