望岳  杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 271

華州に赴任するとき、途にて華山をのぞんで作った詩である。華山は 五岳のうちの西岳にあたる、華州華陰県の南にある。
758年秋の作。
七言律詩 韻.尊、孫、盆、源。


望嶽
西嶽崚嶒竦處尊,諸峰羅立似兒孫。
五岳の西岳である華山はたかくけわしく、そしてそのそびえて居すわっているさまは尊くみえる。それにくらべると他のもろもろの峰々はつらなり立っているが華山という大親の児どもか孫たちかというようである。
安得仙人九節杖,拄到玉女洗頭盆?
崋山は仙人の山であり、わたしはどうかして仙人がもっているという九節の竹杖を得て、その杖にからだをささえられて頂上の玉女の洗頭盆のあたりまでゆきたいとおもっている。
車箱入谷無歸路,箭栝通天有一門。
この山はその重箱形をした谷へはいるともどりみちもなく、やはずのようなせまく細い天へのかよい路がただ一門あるばかりだ。
稍待秋風涼冷後,高尋白帝問真源。

だんだん秋風がすずしくつめたくなるのをまって、自分は白帝の鎮座しているこの山をたずねて仙道の本源を問いただしたいとおもう。

(岳を望む)
西岳崚嶒【りょうそう】として竦處【しょうしょ】すること尊し、諸峰羅立して児孫【じそん】に似たり。
安んぞ仙人の九節の杖を得て、拄【ささ】えられて到らん玉女の洗頭盆。
車箱【しゃそう】谷に入れば 帰路無く、箭桔【せんかつ】天に通ずる一門有り。
稍【ようや】く秋風の涼冷なる後を待ちて、高く白帝【はくてい】を尋ねて真源を問わん。

杜甫乱前後の図003鳳翔


現代語訳と訳註
(本文)
望嶽
西嶽崚嶒竦處尊,諸峰羅立似兒孫。
安得仙人九節杖,拄到玉女洗頭盆?
車箱入谷無歸路,箭栝通天有一門。
稍待秋風涼冷後,高尋白帝問真源。


(下し文) (岳を望む)
西岳崚嶒【りょうそう】として竦處【しょうしょ】すること尊し、諸峰羅立して児孫【じそん】に似たり。
安んぞ仙人の九節の杖を得て、拄【ささ】えられて到らん玉女の洗頭盆。
車箱【しゃそう】谷に入れば 帰路無く、箭桔【せんかつ】天に通ずる一門有り。
稍【ようや】く秋風の涼冷なる後を待ちて、高く白帝【はくてい】を尋ねて真源を問わん。


(現代語訳)
五岳の西岳である華山はたかくけわしく、そしてそのそびえて居すわっているさまは尊くみえる。それにくらべると他のもろもろの峰々はつらなり立っているが華山という大親の児どもか孫たちかというようである。
崋山は仙人の山であり、わたしはどうかして仙人がもっているという九節の竹杖を得て、その杖にからだをささえられて頂上の玉女の洗頭盆のあたりまでゆきたいとおもっている。
この山はその重箱形をした谷へはいるともどりみちもなく、やはずのようなせまく細い天へのかよい路がただ一門あるばかりだ。
だんだん秋風がすずしくつめたくなるのをまって、自分は白帝の鎮座しているこの山をたずねて仙道の本源を問いただしたいとおもう。

