早秋苦熱堆安相仍 杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 276
(早秋 熱に苦しみ 堆安【たいあん】相い 仍【よ】る)

乾元元年六月華州に左遷された。秋になろうというのに暑さが耐えられない。着任早々から、書類の大左派凄まじく机の上に積み上げられていった。その上、サソリ、ヘビ、蝿、蚊に悩まされた。異常な暑さに加えて、異常に発生した虫類、地方での書記の仕事は想像以上のものであった。


早秋苦熱堆案相仍
早秋 熱に苦しみ 官文書が未決でたまっていくことになっている 
七月六日苦炎蒸,對食暫餐還不能。
今日はもう七月六日になる、それなのに 蒸し暑くてやりきれない、食膳に向回、少しは食べようと思うのだがやはり咽喉を通らない
每愁夜中自足蠍,況乃秋後轉多蠅。
何時も夜中になると サソリのことばかりが心配になる 、そのうえ、秋になってから余計に蠅がおおくなりうるさく飛んでくる。
束帶發狂欲大叫,簿書何急來相仍。
窮屈な官服をきていなければいけないので、つい大声を出してさけびたくなってしまう、書類ばかりがどうしてこう、 つぎつぎに押しかけてくるのだろう。
南望青松架短壑,安得赤腳蹋層冰?
南の方を望むと  切り立った渓谷のうえに青松が生えてかかっているように見える、どうしたらあの山の奥に入っていって、厚く張った氷を素足で踏みしめることができるのだろう。


早秋 熱に苦しみ 堆案【たいあん】相い 仍【よ】る
七月六日 炎蒸【えんじょう】に苦しむ、食に対し暫【しばら】く 餐【さん】せんとするも還【ま】た 能【あた】わず。
每に愁う 夜来【やらい】 皆【みな】是【こ】れ 蠍【かつ】なるを、况【いわ】んや 乃【すなわ】ち 秋後【しゅうご】 転【うた】た 蠅【はえ】多きをや。
束帯【そくたい】 狂を発して大叫【たいきょう】せんと欲す、簿書【ぼしょ】 何ぞ 急に来たって相い仍【よ】るや。
南望すれば 青松【せいしょう】 短壑【たんがく】に架【か】す、安【いず】くんぞ赤脚【せききゃく】 層冰【そうひょう】を踏むことを得ん。


現代語訳と訳註
(本文)

(下し文) 早秋 熱に苦しみ 堆案【たいあん】相い 仍【よ】る
七月六日 炎蒸【えんじょう】に苦しむ、食に対し暫【しばら】く 餐【さん】せんとするも還【ま】た 能【あた】わず。
每に愁う 夜来【やらい】 皆【みな】是【こ】れ 蠍【かつ】なるを、况【いわ】んや 乃【すなわ】ち 秋後【しゅうご】 転【うた】た 蠅【はえ】多きをや。
束帯【そくたい】 狂を発して大叫【たいきょう】せんと欲す、簿書【ぼしょ】 何ぞ 急に来たって相い仍【よ】るや。
南望すれば 青松【せいしょう】 短壑【たんがく】に架【か】す、安【いず】くんぞ赤脚【せききゃく】 層冰【そうひょう】を踏むことを得ん。


(現代語訳)
早秋 熱に苦しみ 官文書が未決でたまっていくことになっている 
今日はもう七月六日になる、それなのに 蒸し暑くてやりきれない、食膳に向回、少しは食べようと思うのだがやはり咽喉を通らない
何時も夜中になると サソリのことばかりが心配になる 、そのうえ、秋になってから余計に蠅がおおくなりうるさく飛んでくる。
窮屈な官服をきていなければいけないので、つい大声を出してさけびたくなってしまう、書類ばかりがどうしてこう、 つぎつぎに押しかけてくるのだろう。
南の方を望むと  切り立った渓谷のうえに青松が生えてかかっているように見える、どうしたらあの山の奥に入っていって、厚く張った氷を素足で踏みしめることができるのだろう。


(訳注)
早秋苦熱堆安相仍

早秋 熱に苦しみ 官文書が未決でたまっていくことになっている 
堆案 案は官文書。未決でたまっていくこと。


七月六日苦炎蒸,對食暫餐還不能。
今日はもう七月六日になる、それなのに 蒸し暑くてやりきれない、食膳に向回、少しは食べようと思うのだがやはり咽喉を通らない


每愁夜中自足蠍,況乃秋後轉多蠅。
何時も夜中になると サソリのことばかりが心配になる 、そのうえ、秋になってから余計に蠅がおおくなりうるさく飛んでくる。
足蠍 猛毒を持ったサソリ。


束帶發狂欲大叫,簿書何急來相仍。
窮屈な官服をきていなければいけないので、つい大声を出してさけびたくなってしまう、書類ばかりがどうしてこう、 つぎつぎに押しかけてくるのだろう。
束帶 冠をつけ、帯を結ぶこと。官吏の制服。○簿書 役所の書類。○來相仍 ひっきりなしに続いてくる書類のこと。


南望青松架短壑,安得赤腳蹋層冰?
南の方を望むと  切り立った渓谷のうえに青松が生えてかかっているように見える、どうしたらあの山の奥に入っていって、厚く張った氷を素足で踏みしめることができるのだろう。
南望 華州に居るので南望すると、崋山がのぞまれる。華山(かざん、ホワシャン ピンイン Hua Shān)は、中国陝西省華陰市にある険しい山。道教の修道院があり、中国五名山の一つで、西岳と称されている。蓮花山は、華山の最高峰。五嶽は以下。
華山(西嶽;2,160m陝西省渭南市華陰市)
嵩山(中嶽;1,440m河南省鄭州市登封市)、
泰山(東嶽;1,545m山東省泰安市泰山区)、
衡山(南嶽;1,298m湖南省衡陽市衡山県)、
恒山(北嶽;2,016,m山西省大同市渾源県)
崋山は、中国大陸の西方をつかさどる山の神とされている。陝西省と山西省の境、黄河の曲り角にある。蓮花山の頂には池があり、千枚の花びらのある蓮の花を生じ、それをのむと羽がはえて自由に空をとぶ仙人になれるという。
短壑 切り立った谷。意味からすれば、絶壑の方が良い。谷の様子は、杜甫同時期の詩『望岳  杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 271』に詳しい。○赤腳 はだし。○層冰 厚く張った氷。

 

 春の終わりごろから、玄宗派と見られた廷臣への圧迫が強くなり、中書舎人の賈至は汝州(河南省臨汝県)刺史に左遷され、さらに岳州(湖南省岳陽市)の司馬に貶された。杜甫の友人の岑参も虢州(河南省盧氏県)に貶された。
 房琯は宰相を罷免されたあとも高官として遇されていたが、政事の中枢からは遠ざけられ、六月に詔書が発せられて邠州(陝西省彬県)刺史に転出となった。邠州(ひんしゅう)は杜甫が「北征」のときに通った涇水中流の城市である。長安市の市長というべき京兆尹(けいちょういん)になっていた厳武(げんぶ)は、同じ六月に巴州(四川省巴中県)の刺史に左遷となった。
 杜甫も左拾遺を免ぜられ、華州(陝西省華県)の司功参軍(しこうさんぐん)に左遷された。華州は長安の東90kmほど、華山山麓の街です。中央の清官から地方の属官に移されたわけだ。
 詩は残暑が厳しく、仕事も雑用が多くて忙しいこと、華州の官舎の不衛生なことに腹を立て音をあげている。四十代後半まで、自由気ままな浪人暮らし、文人でいた訳で、文法もまとも出会い様な書類をうんざりしたのは理解できる。南に臨める華山のを見て山頂の仙人池に行って、「赤脚もて層冰を踏むを得ん」と結んでいる。詩人の常套である、苦しい時の、山のなかに隠遁したいという気持ちで結句にしている。