(訳注)
望嶽 華州に赴任するとき、途にて華山をのぞんで作った詩。崋山は五岳の西岳になる。又杜甫の739年28歳の作東岳を詠った『望嶽』がある。
岱宗夫如何,齊魯青未了。造化鍾神秀,陰陽割昏曉。
盪胸生曾雲,決眥入歸鳥。會當凌絶頂,一覽衆山小。
五岳(ごがく)は中国の道教の聖地である5つの山の総称。陰陽五行説に基づき、木行=東、火行=南、土行=中、金行=西、水行=北 の各方位に位置する、5つの山が聖山とされる。五名山とも呼ばれる。○崋山の蓮花山は最高峰とされている。五岳は以下の通り。
華山(西嶽;2,160m陝西省渭南市華陰市)
嵩山(中嶽;1,440m河南省鄭州市登封市)、
泰山(東嶽;1,545m山東省泰安市泰山区)、
衡山(南嶽;1,298m湖南省衡陽市衡山県)、
恒山(北嶽;2,016,m山西省大同市渾源県)
崋山は、中国大陸の西方をつかさどる山の神とされている。陝西省と山西省の境、黄河の曲り角にある。蓮花山の頂には池があり、千枚の花びらのある蓮の花を生じ、それをのむと羽がはえて自由に空をとぶ仙人になれるという。


西嶽崚嶒竦處尊,諸峰羅立似兒孫。
五岳の西岳である華山はたかくけわしく、そしてそのそびえて居すわっているさまは尊くみえる。それにくらべると他のもろもろの峰々はつらなり立っているが華山という大親の児どもか孫たちかというようである。
崚嶒 山の高くけわしくい、幾重にも重なるさま。文選、沈約『鍾山詩』「鬱溧として丹巘を構へ崚嶒として靑嶂を起す。」注に曰く、崚嶒は畳重ねの貌【かたちどる】。○竦處 竦は聳える。あがる。処は居ること。
羅立 つらなりたつ。連峰。


安得仙人九節杖,拄到玉女洗頭盆?
崋山は仙人の山であり、わたしはどうかして仙人がもっているという九節の竹杖を得て、その杖にからだをささえられて頂上の玉女の洗頭盆のあたりまでゆきたいとおもっている。
安得 希望をいう。○仙人九節杖 九節杖は九つのふしのある竹のつえ、仙人のつくもの。○玉女洗頭盆 山頂の玉女祠前に石臼があり、なかの水は澄碧にしてつねに増減がないことから、これを玉女の頭を洗う盆と呼んでいる。


車箱入谷無歸路,箭栝通天有一門。
この山はその重箱形をした谷へはいるともどりみちもなく、やはずのようなせまく細い天へのかよい路がただ一門あるばかりだ。
車箱 谷の形状をいう、箱は車体。車箱入谷とは車箱のような空が見えず、奥深くU字形の谷に入ること。○箭栝通天 栝は筈と通ずる、箭筈はやはず、矢の先をいう。華山に天井という処があり、そこより空をのぞめはわずかに明光をみるという。通天とはそこより仙境の高処に通うことをいう。〇一門 上述のせまい一道をたとえていう。 


稍待秋風涼冷後,高尋白帝問真源。
だんだん秋風がすずしくつめたくなるのをまって、自分は白帝の鎮座しているこの山をたずねて仙道の本源を問いただしたいとおもう。
白帝 西方の神で華山を支配する。五行思想で西、秋、は白、崋山は秋になると積雪があり冠雪となる。霜、雪の神でもある。 ○真源 仙道のまことの本源。


一年も続いた朝廷内での杜甫に対する無視という「いじめ」を体感した。杜甫自身が招いたことではあるが、辛く切ない一年を過ごしたのであるから、旅に出て気分を変えるつもりもあったのかといえば、気分転換どころかさらに、隠遁を口に出しはするが、杜甫の心は負のスパイラルに陥っていく。
華州は長安より東に90kmにある。北から南下してきた黄河が、長安方面から流れてきた渭水と北西からこの地点に流れ込んでくる洛河の合流点であること、合流した川は黄河の巨大な川となって東流して洛陽方面、中原へと流れ行くのである。長安、洛陽を安史軍から奪還したといっても、史忠明の軍は鄴城に迫り、そこから西に黄河に出て南下して、長安洛陽を再び陥れようとしている。華州、司功参軍ではそれを敏感に感じて緊張感が高まっていた。
 杜甫の仕事は、ここでの教育長というべき仕事であった。華州の推薦する進士を選ぶための試験問題をつくるというものである。758年秋のことであった。